彼の前で涙を見せたのは、あの日が初めてだった。
泣き崩れるこの背中はいつものそれとは違い、さぞ弱々しく見えた事だろう。閉じた瞳からは、抑えきれない涙がぽたりぽたりと落ちて、膝に置いた手の甲から、ズボンや床に伝い落ちていく。
この姿を見て、彼は一体どう思っただろう。
何もかもが怖くなって、思わずその手を突き放したのに、それでも、その小さな手が悲しみを奪おうとするかの如く懸命に背中を擦るものだから、なんだか許されたような気がして、また涙が溢れていた。
思い返せば、いつだってその小さな手に支えられていたような気がする。けれど、それを認める事は、これからもこの先も、きっと出来やしないのだろう。


