「ここから東に半日ぐらいいくとさ、それほど大きくもない岩山があってね」
アルトはそう話しながら、暖炉の前で温まる。
礼拝堂の大きな暖炉の前には、一緒に狩りに出かけた獣人族たちもいた。
「風が強くなってさ、吹雪くとマズいと思って岩山の方に向かったんだ。風避けになりそうな場所を探して。そしたらバサラが、うめき声聞こえるっていうから」
「俺たちの聴覚は、人間より遠くの音も捉えることができる。もちろん、普段はそう変わらないが」
「まぁスキルみたいなもんだよ。集中するとよく聞こえるっていう」
ふぅん。まぁ普段から聞こえすぎるのも、何かにつけて音が邪魔になるだろうからな。
モンスターの声かと思って警戒していたけど、それがちゃんとした言葉になっているのがわかって声のする方へいったそうだ。
「洞窟というより、洞穴かな。十メートルほどで行き止まりの穴があって、そこにいたんだ」
「怪我もそうだが、汚染された魔素のせいで衰弱していた」
「でもさっきはしっかりとした足取りに見えたけど」
少なくとも、大人のドワーフたちは自力で歩いていた。
「ドワーフの維持って奴なんじゃないかな。まぁでも、ニーナがくれたコレのおかげかな」
と、アルトはニーナから貰った石を取りだす。ペンダントにしたヤツだ。
『ニーナ、お役に立てたですの?』
「立ってる立ってる。中が行き止まりの洞穴だったのもあってさ、俺たちが中に入ると、中の空気が浄化されていってさ」
「我々が汚染を堰き止める壁のようになったのです、ニーナ殿」
狭い空間なら、そんな風な効果にもなるのか。
そうして空気が浄化されたことで、大人のドワーフたちは一日かけて歩けるまでには回復したらしい。
ただ、子供たちのほうが……。
「アリューケならレイアもいるし、浄化を頼めるだろ? それに食料がヤバかったし」
「すまぬ……お前さんらの飯を分けてもろうて」
「あ、おっちゃん。そんな気にするなって。町まで半日の距離だったんだ。食料がなくても平気なんだよ」
ドワーフのひとりがやってきて、アルトたちに頭を下げた。
他の獣人族もみんなにこやかに「気にするな」とか「大丈夫さ」と言っている。
「子供たちの様子はどうですか?」
「うむ。神聖魔法が使える高位の司祭がおって助かった。息苦しそうにしておった子らの呼吸も、今は落ち着いた。お前さんらのおかげだ。あそこで出くわさなんだら、わしらはずっと、あの穴の中におっただろうし」
そうなれば、汚染された魔素を吸い続けて命を落としたかもしれない。
「自己紹介をせんとな。わしらは東の聖法国シュットランから来たドワーフ族だ。他にも仲間はおったが、土地神様がいらっしゃる土地を探してあちこちに散らばっておる」
「シュットランから?」
この大陸に二つしかない国の、もうひとつのほうだな。
そのもうひとつがゼザーレで、アルトとエリサの故郷っていう。水戸はまだそこにいるんだっけ。
位置関係でいうと、アリューケ――古代魔法王朝の南西がゼザーレで、南東がシュットランになる。
「シュットランは、大神の加護で浄化されているんでしょう? なんでわざわざ、汚染地帯に」
「大神が倒れて何百年経ったと思う。しかも神殿の連中は、私腹を肥やすことばかり考えておる。神の加護も長続きせんわ」
「つまり信仰心を失くせば、大神さまが最後の力を振り絞って与えてくれた浄化も、薄れてしまうってことなのよ。志導くん」
「レイア。疲れた顔をしているよ。大丈夫か?」
すぐ立ち上がって彼女に椅子を譲る。浄化の魔法をたくさん使ったからだろう。
「ありがとう、志導くん。私も、それからドワーフ族の人たちも大丈夫。ドワーフ族は幼い頃に、おじいちゃんがまだ生きてた時に一度会ったことあるけど、ほんっと、関心するほど頑丈なんだから」
「感謝する、娘よ。そのドワーフは今?」
「どこ、かしら。冒険者をやってた人だけど、引退して故郷へ戻るって。最後に挨拶に来てくれたの」
