――あの日僕は、気づけばぐっすりと眠っていた。目覚めたのはプレイルームのソファの上、薄いブランケットまで掛けられている。
すぐに直前の出来事を思い出し慌ててブランケットの下を確認するも、ちゃんと服は着ていた。
「えっ……?」
「起きた? 大丈夫、三十分くらいしか経ってないから。遅くなる前に帰りなー」
部屋には自分しかおらず、気付いた雪さんが話しかけにきた。三十分はうたた寝には長いし、睡眠不足の解消には短い。
その割に、めちゃくちゃ頭がスッキリして身体が軽いんだが……ていうか!
「風谷は……?」
「あー……ここではアキ、って呼んであげてね。かいがいし〜く君のお世話をして、すぐ帰ったよ。同じ学校の後輩なんだって? いやはや、青春だね。――あ。これ、渡しといてって言われたから。ずいぶん心配してたよ?」
渡されたのは一枚の紙切れ。そこにはメッセージアプリのIDが書かれていた。しかもお世話って……どう考えても身体を拭いて、汚れた下着を替えて、服を着せてくれたってことだよな……
雪さんいわく、いま履いている下着は店で売っているもので、高校生はお金いらないよとのことだった。下着は洗濯できるけど、どうする? と訊かれて速攻自分で捨てることにした。
あのプレイは店的にアウトじゃないのか? と思ったけど、挿入までしてないし、同意ありならわりとぎりぎりを攻めてもいいらしい。
それは知りたくなかった。同意……つーか喜んでたな、僕は。
思い出すと恥ずかしくて、ウワーッと叫びだしたくなる。でも、あそこまでSubの欲求が満たされたと感じたのも初めてだったのだ。
予想できないDomの命令に従って、褒められて。これがプレイか……これまでやっていたのは本当におままごとだったのだと思えるほど。
たぶん、もっとハードなプレイをしている人たちは世の中にたくさんいるだろう。しかしいまの自分には風谷とのプレイが極上に思えてしまった。
嗜虐性なんてなさそうな風谷の、ちょっと強気なコマンド。優しいのにどこか意地悪で、甘い鞭のようだ。
あのまま僕が眠ることなく続けていたら、もし今後あいつとプレイを繰り返したら……みずから望んでもっと先に進んでしまいそうな、そんな予感さえある。
ぼーっと夢心地のまま家に帰って。雪さんの『心配していた』という言葉を思い出した。あれだけ世話になって礼をしないのも悪いだろうと、アプリで風谷に連絡する。
――ありがとう。助かった
――身体大丈夫ですか!? ちゃんと家に帰れました!?
秒での即レスに驚くも、僕は風谷の反応に深く安堵していた。あいつがもしかしたら、僕のために無理してプレイしてたんじゃないかと……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ不安だったのだ。
これだけ心配されているのなら、あの態度が嘘ってことはないだろう。Subの本能とはいえ、内容には個人差がある。我にかえって引かれていたら普通に落ち込んでいた。
というか、今さらだけど……風谷もあのプレイバーに訪れたということはDom性が早熟なんだと思う。まぁ、いきなり廊下でグレアを出してしまうくらいだもんな。
そして決まったプレイの相手はおらず、不安症の症状に悩まされているからこそ、今日あそこに来たはず。保健室に来ていたのもたぶんそう。だから……
――お前も良くなった? 不安症
すぐに返事は来なかったものの、風谷にもあのプレイはいい影響があったのだと感じていた。見上げた先にあるこげ茶色の瞳が、生き生きと輝いていたのを覚えている。
「ふぁ、ねむ……」
夕方にうたた寝しておいて、日付を越えるころになるとまた眠気が襲ってきた。昨日までの睡眠不足がうそみたいに、身体が足りない睡眠を補おうと夢の世界へといざなう。
だから僕も、すぐには気付かなかった。枕元で震えたスマホに風谷からの通知があったことに。
――はい。朔先輩のおかげです。あの、よかったら……また俺とプレイしてくれませんか?
