桜橋先輩が僕を好きだということを、聞いた時は、信じられなかったけど…
分かります。今は、凄く分かる。
何故って…とても…あからさまだから。
ものすごく鈍感な僕に合わせてくれてるのかもしれないけど、分かりやすい行動が、僕の頬をいつも赤くする。
そう、今も…
横に座る桜橋先輩は、ジッと僕を見つめている。超熱視線…その瞳からは好きだよって言葉のビームが飛んでる位で、恋愛指南書があれば、お手本みたいな視線では、なかろうか。
しかしながら、ここは…僕の教室である。
昼休みだけの訪れだったのに、10分しかない業間休み、わざわざ、3階にある3年のクラスから、この1階の教室まで来るのは、めんどくさいと思うんだけど…
「成海に会いたかったから」
ダメだった?なんて小首を傾げる姿までが一連の流れなのか…隣で、そんな事を呟くもんだから、女子が、静かに発狂してる。
しかも…疲れてない?って、小袋のチョコレートやキャンディをポケットから出して僕にくれる。
多分、貢ぎ物をスライドさせてるんだとは思うんだけど…
しかも、餌付けの如く、必ず袋は先輩の手により開封され、僕が口を開けるのを待たれる。
甘やかしが過ぎる。
でも、女の子に貰った物を僕が貰うのは、なんだか申し訳無さと、他の感情が入り交じってしまう。
そんな僕の感情を読んだのか、先輩からは
「女の子から貰ったんだけど、俺は食べないし、でも、捨てるのも悪いから、物々交換してるんだよ男子連中と。喜んで交換してくれるからな。だから、これは実際は女の子からの物では無いよ、安心して」
なんと巧みな…
WinWinとはコレですか?
こういう気配りというか、相手の心理を読むみたいな事って、やろうと思って出来るものでも無い。
いや、そもそも、僕は先輩との関係は、まだ友達のままだと思ってるし、嫉妬云々は、言える立場でもない。
でも、こうやって、全ての事に僕が、安心出来るよう先回りしてくれる事に、非常に深い愛を感じてて。
「お気遣いは受け取りました」
僕は甘いチョコレートを咀嚼しながら答えた。
「なんか、結構食べるのに、華奢だよね?」
突然、脇腹を撫でられて、ヒャッと声が出た。
このスキンシップも、多くなったな…と感じてる。
告白された後、桜橋先輩は、好きだと言われた相手から過度なスキンシップは困るだろ?って紳士的に配慮してくれた。
その結果、全く無くなったスキンシップだったんだけど。
僕に触れようとしては、何度も手を引っこめ、寂しげな顔をされるので…
僕の方から、少しなら大丈夫ですよ…なんて、申し出てしまった結果。
満面の笑みを返された。
そして、自らOKを出しておいて、今更、恥ずかしいから辞めろとも言えず。
え、まさか、それも含めて作戦だったのかな…と思ったりもする。
桜橋先輩は、押し引きが上手というか、多分恋愛経験が豊富な気がする。
一度、勇気を出して聞いてみたけど…
本気で付き合った事は無いから、今が、むしろ全力で、必死なだけ…って、こちらが更に仰け反りそうな答えが返ってきた。
猛アタックを受けてる自覚はある。
でも、僕の何がそんなに良いのか分からない。
しかも、学校でそんな事は聞けるはずもない。
「あ、そうだ…明日の土曜日って予定ある?」
「いえ、特に無いです…」
「俺、明日は部活が珍しく無くてさ…家に遊びに来ない?新しいゲームソフト買ったんだ。ほら、前にまた来てくれるって約束したよね?」
一瞬だけ迷ったけど、凄く真剣な顔で僕の返答を待たれてて
「あ、はい…では、こちらこそ、お邪魔します」
「良かった…」
ものすごくホッとしたように言われ、先輩でも、誰かを誘う時は緊張するんだな…って知って、妙に親近感が沸いた。
