『主サマ。主サマ』
「ひああぁぁっ!?」
バサァと毛布が引っぺがされ、早朝の冷気が一気に襲ってくる。
『朝デス』
「だからって毛布をいきなり剥ぎ取るなっ。お前と違って俺は寒さを感じるんだぞ、ゴー助!」
『緊急事態デス』
「それを早く言え!」
飛び起きて慌てて服を着替える。
アルトは一昨日から数人の獣人族を連れて狩りに出かけて今はいない。
「それで、緊急事態って?」
『ハイ、ソレハ』
『志導お兄ちゃん、大変なのぉぉぉ』
おわっ。今度はニーナか!?
普段のようにふわぁっとではなく、ポンッと出てきたニーナが、俺に抱き着くようにして宙から落ちてきた。それをキャッチしてやり、床に下ろしてやる。
今度はなんなんだ?
『志導お兄ちゃん、大変です、の』
『主、緊急事態』
「ンアァーッ。シドー、シドォォォ」
「ユタもかよ!? ああぁぁ、もう!! ひとりずつ話すんだ、ひとりずつ!」
そう叫ぶと、今度は『ニーナが先!』『ワタシガ早カッタデス』「シドーシドー」と、これじゃ埒が明かない。
するとそこへ。
「志導くん。魔石で眠っている土地神様が目を覚ましたわ」
と、開けっ放しにされた扉の向こうでレイアが言った。
途端にひとりと一頭と一体が抗議の声を上げる。
『ニーナが言おうとしたのにぃ』
『ワタシガ報告スルハズデシタ』
「ンアァァーッ」
「え? え? あ、の……ごめん、なさい?」
なんだ。みんな同じことを伝えに来たの……。
「えええぇぇ!? と、土地神様が起きたのか!」
「え、えぇ。まだ魔石からは離れられないみたいなんだけどね」
『今は守る土地を決めていないから魔石の側にしかいられないですの』
『土地神ガ守ル土地ヲ決定スレバソノ範囲内ハ自由ニ動ケルトウニナルハズデス』
「ン……ンアッ。だぞ!」
だぞってユタ。お前何も言ってないだろう。ニーナとゴー助は何か競い合ってるようだし。
とにかく、目を覚ました土地神様に会おう。
礼拝堂の奥。元からあったニーナ像の足元に、獣人の里から来た土地神様の魔石を置いてある。
そこには獣人族たちが集まっていて、土地神様の姿は見えない。
「あっ、志導だ。ほら、みんな。道を開けて開けて。志導、おっはよう!」
「やぁパティ、みんなもおはよう」
「おはよう、志導くん」
「じゃああたしらは食事の支度をしようかねぇ」
何人かの女性たちがその場を離れる。
すると、そこにできた隙間から、半透明の幼い少年が見えた。
やっぱり土地神様って、子供の姿なのか。
七歳ぐらいの、大人しそうな雰囲気の男の子だ。
あと、ニーナと同じで、全体的に緑色。
魔石の前でちょこんと座る少年土地神様が顔を上げ、俺を見た。
ふわりとした笑みは、どことなくニーナに似ている。兄妹だと言われても違和感がないほどに。
「おはようございます、土地神様」
『おはようございます。あなたが志導さんですね』
おっと。こちらは見た目に反して、落ち着きのある口調だな。
「そうです――え?」
突然、景色がかわった。緑豊かな、そして暖かい日差しが差し込む森のような景色に。
「ど、どうなっているの?」
「レイア?」
「ふわぁ……眠いよぉ」
「エリちゃんまで? これって……私たちが異世界人、だから?」
アルトはここにいないから仕方ないとして、確かにこの三人の共通点は、元地球人だ。
『正確には、異世界人は志導さんだけですよ。あなたがた二人は転生者なので、厳密にはこの世界の住人ですし』
「あ、そう、ね」
「うぅぅ、眠いよぉ」
そう言うとエリサなその場に蹲った。うん、これは寝たな。
その様子を、土地神様はにこにこして見ている。
「あの、俺たちをここへ連れてきた理由はなんですか?」
『うん。君たちにお願いがったんだ。異世界人、そして元異世界人の君たちに』
「お願い、ですか?」
『うん。特に君。君の力は、この世界の再生に欠かせないものだから』
俺の力……。たぶん解析眼と万能クラフトのことを言っているのだろう。
『それと、そっちのお姉さんも』
「え、私ですか!? 志導君はわかるけど、私なんて何も」
『精霊を召喚できるでしょ? それは世界の創造主様から贈られたスキル。どんな精霊だって、呼び出すことができるはずさ。たとえ作られた精霊だとしても』
作られた精霊?
