王女ではなくなりますが‥‥

「どうして‥ひどい‥ 」



 やっと絞り出した一言の後、グネビアの美しい青い瞳に涙があふれた。そして、永遠に止まらないような流れになった。

 すぐに母親のエリザベスはグネビアを優しく抱きしめた。思う存分グネビアが泣き続けた後、エリザベスはグネビアの顔を離して、しっかりと目を見ながら強い口調で言った。

「私は、あなたとランスロ様が強い気持ちで結ばれていることは知っている。2人で幸せをつかむためにがんばらなくては。ランスロ様は絶対に、王女マギー様の許嫁になるとは言わない。あなたも自分の気持ちを貫きなさい。王女マギー様と戦いなさい。」



 グネビアは母親の励ましを受けて、元気がでた。涙は止まった。

「母様、ありがとう。相手が誰であっても私は絶対に負けないわ。」

「グネビア、あなたに贈りたいものがあるの。」

「なに、母様。」

「少し待って。」

 母親は自分の部屋に行き、何かを持ってきた。そして、両手でグネビアに差し出した。それは美しいブローチだった。

「グネビアは15歳ね。外見だけではなく内面も美しい、私の自慢の娘だわ。あなたが輝かしい未来に進むときに、このブローチをつけて歩んで。」

「母様、ほんとうにありがとう。」



 明日は王女マギーの許嫁になるかどうか、国王に返事をするために謁見する日だった。公爵の城の一室で、父と子が話し合いをしていた。

 ランスロが公爵に言った。

「父上、私は明日、王女様の許嫁になることを断ろうと思います。ただ、国王様の娘に恥をかかせることになります。お怒りになられた国王様から、私にひどい罰が与えられることは恐れませんが、公爵である父上にも、どのような罰が与えられるのか大変心配です。」

 それを聞いて公爵はにっこりと笑いながら言った。

「最悪、公爵の爵位を剥奪されて国を追放されるかもしれない。だけど、私は公爵としての地位よりも、父親として、ランスロがすばらしい女性と結ばれて、幸せな未来を築く方か大切だよ。」

「父上、ありがとうございます。」



 翌日、公爵の城の門が開かれ、宮殿に向かうため公爵とランスロが出発しようとした時、門の側に立っていた少女がお辞儀をして言った。

「領民のグネビアでございます。誠にぶしつけながら、本日、私を宮殿にお連れください。」

 王女マギーの許嫁になることを断る理由となった少女がそこにいて、ランスロと公爵は大変驚いた。

 ランスロは真実を告げなくてはいけないと思った。

「レディ。今日は国王様に謁見して、王女マギー様の許嫁になる栄誉をお断りしようと決心しています。」

 グネビアは言った。

「ランスロ様がきらいなのに、王女マギー様はランスロ様を許嫁にして縛りつけようとしています。たとえお断りになられたとしても、あの方が何もしてくるのか全くわかりません。私は今日、ランスロ様のそばにいてランスロ様を守りたいのです。」

 ランスロはグネビアの真剣な気持ちに心を打たれた。

「父上、今日このレディに同行していただきたいのですが。」

「良いだろう。ランスロのことを大切に思っていただいているレディにそばにいてもらえば、大変ありがたい。衣装係として同行をお願いしよう。」

 グネビアを見ながら公爵は思った。

(ランスロに今日の返事を決意させた、御前試合の時に杖を渡した平民の娘だな。気高く高貴な強いオーラを感じる。ブローチを着けているが、あの紋章は‥ 確か‥ まさかそんなことはないだろう。)



 宮殿の謁見の間において、ランスロが王女マギーの許嫁になる栄誉を受けるかどうか、公爵家として正式に回答する時間が訪れようとしていた。

 奏上役の家臣が大きな声で告げた。

「公爵家の皆様が来られました。」

 絨毯の両側には多くの王族、貴族、家臣が控えていた。前回の式には来なかったが、今回は興味本位で来た者が多く、そこには人があふれていた。

 入口の扉が開けられた瞬間、謁見の間には割れんばかりの大きな歓声と拍手が沸いた。公爵とランスロは並んで絨毯の上を玉座に一歩一歩進んでいった。グネビアも含め従者達は謁見の間の隅に控えていた。

 国王と王女マギーの前で公爵とランスロはひざまづいた。国王が言った。

「公爵、今日は良い応えを聞かせてもらえると思っている。マギーも今日が訪れるのを指折り数えて待っていたな。」

 王女マギーは不自然に笑い、うなづいた。

 公爵は立ち上がり、国王に言上した。

「国王様、息子ランスロが王女様の許嫁になるのは、公爵家にとって過分の栄誉だと思っております。だだ残念ながら今、私とランスロがその栄誉を受けることができない事態が発生しております。」

「それはどういうことか。」

「私は今日、公爵の職位を国王様にお返し平民にさせていただきます。」

 それを聞いた国王はうろたえた。

「公爵は軍務どころか我が治世全てにおいて、私を助けてくれている。さらに、国内どころか世界中の騎士から尊敬されている唯一無二のマスターだ。公爵の爵位の返却は絶対に認めないぞ。」

「いえ、お返しします。それで、平民になった私の息子は王女様の許嫁になれず、結婚することもできなくなります。」

 ランスロが立ち上がった。

「国の柱である私の父上が、公爵の職位を返却する必要は全くありません。私は騎士であることを止め、ナイト・グランドクロスの爵位はお返しします。騎士でなければ王女様をお守りすることができず、私は王女様の許嫁になり将来結婚することはできません。」

 国王が怒った。

「公爵だけではなく,ランスロもそのようなことを言うのか。」

 さらに王女マギーの言葉が、国王の怒りに火をつけた。

「お父様、この2人が言いたいことは『私を許嫁にして、結婚するのはいやだ。』ということです。お父様のご厚意を足蹴にして、大勢の観衆の中で私は恥をかかされました。この2人は反逆者です。」



 多くの人々がかたずをのんだ。

 どのような結末になるのか‥‥

 謁見の間を完全な沈黙が支配した。