へぇ。きっとレイアのおじいさんの冒険者仲間だったのかな。
そういえばレイアのおじいさんって、どんな冒険者だったんだろう。
獣化の呪いを解く方法が、古代魔法王朝の地下迷宮にあるだろうって話したのはおじいさんだってのは聞いたけど。
「ほぉ。冒険者をやっておったドワーフはそう多くはない。いや、むしろ今では誰もおらんといった方がいいか」
「何故なんですか?」
「それどころではない、と言ったところか」
お金のため、好奇心のために冒険者をやるドワーフもいた。
が。汚染が進み、それと同時にモンスターの数も増え狂暴化もしている。
冒険者に出される依頼は、大半が人間の町や村、その周辺のモンスターを狩る内容ばかり。多種族が暮らす里が襲われても、その依頼は無視されることが多い。
報酬抜きにして救助に来てくれる冒険者もいるが、それでは間に合わないことも……。
だから。
ドワーフ族は冒険者を止めて故郷へと帰る。
家族と、友人を守るために。
その話を、俺とレイア、アルトはただ黙って聞いていた。
「別にお前さんらを責めてはおらん。むしろ感謝しておるよ。わしらはわかっておる。良い人間がいることをな」
そう言って、彼はアルトの肩を叩いた。
その言葉が救いのような気がした。
「おぉ、そうじゃ。わしの名前を言っておらんな。わしはディノ。デュノの弟、ディノじゃ。はっはっは。まぁデュノと言っても、お前さんらは知らんじゃろうがな」
うん、ごめん。知らない。
そう思っていたけど。
「私……知ってるわ……おじいちゃんの……おじいちゃん親友だって。最後に挨拶に来てくれたドワーフのおじさんだもの」
「え……さっき言ってた!?」
そう尋ねるとレイアは頷き、そしてディノは目を丸くして驚いた。
そして。
「お、お前さんまさか、英雄リオールの孫娘じゃったか!?」
と叫んだ。
え……レイアの……風見さんのこの世界でのおじいちゃんが、英雄!?
アルトはそう話しながら、暖炉の前で温まる。
礼拝堂の大きな暖炉の前には、一緒に狩りに出かけた獣人族たちもいた。
「風が強くなってさ、吹雪くとマズいと思って岩山の方に向かったんだ。風避けになりそうな場所を探して。そしたらバサラが、うめき声聞こえるっていうから」
「俺たちの聴覚は、人間より遠くの音も捉えることができる。もちろん、普段はそう変わらないが」
「まぁスキルみたいなもんだよ。集中するとよく聞こえるっていう」
ふぅん。まぁ普段から聞こえすぎるのも、何かにつけて音が邪魔になるだろうからな。
モンスターの声かと思って警戒していたけど、それがちゃんとした言葉になっているのがわかって声のする方へいったそうだ。
「洞窟というより、洞穴かな。十メートルほどで行き止まりの穴があって、そこにいたんだ」
「怪我もそうだが、汚染された魔素のせいで衰弱していた」
「でもさっきはしっかりとした足取りに見えたけど」
少なくとも、大人のドワーフたちは自力で歩いていた。
「ドワーフの維持って奴なんじゃないかな。まぁでも、ニーナがくれたコレのおかげかな」
と、アルトはニーナから貰った石を取りだす。ペンダントにしたヤツだ。
『ニーナ、お役に立てたですの?』
「立ってる立ってる。中が行き止まりの洞穴だったのもあってさ、俺たちが中に入ると、中の空気が浄化されていってさ」
「我々が汚染を堰き止める壁のようになったのです、ニーナ殿」
狭い空間なら、そんな風な効果にもなるのか。
そうして空気が浄化されたことで、大人のドワーフたちは一日かけて歩けるまでには回復したらしい。
ただ、子供たちのほうが……。
「アリューケならレイアもいるし、浄化を頼めるだろ? それに食料がヤバかったし」
「すまぬ……お前さんらの飯を分けてもろうて」
「あ、おっちゃん。そんな気にするなって。町まで半日の距離だったんだ。食料がなくても平気なんだよ」
