超絶クールな先輩は俺の前でふにゃふにゃのSubになる

 夏休みも終盤になり、文化祭の準備は大詰めを迎えていた。
 お化け屋敷などのクラス展示をやる一年と、物として残る作品制作をする三年の先輩たち。多分いまだけは部活も勉強もみんなそっちのけだと思う。
 
 二年の俺のクラスはスイーツを出す模擬店をやるので、事前にできる準備はあまりない。食べ物を前々から作っておくわけにはいかないしな。
 だから看板の制作やおそろいのティーシャツを作ったり、わいわいと文化祭の空気感を楽しみながら喋っている時間が多かった。逆に前日と当日は大忙しだろう。

 俺は文化祭実行委員としてなにか決め事があるときは中心に立つが、具体的な準備に関してはノータッチを貫いている。集団行動における役割分担は大事なことで、自分の領分を超えた部分に口や手を出すとろくな事にならない、という持論だ。
 というわけで普通にこき使われる側として、いまもペンキがなくなったとかでヤスと買い出し中だ。学校から徒歩圏内に百均があるのはとても助かる。

「あっちぃなまじで! な、帰りにアイス買って帰ろーぜ」
「……ああ」
「おーい、アキ? だーれと連絡とってんのっ?」

 スマホを見ながらうわの空で返事をしたら、ヤスがガシッと肩を組んで画面を覗き込んできた。よせお前、俺じゃなかったら嫌われる案件だぞ?
 まぁ画面に覗き防止フィルムを貼っているから何も見えなかったと確信している。だから許す。いまの俺は上機嫌なのだ。

「ヤス。学校戻ったら、実行委員の仕事でちょっと抜けるわ」
「おーい、いい笑顔すぎるだろ……」

 顔が自然と綻んでしまうのは、朔先輩が学校で会おうと連絡してきたからだ。先輩のクラスは夏休み中に映像制作をしているらしく、俺よりも学校に詰めていたらしい。
 
 これまでにも夏休み中は定期的に『だるい』『もう帰りたい』とメッセージが来ていた。まぁ、先輩がどうしてるか俺が毎日訊くからだけど。
 しかし、そんな愚痴を言ってもらえるだけでも嬉しいと感じてしまうほど、俺の先輩に対する気持ちは変わっていた。

 前はとことん無視されてムカつく人としか思えなかった。でも最近は普通に話してくれるし、ただ連絡を取っているだけでも心が浮ついて楽しい。
 俺は部活にも入らないから先輩で仲良い人なんていなかった。だから、初めて歳上の友だちができたみたいで新鮮だ。