転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「んん~……はぁ、意外といいもんだなぁ、ハンモック」

 目覚めは最高だった。
 どう最高かと言うと、全身の節々が傷まなかったことだ!
 
「おはよう、レイア」

 教会の隅に設置したハンモックでは、猫の姿に変わったレイアが毛づくろいをしていた。

「おはよう、志導くん。ハンモック、寝心地よかったわね」
「だよな。いやぁ、ハンモック最高。君が糸の原料になる草を見つけてくれててよかったよ」

 じゃなかったら今朝も全身バッキバキだったろうし。
 解析眼で実物を解析していたおかげで、クラフトするのも簡単だった。素材の糸も大量にあったし。

「でもこれから冷えてくるから、ほら、ユタとユラが狩りしてくれたキラーラビットの毛皮。あれを加工して敷いたほうがいいかも」
「キラーラビット? あの兎、そんな物騒な名前だったのか!」

 殺人兎じゃん。おぉ、怖っ。
 でもレイアの意見には納得する面もあった。
 確かに寒いんだよ。いや、まだ寒いって程じゃないけど、明け方は少し冷える。なんとか焚き火の熱でしのげたけど、一週間後はどうなるか。
 兎の毛皮を敷くのはいいとして、掛ける方をどうするかだなぁ。

 そんな時、俺の視界にアッパーおじさんが映った。

「あの毛で毛布とか編めたらなぁ」
「そうねぇ。絶対暖かそうよね」
「レイアもそう思う? 思うよなぁ」

 あの毛、いただけないものか。
 そのアッパーおじさんはというと。

「ほらあなたっ。火が消えかかっているわよっ」
「わ、わかってらぁな、かあちゃん」

 昨夜、五頭の奥様方に何も告げずこの町へとやって来て、そして暗くなっても戻らなかった。
 それで心配した奥様方が探して、見つけたのは美味そうにニンジンを食っている旦那の姿。
 そりゃあ怒るよなぁ。だって何十年もニンジンを食べていなかったんだし。旦那だけ美味いもん食ってりゃそりゃあさ。

「アッパーおじさん。一晩中、焚き火の番してくれてありがとう」
「お、おおぉぉ。志導ぉぉぉぉぉ。お前ぇだけだぜ、そんな優しい言葉かけてくれんのは」

 おじさんは罰として、奥様方から火の番を言い渡されていた。そのおかげで俺たちも、震えずに眠ることが出来たんだ。お礼ぐらい言うさ。

「志導、この人を甘やかさないでね」
「そーよそーよ」
「放っておくと夫殿は、あっちへふらふら、こっちへふらふらするのよ。きつく言わねばならぬこともあるわ」
「か、かあちゃんたち……わ、わしは人間たちと話しがあってだなぁ」