すぐに直前の出来事を思い出し慌ててブランケットの下を確認するも、ちゃんと服は着ていた。
「えっ……?」
「起きた? 大丈夫、三十分くらいしか経ってないから。遅くなる前に帰りなー」
部屋には自分しかおらず、気付いた雪さんが話しかけにきた。三十分はうたた寝には長いし、睡眠不足の解消には短い。
その割に、めちゃくちゃ頭がスッキリして身体が軽いんだが……ていうか!
「風谷は……?」
「あー……ここではアキ、って呼んであげてね。かいがいし〜く君のお世話をして、すぐ帰ったよ。同じ学校の後輩なんだって? いやはや、青春だね。――あ。これ、渡しといてって言われたから。ずいぶん心配してたよ?」
渡されたのは一枚の紙切れ。そこにはメッセージアプリのIDが書かれていた。しかもお世話って……どう考えても身体を拭いて、汚れた下着を替えて、服を着せてくれたってことだよな……
雪さんいわく、いま履いている下着は店で売っているもので、高校生はお金いらないよとのことだった。下着は洗濯できるけど、どうする? と訊かれて速攻自分で捨てることにした。
あのプレイは店的にアウトじゃないのか? と思ったけど、挿入までしてないし、同意ありならわりとぎりぎりを攻めてもいいらしい。
それは知りたくなかった。同意……つーか喜んでたな、僕は。
思い出すと恥ずかしくて、ウワーッと叫びだしたくなる。でも、あそこまでSubの欲求が満たされたと感じたのも初めてだったのだ。
予想できないDomの命令に従って、褒められて。これがプレイか……これまでやっていたのは本当におままごとだったのだと思えるほど。
たぶん、もっとハードなプレイをしている人たちは世の中にたくさんいるだろう。しかしいまの自分には風谷とのプレイが極上に思えてしまった。
嗜虐性なんてなさそうな風谷の、ちょっと強気なコマンド。優しいのにどこか意地悪で、甘い鞭のようだ。
あのまま僕が眠ることなく続けていたら、もし今後あいつとプレイを繰り返したら……みずから望んでもっと先に進んでしまいそうな、そんな予感さえある。
ぼーっと夢心地のまま家に帰って。雪さんの『心配していた』という言葉を思い出した。あれだけ世話になって礼をしないのも悪いだろうと、アプリで風谷に連絡する。
――ありがとう。助かった
――身体大丈夫ですか!? ちゃんと家に帰れました!?
秒での即レスに驚くも、僕は風谷の反応に深く安堵していた。あいつがもしかしたら、僕のために無理してプレイしてたんじゃないかと……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ不安だったのだ。
これだけ心配されているのなら、あの態度が嘘ってことはないだろう。Subの本能とはいえ、内容には個人差がある。我にかえって引かれていたら普通に落ち込んでいた。
というか、今さらだけど……風谷もあのプレイバーに訪れたということはDom性が早熟なんだと思う。まぁ、いきなり廊下でグレアを出してしまうくらいだもんな。
そして決まったプレイの相手はおらず、不安症の症状に悩まされているからこそ、今日あそこに来たはず。保健室に来ていたのもたぶんそう。だから……
――お前も良くなった? 不安症
すぐに返事は来なかったものの、風谷にもあのプレイはいい影響があったのだと感じていた。見上げた先にあるこげ茶色の瞳が、生き生きと輝いていたのを覚えている。
「ふぁ、ねむ……」
夕方にうたた寝しておいて、日付を越えるころになるとまた眠気が襲ってきた。昨日までの睡眠不足がうそみたいに、身体が足りない睡眠を補おうと夢の世界へといざなう。
だから僕も、すぐには気付かなかった。枕元で震えたスマホに風谷からの通知があったことに。
――はい。朔先輩のおかげです。あの、よかったら……また俺とプレイしてくれませんか?



