超絶クールな先輩は俺の前でふにゃふにゃのSubになる

 白い息を吐きながら参道を歩く。朝方に雪かきされていても、いまだ降り続ける雪が参拝客によって踏み固められ、ちょっと滑りそうだ。
 受験生がすべって転ぶなんて縁起でもないから、慎重に足を進める。

 元旦には学生でごった返していたであろう神社も、もう列に並ぶことなく参拝できた。絵馬を書きたいという暁斗に付き合って、僕もありきたりな合格祈願の四文字を書く。
 ふと隣を見ると、真剣な様子で暁斗が願い事を書いている。こんなところも真面目だなと感心しながら内容を見れば、『朔先輩が志望校に合格できますように』の文字。

「っ。おい、ふつう自分の願い事を書くんじゃねーの?」
「そんなことないでしょ。いまの最重要事項だからいいんです!」

 暁斗がこのために絵馬を書きたいと主張したのだと気づき、じんわり胸の中があたたまった。
 試験の迫ってきた最近は、僕でさえナーバスになってくる。どれだけ勉強しても不安が消えなかったけど、好きな人に応援されるだけでうまくいく気がしてきた。

「自分の学業成就を願えばいいのに……」
「それは来年。先輩も来年は俺のために書いてくださいね?」

 照れ隠しについ可愛くないことを言ってしまったのに、帰ってきた言葉はさらに上を行く。僕はさあっと頬に熱が上るのを感じて、俯くように頷いた。

 ずらりと並んだ絵馬にはほとんど似たような願いが書かれている。
 同級生の名前を見つけてビクビクと左右を見渡しつつ、僕たちは絵馬をふたつ並べて掛けた。狭い棚のなかで絵馬がほとんど重なるようになって、それだけでこそばゆい心地になる。
 じっとそれを見ていた暁斗が口を開いた。

「手、繋ぎません……?」
「え、いやだ」
「え!」
 
 ぐるんっと顔をこちらに向けた暁斗が過剰に反応するから、僕は嫌そうな表情を隠さず隣を見上げた。

「そういうの苦手だし、いやだ」
「えー……」

 じゃあプレイのときとか電話のときの態度はなんだったんだと言われそうだが、それとこれとは別なのだ。僕は人前でいちゃいちゃするつもりは断じてない。

 ふてくされた暁斗を連れ、今度は僕が御守りを買いたいと伝えた。あれこれ願掛けする性格でもないけど、思い出に取っておける物がひとつくらい欲しかったのだ。
 一応……付き合ってから初めてのデートだし。

 授与所は初詣期間とあって、仮設で広く設けられていた。暁斗も興味津々で端の方まで見に行っている。

 さまざまな御守りをあれこれ見ていると、二個セットの御守りに気づいた。文字は書かれておらず、ぷっくりとした布地に丸がひとつ刺繍で描かれている。
 台紙には成功や成就を願うと書いてあり、なんともふんわりとした内容だ。だけどそこが気に入った。小さくてシンプルな見た目も良い。
 どうしてセット売りなのかは分からなかったけど、いまの僕にはちょうどいい。暁斗が見ていないのを見計らって購入した。

「暁斗、行くぞ」
「ちょっと待ってくださいよ〜っ。先輩、どの色がいいですか?」

 もはや意外でもなんでもなく、暁斗は僕に渡す合格祈願の御守りを選んでいるらしい。学業成就をうたう神社なので、かなり種類が多いのだ。色とりどりの御守りは選ぶのも楽しそうだったが。

「もう買ったからいい。ほら、これはお前のぶん」
「えっ、俺のも? って……お揃いですか!?」
「声がでかいって……」

 光沢のある白い布地に、刺繍は朱色と黒色がある。僕はなんとなく黒色の方を暁斗に渡した。
 尻尾があったらブンブン振っているに違いない喜びようで、「一生大切にします!」「重い」なんてやり取りをして。
 おみくじを見つけて引いた結果がお互い微妙なものだったから、逆におもしろくなって笑いが止まらなくなったりした。

 最後に屋台で腹ごしらえまで済ませると、初詣ってこんなに楽しいものだったか……? と驚くほどの満足感だ。
 誘っておきながら、こんな陽キャのやつと上手く遊べないかもしれないと心配になったりしていた。けれど暁斗と一緒ならどこへ行っても楽しいのかもしれない。これがコミュ強のちから……

 ぼうっと暁斗の隣を歩いていると、バス停に到着する。食べて歩いて、あっという間の時間だったなと残念に思い足を止めた。

「じゃあ、ここで……」
「あれ、プレイはいいんですか?」

 ハッとして、こそこそとバス待ちの人混みから離れる。プレイを理由にして誘ったことをすっかり忘れていたのだ。
 僕はついバツが悪くなって、別にしなくてもいいという態度で返してしまう。

「帰るからバス停に来たんじゃないのか? それに……プレイバーはあっちだろ」

 神社はいつもの繁華街から少し歩いた場所にあった。プレイバーに行くならそのまま歩いていける。
 急にプレイのことを考える羽目になって、心臓が音を立てて走り出す。だって、付き合ってからはじめてのプレイだ。心の準備が……

「プレイバーは今週末まで正月休みです。だから、うちに来てください」
「はっ? お前んち……?」

 それもっと心の準備が必要なやつだろ!

 えっどんな挨拶をすれば……? 暁斗の家族に会ったことはあるけど、あのときは緊急事態だったし、プレイ直後のくっついてるところまで見られてるんだぞ!?

 姉に散々からかわれながら急いで帰ったので、挨拶もちゃんとできないままになってしまっている。そもそも暁斗が倒れたのは僕のせいでもあるし、いい印象ないかも……

「大丈夫です! いま家族みんなハワイ行ってるんで」
「はっ?」

 はわい……?