次の日、何か手土産がいるのではないかと思い…
そういえば、桜橋先輩は和菓子が、特にお団子が好きだったことを思い出す。
近所の小さな和菓子屋に寄っていこうと思った。
編集者の父さんが、よく作家先生の所へ差し入れするのに使ってて、喜ばれると言っていたから。
店の暖簾をくぐると、店内のカウンターに並んだ和菓子を観察する。
どれが良いのかな…
一番人気!と手書きのPOPが貼られた、カップに入ったみたらし団子を見つける。
人気なら間違いないと、2つ買い、レジ横に並んでた緑茶も購入し、小さな紙袋に入れて貰った。
僕は自分の記憶を頼りに、先輩の家を探す。
思ったよりも簡単に見つける事が出来て、門扉にあるチャイムを鳴らす。
約束の時間の5分前だけど…大丈夫だったかな?と思ってると、すぐに先輩が玄関から出てきた。
「家、すぐ分かった?覚えてた?」
「あ、はい大丈夫でした」
そんな会話をしながら、促されるままに、玄関を上がる。
「ご家族の方にご挨拶を…」
「あ、居ないから誰も…」
それでは、お邪魔します…と、小さく呟き靴を揃えた。
大きな平屋で、先輩の部屋は奥にあるらしい、廊下を進むと引き戸に手をかけた。
開くと、想像と違い、割と近代的な洋室だった。
「あー、俺の部屋は、改装して和室じゃないんだよ」
どうやら、前に通して貰ったのは客間らしく、今回は、本当に先輩の部屋。
フローリング床に、大きなテレビ、横にはゲーム機がしっかりと数台セットされていて、服などはクローゼットにしまってあるのだろう、全く見当たらない。
あとはテレビの前にソファーがあるのと、パソコンの乗った勉強机と、本棚とベッドだけ。
本棚には、ギッシリと参考書が詰まっているが、シンプルで整頓されたインテリアだった。
「オシャレですね…」
「そう?普通だと思うけど。あんまりゴチャゴチャしてるのは嫌いだから、物が少ないだけ」
僕は、忘れないうちに、買ってきた和菓子の袋を渡す。中身を除く桜橋先輩は嬉しそうで
「え?いいの?俺、ここのみたらし団子好きなんだよな」
そっか、よく考えたら、先輩のお父さんは、僕の父が編集の担当者だった。食べた事があるのは当然で、考えが足りなかった。
「すいません、食べた事ありますよね…つまらないものですが…」
「何言ってるんだよ、俺が和菓子好きなの覚えてて、選んでくれたんでしょ?もう、それだけで何か勘違いしそうなんだけど…俺…」
なんて答えたらいいのか、言い淀んでいると、先輩は、飲み物とお菓子取ってくるって、部屋を出ていった。
僕は、座る場所を迷ったが、無難にソファに座った。
しばらくすると、ちょっと開けて〜手が塞がっててるから…って、引き戸の前で声がする。
僕が開けると湯気の上るお茶とペットボトルのジュース、大きなお盆に溢れかえる山盛りのお菓子を持つ先輩が現れた。
どれが好きか分からないから、各種選んでたら、こんな事になった…と、照れたように笑う先輩。
「すいません、お気を使わせて…」
「俺が凄く楽しみにしてたのが伝われば良いだけ…で、何が好き?」
コンビニで買ってきたらしく、グミだけでも3種類はある…チョコにポテチ、各種の味違いや、メーカー違いで…
乗らなかったけど、この倍は買ったんだけど…なんて言われて…
コンビニで、どれだけ散財したのか、ちょっと心配になった。
しかも、残りは持って帰ってなんて言い始めるので、僕がお財布を取り出すと、またしても、止められる。
払うことなどさせない…とばかりに。
では、また、次回来た時に頂きますので置いておいて下さいと…と伝えると、次回があるのか〜って、ニヤニヤされた。
