俺にだけ可愛い幼馴染みの本性は、甘くて重い

「──や。……蓮弥、いつまで寝てるの」

「っ、う……?」

 寒さと眩しさで顔を(しか)め、俺はうっすらと瞼を押し上げた。

「起きなさい、それとも遅刻してもいいの?」

 眠さも相俟ってまだ視界はぼやけていて、なんだか母さんの声まで聞こえてくる。

 いつもは聖が起こしてくれるはずなんだけど、まだ夢でも見てるのかな俺は。

「……おはよ、ひじ……っ!?」

 何度か目を瞬かせ、目を擦りつつ聖の名前を呼ぼうとすると、ペチンッと両頬を軽く叩かれた。

「これで目、覚めた?」

 にっこりと手本みたいに微笑む母さんが目の前にいて、まずいと瞬時に思う。

「……う、ん」

 いきなりだったこともあって、若干涙目になりながら小さく頷く。

「おはよう。リビングにご飯置いてるから、早く支度しちゃいなさい」

 俺の反応に母さんは笑みを深めると、頭を撫でるついでみたいにわしわしと寝癖を直してくれる。

 ……あの、俺今年で十七になるんですけど。

 眠気の残る頭でベッドサイドにある時計を見ると六時四十一分で、大体これくらいがいつも起きる時間だった。

 でもなんで聖じゃなくて、母さんに起こされたんだろう。

 体調を崩してない限りは毎日俺の家に来てくれて、起こしてくれるのに。

 まぁ本当なら俺が一人で起きるか、忙しいところ申し訳ないけど母さんに起こされる方が正しい。

 俺だって自分で起きたいし頑張ろうとしてる、けど昨日は聖の返信を待ってたら寝るのが遅くなっただけで……。

 なんて、黙々とベッドメイキングをしてくれている母さんの背中に向けて、意味もない言い訳をする。

 いつもならとっくにいないから今日は仕事が休みで、一日ゆっくり出来るっぽかった。

「聖は……?」

 俺はまだ眠い目を擦りながら、部屋を出る前に母さんに尋ねる。

「来てないけど。先に行ってるってメール来てない?」

 母さんが丁寧にベッドメイキングしながら、こちらを振り向かずに言う。

 その言葉に俺はスマホを見ると、母さんの言う通り漫画やSNSの通知の他に、聖からメッセージが来ていた。

『先に行くね』

 たった一文の短いそれは、至っていつも通りだ。

『分かった』と定型文よろしく返信すると、俺はハンガーに掛けている制服を手に取った。

「先行くみたい」

「そう。お母さん休みだから、駅まで送っていこうか?」

「ん……お願い」

 ふあ、とあくびをしながら制服を持って、脱衣所で着替えと洗顔や歯磨きを済ませてからリビングへ向かう。

 まぁ一人で行きたい時もあるよな、って思いながら母さんの作ってくれた朝食を食べる。

 休みで時間があったからか白米に味噌汁、昨日の残り物だけど大きめの唐揚げが三つに小松菜のごま和えにゆで卵が一つ……って、いつもよりちゃんとした朝食だな。

 パンにザ・朝食って感じのおかずも嬉しいけど、やっぱり朝からご飯を食べられるのは嬉しい。

 こういうところが日本に生まれてよかったって思うよな、いやジジ臭いかこれは。

 朝食を食べている間、俺の視線は時折スマホの方を見ているからか、母さんに気付かれて注意された。

 うん、これは俺が悪い。

 けれどいつ聖から返信が来るのか分からなくて、ついつい見てしまう。

 それもこれも、聖はバイトが終わったらほとんどすぐに返信してくれる、って無意識に期待してたからかな。

 そうじゃなくても、どんなに遅くても寝る前には必ず返してくれて、そこからちょっとだけ通話しようってなる事がほとんどだった。

 昨日の放課後、校舎裏に向かおうとした時は普通だったから、何も変なことはしてないし言ってないはずだ。

 いかんせん、こうした事は今までなかったからどうしたらいいのか分からない。

 もし俺が気付かないうちに何かしていたなら謝って、聖が『いいよ』って言うまで頭を下げ続ける覚悟だ。

 それくらい俺にとって聖はいなくなっちゃ困る存在で、この先も仲良くしたい幼馴染みだから。