王女ではなくなりますが‥‥

 グネビアは深い眠りの中にいた。霧の中にいるようだったが、時々、鮮明な映像が浮かんできた。

 最初は戦場の様子だった。

 ランスロがその場に1人残り、宝剣プライラスを鞘から抜いた。

 しかし、魔物達がランスロを目がけ、襲いかかった瞬間、宝剣プライスラスが振り下ろされることはなかった。

(ランスロ、なんで宝剣プライラスを振り下ろし、その聖なる力を示さないの。「グロリーブルーアイ。」と叫んで!)



 その後で、ランスロは突撃してくる魔物の一匹一匹を、普通の剣戟で退けていたが、ただ、大勢の魔物に押され気味で苦戦した。その様子を見ていた自軍もランスロを助けるため突撃したが、戦況は徐々に悪くなっていった。

 その次は撤退の様子だった。

 満点の星と満月が輝く中、撤退の隊列が続いていた。ランスロは最後尾で、傷だらけの体で追撃してくる魔物に備えながら歩いていた。それを見たグネビアはとても心配だった。

(自分を責め、心も体も打ちひしがれた最悪の顔をしているのね。)

 その時、不思議なことにランスロの気持ちがわかった。

(今日の敗戦は全部私の責任。愛するレディのことで頭がいっぱいになっていて、戦いに集中して全力を出せなかった。)

 グネビアは感じた。

(私は今どうなっているのだろう。)

 グネビアは瞬間的に自分の家の自分の部屋に移動した。そうして、空中からベッドで死んだように眠っている自分の姿を見た。

(私は死んだように眠っている。なんで自分の姿を見ているのだろう。そうだ、町の市場で食材を選んでいて、おいしそうな赤いりんごをかじってそれから眠って‥‥ )



 次にエーベ川の川岸の防御線で、横になって深い眠りに落ちているランスロを見た。勢いに任せて進軍してくる魔王軍の気配も感じられた。

(ランスロ、死んだように眠っている私のことを、そんなに心配してるのね。でも、みんなのことを守るためにがんばらなくてはだめよ。)

 そして、おもいきりランスロを呼んだ。

「ランスロ、ランスロ‥‥」」

(あの時、私はあなたと初めて出会ったの。子供だったけれど、あなたの気高い精神に触れすぐに好きになったの。)

 

 幼い王女が強い口調で質問した。

「ランスロに聞く。騎士になり、我が国の宝剣を身に帯びた後に、人間を超えた最強の力を持つことなるでしょう。何もかも思いのままにできるはずです。あなたは、その宝剣をどのように振るうのか。」

 幼い騎士は答えた。

「私は、国王様、王女様の臣下として、この国の剣になりましょう。臣民の幸せのためだけに、私は宝剣を振るいます。」

 幼い王女は笑いながら言った。

「すばらしい。わたくしはランスロをおおいに気に入りました。この謁見が終わった後、わたくしの部屋に来てください。おいしい菓子があります。」

「はい、わかりました。」




 次にランスロが立ち上がった姿を見た。

 気力にあふれ、自分の義務を果たそうとしている騎士の姿がそこにあった。ランスロはエーベ川の川岸に、
たった一人で立って、対岸に殺到してきた魔王軍と対峙していた。



 そしてランスロは、宝剣プライスラスを無限の力で振り下ろした。ランスロは叫んだ。

「グロリーブルーアイ。」

 宝剣プライスラスの剣戟は、青い神の手のようになって、対岸の魔物を一瞬で消し去った。

 エーベ川で発生した聖なる青い光りを川の水面が反射して、国中に散り青い光りで照らした。公爵領の町にある自分の家を照らし、その光りは、窓から差し込み眠っている自分を照らしていた。



 グネビアは目を覚ました。ベッドから出て起き上がろうとしたが、3日間ずっと眠り続けていた影響で、ベッドの横に落ちてしまった。「どん」という大きな音がした。

 仰天した母親のエリザベスがあわててドアを開けた。すると、床に落ちているグネビアが明るい笑顔を見せていた。

「グネビア、目覚めることができたのね!!!うれしい、よかったわ。」

「母様、あわてすぎてベッドから落ちてしまったわ。」

 泣き笑いの顔をした母親が言った。

「しかたがないわ。誰だって3日間眠り続けて目覚めた時はそうなるわ。あなたが眠っている間、大変なことが起きていたのよ。」

 それから、母親のエリザベスはグネビアに、いろいろなことを伝えた。

 グネビアが言った。

「死眠り虫が入り込んだ赤いりんごを食べた私は、死んだと等しい永遠の眠りに落ちるはずなのね。でも私の意識は、ランスロ様のことを見ていたわ。」

「そうなの。あなたとランスロ様との間の絆は、死眠り虫の魔力に勝つことができたのね。」

「母様。もうすぐ戦いに勝ったランスロ様が帰還なされ、ここに来られるわ。外で待っていていいですか。」

「グネビアにはそれがわかるの。体がもう大丈夫だったら、いいわ。」

「ありがとうお母様。」



 エーベ川の川岸で魔王軍を殲滅させた後、ランスロは軍を率いて王都イスタンに凱旋した。最悪の事態も考えられ、息を殺して戦いの結果を待っていたイスタンの住民達からは大歓声で迎えられた。

 ランスロは宮殿の謁見の場で国王への報告をそそくさと済ませ、公爵領への帰途についた。帰り道でランスロはひどく悩んでいた。

(宝剣プライラスには破壊的な力がある。聖なる光りでレディの中の死眠り虫を滅するため、プライラスを振ることはできない。レディの命を奪ってしまうかもしれない。いったいどうすればいいのか。)

 国の多くの臣民を救うため、騎士としての義務を果たすことはできたが、自分にとって最も大切な人を救うのは不可能だと思い、心は鉛のようにどんどん重くなっていった。



 明け方で朝日が昇り始めていた。公爵領の町の入口が近くなってきた時、一人の人影が見えた。

「まさか。」

 自分の目の錯覚しれないと思いつつ、もしかしたら奇跡が起きたのかもしれないという期待がランスロの鼓動の音を信じられないほど大きくした。

 近づくとはっきりした。愛する人がランスロを出迎えていた。

「レディ!!!」

 グネビアが満面の笑顔でそこに立っていた。

「ランスロ様。このたびの大勝利、心からお喜び申し上げます。」

「目覚めることができたのですか。もう大丈夫ですか。」

「はい。3日間も眠り続けたので少し変な調子ですが。ランスロ様が勇気を出して振った宝剣プライスラスの光が私まで届きました。」



 ランスロは下馬した。そして、グネビアの前に自然にひざまづき、自然に言葉がでた。

「グネビア王女様。この国の臣民のため、騎士としての義務を果たすことができました。」

「ランスロ様。そんなことをして、私を『王女様』なんて。まだ、誰も歩いていないからいいかもしれませんが。」

 それから2人は楽しそうに笑いながら、数多くのたわいもない話を始めた。それは朝日が昇りきって、人通りができるまで続いた。