「宇月くん、さっきの公式なんだけど……」
「宇月ぃ、あとで購買行こうぜー」
聖に話し掛けるぞ、って一限目の休み時間に決めてたのに、なんだか今日は一段とクラスメイトから話し掛けられるな。
悪いことじゃないけど、こうも休み時間になる度に話し掛けられるなんて思わないだろ。
聖が一人なのを見計らって席を立とうとしたら、高確率で俺を呼ぶ声が聞こえるし。
なんなら今は四限目が終わったばかりで、昼休みだ。
いつもなら真っ先に聖が俺の方を振り返って、『お昼食べよう』って誘ってくれる。
まぁこの数日、昼時に聖がいないのにはちょっと慣れたけど。
いつもはあんまり話さないクラスメイトの女子を中心に、俺が聖の所に行こうとしてる時に話し掛けてくるのは、タイミングを見計らってるんじゃないかと思ってしまう。
……もしかして神様が邪魔してんのか? 俺が聖と話をさせないようにするために?
そうだとしたら、なんで邪魔なんかするんだ。せっかく……。
「れーんやっ!」
「うっ……!」
ああでもないこうでもないって考えてると、不意に後ろからどんっと衝撃が走った。
反射的にうめき声が漏れるのはお約束で、俺は軽く眉間に力を込める。
こういう事をするのは、俺が知ってる奴だと聖しか……いや。
「どしたの、ひじりんより元気ないじゃん?」
ゆっくり声がした方を振り返ると、姫村が心配そうに眉を寄せていた。
そうだ、あいつはまだ自分の席に居るだろ。
そうじゃなくても聖は俺を避けてるから、自分からこんな事はしないのに。
俺が何も言わないのをどう思ったのか、背中にほとんど体重を掛けるようにして、姫村がわしわしと俺の頭を撫でてくる。
「体調悪かったら保健室行くー?」
……そんな、心配掛けてるのか俺は。
「ふ、っ……」
姫村に頭を撫でられてるのもだけど、いつも話す友達に心配されるほど元気がないらしい。
身体はなんともないけど、心は思ってるより無理してるのかもな。
そう思うと、意識しなくても笑いが込み上げてくる。
そもそも、あいつが俺のことを『蓮弥』なんて呼ぶのは稀だ。
よくても真面目な話をする時くらいで、それ以外はずっと『蓮ちゃん』って呼ぶんだから。
分かりきってる事なのに、無意識に聖だって思う自分がバカらしくなって、息をするように笑ってしまう。
「元気だよ。……ありがとう姫村」
せめて姫村にはこれ以上心配を掛けないように、お礼の言葉を小さく囁いた。
「え、どしたの蓮弥。僕だといつも鬱陶しそうにするのに」
「そうだっけ」
姫村が不思議そうに俺の目の前に回り込んできて、続けて口を開く。
「そーだよー、今のがひじりんだって分かったら、蓮弥ずーっとにこにこしてるよ?」
「俺、が……?」
その言葉を聞いた瞬間、ぱちぱちと何度も目を瞬かせる。
聖にああいうことをされた時、笑ってるつもりはないんだけど。
というか聖はもちろん、今まで誰もそんなこと言ってくれなかっただろ。
「ま、自分じゃわかんないよねー」
あはは、って楽しそうに笑う姫村を、どうしてか無性に問い詰めたい。
でも聖が居るからあんまり大きい声じゃ言えない……って、いない!?
よく見たら伊藤も、なんなら神尾も教室にいなかった。
静かだなとは思ってたけど、俺が姫村と話してる間に三人ともいなくなってるなんてあるか!?
三人がどこに行ったのか分からないけど、きっと昼飯を買いに購買へ行ったのかもしれない。
大丈夫、まだ近くに居るはずだ。
廊下の方を見ようとしていると、丁度いい位置に俺の耳があったのか、姫村が唇を寄せてきたのを感じる。
「──安心して、蓮弥が笑ってるって気付いてるの、ひじりん以外だと僕だけだから」
「へ、っ」
その声が場違いなくらい楽しそうだったからか、聖のことが一瞬頭から抜けた。
聖を探すために廊下を見ようとしたけど、改めて姫村の方に顔を向ける。
「えっ、と……姫村? どうしたんだ……?」
なんだろう、唇は笑ってるけど目の奥がどこか冷たく感じるというか。
顔と声が合ってないから、ちょっと姫村が別人に見える。
意味も分からず腰が引けていくのを感じて、無意識に椅子から立ち上がろうと下半身に力を込めた。
というか、聖と居る時に笑ってる自覚はないんだよな。
聖からはもちろんだけど誰からも『態度が違う』って今まで言われた事無いし、姫村の勘違いって場合もあるだろ、こればっかりは。
そこからどれくらい経ったのかな、段々何も言わずに俺を見てくる姫村にイライラしてくる。
でもそんな俺の雰囲気を感じ取ったのか、姫村はふっと柔らかく笑った。
「……なーんてね。ほんっと、面白いなぁ蓮弥は」
「え、え? ちょ、何が……!?」
面白いって、今まで言ったことは全部嘘なのか……!?