「ごめん、ちょっとそっちに詰めて」
僕が横にズレると、左側に先輩が座る。
確実に僕の聴こえる側に座る先輩は、そこが定位置だとでも言わんばかり。
先輩が買ったばかりだというゲームソフトは、カーレースのゲームで、僕でも知ってる超有名なやつだった。
コースが曲がりくねっていて、左右にふられる度に時々触れる肩と肩に、今日も安定して近距離なのを感じる。
出会ってから、ずっと、この距離感だ。
僕の右側の耳が聴こえないからだと思ってたけど…先輩から告白を受けてからは、実際のところは、どうなんだろと思ってるけど、敢えては聴けない案件だ。
結構熱くなるゲームは、手加減される事も無く、先輩の方が少し上手で、それでもなかなか良い勝負だった。
ひとしきり盛り上がった後
「成海が持ってきてくれたお団子も、食べようか?新しいお茶入れてくるよ」
「あ、いえ…お団子は先輩とお母さんで食べて頂こうと思ってまして」
一緒に食べるつもりは無く、お邪魔しますの気持ちの手土産だったので。
「そうなのか?それで2個?そっか…ありがとう」
先輩は、なんだか嬉しそうに笑った。
「まだ、時間大丈夫?映画でも観る?」
僕は、コクコクと頷いた。
今日の予定は、特に無くて…良かった。
先輩がテレビのリモコンを操作すると、サブスクの画面が出てくる。
お気に入りは、アクションとサスペンス系なのか、オススメには、そのジャンルが沢山上がってくる。
何か観たいのある?と僕に聞きながら、リモコンをピコピコ操作する先輩。
少し前まで映画上映をやっていた作品が入ってると気付いて、あっ!と声が出たから、これ?観たい?と止められる。
「良いんですか?僕が観たいので」
「良いんだよ、どんなのが好きなのか知りたかったし」
なんて言われる。
イタリア映画の探偵物で、謎解きが面白そうだと思った作品。
依頼された探偵が、ある村に赴くと、殺人事件が起こり…犯人を探すというありふれてるけど、その謎解きが巧妙で面白いと評判だったから。
映画館で観るのは、得意じゃなくて、レンタルが始まるのを待ってたんだけど、先輩のサブスクだと無料になってて、これなら、ご迷惑にならないと判断した。
ポテトチップスの袋がバリッと開けられ、映画鑑賞が始まった。
薄暗い映像で始まり、序盤から早々に一人殺されてしまう。
大丈夫かな…と思ってチラリと横の先輩を観ると、真剣な眼差しで画面を見つめているので、ホッとした。
僕が選んだ作品が、つまらなかったら、申し訳無くて…
話が進むうちに、探偵の男と一緒に謎を解いていた女性が、なんともいいムードになり、2人がベットに倒れ込むと、大きな画面からは濃厚なキスシーンが流れてきた。
まさかの展開に、僕は、思わず顔を背けたけど、背けた方向が不味かった…
先輩とバッチリ目が合う。
しかも、腕が触れ合う距離に隣同士座っていたもんだから、余計に間近に目線が合って。
「ダメだよ…成海。ここで、目が合うって、どういうことか分かってる?」
先輩は視線を逃さないとばかりに僕の後ろ頭に手を添え、じっと見つめてくる。
深い深い青みのある瞳から、目が逸らせなくて。
「ねぇ、成海、そらさないの?いいの?」
いいの?とは…
頭では、その意味は、半分わかってて…
良いとも悪いとも言わない僕はズルいのかな…
「ここまでにしよう」
唇が触れるギリギリの近さまで来た先輩の瞳が揺れた。
先輩は、僕の頭をポンポンと叩くと、前を向いた。
残念に思う気持ちが沸いて、実は…期待してしまっていた事を自覚してしまう。
僕は、先輩の事が好きなのか?
それとも、優しくて、綺麗な先輩だから、何をされても許してしまうのか?
