「ふあぁ……」
俺は口元に手を添えつつ、大きなあくびをした。
「眠そうだねぇ」
隣りを歩く聖は、何がおかしいのかけたけたと笑っている。
毎度のごとく聖に起こされたはいいものの、今日は特別眠かった。
眠気覚ましにコーヒーを淹れてくれたのはありがたかったけど、一杯じゃ足りなかったかもしれない。
「……昨日は一時くらいまで電話してただろ、それだよ」
目尻に浮かんだ涙を拭いつつ、聖をちらりと見る。
今日は耳の後ろあたりを編み込んで、ピンで留めていた。
毎回思うけど手先が器用だよな、多分俺にはできない。
「先に寝てくれてもよかったのに蓮ちゃんってば、全部聞いてくれるんだから。いい子だよね、ほんと」
うりうり〜、って手を伸ばして頬をつついてくる。
「……前、寝落ちしたら怒ったから」
眠気に負けそうになりながら、ぼそぼそと呟く。
聖の服を軽く摑んで歩いているからか、聖が立ち止まったら俺も止まるしかないって分かってるのかな、こいつは。
「いつの話してるの、あれって中学の時でしょ? もう怒んないよ、可愛いなぁって思うくらい」
「……そか」
もう突っ込む気力もなくて、俺は息を吐くように相槌を打った。
「よーしよしよし、教室までもうちょっとだよ〜」
ちょっと笑いながら頭を撫でるな、こっちは本当に眠いんだから。
「……ん?」
聖と揃って教室に入ると、今日は俺の席に先客が居た。
「おはよ、……何してるんだ」
邪魔だ、という意味を少しだけ言葉に込めて、伊藤の頭に腕を置く。
「うお!? ……っくりしたぁ。驚かせんなよ」
文字通り飛び上がるようにして、伊藤が椅子から立った。
俺はその隙を見計らって、さっさと椅子に座る。
「座るのはいいけど朝は止めてくれ、寝るんだから」
「ええ……」
「通常運転だなぁ」
伊藤の困惑する声に混じって、隣りから神尾の楽しげな声が聞こえてくる。
ごめん伊藤、聖の席にでも……ってもう座ってる。早いな、座るの。
「ごめんね、蓮ちゃんいつもより機嫌悪くて」
聖が顔の前で手を合わせて、俺の代わりに謝ってくれてる。
朝はこんなもんだろ、授業始まる頃には頭もすっきりしてるし。
でも軽く悪いことをしたのは事実だから、お詫びに伊藤の好きなものでも奢るか。
なんて思いながら、俺はあくびを噛み殺す。
「それはそうと宇月くんよ、この手紙に見覚えは?」
不意に伊藤が俺の机に手をついて、ニヤニヤとどこか笑いを含んだ声で言った。
手紙? 誰かが落としたのか?
