僕の専属編集者様は先輩です

ふと…よく考えたら…
僕、このところ、先輩の事ばっかり考えてて…
全然、物語を書いてない。
全く進めていなかった事に気付き、つと唖然とした。

前は、あんなにも、書きたい事を考えて考えて、文字にしていたのに。
どうしてしまったんだろうか…一体僕は。

なんか、先輩に構って貰えるようになってから、甘えてしまってるんじゃないかって…
明日は、先輩達と遊ぶ約束をしたけど…
楽しみな気分と共に、変な罪悪感が生まれてきていた。

これって別に他の人からしたら何でも無い事。
執筆なんて、趣味なんだから…って言ってしまえば良い話。
でも、僕自身が、そうは思えなくて…
やっぱり、今まで自分にとっての生活の一部であり、大切にしていた物をおざなりにしていたなんて…
それぐらい…気付かないうちに浮かれていたって事か…
ダメだ…これでは、僕自身で僕の価値を無くしてしまう。
誰かより上等な文章が書けるわけでもなく、どこかから依頼が来て書いてるなんてわけでもなく。
それでも、いつか…童話作家になりたい…文章を書く仕事に就きたいという…夢を。
生半可な気持ちでは、なれないって、ちゃんとわかっていたのに…

僕は久しぶりに机に座り、原稿用紙を広げた…
続きを書かなくては。


全ての感情を、物語へと没入させて…
想像の羽を徐々に広げる。

主人公のオオカミを動かし始める。
次は、その友達のオコジョも…
ひとたび、物語が僕の中で動き始めたら、次々に世界が広がっていき、モロクロから色が着き始める。
この感覚を忘れてなかった事に、心底ほっとした。
オオカミにかけられた疑惑を晴らすために、オコジョは、奔走する。
何度も言いかけては躊躇い、最後に自らの言葉で、友達になって欲しい…と言ってくれたオオカミを助けたい一心で。
肉食だからってだけで、警戒され、弾かれ、どんなに良い事をしても、食べるために裏があると思われ、感謝などされない。
寡黙だけど、本当は心優しいオオカミだという事を知ってるのは、オコジョだけ。

気付けば…夜中の3時を、回っていて。

僕はベッドへ倒れこむように寝た。


目覚ましのアラームで目が覚める。
飛び起き、今が何時なのか確認した。
まだ待ち合わせまでに、時間の余裕はあって…土曜日でも目覚ましのアラームが鳴るようにしていた事に胸を撫で下ろした。



待ち合わせの駅前のコンビニに着いてから、辺りを見回すと…
物凄いオーラを放つ3人組が…
そこの空間だけが、スローモーションみたいに見える。
振り向く人々、こそこそと何かを囁き合う女の子達。

まさに、威風堂々。
映画のスクリーンから出てきたのか、はたまた、ファッション雑誌の1ページが歩いているのかってくらいに、オシャレな服を着る3人は、もちろん、乗っかってる顔も抜群だ。

僕は、一気に自分のみすぼらしさを意識して、回れ右したくなった。

バチっと陽岡先輩と目が合う。
俯いてしまった僕は、彼らが僕の元へと足早に来てくれている足元だけを見つめた。

「待った?」
陽岡先輩が覗き込んでくる。
私服の破壊力って…すごい。より美貌が際立っていて、直視できない。
僕は左右にかぶりを振って、示すだけ。
顔を上げるのが何だか急に恥ずかしくなって、俯いてしまった。

「成海、可愛い…」
はっ?
カ、ワ、イ、イ?どこが?
いや、空耳か?空耳だよな。
普通のTシャツに普通の短パン…リュック。
中学生と変わらないような格好で。
友達と出掛ける事も滅多に無いし、ましてや彼女が居た事も無い僕は、ド定番の服しか持ってない。
何の飾り気も無く…なんだか、この豪華な集団に入るのは申し訳なさが勝ってきて。

「あの…僕、本当にダサくて…すいません」
「はぁ?褒めたのに、なんでその返し?」

褒めたの?
カワイイ…は、空耳では無かったのか…

気になるなら、これ被りな…って、陽岡先輩は自分が被っていたキャップを僕に被せた。
僕が大遠慮すると…

「被らないなら、キスしよっかな…」
何?先輩!最近、その脅し方が、流行り??
アタフタする僕の横で先輩達は笑ってる。

「陽岡、そのくらいにしといてやれよ〜」
「成海くん、顔真っ赤にしてるじゃーん、カワイイ」

なんだろ…この反応は…
そうだ!思い出せ、自分!
僕は、愛玩動物のような物だという事を。
自ら愛玩なんておこがましいが、ブサカワってジャンルもあるから、そっちで!って事で。