自問自答するけど…
分からない。
しかも、先輩は、僕に気持ちがどうかとか、答えを聞こうとはしないし、強引な事もしない。
先輩なら、さっきの雰囲気から、押し倒してなんとでも出来そうな気がするけど…
やはり僕が男だから…
好きとは言ったものの、実際の触れ合いになると、拒否反応が出たのかもしれない。
「僕が男だから…」
頭の中だけで呟いていた言葉が、口から出ていたと気付いたのは、先輩と唇が重なっていた後。
一瞬だけで離れたそれは、僕の唇に味わった事の無い甘さを残した。
「成海の気持ちを大事にしたいから…めちゃくちゃ自制したのに…成海が、そんな事言うから、飛んだじゃんか…確かに今まで、女の子と付き合った事はあるけど、男を好きになったのは成海だけ。知っといて」
僕の小さな解いに、完全な答えをくれる…どこまでも、優しくて誠実。
「すいません、僕、よく分からなくて…先輩の事、好きです…けど、それが、先輩と同じなのか…ごめんなさい」
「大丈夫だって、だから、待つって…ま、手を出した後で言っても説得力無いけどな(笑)」
一瞬だけの唇の触れ合いは、嫌では無かった。
むしろ…離れた後が切なくて。
「いやじゃ無かったです…むしろ…あの、もっとしてみたら分かりますかね?」
「だから、煽んなって…」
本気で困らせてしまったらしい…
少しむくれたみたいに、そっぽむいてしまう先輩。
無自覚も、時に罪になるのかもしれないと反省する。
すいませんの気持ちで、トントンと、先輩の背中を優しく叩く。
数回目に、振り向い先輩は、僕をくすぐる。
「ほら、ごめんなさい、しなさい!」
「ご、ごめ、んな…アハハ、さいっ!」
笑って逃げ回ってるうちに、先輩が僕に覆いかぶさった状態になり…
2人の視線がかち合い、一瞬沈黙する。
先輩が近付いてくるので、目を閉じた僕。
先輩の唇は、僕の頬に着地し、これで許してやる…なんていいながら、離れた。
「ドキドキした?」
なんて聞いてくる。少し余裕そうなその言い方は、いつもの先輩に戻っていた。
分かります。今は、凄く分かる。
何故って…とても…あからさまだから。
ものすごく鈍感な僕に合わせてくれてるのかもしれないけど、分かりやすい行動が、僕の頬をいつも赤くする。
そう、今も…
横に座る桜橋先輩は、ジッと僕を見つめている。超熱視線…その瞳からは好きだよって言葉のビームが飛んでる位で、恋愛指南書があれば、お手本みたいな視線では、なかろうか。
しかしながら、ここは…僕の教室である。
昼休みだけの訪れだったのに、10分しかない業間休み、わざわざ、3階にある3年のクラスから、この1階の教室まで来るのは、めんどくさいと思うんだけど…
「成海に会いたかったから」
ダメだった?なんて小首を傾げる姿までが一連の流れなのか…隣で、そんな事を呟くもんだから、女子が、静かに発狂してる。
しかも…疲れてない?って、小袋のチョコレートやキャンディをポケットから出して僕にくれる。
多分、貢ぎ物をスライドさせてるんだとは思うんだけど…
しかも、餌付けの如く、必ず袋は先輩の手により開封され、僕が口を開けるのを待たれる。
甘やかしが過ぎる。
でも、女の子に貰った物を僕が貰うのは、なんだか申し訳無さと、他の感情が入り交じってしまう。
そんな僕の感情を読んだのか、先輩からは
「女の子から貰ったんだけど、俺は食べないし、でも、捨てるのも悪いから、物々交換してるんだよ男子連中と。喜んで交換してくれるからな。だから、これは実際は女の子からの物では無いよ、安心して」
なんと巧みな…
WinWinとはコレですか?