そう言うのすら億劫で、俺は短く『誰の』とだけ口の中で呟いた。
「いやいやいや、今更そういうの無しだろ、このモテ男めー」
いやに芝居がかった口調に苛立ちつつも、ようよう伊藤の方に顔を向ける。
「なになに、ちょっと見せて」
でも俺がその『手紙』を見るよりも早く、聖がひょいと伊藤の手から奪い取った。
あれ、聖宛だったのか。先週も告白されてたけど、スパン短くないか。
なんにせよ、聖が食い入るように手紙を読んでるあたり、俺には関係ないものらしかった。
「……神尾、十分くらい経ったら起こして」
「え、おい」
隣りで姫村と何やら話してる神尾を見ることなく、俺はぽすんと腕を枕にして目を閉じる。
さすがに毎日こうだと参ってしまうから、強めの眠気覚ましの薬飲むか、そろそろ。
そんなことを考えながら睡魔に身を委ねようとしていると、ドンっと右側から衝撃が走った。
「うっ……!?」
唐突なことに俺はうめき声を上げる。
こういう事を平気でするのは、俺の中では聖しかいない。
加えてせっかくの眠気が中途半端なところで覚めたからか苛立ちもそのままに、きっと聖を睨み付けた。
「なん」
「これ蓮ちゃん宛だよ、ほら」
なんだよ、って文句の一つ言うよりも前に、聖が手紙を見せてくる。
それは白地に花柄の便箋で、入っていた封筒も同じものだった。
女子っぽい丸みのある可愛らしい字で、何かが書かれてることだけは分かる。
「……なんて書いてるんだ」
いかんせん眠気がいつもより酷くて、電車の中で少し眠っていたくらいだ。
聖に介護されながら、なんとか教室に着いたところまではよかったけど、文字を読み取る頭は正直なところ残ってない。
「えっとね、ずっと宇月先輩のことが好きでした。返事を聞きたいので放課後、校舎裏で待ってます──って」
「名前は書いてないんだよな、一年っぽいけど」
伊藤が聖の言葉を引き継ぐように言う。
「字の書き方からして、めちゃくちゃ可愛い子だって分かるね俺は。いやぁ、ほんと隅に置けないなぁ宇月は」
さも楽しげに続ける伊藤は、まるで自分が告白されるかのように上機嫌だ。
……どうやら俺は放課後、誰かも分からない後輩から告白されるらしい。
せめて名前があればと思うけど、後輩ってなると部活や行事以外でほとんど交流がないから、どちらにしろ誰なのか分からない。
俺は帰宅部だし、その子も同じだったら尚更だと思う。
同級生ならいいんだけどな、でもそしたらもっと教室が騒がしいか。
少なからず噂好きな生徒が居るから、同い年の異性に告白するのは気まずいだろう。
でも勇気と勢いさえあれば、先週みたく聖に告白してくる女子生徒も居るわけで。
「ねぇ蓮ちゃん、行った方がいいよ。放課後だけど」
手紙を俺の机に置くと、聖が俺の肩に両手を置いてくる。
「……わかった、わかったから」
だから俺の眠気を覚ますみたいに、思いっきり肩を揺さぶるのはやめろ。
「どんな子だろうなぁ」
「よっし、こっそり見に行くか。ちょうど部活無いし」
「僕はやめとこっかな。こういうの野暮って言うんだよ、二人とも」
……姫村以外の奴がクソすぎる。
神尾はまぁいいとしても、伊藤は後輩の顔が気になるだけだろ。
まぁ正直なところ、好意を持たれるのは嬉しいけど。
でもよく知らない相手と流れで付き合うのは申し訳なくて、同時に少しだけ胸が痛んだ。
「……告白、か」
腕に頭を預けながら、ぽつりと零す。
相手が誰なのか分からない不安はもちろんだけど、俺の中にむくむくと申し訳なさが湧き上がっていくのを感じる。
聖には到底及ばないけど、これまで何度か告白された事はあった。
でもその時の俺は、付き合った後の事を考えてなかったからかな。
そう時間も経たずに、相手の方から別れを切り出されてしまうのがほとんどだった。
理由は『付き合ってみたら違った』とか、『他に好きな人が出来た』とか、とにかく相手に好意が無くなったことだけは分かった。
高校に上がってからは余計に、次に付き合った人は大事にしようと俺なりに頑張った時期もある。
まぁ短くて数日、長くても一ヶ月で振られるんだけど。
お約束みたいに相手の方から『別れてください』って言われるから、俺は恋愛に向いてないんだ、黙ってばかりだしお前も本当は俺と居ても楽しくないんだろ、って聖に愚痴ってたっけ。
うじうじ落ち込んでる奴の相手をするのは面倒だろうに、優しく抱き締めてくれたのをよく覚えている。
あの時の聖は、なんて言ってくれてたかな。
──大丈夫だよ、蓮ちゃん。落ち着くまで、僕が一緒にいるから。