「まずは、王道で…クレーンゲームしにいくぞ」
さらりと僕の手を繋いで陽岡先輩が、駅前のアミューズメント施設へと誘導してくれる。

主に、佐久間先輩と友森先輩が話してて、陽岡先輩は、相槌を打つだけ。
賑やかな2人と静かな先輩のバランスはとても良くて、そこに入れてもらった僕は、そのやり取りを眺めつつ、繋がれた手に汗をかかぬよう、神経を集中していた。

「あれ?なんか、目が赤いけど…寝不足?」
陽岡先輩は、僕の眼の赤みに気付いてしまったようだ。

「いや、あの…ちょっと…あの、例のお話の…続きを書いてまして…寝たのが、3時過ぎてて…」
「本当に?続き進んだのか?え〜!すごく楽しみにしてるんだけど!でも、大丈夫?しんどかったりない?」
物凄い優しいトーンで言われて戸惑ったけど、僕は
「全然大丈夫です…」
と答える事しか出来ず。
なになに、何の話?って聞いてくる他の2人に、何でも無いって、陽岡先輩は完全シャットアウトな答えをしていた。

辿り着いたアミューズメント施設のギラギラした感じの店内には、所狭しとUFOキャッチャーの台が並んでいた。
UFOキャッチャーが得意だという佐久間先輩が、次々に獲物を落としていく。
確かに、上手い、もうプロとしか…言いようがない。

繋がれた手はそのままなので、先輩についてまわる。
土曜日なので、店内は、まぁまぁの賑わいがあって、男同士で手を繋いでるのって…どうなんだろ?と思うけど…
意外にも他の人から見られてる感じはなかった。
今どきの男子高校生の距離感がわからないから、もしかして…手繋ぎって普通なのかな?
なんて思いながら、ふと、向こうのクレーンの台が気になって。
オオカミの小さなぬいぐるみを見つけた僕は、そっちをじっと見ていた。
頭の中で、シュミレーションをする。
あそこを狙って…うーん、獲れるかな?


「あれ、気になるのあった?見に行こ。欲しいの?どれ?」

陽岡先輩は、僕が答える前に、500円を投入した。500円入れると一回追加される仕組みなので、獲る気が満々なのが伺える。

「オオカミ?」
「はい」

こうなったら、自分で獲るより確実に取ってくれそうな人に頼ろうと。
僕は真横での観覧を決め込む。

先輩は2回目でコツを掴んだのか、3回目でアッサリとオオカミを、げっとしてしまう。
残りの3回もある…
「先輩!!すごい!わぁ〜!獲れた!」

「あ、あの白いやつ…獲ろう」

よく見たら、白いオコジョが居る。
オオカミしか目に入ってなくて気付かなかった。

4回目、5回目と失敗し…
なんと、6回目で、オコジョとオオカミの2個を一気にゲットした。
結局、オオカミ2個、オコジョ1個を獲得した先輩は、ドヤるわけでも無く、淡々としていた。僕なら、こんなに獲れたら、めちゃくちゃ喜ぶけどな。

ハイッて、オコジョも渡される。
よく見たらこのぬいぐるみ、ブローチになってて、どこかに着けられそうだ。

「後ろ向いて」
手のひらに、乗ってたオオカミとオコジョは、僕のリュックに着けられた。

残り1つのオオカミは、先輩のキーチェーンに追加された。
お揃いか…なんか、照れるのは僕だけかな。

あ、そうだ!
慌てて僕は自分の財布からお金を取り出そうとすると、その手を静止され
「もしかして、お金払おうとか思ってないよね?」
思ってますが?もちろん。

「ダメだよ。俺が、成海に獲ってあげたかったんだから…」

甘ーーーーーい!
え、ちょっと待ってください。
友達で、こういう台詞って吐くもんなんですか?分からない、誰か教えて…ヘルプミー。

「ちょ!獲ってやったんだから、金払えって〜200円な!」
「はぁ?お前が勝手に獲っただけだろ?頼んでねぇよ!」

向こうでは小競り合いが…
そうだよな…アレが普通の友達同士のやり取りだと思うんだけど…

「では…僕もお返しに獲って差し上げたいんですけど、何か…他のもので…無いですか?欲しいの」
「じゃ、クレーンじゃなくて、プリクラ撮ろうよ」

僕の人生初のプリントクラブなるものが、こんな至宝とで…いいんでしょうか?神様。
なんだか、オドオドしてる僕を捕まえて、ズンズン進むイケメンは、派手な暖簾をくぐった。
これ着けてって、渡されたのは、猫耳カチューシャ。
戸惑っている僕の頭に、被せられたカチューシャからは、チリンと鈴の音がした。
髪の毛まで整えてくれる。