こういう気配りというか、相手の心理を読むみたいな事って、やろうと思って出来るものでも無い。
いや、そもそも、僕は先輩との関係は、まだ友達のままだと思ってるし、嫉妬云々は、言える立場でもない。
でも、こうやって、全ての事に僕が、安心出来るよう先回りしてくれる事に、非常に深い愛を感じてて。
「お気遣いは受け取りました」
僕は甘いチョコレートを咀嚼しながら答えた。
「なんか、結構食べるのに、華奢だよね?」
突然、脇腹を撫でられて、ヒャッと声が出た。
このスキンシップも、多くなったな…と感じてる。
告白された後、桜橋先輩は、好きだと言われた相手から過度なスキンシップは困るだろ?って紳士的に配慮してくれた。
その結果、全く無くなったスキンシップだったんだけど。
僕に触れようとしては、何度も手を引っこめ、寂しげな顔をされるので…
僕の方から、少しなら大丈夫ですよ…なんて、申し出てしまった結果。
満面の笑みを返された。
そして、自らOKを出しておいて、今更、恥ずかしいから辞めろとも言えず。
え、まさか、それも含めて作戦だったのかな…と思ったりもする。
桜橋先輩は、押し引きが上手というか、多分恋愛経験が豊富な気がする。
一度、勇気を出して聞いてみたけど…
本気で付き合った事は無いから、今が、むしろ全力で、必死なだけ…って、こちらが更に仰け反りそうな答えが返ってきた。
猛アタックを受けてる自覚はある。
でも、僕の何がそんなに良いのか分からない。
しかも、学校でそんな事は聞けるはずもない。
「あ、そうだ…明日の土曜日って予定ある?」
「いえ、特に無いです…」
「俺、明日は部活が珍しく無くてさ…家に遊びに来ない?新しいゲームソフト買ったんだ。ほら、前にまた来てくれるって約束したよね?」
一瞬だけ迷ったけど、凄く真剣な顔で僕の返答を待たれてて
「あ、はい…では、こちらこそ、お邪魔します」
「良かった…」
ものすごくホッとしたように言われ、先輩でも、誰かを誘う時は緊張するんだな…って知って、妙に親近感が沸いた。
次の日、何か手土産がいるのではないかと思い…
そういえば、桜橋先輩は和菓子が、特にお団子が好きだったことを思い出す。
近所の小さな和菓子屋に寄っていこうと思った。
編集者の父さんが、よく作家先生の所へ差し入れするのに使ってて、喜ばれると言っていたから。
店の暖簾をくぐると、店内のカウンターに並んだ和菓子を観察する。
どれが良いのかな…
一番人気!と手書きのPOPが貼られた、カップに入ったみたらし団子を見つける。
人気なら間違いないと、2つ買い、レジ横に並んでた緑茶も購入し、小さな紙袋に入れて貰った。
僕は自分の記憶を頼りに、先輩の家を探す。
思ったよりも簡単に見つける事が出来て、門扉にあるチャイムを鳴らす。
約束の時間の5分前だけど…大丈夫だったかな?と思ってると、すぐに先輩が玄関から出てきた。
「家、すぐ分かった?覚えてた?」
「あ、はい大丈夫でした」
そんな会話をしながら、促されるままに、玄関を上がる。
「ご家族の方にご挨拶を…」
「あ、居ないから誰も…」
それでは、お邪魔します…と、小さく呟き靴を揃えた。
大きな平屋で、先輩の部屋は奥にあるらしい、廊下を進むと引き戸に手をかけた。
開くと、想像と違い、割と近代的な洋室だった。
「あー、俺の部屋は、改装して和室じゃないんだよ」
どうやら、前に通して貰ったのは客間らしく、今回は、本当に先輩の部屋。
フローリング床に、大きなテレビ、横にはゲーム機がしっかりと数台セットされていて、服などはクローゼットにしまってあるのだろう、全く見当たらない。
あとはテレビの前にソファーがあるのと、パソコンの乗った勉強机と、本棚とベッドだけ。
本棚には、ギッシリと参考書が詰まっているが、シンプルで整頓されたインテリアだった。