……って、そういうニュアンスに近かった気がする。
聖に甘えている自覚はずっとあるけど、その言葉のお陰で立ち直れたのは事実だから。
一人だったら人間不信になるのはもちろん、また新しく恋愛をしようって思わなかったかもしれない。
その時の言葉がどれほど嬉しかったか、直接聖に言ったことはない。
でも何も言わなくても、聖が俺の隣りにいてくれるのは嬉しいし感謝してる。
いつか真正面から言わないとと思うけど、今更だし小っ恥ずかしくて言えないんだよな。
「──ね、蓮ちゃん」
「うん?」
ふと俺の隣りに立っていた聖が、小さな声で呼び掛けてくる。
まだ眠気の残る顔を上げると、俺とまっすぐに目が合った聖は軽く眉を開いて言った。
「蓮ちゃんが優しいって、僕はよぉく知ってるから。だから大丈夫だよ」
そう、太陽みたいなあったかい笑顔で聖が言ってくるから、少し眩しさすら感じる。
同時に俺の心の中を覗いたかのような言葉に、驚きも合わさって半分ほど閉じていた瞼を押し上げた。
「そりゃあ、お前とは長いから」
「もし前みたいに、落ち込んだりしたらって……知ってる? 蓮ちゃんはさ、自分が思ってるより繊細だってこと」
俺の声に被せるように、聖がやや口早にまくし立ててくる。
珍しいな、いつもなら最後まで聞いてくれるのに。
聖の態度に少しの違和感を覚えつつも、俺はふっと微笑む。
「……大丈夫」
心配性だな、本当に。
「っ……」
聖が小さく息を呑んだのが分かったけど、俺は構わずに続けた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって。繊細だけど俺は強いって、聖は知ってるだろ?」
聖と似たような言葉を唇に乗せながら、俺は放課後に会うであろう後輩の女の子に思いを馳せる。
もしこんな俺でも良いんであれば、ってまっすぐに言えたら苦労しないと思うけど、やっぱり多少の不安はある。
でも俺の性格を分かってくれるなら、相手が誰であっても、たとえ俺の全部をかけてでも、今度こそ大事にしたかった。
俺は口元に手を添えつつ、大きなあくびをした。
「眠そうだねぇ」
隣りを歩く聖は、何がおかしいのかけたけたと笑っている。
毎度のごとく聖に起こされたはいいものの、今日は特別眠かった。
眠気覚ましにコーヒーを淹れてくれたのはありがたかったけど、一杯じゃ足りなかったかもしれない。
「……昨日は一時くらいまで電話してただろ、それだよ」
目尻に浮かんだ涙を拭いつつ、聖をちらりと見る。
今日は耳の後ろあたりを編み込んで、ピンで留めていた。
毎回思うけど手先が器用だよな、多分俺にはできない。
「先に寝てくれてもよかったのに蓮ちゃんってば、全部聞いてくれるんだから。いい子だよね、ほんと」
うりうり〜、って手を伸ばして頬をつついてくる。
「……前、寝落ちしたら怒ったから」
眠気に負けそうになりながら、ぼそぼそと呟く。
聖の服を軽く摑んで歩いているからか、聖が立ち止まったら俺も止まるしかないって分かってるのかな、こいつは。
「いつの話してるの、あれって中学の時でしょ? もう怒んないよ、可愛いなぁって思うくらい」
「……そか」
もう突っ込む気力もなくて、俺は息を吐くように相槌を打った。
「よーしよしよし、教室までもうちょっとだよ〜」
ちょっと笑いながら頭を撫でるな、こっちは本当に眠いんだから。
「……ん?」
聖と揃って教室に入ると、今日は俺の席に先客が居た。
「おはよ、……何してるんだ」
邪魔だ、という意味を少しだけ言葉に込めて、伊藤の頭に腕を置く。
「うお!? ……っくりしたぁ。驚かせんなよ」
文字通り飛び上がるようにして、伊藤が椅子から立った。
俺はその隙を見計らって、さっさと椅子に座る。
「座るのはいいけど朝は止めてくれ、寝るんだから」
「ええ……」
「通常運転だなぁ」
伊藤の困惑する声に混じって、隣りから神尾の楽しげな声が聞こえてくる。
ごめん伊藤、聖の席にでも……ってもう座ってる。早いな、座るの。
「ごめんね、蓮ちゃんいつもより機嫌悪くて」
聖が顔の前で手を合わせて、俺の代わりに謝ってくれてる。
朝はこんなもんだろ、授業始まる頃には頭もすっきりしてるし。
でも軽く悪いことをしたのは事実だから、お詫びに伊藤の好きなものでも奢るか。
なんて思いながら、俺はあくびを噛み殺す。
「それはそうと宇月くんよ、この手紙に見覚えは?」
不意に伊藤が俺の机に手をついて、ニヤニヤとどこか笑いを含んだ声で言った。
手紙? 誰かが落としたのか?