僕は白猫で、陽岡先輩が黒猫。

2人で並ぶと、なんだか顔面の、落差を感じずにはいられないんだけど…

ハイチーズって、陽気な音声が、流れるがままに、ゆるゆるとピースサインをした。
ポーズなんて、この1パターンしか知らないよ。
先輩は撮り慣れてるのか、僕の頬をツンってしたり、肩を組んでみたり、最後に頬を寄せられた時には叫びそうになった。

出来上がったプリクラを見ると、ガチガチの表情の僕と笑顔の陽岡先輩が写っていた。

「カワイイな…うん」
僕を指し示して言っているのが、マジで信じられない。
えっと、どこがでしょうか?
先輩の審美眼は、毎日、我が身の美しさを見過ぎたせいで、狂っているのでしょうか?
半分渡されたプリクラのシートを大事にリュックにしまう。

「そろそろ、カラオケ行こうよ〜」
友森先輩が呼んでいる。

カラオケ…
またしても、人生初の物が…

片耳の聞こえない僕は、左右の音のバランスが取れず、自分からは言いにくいが、わかりやすく音痴だ。
なので、カラオケなんて、鬼門でしかなくて。

自然と眉間に皺が寄ってしまったらしい…
「成海は、カラオケ嫌か?」
陽岡先輩から問われてしまった

「すいません…僕、歌わなくていいなら、全然お付き合いします。耳のせいで、音痴なんですよ。音楽を聴く事自体は好きなので」
「俺もカラオケは苦手で、ほぼ聞き役だから。もし嫌になったり、辛くなったら、ちゃんと伝えて」

初めてのカラオケ、みんなについて行くのが精一杯で、ルール的な事が分からず、キョロキョロしてしまう。
フリードリンクもあるみたいで、僕に好みのドリンクを聞いて、あとは全て陽岡先輩が、やってくれた。
もしかして、世話好きなのかな?

カラオケルームの中は、賑やかで、先輩達が歌うのを見るのはとても楽しかった。
僕と陽岡先輩、テーブル向かい、佐久間先輩と友森先輩が座った。
歌う組と聴く組に分かれた。


でも、歌を聞いているうちに、突然の睡魔が…僕を襲った。
抗おうとするんだけど、ガクンと船を漕いでは、ハッとして起きる…この繰り返し。
大きな音楽が流れているのに、全く関係なくて…すごく眠たい。
歌ってる先輩方に、失礼なので、なんとか眼を開けようとしてるんだけど…

「大丈夫?眠いの?」
「すいません…どうも…あの、ダメみたいで」
「肩貸してあげるから、寝なよ」
「いや、それは…先輩方、皆さんに申し訳ない」
「ダメ、無理するなら、家まで送ってくよ?」
せっかくのお誘いに、途中退場は、あまりに残念過ぎる…
では、すいません、少しだけ…って、目の前のお二人にも謝り、ウトウトする。
俺ら歌いたいだけだから、気にすんな!って言ってくれる二人の先輩。
なんだろ、世の中には、優しいイケメンってこんなに沢山いるものなのかな?
僕は、今日誘ってもらえた事に感謝しつつ…

なんだか、優しい手が僕の髪を撫でている…気がする。
夢かも…

ぼんやりと眼を開けると、目の前には横向きの佐久間先輩と友森先輩が歌ってるのが見えた。
ん?おかしくない?
そういえば、なんだか、頬に当たる感触が暖かで柔らかくて…
髪を緩やかに撫でられてる。

そっと上を向くと…
下からの煽りの角度も美麗な陽岡先輩が。
待って、僕…
もしかしなくて、膝枕してもらってる。

一気に覚醒して僕は、飛び起きて
「すいません、こんな、今世紀最大の好待遇を…僕なんかが!」
「今世紀最大って何(笑)」
先輩はクスクス笑ってた…

眠気は?と聞かれ、もう、めちゃくちゃ目が覚めましたと答えた。

「俺の膝は安眠出来たって事だな」
先輩は嬉しそうに言ってくれる。

「おっ!起きた?よく寝てたよな〜アチチだよ、お前ら付き合ってんの?」
友森先輩が冷やかしてくる。

「めっ、めっそうもございませんです!」
全力で否定させて頂く。
そんな事を言われてしまう陽岡先輩に申し訳無くて。

「そんな否定されると傷付くんだけど…」
「えっ?」

その言葉に僕は固まってしまう。
寝起きの頭で、よく分からないけど…僕は失礼な事を言ってしまったのか?

