「うぅ~……今朝は冷え込むなと思ってたら、とうとうかぁ」
アルトたちが獣人族の里へと向け出発して、もうすぐ一ヵ月か。
彼らが出発して一週間後ぐらいからチラホラ雪が降るようにはなっていたが、降っては溶けの繰り返し。
それが今朝、ついに積もりだした。
「真っ白になったわねぇ。きゃっ、冷たい」
「肉球がしもやけになるぞ、レイア」
「ふにゃ~」
「積雪五センチぐらいか……これが前世だと、交通機関が麻痺してとんでもない状況になってたな」
普段から積もるような地方じゃなかったし、二、三センチでも大混乱だったからなぁ。
『志導お兄ちゃんたち、住んでた所、雪、あんまり降らなかったですか?』
「あ、おはようニーナ。まぁね、降っても積もらない程度だったよ」
「数年に一度ぐらいは少しだけ積もってたけど。そういう時って大変だったものね。バスは来ないし電車は止まるし、事故ってる車はたくさんだし」
「はは、そうそう。なんか懐かしいなぁ」
俺がこの世界に転移してきて数ヵ月。彼女は十七年。
懐かしさの度合いで言えば、彼女の足元にも及ばないはず。
それでも――。
辺り一面、真っ白になったこの世界を見渡して思う。
もう二度と地球には戻れない。戻りたいとも思わないが、改めてそれを実感すると、前世のことが何もかもが懐かしく思えた。もちろん、嫌な記憶の方が多いけれど。
雪の上に踏み出せないでいるレイアを抱え上げる。
まだどこにも足跡がついていない雪上に、一歩を踏み出した。
「へへ。一番乗り」
「あ、ずるい志導くん。私が一番乗りしようと思ったのに」
そう言ってレイアが俺の肩からぴょんっと飛び降りた。
「にゃっ」
短い悲鳴を上げたレイアは、足はもちろんのこと、お腹まで雪にずっぽり沈んでいる。
「はは。こりゃ午後にはレイアがすっぽり埋まるほどの積雪になるかもな」
「つめたぁい……もう日中は教会から出ないわぁ」
そう言ってレイアは教会の中へと戻っていった。
俺もそうしたいけど、まだ住居がすべて完成したわけではない。
まぁぶっちゃけると、何軒必要がわからないから、材料があるだけ建ててしまおうと思っているだけ。
「志導ぉ~。おっはよ~」
「おはよう、パティ。新居の方がどうだ? 雪、入り込んだりしてないか?」
「んー、わっかんない。後で見ておくね。あ、ニーナちゃん、おはよ~」
『おはよう、なの』
兄のバサラが戻ってくるまでは、パティは他の子たちと一緒に集合住宅の方で寝泊まりしている。
パティは子供たちの中では年長なので、他の子たちも安心するからだ。
その他の子たちも、続々と教会の方へとやって来る。
「おはようございまーす。ニーナもおはよう」
『おはようなの』
「寒いねぇ、ニーナ」
『中は暖かいですの』
みんな必ず、ニーナに話しかけてくれる。
挨拶だけじゃない。町を探索する子供たちは、必ずニーナを一緒に連れて行ってくれた。
この町で暮らす、大先輩だからだ。
ついでに、魔導ゴーレムが落ちてないかも見てもらっている。
見える範囲では見つかっていない。やっぱり瓦礫の下敷きかぁ。
「教会の周辺はすっかり綺麗になったけど、他はまだまだ瓦礫だらけだしな」
「ん? なんのことさ、志導」
「魔導ゴーレムのことさ、パティ」
「あぁ、志導がいってたヤツだね。どこで壊れてんだろうねぇ。うぅ、さむ」
「中へ入ろう。朝食の用意しないとな」
今はまだ、ここに集まって食事をしている。
子供たちだけじゃ食事の用意をできないし、大勢の方が賑やかでいい。
教会の裏から外へ出て、雪の中を井戸まで歩く。
凍ってないといいなと思いつつ投げ入れたバケツは、ぽちゃんと音を立てていた。
よかった。凍ってなくて。
それにしても、寒い……。防寒着、何か考えないとなぁ。
水を汲んで急いで中へと戻る。
鍋でお湯を沸かし、細かく切った野菜を煮込んで塩コショウで味付け。包丁で細かく叩いてひき肉も入っているから、味が染み出て美味くなる。
「サツマイモも焼けたよ~」
「お、サンキューな、パティ。レイア、エリサ起こしてきてくれよ」
「は~い。誰か一緒にお願~い」
「お手伝いする~」
エリサは朝に弱かった。とにかくなかなか起きてこない。
レイアが肉球でどんなに顔を踏みつけても起きない。だから子供たちが手伝い、騒ぎ立ててやっと起きてくる状態だ。
子供たちが皿をテーブルに並べ、俺が鍋を持って注いでいく。
みんなの分を用意しえたところで――。
「……おは」
エリサが起きてきた。
「ご苦労さん。さ、食事に――」
『戻ってきたの!』
手を合わせようとした瞬間、お誕生日席に座るニーナが立ち上がった。
その瞬間、子供たちが一斉に外へと飛び出していく。
「お、おい。外は雪だらけだぞっ」
俺も子供たちの後を追って外へと出た。いないのはまだ寝ぼけているエリサだけだ。
レイアは俺の肩に乗せ、降り積もる雪の中を目を凝らして見つめた。
白い雪の向こうに、うっすら影が見え――たかと思ったら、もの凄い勢いで近づいてきた!?