「オシャレですね…」
「そう?普通だと思うけど。あんまりゴチャゴチャしてるのは嫌いだから、物が少ないだけ」
僕は、忘れないうちに、買ってきた和菓子の袋を渡す。中身を除く桜橋先輩は嬉しそうで
「え?いいの?俺、ここのみたらし団子好きなんだよな」
そっか、よく考えたら、先輩のお父さんは、僕の父が編集の担当者だった。食べた事があるのは当然で、考えが足りなかった。
「すいません、食べた事ありますよね…つまらないものですが…」
「何言ってるんだよ、俺が和菓子好きなの覚えてて、選んでくれたんでしょ?もう、それだけで何か勘違いしそうなんだけど…俺…」
なんて答えたらいいのか、言い淀んでいると、先輩は、飲み物とお菓子取ってくるって、部屋を出ていった。
僕は、座る場所を迷ったが、無難にソファに座った。
しばらくすると、ちょっと開けて〜手が塞がっててるから…って、引き戸の前で声がする。
僕が開けると湯気の上るお茶とペットボトルのジュース、大きなお盆に溢れかえる山盛りのお菓子を持つ先輩が現れた。
どれが好きか分からないから、各種選んでたら、こんな事になった…と、照れたように笑う先輩。
「すいません、お気を使わせて…」
「俺が凄く楽しみにしてたのが伝われば良いだけ…で、何が好き?」
コンビニで買ってきたらしく、グミだけでも3種類はある…チョコにポテチ、各種の味違いや、メーカー違いで…
乗らなかったけど、この倍は買ったんだけど…なんて言われて…
コンビニで、どれだけ散財したのか、ちょっと心配になった。
しかも、残りは持って帰ってなんて言い始めるので、僕がお財布を取り出すと、またしても、止められる。
払うことなどさせない…とばかりに。
では、また、次回来た時に頂きますので置いておいて下さいと…と伝えると、次回があるのか〜って、ニヤニヤされた。
「ごめん、ちょっとそっちに詰めて」
僕が横にズレると、左側に先輩が座る。
確実に僕の聴こえる側に座る先輩は、そこが定位置だとでも言わんばかり。
先輩が買ったばかりだというゲームソフトは、カーレースのゲームで、僕でも知ってる超有名なやつだった。
コースが曲がりくねっていて、左右にふられる度に時々触れる肩と肩に、今日も安定して近距離なのを感じる。
出会ってから、ずっと、この距離感だ。
僕の右側の耳が聴こえないからだと思ってたけど…先輩から告白を受けてからは、実際のところは、どうなんだろと思ってるけど、敢えては聴けない案件だ。
結構熱くなるゲームは、手加減される事も無く、先輩の方が少し上手で、それでもなかなか良い勝負だった。
ひとしきり盛り上がった後
「成海が持ってきてくれたお団子も、食べようか?新しいお茶入れてくるよ」
「あ、いえ…お団子は先輩とお母さんで食べて頂こうと思ってまして」
一緒に食べるつもりは無く、お邪魔しますの気持ちの手土産だったので。
「そうなのか?それで2個?そっか…ありがとう」
先輩は、なんだか嬉しそうに笑った。
「まだ、時間大丈夫?映画でも観る?」
僕は、コクコクと頷いた。
今日の予定は、特に無くて…良かった。
先輩がテレビのリモコンを操作すると、サブスクの画面が出てくる。
お気に入りは、アクションとサスペンス系なのか、オススメには、そのジャンルが沢山上がってくる。
何か観たいのある?と僕に聞きながら、リモコンをピコピコ操作する先輩。
少し前まで映画上映をやっていた作品が入ってると気付いて、あっ!と声が出たから、これ?観たい?と止められる。
「良いんですか?僕が観たいので」
「良いんだよ、どんなのが好きなのか知りたかったし」
なんて言われる。
イタリア映画の探偵物で、謎解きが面白そうだと思った作品。
