王女ではなくなりますが‥‥

 魔王軍との戦いの戦況は、散々な状況になりつつあった。ランスロは常に先頭に立って戦ったが、国王軍には多くの死者と負傷者が出た。ランスロ自身も多くの傷を魔物からつけられていた。

 必死で戦っていたが、一瞬、魔王軍を押し戻した瞬間があった。ランスロが副官に指示した。

「敵に背を向けるのは不名誉で、とても辛いことですが、ここは一旦撤退しましょう。今なら可能です。」

「騎士様、どこまで退きましょうか。」

「撤退して、王都イスタンの東を流れているエーベ川を防衛線としましょう。負傷者は王都までできるだけ早く運送してください。」

 

 撤退の隊列が続いていた。ランスロは最後尾で、傷だらけの体で追撃してくる魔物に備えた。もう夜になっていて、満天の星と満月が輝いていた。歩きながら、ランスロは自分を責めた。

(今日の敗戦は全部私の責任。愛するレディのことで頭がいっぱいになっていて、戦いに集中して全力を出せなかった。)



 宮殿では、伝令から戦況の報告がされていた。

「今日の戦況は、残念ながら我軍の敗戦でございます。多くの死者と負傷者を出し、一旦エーベ川まで撤退して防衛戦を構築しています。」

 国王が聞いた。

「ランスロは辺境デザートと同じように宝剣プライラスを振って、聖なる力を示さなかったのか。」

「はい。残念ながら騎士ランスロ様は先頭に立たれ、宝剣プライラスを鞘から抜かれたのですが、思い切り振って、聖なる力を示されませんでした。しかし、人間離れした剣技を示され、何千人に等しい働きをなされました。撤退のタイミングを作ることができたのも、ランスロ様のおかげでした。」

「そうか。公爵に聞きたい。ランスロはなんで今回は、宝剣プライラスを振って聖なる力を示すことができなかったのか。」

「国王様。ランスロが騎士としての力を十分に発揮できなかったことを、心よりお詫び申し上げます。なんらかの理由で、ランスロの心が乱れていたので、宝剣プライラスと一体となり、聖なる力を示せなかったと思います。」

 公爵はランスロの心が乱れている理由を知っていたが、あえてそのことを出さなかった。

 国王が聞いた。

「どうしたらいいのか。エーベ川は宮殿からとても近い。そこで魔王軍を防ぐことができなかったら、この王都イスタンが魔物に蹂躙されてしまう。ランスロは勝てるのか。」

 公爵は答えた。

「御安心ください。我が息子は騎士として、国王様や臣民のために必ず勝利します。どんなにぎりぎりの瀬戸際に追い詰められても、希望を捨てずがんばり抜ける精神をもっていることを私は良く知っています。」

 ここで王女マギーが口をはさんだ。

「そうでしょうか。親のひいき目になっていませんか。ランスロが辺境デザートで宝剣プライラスの聖なる力を示すことができたのは、偶然のまぐれだったのは。よかった、お父様にランスロと許嫁になる約束を白紙にしていただいて。こんなに弱い男だったとは。」

 それを聞いて公爵は静かに冷静に反論した。

「王女様、強い心と合わせて弱い心をもっているのが人間というものです。それらは、表裏一体です。ランスロには世界で一番弱いところがあるので、世界最強の騎士なのです。」

「公爵はなにを言っているのかわからないわ。」

 王女マギーのその言葉を公爵は全部無視した。



 エーベ川の川岸に沿って、ランスロは防御線を敷いていた。魔王軍が殺到するまで少し時間があったので、副官がランスロに休息を勧めた。

「騎士様、少しの時間しかありませんが、仮眠をとりお体を休められたらどうでしょうか。誰よりも戦い続けていらっしゃいますし、それに、手当をしているとはいえ、御身に多くの傷を受けていらっしゃいます。」

「いえ、私は騎士としてまだまだがんばらねば。」

「お願いです。ほんの少しのお休みを。」

「わかりました。なにかあったら、すぐに起こしてください。」

 ランスロは横になり仮眠をとった。心と体が大変疲れており、すぐに深い眠りに落ちた。



「‥‥ランスロ、ランスロ‥‥」

 自分を呼ぶ声がした。そして、ある場面が心に浮かんでいた。


 ‥‥‥‥

 幼い王女が強い口調で質問した。

「ランスロに聞く。騎士になり、我が国の宝剣を身に帯びた後に、人間を超えた最強の力を持つことなるでしょう。何もかも思いのままにできるはずです。あなたは、その宝剣をどのように振るうのか。」

 幼い騎士は答えた。

「私は、国王様、王女様の臣下として、この国の剣になりましょう。臣民の幸せのためだけに、私は宝剣を振るいます。」

 幼い王女は笑いながら言った。

「すばらしい。わたくしはランスロをおおいに気に入りました。この謁見が終わった後、わたくしの部屋に来てください。おいしい菓子があります。」

「はい、わかりました。」


 ‥‥‥‥


(幼い王女は………美しい青い瞳をしたレディ、幼い騎士は自分か、そうか、私がグネビア王女様の騎士になる別世界もあったんだな。グネビア王女様に誓ったんだ。ここは違った世界とはいえ、誓いを必ず果たそう。)



「騎士様、騎士様」

 副官が緊張した表情でランスロを起こしていた。

「魔王軍の進軍が意外に早く、もうすぐ対岸に現われます。」

「そうですか、わかりました。全軍の配備を完了させてください。」

「もう、完了しています。後は騎士様の号令だけです。」

「すぐに行きます。」

 ランスロは立ち上がった。気力にあふれ、自分を信じている騎士の姿がそこにあった。すぐに全軍の前に立ち宣言した。

「勇敢な騎士達、兵士達、勝敗は既に決まっています。我々は必ず勝つんです。」

 それを聞いた全軍から大きな歓声が上がった。



 それから間もなく魔王軍が現われた。

 魔物達がエーベ川の対岸に見たのは、たった一人の騎士だけだった。それは、自分以外を1マイル後退させたランスロだった。既に宝剣プライラスを抜いていた。

 魔物達はあっけにとられていたが、すぐに宝剣プライスラスが無限の力で振り下ろされた。ランスロは叫んだ。

「グロリーブルーアイ。」

 宝剣プライスラスの剣戟は、青い神の手のようになって、対岸の魔物を一瞬で消し去った。



 エーベ川で発生した聖なる青い光りを川の水面が反射して、国中に散り青い光りで照らした。公爵領内の町にあるグネビアの家も照らし、その光りは、窓から差し込み眠っているグネビアを照らしていた。