「すいません」
「別に、謝って欲しいとかじゃないよ」
少しムッとしてるように見える先輩の表情は、初めて見るもので、僕は動揺した。

「おいおい、そこら辺にしとけよ、成海くん困ってるじゃん」
助け船を出してくれたのは佐久間先輩。

「ごめん、成海が悪いんじゃないから」
僕は頭にハテナ?マークが浮かぶ。

コミュ力の無い僕には、何がダメだったのか分からず…固まっていると。

「そろそろ…お腹空いた?」
先輩は、少し困った顔のままで、僕に聞いてくる。
そう言われたら、空腹を感じた。

「よし!!昼メシ〜!!♫行こ行こ!」
元気良く友森先輩がマイクを使って、歌うように答えた。

先輩達に連れられて、ファミレスについた。
お肉のガッツリ系を頼む佐久間先輩と友森先輩。
陽岡先輩は、和御前。
やっぱり、和風が好きなのかな…って思った

「成海は?何が好きなの?」
「えっと…好き嫌いは無いんですけど…外食だとチキン南蛮を選ぶ事が多いです」

グラタンもパスタも美味しそうだな…と思ったけど、僕の中の定番、チキン南蛮をオーダーした。

「なぁなぁ、一つだけ聞いていい?成海くん、陽岡とどこで知り合ったの?」
「あ、確かに!いつのまにか、仲良くなってたよね」
「あっ、えっと…図書室で会って」
「それだけ?なんかキッカケは?」
僕が童話を書いてる事は、あんまり人には言いにくくて…言い淀んでいると
「俺が、ナンパしたんだよ、可愛いから。一目惚れって言葉、お前ら知ってるか?」

「へぇ〜なるほど。では、まだ陽岡様の片想いという事でございますかね?」
佐久間先輩が、変なツッコミを入れる
「そうだよ、だから、変なチャチャ入れてぶち壊しにすんじゃねぇぞ、俺だけの純愛なんだから」
冗談なんだろうけど、そんなことを言われて、めちゃくちゃ照れる僕は、どう反応を返したら良いのか分からない。

「だって〜成海くん、そのうちでいいから、答えてやってね(笑)」
「そうそう、一目惚れらしいから」
二人がニヤニヤしてる。
僕は、このノリに乗るべきなのか否か悩んでいると店員さんが、食事を運んで来てくれて、ホッとした。

来た来た!旨そう〜!って盛り上がり、みんなで食事を始めた。

「付いてる」
ん?と思ったら、陽岡先輩の手が伸びてきて、彼の親指が、僕の口端に触れた。
チキン南蛮のタルタルソースが口の端に付いていたらしいんだけど…
陽岡先輩の指に付いた僕のソースは、そのまま先輩の口に持って行かれた。

「世話焼きイケメンだね〜」
「よっ!スパダリ!」

「ウルサイ」

僕は、なんだか、一日中、味わった事も無い好待遇を受け続けている。

食事も終わり、解散する運びとなる。

「疲れてない?送っていくから」

「送り狼になるなよ〜」
「成海くん、もし迫られても、ちゃんと冷静に対処するんだよ〜」

「まじ、ウルサイ。成海、無視しろ」



結局、断っても断っても、僕を家まで送ると言って聞かない先輩と、歩き始めた。
「あの、良かったんですか?なんかお二人は、もしかしたらですけど、僕らの事、勘違いされてるのでは無いですか?」
先輩は、フッと笑いながら「構わないよ」と答えた。

「でも、僕が文章書いてる事を言えば、変な誤解も解けるかも…」
「言わなくていい。俺と成海のヒミツだから。いずれ、世に出る時は盛大に言うけどね」

僕の恥ずかしさを守る為に、誤解をされたままなのが、なんだか申し訳ない気がしてくる。

「あの、では、もし、先輩に好きな方が出来たら、ちゃんと誤解なきようにするので言ってください」
「好きな人は、もういる。でも…今は、まだこのままでいい」


好きな人がいる。
その言葉に、酷くショックを受けてる自分に驚いた。

「あの、先輩みたいな方なら、絶対にオッケーを下さると思いますよ?」
最後の方、何故か声が震えた。

「そう?でも、まだ…今はいい、このままで」
このままっていう事は、すでにある程度の関係性を持ってるという事だと…
それなら尚のこと、僕が先輩の時間を取っているのは、イケナイ事だと思える。

「あの…」
もし、僕との時間を別の誰かと過ごしたいなら…言いかけて、言葉にできなかった。

「なに?」
「いえ、なんでもないです」

僕は、ただの友達であって、先輩にとっての一番でも無くて…
改めて気付いては、イチイチ、ショックを受ける自分の脆さを感じた。