転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「クックックックック」

 ん……んん。何の音だ?

「クアアアァァァァァァッ」
「うわあああぁぁぁぁ寒い寒い寒い寒いっ!」

 アルパディカ毛布の温もりに包まれていたはずが一転。
 早朝の冷気が一瞬にして俺を支配する。
 あまりの寒さにすっかり目が覚めた。その原因を作ったのは――。

「ユタ……その毛布を返しなさい」
「クアッ! シドー、オキル。テヤンデェ」
「起きるって、お前なぁ……外を見ろっ。まだ薄暗いだろっ」

 この教会で唯一ガラスが無事な窓から見えるのは、ようやく東の空が白み始めた景色だ。

「んん……どうしたの志導くん。こんな朝早くから」
「あぁ、ごめんレイア。ユタの奴が――」
「ミッション! シドーミッション、ヤル!」

 ミッションってお前……こんな朝早くから……。
 おじさんはまだまだ寝ていたいんですけど、ねぇ、聞いてる?

「アッアッ」
「待て待て待て待て。その爪はなんだ。おい、その爪っ」

 ジャキンと爪を構え、今にも俺のハンモックを「切るぞ」と脅している。

「ミーッショーン」

 こいつ……人を脅すことを覚えやがった。

「え? ミッションやるの? わ、私もやるっ」
「でもレイア……あ」

 そろそろ猫に変身するんじゃ――と言い終える前に、彼女の体が光り出して、そのまま猫の姿になってしまった。

「ふ、ふみゃ~っ。私もミッション、やりたかったのにぃ」
「ミッション! ミッション!」
「わかった。わかったからっ。レイアはさ、猫の姿でも効果あったりしないかな?」

 毛布と、それから自分の服からもぞもぞと出てきたレイアは、こてんっと首を傾げて「どうかな」と。
 エリクサーはまだ生えてるし、クラフトすればすぐポーションは作れるけど……。
 ミッションのために人の姿に戻るってのもなぁ。

「猫の姿でやってみようか」
「ん……そうしてみる」
「ミッッショーン!!」





 小一時間ほど二人にはいろんなミッションをやって、それから朝食に。

「お前ぇら、朝から元気だなぁ」
「眠いけどね……」
「若いもんに付き合わされんのも、辛ぇな」

 アッパーおじさんが同情するような視線を向ける。
 はぁ……俺もせめてあと五歳若ければなぁ。

「志導くん。あのね、もしかすると猫の姿でも効果あるかもしれないわ」
「え? 本当かい?」

 蒸かしたジャガイモをレイア用に小さく取り分けてやり、それを彼女に差し出しながら「何か変化合った?」と尋ねた。

「うん。体が凄く軽いの。人の姿の時にミッションをクリアした時と同じ感覚だから」
「へぇ。じゃあ日中も猫の姿のままミッションが出来そうだね」

 そう言うと、レイアは嬉しそうに笑った。
 が、食後もミッションをと言われる前に先手を打っておく。
 
「ご飯を食べたら、ゴーレムの頭を修理しに行こうと思うんだ」
「あっ……そ、そうね。修理が先よね」

 やっぱり食後もミッションをって、言おうとしてたな。隣でユタも肉を口からポロっと落としてるし、こいつもか。

「他にもさ、ほら」
 
 と、天井を指さして見上げる。二人も同じように天井を見た。
 天井から細い光の筋が何本も降り注ぐ。
 つまり、穴が開いている。

「これからもっと冷え込むんだろ? あれさ、早めに治しといたほうがいいと思うんだ」
「そ、そうね。どおりで毛布から出たら、寒いわけだわ」
「ククククク」

 ゴーレムと屋根の修理。こっちが優先だ。

『志導お兄ちゃん』
「お、ニーナ。おはよう」
「おはようニーナ」
「アッ」

 光の玉がすぅっと現れ、ニーナの姿に形を変える。
 ニーナも修理後のゴーレムが気になるようだ。
 さっさと食事を終わらせ、ゴーレムの頭を持って例のゴミ捨て場へと向かった。