「んーん、蓮弥はなぁんにも気にしなくていいよ〜」
いや、そういうこと言われると逆に気になるんだけど。
「だから、っ……!」
せめて一言くらい文句を言いたくて口を開こうとするけど、まだ姫村の方が早かった。
「よーしよしよし、大丈夫だからねぇ」
そう言って、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
今度はさっきよりも雑で、なんならほんのちょっとだけ痛い。
何が大丈夫なのか聞きたかったけど、あんまり楽しそうに笑って撫でてくるから、姫村の気が済むまでそのまま撫でられていた。
「宇月ぃ、あとで購買行こうぜー」
聖に話し掛けるぞ、って一限目の休み時間に決めてたのに、なんだか今日は一段とクラスメイトから話し掛けられるな。
悪いことじゃないけど、こうも休み時間になる度に話し掛けられるなんて思わないだろ。
聖が一人なのを見計らって席を立とうとしたら、高確率で俺を呼ぶ声が聞こえるし。
なんなら今は四限目が終わったばかりで、昼休みだ。
いつもなら真っ先に聖が俺の方を振り返って、『お昼食べよう』って誘ってくれる。
まぁこの数日、昼時に聖がいないのにはちょっと慣れたけど。
いつもはあんまり話さないクラスメイトの女子を中心に、俺が聖の所に行こうとしてる時に話し掛けてくるのは、タイミングを見計らってるんじゃないかと思ってしまう。
……もしかして神様が邪魔してんのか? 俺が聖と話をさせないようにするために?
そうだとしたら、なんで邪魔なんかするんだ。せっかく……。
「れーんやっ!」
「うっ……!」
ああでもないこうでもないって考えてると、不意に後ろからどんっと衝撃が走った。
反射的にうめき声が漏れるのはお約束で、俺は軽く眉間に力を込める。
こういう事をするのは、俺が知ってる奴だと聖しか……いや。
「どしたの、ひじりんより元気ないじゃん?」
ゆっくり声がした方を振り返ると、姫村が心配そうに眉を寄せていた。
そうだ、あいつはまだ自分の席に居るだろ。
そうじゃなくても聖は俺を避けてるから、自分からこんな事はしないのに。
俺が何も言わないのをどう思ったのか、背中にほとんど体重を掛けるようにして、姫村がわしわしと俺の頭を撫でてくる。
「体調悪かったら保健室行くー?」
……そんな、心配掛けてるのか俺は。
「ふ、っ……」
姫村に頭を撫でられてるのもだけど、いつも話す友達に心配されるほど元気がないらしい。
身体はなんともないけど、心は思ってるより無理してるのかもな。
そう思うと、意識しなくても笑いが込み上げてくる。
そもそも、あいつが俺のことを『蓮弥』なんて呼ぶのは稀だ。
よくても真面目な話をする時くらいで、それ以外はずっと『蓮ちゃん』って呼ぶんだから。
分かりきってる事なのに、無意識に聖だって思う自分がバカらしくなって、息をするように笑ってしまう。
「元気だよ。……ありがとう姫村」
せめて姫村にはこれ以上心配を掛けないように、お礼の言葉を小さく囁いた。
「え、どしたの蓮弥。僕だといつも鬱陶しそうにするのに」
「そうだっけ」
姫村が不思議そうに俺の目の前に回り込んできて、続けて口を開く。
「そーだよー、今のがひじりんだって分かったら、蓮弥ずーっとにこにこしてるよ?」
「俺、が……?」
その言葉を聞いた瞬間、ぱちぱちと何度も目を瞬かせる。
聖にああいうことをされた時、笑ってるつもりはないんだけど。
というか聖はもちろん、今まで誰もそんなこと言ってくれなかっただろ。
「ま、自分じゃわかんないよねー」
あはは、って楽しそうに笑う姫村を、どうしてか無性に問い詰めたい。
でも聖が居るからあんまり大きい声じゃ言えない……って、いない!?
よく見たら伊藤も、なんなら神尾も教室にいなかった。
静かだなとは思ってたけど、俺が姫村と話してる間に三人ともいなくなってるなんてあるか!?
三人がどこに行ったのか分からないけど、きっと昼飯を買いに購買へ行ったのかもしれない。
大丈夫、まだ近くに居るはずだ。
廊下の方を見ようとしていると、丁度いい位置に俺の耳があったのか、姫村が唇を寄せてきたのを感じる。
「──安心して、蓮弥が笑ってるって気付いてるの、ひじりん以外だと僕だけだから」
「へ、っ」
その声が場違いなくらい楽しそうだったからか、聖のことが一瞬頭から抜けた。
聖を探すために廊下を見ようとしたけど、改めて姫村の方に顔を向ける。
「えっ、と……姫村? どうしたんだ……?」
なんだろう、唇は笑ってるけど目の奥がどこか冷たく感じるというか。
顔と声が合ってないから、ちょっと姫村が別人に見える。
意味も分からず腰が引けていくのを感じて、無意識に椅子から立ち上がろうと下半身に力を込めた。
というか、聖と居る時に笑ってる自覚はないんだよな。
聖からはもちろんだけど誰からも『態度が違う』って今まで言われた事無いし、姫村の勘違いって場合もあるだろ、こればっかりは。
そこからどれくらい経ったのかな、段々何も言わずに俺を見てくる姫村にイライラしてくる。
でもそんな俺の雰囲気を感じ取ったのか、姫村はふっと柔らかく笑った。
「……なーんてね。ほんっと、面白いなぁ蓮弥は」
「え、え? ちょ、何が……!?」
面白いって、今まで言ったことは全部嘘なのか……!?
「んーん、蓮弥はなぁんにも気にしなくていいよ〜」
いや、そういうこと言われると逆に気になるんだけど。
「だから、っ……!」
せめて一言くらい文句を言いたくて口を開こうとするけど、まだ姫村の方が早かった。
「よーしよしよし、大丈夫だからねぇ」
そう言って、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
今度はさっきよりも雑で、なんならほんのちょっとだけ痛い。
何が大丈夫なのか聞きたかったけど、あんまり楽しそうに笑って撫でてくるから、姫村の気が済むまでそのまま撫でられていた。
