「するわけないだろ」
僕は立ち上がった。
「今は勉強中だよな。からかう相手は選びなよ、山園」
すぅを見ていられない。
見てしまったら、僕はもう止まれない気がしてた。
大事にしたいはずのすぅを僕の欲望のまま、どうにかしてしまいそうで。
『先輩たちの間でも話題だって。この中学で一番かわいくてエロいって』
『5組のやつが言ってたけど、体育の時に山園さんのおっぱい揺れまくってマジでやばいって』
僕はすぅを性的な目だけで見ている他の男たちとは違う。
誰よりもずっと昔から、すぅだけが好きだった。
だからこそ僕自身がすぅを守れなくなるのが怖かった。
「……そう、だよね。ごめん、谷内くん……。気にしないで」
繕ったようなすぅの声が僕の胸に刺さる。
「ごめん。ちょっとお手洗い借りる」
「……どうぞ、谷内くん……」
その場に居るのがいたたまれなくて、すぅと物理的に距離を取る。
すぅは一体どういうつもりでこんなことを僕に言い出したんだろう。
僕をからかってるだけなのか?
そういう行為に興味があるから、手近な僕で試してみたくなったとか?
あのまま、すぅの誘いに乗れば良かったという後悔と、乗らなくて良かったという安堵とで、僕の頭はぐっちゃぐちゃだった。
あのあと、すぅとは何もなかったかのように19時までテスト勉強をした。
ただ、やっぱりお互いにぎこちなくて、いつもはあっという間に過ぎ去ってしまった時間の感覚が、秒針が壊れたかのように時間が進まなくて。
翌日の期末テストは平穏無事に終わり、僕の日常が戻ってきた。
僕の家庭教師任務は期末テストまでだったから目的も達成した。
手に入ったスマートウォッチの代わりに、またすぅとの関わりは消失する。
「すぅちゃん、期末テストの結果とっても良かったみたいで、すぅちゃんのパパもママも蒼斗に感謝しているみたいよ。改めて蒼斗にお礼がしたいって言われたけど、何がいい?」
「――いいよ。スマートウォッチ買ってもらったし」
「それは私たちからのプレゼントでしょ?」
「本当にいいって。期末終わったから、部活に集中できればそれでいい。まだ残り一年ある僕が足を引っ張って3年生を早く引退させるわけにいかないだろ」
僕の期末テストの結果は中間からの現状維持で喜びも悲しみも湧かなかった。
絶対に団体も個人も上の大会に出場したくて、より一層ソフトテニス部の活動に力を入れる。
部活がない時間も今まで以上に自主練した。
そうでもしないと、僕を誘ってきたすぅの目が、声が、唇が、香りが五感によみがえってしまう。
邪念? 雑念? 煩悩? 性欲?
とにかく何でもいいから、すぅを振り切りたかった。
「……谷内蒼斗くんってキミかな?」
放課後、日直日誌を職員室に出し終えて部活に向かおうとしたら、昇降口付近で知らない女生徒に声をかけられた。
学年章が彼女は3年生だと教えてくれたものの、記憶にない人だった。
派手でもなく、大人しくもない、そんな印象を受ける人。
「谷内くんを体育倉庫に呼んできてほしいって言われてるんだけど、今から行ってくれない?」
「いや、ただでさえ僕は日直で部活の開始に遅れているので……」
「お願い。少しだと思うから」
「誰が呼んでるんですか?」
「行ってみればわかると思う。安心して、集団暴行とかリンチとか、そういう類ではないから」
僕に伝えるだけ伝えて、その人は踵を返して校門のほうへと駆けていった。
――いや、誰かわからない人の呼び出しで人気のない体育倉庫に行けって怖すぎるだろ。
とは言っても、あの僕を待ってくれていた3年生の女生徒が泣きそうな顔をしていたから、僕が約束を破ったことで迷惑をかけたりするのも後味が悪い……。
何かがあった時のために僕はスマホを片手に握り締めて、体育倉庫へと素直に向かった。
校舎裏を抜けて体育館を突っ切り、体育倉庫へと辿り着く。
近くには今は使われなくなった焼却場があるだけの侘しい場所。
――いったい誰なんだよ。
大会が近くて部活に早く行きたいのに、思いがけない足留めをくらい、この時の僕には少し苛立ちが生まれていた。
接近してみると、体育倉庫は薄らと扉が開いている。
「あっ……んんっ」
倉庫の中から、女の喘ぎ声が聞こえてきて、僕はその場で固まってしまった。
――学校で何やってるんだよ。
僕をここに呼んだってことは悪戯か?
付き合っていられないと踵を返そうとした時だった。
「も、やめてくださっ……あっん」
この声に聞き覚えがあった。
聞き覚えがあるは間違いだった。
僕は知らない。
すぅの声がこんな嬌声を上げるなんて……。
――すぅなのか?