「な、なにこれ……え? 全部ミスリルなの!?」
「そう」
『ですの』

 山積みになったミスリルを見て、レイアがペタンと座り込む。
 ま、そうなるよね。

「さぁて、修理しますか」

 解析眼と万能クラフトで魔導ゴーレムの頭を修理!
 あちこち欠けた部分があったようで、みるみるうちに再生されていく。

「完了だ。さぁ、次は――ん?」

 解析して動くのかどうか調べようと思ったけど、その前に結果が出た。

【解析結果:壊れた魔導ゴーレム。胴のパーツがなければ起動しない】

 ……だったらなんで修理素材とか出したんだよ!
 胴がないと意味ないって……持ち帰った意味すらないじゃないか。
 ガクっと項垂れると、ニーナが心配そうに俺の袖を掴んだ。

『志導、お兄ちゃん?』
「胴体がないと……動かないって……」
『はいです。魔導ゴーレムさんは、体にエネルギーを蓄える核があるです。それがないと動かないですの』

 え、ニーナは知っていた?

『魔導ゴーレムさん。アリューケの町にもいたですが、瓦礫の下敷きになって……。掘り起こせばきっと治せるですの』
「この町にもゴーレムがいたのか!? じゃ、それを解析すればよかったんじゃ……」

 なんか全身の力が抜けた……。
 だけどニーナは首を振る。

『ゴーレムさんの記憶は頭の中にあるです。そのゴーレムさんは、都市が暴走した原因や、解決策を知っているかもしれないですの』
「あ、そうか。都市の防衛システムと直接リンクしてたのはこいつなんだよな」

 ゴーレムごとに、パソコンのメモリみたいなものがあるってことだ。ずっと昔にこの町で壊れたゴーレムだと、都市のシステムが暴走してからの記録なんてあるはずがない。
 持ち帰ったのは、無駄じゃなかったんだな。
 よかったぁ。
 
 ということは、次は瓦礫の撤去か。
 いや、その前に教会の屋根を修理しよう。

「ユタ、レイア。ミッションだ」
「にゃ」
「クアーッ」

 さすがに猫の姿じゃ出来ない作業なので、エリクサーをクラフトしてポーションへ。
 三人で瓦礫を集め、それを煉瓦へとクラフトする。
 大量に煉瓦を用意し、教会の屋根へ上って万能クラフトで修理!

「よし。新品同様とはいかないだろうけど、これで隙間はすべて埋まったはずだ」

 教会の構造を解析眼を使って調べてある。それに適した屋根として、クラフトした。
 これで天井から冷気は下りてくることはないはず。雨漏りの心配もしなくてすむだろう。

「はぁ、今日もいい天気だなぁ」

 遠くの空は曇ってるけど、町の上空はよく晴れている。
 なんかこう……朝も早くに叩き起こされ、いい具合に肉体労働のして……風も気持ちいいし、おひさまも出てるし。

 ねむ……。

「――くん」

 ん、誰だ? 今、凄く眠いんだ。

「志導くん」

 あぁ、この声は――。
 目を開くとそこには、銀色の髪と澄んだ青空の色をした瞳の持ち主――レイアがいた。

「志導くん。そんな所で寝てたら、風邪引いちゃうぞ」
「え……」

 その言葉は先日夢で見た、学生時代の記憶と同じ……。
 
「風見……さん?」

 思わず漏れたその名前に、言った俺自身が驚いた。
 それ以上に驚いたのは、彼女の方かもしれない。

 彼女は目を丸くし、それから瞳を潤ませ右手で口を押えた。
 それが全ての答えだということを、寝ぼけた俺の頭でも理解することが出来る。
 
 俺の瞳に映るのは、レイアなのか、それとも……。