『やっぱり、知らなかったんだね。ニーナの反応からして、そうだと思っていたんだ』
「え、ニーナがどうしたんですか?」
『たぶん、魔王に町を破壊されたときに何かしらの損傷があったんだと思う。それで記憶が、メモリが破損して、自己修復の過程で一部の知識や記憶が、人が持つ僕らへのイメージに書き換わったんだろうね』
損傷、メモリの破損、書き換わった……。
まるで機械的な何かであるような、そんな……そんな言い方……。
『僕ら土地神はね、遥か昔、人間の賢者たちが創り出した人工精霊なんだ』
「せい、れい……」
『魔導ゴーレムと似たようなものさ。でも僕らは、世界がこうなることを予見した聖女の助言で創られた存在なんだよ。世界を再生させるためのね』
その予見には「魔王が現れる」まではなかったようで、まさに今、この汚染された世界だけが見えたのだという。
『君たちにお願いしたいのは、力を合わせて魔法王朝を復活させること。そして各地に散らばる土地神を集めること。もちろん、みんなを集めればその土地で暮らしていた人たちが死に絶えてしまう。だから』
だから、古代魔法王朝を守る五つの町、ここの魔導装置を修復して稼働させる。
町の内部の空気と土地が浄化されれば、外部の土地神を引っ越しさせ、ついでにそこで暮らす人たちも受け入れられる。
『各町の土地神も起こしてね』
「え、でも……アリューケ以外の町の土地神様は」
『言ったでしょ? 僕らは精霊なんだ。人工的に創られたね。力を失っても消滅したわけじゃない。まだギリギリ存在が残っているんだよ。誰かが覚えていてくれる限り。そして僕らが覚えている。ニーナだってそうさ』
ニーナが他の町の土地神のことを思って、寂しくなる気持ちもまた、人工精霊である土地神をこの世界に繋ぎとめている。
そう、目の前の少年は言った。
『だからお姉さん。君が土地神を、精霊を召喚、して欲しいんだよ』
「わ、私……私が土地神様を!?」
おぉ。レイアが土地神様の契約者になるのか。
なんか……想像しただけで……。
幼い子供に囲まれたレイア……保育園の先生?
「ひああぁぁっ!?」
バサァと毛布が引っぺがされ、早朝の冷気が一気に襲ってくる。
『朝デス』
「だからって毛布をいきなり剥ぎ取るなっ。お前と違って俺は寒さを感じるんだぞ、ゴー助!」
『緊急事態デス』
「それを早く言え!」
飛び起きて慌てて服を着替える。
アルトは一昨日から数人の獣人族を連れて狩りに出かけて今はいない。
「それで、緊急事態って?」
『ハイ、ソレハ』
『志導お兄ちゃん、大変なのぉぉぉ』
おわっ。今度はニーナか!?
普段のようにふわぁっとではなく、ポンッと出てきたニーナが、俺に抱き着くようにして宙から落ちてきた。それをキャッチしてやり、床に下ろしてやる。
今度はなんなんだ?
『志導お兄ちゃん、大変です、の』
『主、緊急事態』
「ンアァーッ。シドー、シドォォォ」
「ユタもかよ!? ああぁぁ、もう!! ひとりずつ話すんだ、ひとりずつ!」
そう叫ぶと、今度は『ニーナが先!』『ワタシガ早カッタデス』「シドーシドー」と、これじゃ埒が明かない。
するとそこへ。
「志導くん。魔石で眠っている土地神様が目を覚ましたわ」
と、開けっ放しにされた扉の向こうでレイアが言った。
途端にひとりと一頭と一体が抗議の声を上げる。
『ニーナが言おうとしたのにぃ』
『ワタシガ報告スルハズデシタ』
「ンアァァーッ」
「え? え? あ、の……ごめん、なさい?」
なんだ。みんな同じことを伝えに来たの……。
「えええぇぇ!? と、土地神様が起きたのか!」
「え、えぇ。まだ魔石からは離れられないみたいなんだけどね」
『今は守る土地を決めていないから魔石の側にしかいられないですの』
『土地神ガ守ル土地ヲ決定スレバソノ範囲内ハ自由ニ動ケルトウニナルハズデス』
「ン……ンアッ。だぞ!」
だぞってユタ。お前何も言ってないだろう。ニーナとゴー助は何か競い合ってるようだし。
とにかく、目を覚ました土地神様に会おう。
礼拝堂の奥。元からあったニーナ像の足元に、獣人の里から来た土地神様の魔石を置いてある。
そこには獣人族たちが集まっていて、土地神様の姿は見えない。