反射的に身構える。
まさか鈴木たちか!?
「ンアァーッ!」
こ、この声は、
「ユタ!?」
名前を呼ぶよりも先に、真っ白な雪の向こうからユタが駆けてきた。
ピョンっと跳ねたユタが、俺の懐へと飛び込んでくる。
うわぁ、冷たくなってるじゃないか。ユタドラゴンって、寒さに弱いのか?
「お疲れ。寒かったろ」
「ア、グ、アググ、アグ」
はは、めちゃくちゃ寒そうだ。
「おーい。戻ったぞぉ~」
「アルトの声だ。おーい」
ユタが駆けてきた方角に向かって手を振る。
すると、さっきまで降っていた雪が止んだ。
「ただいま~」
「おぅ、帰ぇったぜ」
「そっちは大丈夫だった?」
アルト、アッパーおじさん、ユラの順に声がかけられる。
その後ろからバサラたちの姿も見えた。
出発時にはいなかった人の姿もある。
多くはない。だけど救えた人がいたってことだ。
「おかえり、みんな」
アルトたちが獣人族の里へと向け出発して、もうすぐ一ヵ月か。
彼らが出発して一週間後ぐらいからチラホラ雪が降るようにはなっていたが、降っては溶けの繰り返し。
それが今朝、ついに積もりだした。
「真っ白になったわねぇ。きゃっ、冷たい」
「肉球がしもやけになるぞ、レイア」
「ふにゃ~」
「積雪五センチぐらいか……これが前世だと、交通機関が麻痺してとんでもない状況になってたな」
普段から積もるような地方じゃなかったし、二、三センチでも大混乱だったからなぁ。
『志導お兄ちゃんたち、住んでた所、雪、あんまり降らなかったですか?』
「あ、おはようニーナ。まぁね、降っても積もらない程度だったよ」
「数年に一度ぐらいは少しだけ積もってたけど。そういう時って大変だったものね。バスは来ないし電車は止まるし、事故ってる車はたくさんだし」
「はは、そうそう。なんか懐かしいなぁ」
俺がこの世界に転移してきて数ヵ月。彼女は十七年。
懐かしさの度合いで言えば、彼女の足元にも及ばないはず。
それでも――。
辺り一面、真っ白になったこの世界を見渡して思う。
もう二度と地球には戻れない。戻りたいとも思わないが、改めてそれを実感すると、前世のことが何もかもが懐かしく思えた。もちろん、嫌な記憶の方が多いけれど。
雪の上に踏み出せないでいるレイアを抱え上げる。
まだどこにも足跡がついていない雪上に、一歩を踏み出した。
「へへ。一番乗り」
「あ、ずるい志導くん。私が一番乗りしようと思ったのに」
そう言ってレイアが俺の肩からぴょんっと飛び降りた。
「にゃっ」
短い悲鳴を上げたレイアは、足はもちろんのこと、お腹まで雪にずっぽり沈んでいる。
「はは。こりゃ午後にはレイアがすっぽり埋まるほどの積雪になるかもな」
「つめたぁい……もう日中は教会から出ないわぁ」
そう言ってレイアは教会の中へと戻っていった。
俺もそうしたいけど、まだ住居がすべて完成したわけではない。
まぁぶっちゃけると、何軒必要がわからないから、材料があるだけ建ててしまおうと思っているだけ。
「志導ぉ~。おっはよ~」
「おはよう、パティ。新居の方がどうだ? 雪、入り込んだりしてないか?」
「んー、わっかんない。後で見ておくね。あ、ニーナちゃん、おはよ~」
『おはよう、なの』
兄のバサラが戻ってくるまでは、パティは他の子たちと一緒に集合住宅の方で寝泊まりしている。
パティは子供たちの中では年長なので、他の子たちも安心するからだ。
