雪こそ積もっていないが、薄く氷の張る地面を慎重に踏みしめる。吐く息も白く凍りつくような朝だった。
バスから降りると、さまざまな制服の学生がそこかしこにいた。もちろん同級生の姿もある。市内の大学が試験会場になっていて、複数の高校の受験生がここに集まっているのだ。
僕の学校の教師こそいないが、どこかの私立高校の教師や、進学塾の講師が生徒を最後の励ましに来ている。肩をバンバン叩かれる男子高校生を横目に見ながら、まっすぐと試験会場になっている校舎へと足を向けた。
いくら応援されたって、試験を受けるときはみんなひとりで戦うのだ。わかっていても、緊張で手が冷たい。
「――朔先輩」
唐突だった。馴染みのありすぎる声が聞こえて、空耳かと思う。
(まさか、こんなところにいるはずない)
今朝のメッセージだって普通だった。けど……無視してそのまま歩くことなんてできずに、僕は振り向く。
「暁斗……。聞いてないぞ」
「えへ、サプライズです!」
でかい男がニコニコとしながら僕の目の前に立つ。なんか、褒められるのを待つ犬みたいだな……
人目を避けるよう通路から外れたところに移動して、ちょっと背伸びする。休日らしい、ワックスで固められていない髪をわしゃわしゃと撫でてやった。
冬の澄んだ日差しで、キャラメルみたいな色に透けている。
まさか外で僕が触れてくるとは思っていなかったのだろう。ポカンとしているのがちょっと間抜けだ。かわいくて、癒やされた。
「お前の顔見たら緊張もぶっ飛んだ」
「それはよかったです。これ、お守り。応援してますからね!」
お守りといえば鞄につけているお揃いのものだ。しかし暁斗に手渡されたのは――使い捨てカイロだった。もうあたたかい。
車に親を待たせているという暁斗と別れて、もう一度校舎へと向かった。
じんわりと沁み入るような幸せを胸に抱えて歩く。今日はがんばれそうだ。