ドワーフのひとりがやってきて、アルトたちに頭を下げた。
他の獣人族もみんなにこやかに「気にするな」とか「大丈夫さ」と言っている。
「子供たちの様子はどうですか?」
「うむ。神聖魔法が使える高位の司祭がおって助かった。息苦しそうにしておった子らの呼吸も、今は落ち着いた。お前さんらのおかげだ。あそこで出くわさなんだら、わしらはずっと、あの穴の中におっただろうし」
そうなれば、汚染された魔素を吸い続けて命を落としたかもしれない。
「自己紹介をせんとな。わしらは東の聖法国シュットランから来たドワーフ族だ。他にも仲間はおったが、土地神様がいらっしゃる土地を探してあちこちに散らばっておる」
「シュットランから?」
この大陸に二つしかない国の、もうひとつのほうだな。
そのもうひとつがゼザーレで、アルトとエリサの故郷っていう。水戸はまだそこにいるんだっけ。
位置関係でいうと、アリューケ――古代魔法王朝の南西がゼザーレで、南東がシュットランになる。
「シュットランは、大神の加護で浄化されているんでしょう? なんでわざわざ、汚染地帯に」
「大神が倒れて何百年経ったと思う。しかも神殿の連中は、私腹を肥やすことばかり考えておる。神の加護も長続きせんわ」
「つまり信仰心を失くせば、大神さまが最後の力を振り絞って与えてくれた浄化も、薄れてしまうってことなのよ。志導くん」
「レイア。疲れた顔をしているよ。大丈夫か?」
すぐ立ち上がって彼女に椅子を譲る。浄化の魔法をたくさん使ったからだろう。
「ありがとう、志導くん。私も、それからドワーフ族の人たちも大丈夫。ドワーフ族は幼い頃に、おじいちゃんがまだ生きてた時に一度会ったことあるけど、ほんっと、関心するほど頑丈なんだから」
「感謝する、娘よ。そのドワーフは今?」
「どこ、かしら。冒険者をやってた人だけど、引退して故郷へ戻るって。最後に挨拶に来てくれたの」
へぇ。きっとレイアのおじいさんの冒険者仲間だったのかな。
そういえばレイアのおじいさんって、どんな冒険者だったんだろう。
獣化の呪いを解く方法が、古代魔法王朝の地下迷宮にあるだろうって話したのはおじいさんだってのは聞いたけど。
「ほぉ。冒険者をやっておったドワーフはそう多くはない。いや、むしろ今では誰もおらんといった方がいいか」
「何故なんですか?」
「それどころではない、と言ったところか」
お金のため、好奇心のために冒険者をやるドワーフもいた。
が。汚染が進み、それと同時にモンスターの数も増え狂暴化もしている。
冒険者に出される依頼は、大半が人間の町や村、その周辺のモンスターを狩る内容ばかり。多種族が暮らす里が襲われても、その依頼は無視されることが多い。
報酬抜きにして救助に来てくれる冒険者もいるが、それでは間に合わないことも……。
だから。
ドワーフ族は冒険者を止めて故郷へと帰る。
家族と、友人を守るために。
その話を、俺とレイア、アルトはただ黙って聞いていた。
「別にお前さんらを責めてはおらん。むしろ感謝しておるよ。わしらはわかっておる。良い人間がいることをな」
そう言って、彼はアルトの肩を叩いた。
その言葉が救いのような気がした。
「おぉ、そうじゃ。わしの名前を言っておらんな。わしはディノ。デュノの弟、ディノじゃ。はっはっは。まぁデュノと言っても、お前さんらは知らんじゃろうがな」
うん、ごめん。知らない。
そう思っていたけど。
「私……知ってるわ……おじいちゃんの……おじいちゃん親友だって。最後に挨拶に来てくれたドワーフのおじさんだもの」
「え……さっき言ってた!?」
そう尋ねるとレイアは頷き、そしてディノは目を丸くして驚いた。
そして。
「お、お前さんまさか、英雄リオールの孫娘じゃったか!?」
と叫んだ。
え……レイアの……風見さんのこの世界でのおじいちゃんが、英雄!?