その他の子たちも、続々と教会の方へとやって来る。
「おはようございまーす。ニーナもおはよう」
『おはようなの』
「寒いねぇ、ニーナ」
『中は暖かいですの』
みんな必ず、ニーナに話しかけてくれる。
挨拶だけじゃない。町を探索する子供たちは、必ずニーナを一緒に連れて行ってくれた。
この町で暮らす、大先輩だからだ。
ついでに、魔導ゴーレムが落ちてないかも見てもらっている。
見える範囲では見つかっていない。やっぱり瓦礫の下敷きかぁ。
「教会の周辺はすっかり綺麗になったけど、他はまだまだ瓦礫だらけだしな」
「ん? なんのことさ、志導」
「魔導ゴーレムのことさ、パティ」
「あぁ、志導がいってたヤツだね。どこで壊れてんだろうねぇ。うぅ、さむ」
「中へ入ろう。朝食の用意しないとな」
今はまだ、ここに集まって食事をしている。
子供たちだけじゃ食事の用意をできないし、大勢の方が賑やかでいい。
教会の裏から外へ出て、雪の中を井戸まで歩く。
凍ってないといいなと思いつつ投げ入れたバケツは、ぽちゃんと音を立てていた。
よかった。凍ってなくて。
それにしても、寒い……。防寒着、何か考えないとなぁ。
水を汲んで急いで中へと戻る。
鍋でお湯を沸かし、細かく切った野菜を煮込んで塩コショウで味付け。包丁で細かく叩いてひき肉も入っているから、味が染み出て美味くなる。
「サツマイモも焼けたよ~」
「お、サンキューな、パティ。レイア、エリサ起こしてきてくれよ」
「は~い。誰か一緒にお願~い」
「お手伝いする~」
エリサは朝に弱かった。とにかくなかなか起きてこない。
レイアが肉球でどんなに顔を踏みつけても起きない。だから子供たちが手伝い、騒ぎ立ててやっと起きてくる状態だ。
子供たちが皿をテーブルに並べ、俺が鍋を持って注いでいく。
みんなの分を用意しえたところで――。
「……おは」
エリサが起きてきた。
「ご苦労さん。さ、食事に――」
『戻ってきたの!』
手を合わせようとした瞬間、お誕生日席に座るニーナが立ち上がった。
その瞬間、子供たちが一斉に外へと飛び出していく。
「お、おい。外は雪だらけだぞっ」
俺も子供たちの後を追って外へと出た。いないのはまだ寝ぼけているエリサだけだ。
レイアは俺の肩に乗せ、降り積もる雪の中を目を凝らして見つめた。
白い雪の向こうに、うっすら影が見え――たかと思ったら、もの凄い勢いで近づいてきた!?
反射的に身構える。
まさか鈴木たちか!?
「ンアァーッ!」
こ、この声は、
「ユタ!?」
名前を呼ぶよりも先に、真っ白な雪の向こうからユタが駆けてきた。
ピョンっと跳ねたユタが、俺の懐へと飛び込んでくる。
うわぁ、冷たくなってるじゃないか。ユタドラゴンって、寒さに弱いのか?
「お疲れ。寒かったろ」
「ア、グ、アググ、アグ」
はは、めちゃくちゃ寒そうだ。
「おーい。戻ったぞぉ~」
「アルトの声だ。おーい」
ユタが駆けてきた方角に向かって手を振る。
すると、さっきまで降っていた雪が止んだ。
「ただいま~」
「おぅ、帰ぇったぜ」
「そっちは大丈夫だった?」
アルト、アッパーおじさん、ユラの順に声がかけられる。
その後ろからバサラたちの姿も見えた。
出発時にはいなかった人の姿もある。
多くはない。だけど救えた人がいたってことだ。
「おかえり、みんな」