そう言うのすら億劫で、俺は短く『誰の』とだけ口の中で呟いた。
「いやいやいや、今更そういうの無しだろ、このモテ男めー」
いやに芝居がかった口調に苛立ちつつも、ようよう伊藤の方に顔を向ける。
「なになに、ちょっと見せて」
でも俺がその『手紙』を見るよりも早く、聖がひょいと伊藤の手から奪い取った。
あれ、聖宛だったのか。先週も告白されてたけど、スパン短くないか。
なんにせよ、聖が食い入るように手紙を読んでるあたり、俺には関係ないものらしかった。
「……神尾、十分くらい経ったら起こして」
「え、おい」
隣りで姫村と何やら話してる神尾を見ることなく、俺はぽすんと腕を枕にして目を閉じる。
さすがに毎日こうだと参ってしまうから、強めの眠気覚ましの薬飲むか、そろそろ。
そんなことを考えながら睡魔に身を委ねようとしていると、ドンっと右側から衝撃が走った。
「うっ……!?」
唐突なことに俺はうめき声を上げる。
こういう事を平気でするのは、俺の中では聖しかいない。
加えてせっかくの眠気が中途半端なところで覚めたからか苛立ちもそのままに、きっと聖を睨み付けた。
「なん」
「これ蓮ちゃん宛だよ、ほら」
なんだよ、って文句の一つ言うよりも前に、聖が手紙を見せてくる。
それは白地に花柄の便箋で、入っていた封筒も同じものだった。
女子っぽい丸みのある可愛らしい字で、何かが書かれてることだけは分かる。
「……なんて書いてるんだ」
いかんせん眠気がいつもより酷くて、電車の中で少し眠っていたくらいだ。
聖に介護されながら、なんとか教室に着いたところまではよかったけど、文字を読み取る頭は正直なところ残ってない。
「えっとね、ずっと宇月先輩のことが好きでした。返事を聞きたいので放課後、校舎裏で待ってます──って」
「名前は書いてないんだよな、一年っぽいけど」
伊藤が聖の言葉を引き継ぐように言う。
「字の書き方からして、めちゃくちゃ可愛い子だって分かるね俺は。いやぁ、ほんと隅に置けないなぁ宇月は」
さも楽しげに続ける伊藤は、まるで自分が告白されるかのように上機嫌だ。
……どうやら俺は放課後、誰かも分からない後輩から告白されるらしい。
せめて名前があればと思うけど、後輩ってなると部活や行事以外でほとんど交流がないから、どちらにしろ誰なのか分からない。
俺は帰宅部だし、その子も同じだったら尚更だと思う。
同級生ならいいんだけどな、でもそしたらもっと教室が騒がしいか。
少なからず噂好きな生徒が居るから、同い年の異性に告白するのは気まずいだろう。
でも勇気と勢いさえあれば、先週みたく聖に告白してくる女子生徒も居るわけで。
「ねぇ蓮ちゃん、行った方がいいよ。放課後だけど」
手紙を俺の机に置くと、聖が俺の肩に両手を置いてくる。
「……わかった、わかったから」
だから俺の眠気を覚ますみたいに、思いっきり肩を揺さぶるのはやめろ。
「どんな子だろうなぁ」
「よっし、こっそり見に行くか。ちょうど部活無いし」
「僕はやめとこっかな。こういうの野暮って言うんだよ、二人とも」
……姫村以外の奴がクソすぎる。
神尾はまぁいいとしても、伊藤は後輩の顔が気になるだけだろ。
まぁ正直なところ、好意を持たれるのは嬉しいけど。
でもよく知らない相手と流れで付き合うのは申し訳なくて、同時に少しだけ胸が痛んだ。