依頼された探偵が、ある村に赴くと、殺人事件が起こり…犯人を探すというありふれてるけど、その謎解きが巧妙で面白いと評判だったから。
映画館で観るのは、得意じゃなくて、レンタルが始まるのを待ってたんだけど、先輩のサブスクだと無料になってて、これなら、ご迷惑にならないと判断した。
ポテトチップスの袋がバリッと開けられ、映画鑑賞が始まった。
薄暗い映像で始まり、序盤から早々に一人殺されてしまう。
大丈夫かな…と思ってチラリと横の先輩を観ると、真剣な眼差しで画面を見つめているので、ホッとした。
僕が選んだ作品が、つまらなかったら、申し訳無くて…
話が進むうちに、探偵の男と一緒に謎を解いていた女性が、なんともいいムードになり、2人がベットに倒れ込むと、大きな画面からは濃厚なキスシーンが流れてきた。
まさかの展開に、僕は、思わず顔を背けたけど、背けた方向が不味かった…
先輩とバッチリ目が合う。
しかも、腕が触れ合う距離に隣同士座っていたもんだから、余計に間近に目線が合って。
「ダメだよ…成海。ここで、目が合うって、どういうことか分かってる?」
先輩は視線を逃さないとばかりに僕の後ろ頭に手を添え、じっと見つめてくる。
深い深い青みのある瞳から、目が逸らせなくて。
「ねぇ、成海、そらさないの?いいの?」
いいの?とは…
頭では、その意味は、半分わかってて…
良いとも悪いとも言わない僕はズルいのかな…
「ここまでにしよう」
唇が触れるギリギリの近さまで来た先輩の瞳が揺れた。
先輩は、僕の頭をポンポンと叩くと、前を向いた。
残念に思う気持ちが沸いて、実は…期待してしまっていた事を自覚してしまう。
僕は、先輩の事が好きなのか?
それとも、優しくて、綺麗な先輩だから、何をされても許してしまうのか?
自問自答するけど…
分からない。
しかも、先輩は、僕に気持ちがどうかとか、答えを聞こうとはしないし、強引な事もしない。
先輩なら、さっきの雰囲気から、押し倒してなんとでも出来そうな気がするけど…
やはり僕が男だから…
好きとは言ったものの、実際の触れ合いになると、拒否反応が出たのかもしれない。
「僕が男だから…」
頭の中だけで呟いていた言葉が、口から出ていたと気付いたのは、先輩と唇が重なっていた後。
一瞬だけで離れたそれは、僕の唇に味わった事の無い甘さを残した。
「成海の気持ちを大事にしたいから…めちゃくちゃ自制したのに…成海が、そんな事言うから、飛んだじゃんか…確かに今まで、女の子と付き合った事はあるけど、男を好きになったのは成海だけ。知っといて」
僕の小さな解いに、完全な答えをくれる…どこまでも、優しくて誠実。
「すいません、僕、よく分からなくて…先輩の事、好きです…けど、それが、先輩と同じなのか…ごめんなさい」
「大丈夫だって、だから、待つって…ま、手を出した後で言っても説得力無いけどな(笑)」
一瞬だけの唇の触れ合いは、嫌では無かった。
むしろ…離れた後が切なくて。
「いやじゃ無かったです…むしろ…あの、もっとしてみたら分かりますかね?」
「だから、煽んなって…」
本気で困らせてしまったらしい…
少しむくれたみたいに、そっぽむいてしまう先輩。
無自覚も、時に罪になるのかもしれないと反省する。
すいませんの気持ちで、トントンと、先輩の背中を優しく叩く。
数回目に、振り向い先輩は、僕をくすぐる。
「ほら、ごめんなさい、しなさい!」
「ご、ごめ、んな…アハハ、さいっ!」
笑って逃げ回ってるうちに、先輩が僕に覆いかぶさった状態になり…
2人の視線がかち合い、一瞬沈黙する。
先輩が近付いてくるので、目を閉じた僕。
先輩の唇は、僕の頬に着地し、これで許してやる…なんていいながら、離れた。
「ドキドキした?」
なんて聞いてくる。少し余裕そうなその言い方は、いつもの先輩に戻っていた。