「あっ、志導だ。ほら、みんな。道を開けて開けて。志導、おっはよう!」
「やぁパティ、みんなもおはよう」
「おはよう、志導くん」
「じゃああたしらは食事の支度をしようかねぇ」
何人かの女性たちがその場を離れる。
すると、そこにできた隙間から、半透明の幼い少年が見えた。
やっぱり土地神様って、子供の姿なのか。
七歳ぐらいの、大人しそうな雰囲気の男の子だ。
あと、ニーナと同じで、全体的に緑色。
魔石の前でちょこんと座る少年土地神様が顔を上げ、俺を見た。
ふわりとした笑みは、どことなくニーナに似ている。兄妹だと言われても違和感がないほどに。
「おはようございます、土地神様」
『おはようございます。あなたが志導さんですね』
おっと。こちらは見た目に反して、落ち着きのある口調だな。
「そうです――え?」
突然、景色がかわった。緑豊かな、そして暖かい日差しが差し込む森のような景色に。
「ど、どうなっているの?」
「レイア?」
「ふわぁ……眠いよぉ」
「エリちゃんまで? これって……私たちが異世界人、だから?」
アルトはここにいないから仕方ないとして、確かにこの三人の共通点は、元地球人だ。
『正確には、異世界人は志導さんだけですよ。あなたがた二人は転生者なので、厳密にはこの世界の住人ですし』
「あ、そう、ね」
「うぅぅ、眠いよぉ」
そう言うとエリサなその場に蹲った。うん、これは寝たな。
その様子を、土地神様はにこにこして見ている。
「あの、俺たちをここへ連れてきた理由はなんですか?」
『うん。君たちにお願いがったんだ。異世界人、そして元異世界人の君たちに』
「お願い、ですか?」
『うん。特に君。君の力は、この世界の再生に欠かせないものだから』
俺の力……。たぶん解析眼と万能クラフトのことを言っているのだろう。
『それと、そっちのお姉さんも』
「え、私ですか!? 志導君はわかるけど、私なんて何も」
『精霊を召喚できるでしょ? それは世界の創造主様から贈られたスキル。どんな精霊だって、呼び出すことができるはずさ。たとえ作られた精霊だとしても』
作られた精霊?
『やっぱり、知らなかったんだね。ニーナの反応からして、そうだと思っていたんだ』
「え、ニーナがどうしたんですか?」
『たぶん、魔王に町を破壊されたときに何かしらの損傷があったんだと思う。それで記憶が、メモリが破損して、自己修復の過程で一部の知識や記憶が、人が持つ僕らへのイメージに書き換わったんだろうね』
損傷、メモリの破損、書き換わった……。
まるで機械的な何かであるような、そんな……そんな言い方……。
『僕ら土地神はね、遥か昔、人間の賢者たちが創り出した人工精霊なんだ』
「せい、れい……」
『魔導ゴーレムと似たようなものさ。でも僕らは、世界がこうなることを予見した聖女の助言で創られた存在なんだよ。世界を再生させるためのね』
その予見には「魔王が現れる」まではなかったようで、まさに今、この汚染された世界だけが見えたのだという。
『君たちにお願いしたいのは、力を合わせて魔法王朝を復活させること。そして各地に散らばる土地神を集めること。もちろん、みんなを集めればその土地で暮らしていた人たちが死に絶えてしまう。だから』
だから、古代魔法王朝を守る五つの町、ここの魔導装置を修復して稼働させる。
町の内部の空気と土地が浄化されれば、外部の土地神を引っ越しさせ、ついでにそこで暮らす人たちも受け入れられる。
『各町の土地神も起こしてね』
「え、でも……アリューケ以外の町の土地神様は」
『言ったでしょ? 僕らは精霊なんだ。人工的に創られたね。力を失っても消滅したわけじゃない。まだギリギリ存在が残っているんだよ。誰かが覚えていてくれる限り。そして僕らが覚えている。ニーナだってそうさ』
ニーナが他の町の土地神のことを思って、寂しくなる気持ちもまた、人工精霊である土地神をこの世界に繋ぎとめている。
そう、目の前の少年は言った。
『だからお姉さん。君が土地神を、精霊を召喚、して欲しいんだよ』
「わ、私……私が土地神様を!?」
おぉ。レイアが土地神様の契約者になるのか。
なんか……想像しただけで……。
幼い子供に囲まれたレイア……保育園の先生?