 奥さんに頭の上がらない男って、人間だけじゃなくモンスターでもそうなんだな。

「まぁまぁ。それよりも、みんなで朝食を収穫しにいかないか?」

 野菜は――もう、ない。といっても「ここに」ないだけだ。
 収穫という言葉を聞いて、アッパーおじさんの奥様方の目が輝いた。

「「行くわっ」」

 も、もの凄い勢いで返事をされた。長い睫毛で瞬かせ、大きな瞳で俺をじっと見つめる。
 うっ。あ、圧が凄い。





「ンアァァ」
「そうね。今日、は、太陽がしっかり、出てるわね」

 今日はみんなでアーサ畑へとやって来た。アルパディカの雌五頭も一緒だ。
 全員、おじさんの奥さん、らしい。 

「アーサを刈らないと、探しづらいわよね」
「そうだね。でもまぁ、しゃがんで探せばいいさ――」

 そう言った途端、シュパシュパっと風を切る音が聞こえた。それから草が落ちる音も。

「え……」

 アーサが、宙を舞っている。

「どうせ来年にゃまた生えてくるんだ。ぜーんぶ刈り取っちまえ」
「そうね。じゃあ全部切っちゃうわよぉ~。そ~れっ」

 奥さんの一頭が首を振ると、風が吹いた。視覚化されたその風が、一瞬にして大量のアーサを刈り取っていく。

「ま、魔法!?」
「んあ? おうさ、魔法だぜ。わしらアルパディカは、魔法が得意な種族なんだよ」
「おおおぉぉ。凄い。へぇ、風の魔法かぁ――あ」

 感心して見ていたら、その奥で別の奥さんが別の魔法を使っていた。
 足で軽く地面を踏むと、ぼこぼこと土が盛り上がって――埋まっていたニンジンが出てきた!
 え。つ、土の魔法?

「ほらほら、こっち。志導、来てみなさい」
「え? あ、はい」

 土の魔法を使っていた奥さんに呼ばれてそこへ行くと、彼女が首を下げて地面に鼻先を向けた。

「ここ。ほら、トウモロコシよ」
「トウモロコシ……あっ、本当だ!」
「まだ芽が出ていないから、拾っておきなさい。ちゃんとした所に蒔きなおせるわ」

 種を撒く……栽培出来る!
 大事に拾い上げたトウモロコシの粒は、ポケットから取り出したハンカチに包む。
 この奥さんが他にも見つけてくれ、何種類かの野菜の種を手に入れた。
 食材が増える。それだけでもう感動ものだ。

「よぉし。みんな、野菜は持ったか~?」

 朝食用なら、そんなに数はいらない。
 いらないはず、なんだけど……。

「みんな、収穫しすぎじゃないか?」

 アルパディカたちは、全員がニンジンの葉っぱを咥えている。しかも一本じゃない。それぞれが五本以上咥えている。よく見たらおじさんの背中にも何本か乗ってるし。
 そしてユタとユラもニンジンやジャガイモ、タマネギを抱えて持っている。
 レイアは……ジャガイモでも掘ろうとしたのか泥まみれだ。

「ほーか?」
「残してても仕方ないでしょ?」
「アーッ」
「放っておくと、花が咲いて、味が落ちてしまうわ」

 そうだけど……。んー、まぁ夏でもないし、土から掘り起こして置いてても腐ったりしないか。
 みんなで教会へと戻りながら、ふと、あることを思った。

「おじさん。昨日、奥さんたちと移住だとかなんとか言ってたけど」
「んお? ほーらな」
「ニンジン咥えたままじゃ喋りにくいだろ。俺が持つよ」

 おじさんが咥えたニンジンを受け取り、それを脇に抱え直す。

「そうだな。ここは空気も綺麗だし、子育てする環境にゃバッチリだ。な?」

 おじさんがそう言うと、奥様方もみんな頷く。

「そっか。町で暮らすのか。……じゃあさ」

 ここは思い切ってお願いしてみよう。俺とレイアの死活問題でもあるんだし!

「おじさん。住む場所を俺のスキルで整えるからさ、だから……だからおじさんの毛をくれないか!」
「わしの……毛?」
「そう。おじさんの毛だ」

 もちろん奥様方の毛も頂きたい。これから寒くなるっていうなら、表面の方を少しずつでもいいんだ。
 なんて考えていると。

「わしのどこの毛だ!? どこの毛がいいんだ、このスケベ!」
「は? いや、え? ス、スケベ?」

 ス、スケベってどういうこと!?

「ぷふーっ。にゃっ。にゃははっ」
「ちょ。レイア笑わないでくれよっ」

 何かがツボったらしい。レイアは突っ伏して笑い、長い尻尾がくねくねと動く。
 袖を引かれて視線を下に向けると、ニーナが眉尻を下げて俺を見ていた。

「志導、お兄ちゃん……スケベ、なの?」
「ちょ。違うっ。おいアッパーおじさん! 子供の前でなんてこと言うんだ!」
「クッククッ」
「ユタ。お前まで同情するような目で俺を見るなよ!」
 
 俺は雄のアルパディカに対して、下心なんて絶対に――ない!!
 ないったらないぞ!