「答えは出せた? 風谷くん」
打ち合わせが終わって、多目的室を出ようとしたところで引き止められた。もうこんなやつ無視でいいと思っているとはいえ、苛々して喧嘩を売ってくるなら買ってやるくらいの気持ちになっていた。
突き当たりの教室なので教師とほとんどの生徒が前のドアから出て行き、俺たちは誰もいなくなった部屋で向かい合った。廊下から聞こえていた足音と喋り声も遠のいて、途絶える。
ほぼ同じ目線にある眼鏡を挑戦的に見返し、感情的になってはいけないと自分に言い聞かせる。
「石田先輩の望みはなんなんすか?」
「朔に近づかないでほしい」
「別に近づこうとしてるわけじゃ……」
「僕たちは受験生で、大事な時期なんだ。親のコネで将来安泰な君とは違ってね。たとえ羽虫一匹でも、視界をウロウロされると気が散るんだよ」
羽虫扱いって……まじで好きなこと言ってくれるな!? 確かに将来的には父親か母親の事業を継ぐつもりだが、すぐじゃないし普通に俺も受験するんですけど?
怒りと共になにかがこみ上げてくる。ぶわっと体温の上がったような感覚がして、俺は思うままそれを視線に乗せた。
「ッ……」
「ずいぶん余裕ないんですね、先輩? あぁ、念のため言っておきますが。飛鳥井先輩とプレイしたのは応急処置なので浮気じゃないですよ」
「なっ……プレイだって!?」
わざとプレイ未満のあの出来事をプレイと伝えたのは、ほぼ煽りのためだ。足を半歩引いて怯んだように見えた男が、プレイと聞いた瞬間反撃のように俺を睨みつけてきた。
そこでやっと自覚する。俺がいま正面から受けているものは、俺がさっきから出しているものは、Domのグレアだ。
負けてなるものかと意識してその量を増やし、睨み合いを続けること数秒。
――部屋に予想外の声が響いた。
「武蔵? もう終わったって聞い、た……っっ」
「飛鳥井先輩!」
「朔!」