「……告白、か」
腕に頭を預けながら、ぽつりと零す。
相手が誰なのか分からない不安はもちろんだけど、俺の中にむくむくと申し訳なさが湧き上がっていくのを感じる。
聖には到底及ばないけど、これまで何度か告白された事はあった。
でもその時の俺は、付き合った後の事を考えてなかったからかな。
そう時間も経たずに、相手の方から別れを切り出されてしまうのがほとんどだった。
理由は『付き合ってみたら違った』とか、『他に好きな人が出来た』とか、とにかく相手に好意が無くなったことだけは分かった。
高校に上がってからは余計に、次に付き合った人は大事にしようと俺なりに頑張った時期もある。
まぁ短くて数日、長くても一ヶ月で振られるんだけど。
お約束みたいに相手の方から『別れてください』って言われるから、俺は恋愛に向いてないんだ、黙ってばかりだしお前も本当は俺と居ても楽しくないんだろ、って聖に愚痴ってたっけ。
うじうじ落ち込んでる奴の相手をするのは面倒だろうに、優しく抱き締めてくれたのをよく覚えている。
あの時の聖は、なんて言ってくれてたかな。
──大丈夫だよ、蓮ちゃん。落ち着くまで、僕が一緒にいるから。
……って、そういうニュアンスに近かった気がする。
聖に甘えている自覚はずっとあるけど、その言葉のお陰で立ち直れたのは事実だから。
一人だったら人間不信になるのはもちろん、また新しく恋愛をしようって思わなかったかもしれない。
その時の言葉がどれほど嬉しかったか、直接聖に言ったことはない。
でも何も言わなくても、聖が俺の隣りにいてくれるのは嬉しいし感謝してる。
いつか真正面から言わないとと思うけど、今更だし小っ恥ずかしくて言えないんだよな。
「──ね、蓮ちゃん」
「うん?」
ふと俺の隣りに立っていた聖が、小さな声で呼び掛けてくる。
まだ眠気の残る顔を上げると、俺とまっすぐに目が合った聖は軽く眉を開いて言った。
「蓮ちゃんが優しいって、僕はよぉく知ってるから。だから大丈夫だよ」
そう、太陽みたいなあったかい笑顔で聖が言ってくるから、少し眩しさすら感じる。
同時に俺の心の中を覗いたかのような言葉に、驚きも合わさって半分ほど閉じていた瞼を押し上げた。
「そりゃあ、お前とは長いから」
「もし前みたいに、落ち込んだりしたらって……知ってる? 蓮ちゃんはさ、自分が思ってるより繊細だってこと」
俺の声に被せるように、聖がやや口早にまくし立ててくる。
珍しいな、いつもなら最後まで聞いてくれるのに。
聖の態度に少しの違和感を覚えつつも、俺はふっと微笑む。
「……大丈夫」
心配性だな、本当に。
「っ……」
聖が小さく息を呑んだのが分かったけど、俺は構わずに続けた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって。繊細だけど俺は強いって、聖は知ってるだろ?」
聖と似たような言葉を唇に乗せながら、俺は放課後に会うであろう後輩の女の子に思いを馳せる。
もしこんな俺でも良いんであれば、ってまっすぐに言えたら苦労しないと思うけど、やっぱり多少の不安はある。
でも俺の性格を分かってくれるなら、相手が誰であっても、たとえ俺の全部をかけてでも、今度こそ大事にしたかった。