聞き間違いであってほしい。
僕は静かに体育倉庫に近づいた。
ひどく一回一回の心音が重い。
「先輩……もうっ……んっ、」
「ここいじられるの大好きだよな、澄玲ちゃんは」
僕は立ち上がった。
「今は勉強中だよな。からかう相手は選びなよ、山園」
すぅを見ていられない。
見てしまったら、僕はもう止まれない気がしてた。
大事にしたいはずのすぅを僕の欲望のまま、どうにかしてしまいそうで。
『先輩たちの間でも話題だって。この中学で一番かわいくてエロいって』
『5組のやつが言ってたけど、体育の時に山園さんのおっぱい揺れまくってマジでやばいって』
僕はすぅを性的な目だけで見ている他の男たちとは違う。
誰よりもずっと昔から、すぅだけが好きだった。
だからこそ僕自身がすぅを守れなくなるのが怖かった。
「……そう、だよね。ごめん、谷内くん……。気にしないで」
繕ったようなすぅの声が僕の胸に刺さる。
「ごめん。ちょっとお手洗い借りる」
「……どうぞ、谷内くん……」
その場に居るのがいたたまれなくて、すぅと物理的に距離を取る。
すぅは一体どういうつもりでこんなことを僕に言い出したんだろう。
僕をからかってるだけなのか?
そういう行為に興味があるから、手近な僕で試してみたくなったとか?
あのまま、すぅの誘いに乗れば良かったという後悔と、乗らなくて良かったという安堵とで、僕の頭はぐっちゃぐちゃだった。
あのあと、すぅとは何もなかったかのように19時までテスト勉強をした。
ただ、やっぱりお互いにぎこちなくて、いつもはあっという間に過ぎ去ってしまった時間の感覚が、秒針が壊れたかのように時間が進まなくて。
翌日の期末テストは平穏無事に終わり、僕の日常が戻ってきた。
僕の家庭教師任務は期末テストまでだったから目的も達成した。
手に入ったスマートウォッチの代わりに、またすぅとの関わりは消失する。
「すぅちゃん、期末テストの結果とっても良かったみたいで、すぅちゃんのパパもママも蒼斗に感謝しているみたいよ。改めて蒼斗にお礼がしたいって言われたけど、何がいい?」
「――いいよ。スマートウォッチ買ってもらったし」
「それは私たちからのプレゼントでしょ?」
「本当にいいって。期末終わったから、部活に集中できればそれでいい。まだ残り一年ある僕が足を引っ張って3年生を早く引退させるわけにいかないだろ」
僕の期末テストの結果は中間からの現状維持で喜びも悲しみも湧かなかった。
絶対に団体も個人も上の大会に出場したくて、より一層ソフトテニス部の活動に力を入れる。
部活がない時間も今まで以上に自主練した。
そうでもしないと、僕を誘ってきたすぅの目が、声が、唇が、香りが五感によみがえってしまう。
邪念? 雑念? 煩悩? 性欲?
とにかく何でもいいから、すぅを振り切りたかった。
「……谷内蒼斗くんってキミかな?」
放課後、日直日誌を職員室に出し終えて部活に向かおうとしたら、昇降口付近で知らない女生徒に声をかけられた。
学年章が彼女は3年生だと教えてくれたものの、記憶にない人だった。
派手でもなく、大人しくもない、そんな印象を受ける人。
「谷内くんを体育倉庫に呼んできてほしいって言われてるんだけど、今から行ってくれない?」
「いや、ただでさえ僕は日直で部活の開始に遅れているので……」
「お願い。少しだと思うから」
「誰が呼んでるんですか?」
「行ってみればわかると思う。安心して、集団暴行とかリンチとか、そういう類ではないから」
僕に伝えるだけ伝えて、その人は踵を返して校門のほうへと駆けていった。
――いや、誰かわからない人の呼び出しで人気のない体育倉庫に行けって怖すぎるだろ。
とは言っても、あの僕を待ってくれていた3年生の女生徒が泣きそうな顔をしていたから、僕が約束を破ったことで迷惑をかけたりするのも後味が悪い……。
何かがあった時のために僕はスマホを片手に握り締めて、体育倉庫へと素直に向かった。
校舎裏を抜けて体育館を突っ切り、体育倉庫へと辿り着く。
近くには今は使われなくなった焼却場があるだけの侘しい場所。
――いったい誰なんだよ。
大会が近くて部活に早く行きたいのに、思いがけない足留めをくらい、この時の僕には少し苛立ちが生まれていた。
接近してみると、体育倉庫は薄らと扉が開いている。
「あっ……んんっ」
倉庫の中から、女の喘ぎ声が聞こえてきて、僕はその場で固まってしまった。
――学校で何やってるんだよ。
僕をここに呼んだってことは悪戯か?
付き合っていられないと踵を返そうとした時だった。
「も、やめてくださっ……あっん」
この声に聞き覚えがあった。
聞き覚えがあるは間違いだった。
僕は知らない。
すぅの声がこんな嬌声を上げるなんて……。
――すぅなのか?
聞き間違いであってほしい。
僕は静かに体育倉庫に近づいた。
ひどく一回一回の心音が重い。
「先輩……もうっ……んっ、」
「ここいじられるの大好きだよな、澄玲ちゃんは」



