「引き受けてくれたら、欲しがってたスマートウォッチ買ってあげるわよ」
「期末テストまでだから」
「わかってるわよ」
僕は存外にちょろかった。
部活にも力をいれてたし、健康管理のために少し性能の良いスマートウォッチを僕は欲しがっていた。
とは言え、中学には校則でつけていけないけど。
すぅへの家庭教師。
二人きりで勉強するのか?
すぅがそばにいて、落ち着いて勉強を教えることなんてできるのだろうか?
――僕は違う。
すぅをいやらしい目で見てエロいだの何だのと、ところ構わず騒ぎ立てる男たちとは違う。
己の欲望を優先して、すぅを手に入れようとする男たちとは違う。
――そんな自負……。
それに、中学に入ってから一年以上も疎遠だったから、すぅと関われるきっかけが出来たことに気持ちが浮ついている自分を否定できなかった。
週明けの月曜、すぅに勉強を教える1回目の放課後がやってきた。
部活がない日でも、いつもホームセンター横の広場で壁打ちをやっていたから今日も同じ場所へ足を向けて同じ行動をとっていた。
すぅに勉強を教えるために1時間に限定して。
けれど、何か集中力に欠ける……。
――ちょっと待てよ。
すぅに家庭教師するってことは、すぅとの距離が近いってことだ。
こんなに蒸し暑い屋外で汗をかいて、においがしたりしないだろうか。
制汗スプレーや汗拭きシートなど、僕も清潔感には気を遣っているけれど……。
僕は1時間やろうと思っていた自主練を30分に短縮して、自宅に帰ってシャワーを浴びることにした。
すぅの自宅411号室に向かったのは本当に久しぶりだった。
幼い時から親同士にくっついて遊ぶとしても、僕の自宅に来ることが圧倒的に多かっただけに……。
すぅの自宅扉の横のインターフォンを鳴らす。
バカみたいに緊張してないか、僕……。
中から扉が開かれ、すぅが顔を出した。
「……本当に引き受けてくれるんだ」
すぅは髪をルーズに一つでくくっていて、身体に沿ったふわふわした素材のワンピースを身に着けていた。
いかにもリラックスしていましたという無防備な姿が的確に僕の心拍数を上げてくる。
「インターフォンで相手を確認してから扉を開けなよ。僕じゃなかったらどうするつもりだよ」
「あお……谷内くんは昔から時間を分単位できっちり守る人だったでしょ」
あれほどすぅとは距離が出来ていたのに、言外に僕との付き合いの長さや深さを語られて、息がつまる。
「……す……山園一人?」
「……うん。お母さんは最近、出社勤務ばかりだよ。出張も多いかな」
「へえ」
「遠慮しないで入って。谷内くん」
すぅと二人きり……しかも、すぅはこんなに身体のラインが浮き出たルームワンピースを身につけている。
服がマシュマロのような柔らかい素材のせいか、すぅの肉体の弾力を想起させてしまって……。
僕と二人きりの空間で勉強するというのに、この何も警戒していないすぅの格好はどういうことなんだろう。
僕は男として見られていないのか、それくらい心を開いてくれているのか……。
「リビングでする? それとも私の部屋がいい?」
靴を脱いでスリッパに足を通すと、すぅ独特のゆったりとした甘い声で質問される。
すぅは勉強する場所を聞いているのに、頭の中には違う行為が浮かんでしまった。
「リビングにしよう。彼女でもない女の子の部屋に僕が入るのは良くないだろ」
「……相変わらず生真面目だよね。谷内くんは」
「馬鹿にしてるだろ」
「ううん。そういうところ昔から尊敬してる」
ほんわかとした笑顔を向けてくるすぅ。
どれだけ、すぅが”女”になっても、この愛らしい笑い方は少しも変わっていない。
それでも少し目線を下げれば、否が応でもバストの膨らみが目についてしまう。
――僕はみんなとは違うはずだ。
「とりあえず、山園の中間テストの答案用紙見せて。どこが特に苦手か確認する。期末まで時間ないから、そこを重点的にやろう。僕と勉強していない時はそれ以外をやって」
「はい。谷内先生」
僕とすぅはリビングルームのソファーの前、ラグの上に座り、ローテーブルで並んで勉強を始めた。
中間の結果を見る限り、国語と英語は問題なさそうだった。
家庭教師外の時間に社会は範囲内の暗記に徹してもらう。
理科はテキストを繰り返し解くことで6割点数を獲得することを目指してもらい、僕が教える時間にわからない問題を聞いてもらうことにした。
問題は数学だった。
数学は基本的に積み重ねの科目だ。
一朝一夕で知識が深まるわけではない。
「僕が使ってるテキストと同じの買っておいてくれる? 今回の期末は応用を捨てて基本と標準問題を繰り返し解けば平均点は確実にとれる。期末テストが終わったら一度、中1のテキストで学び直したほうがこれから学ぶ単元も頭に入ってきやすくなると思う」
僕が自分のテキストから目を離して、隣のすぅを見遣ると、すぅは僕の顔をジッと見つめていた。
潤んでいるような、大きな垂れ目で黙ったまま……。
僕の”男”の何かが刺激されるような目。
「谷内くんって本当に優しいよね。大変そうだけど頑張ってみる」
「期末テストまでだから」
「わかってるわよ」
僕は存外にちょろかった。
部活にも力をいれてたし、健康管理のために少し性能の良いスマートウォッチを僕は欲しがっていた。
とは言え、中学には校則でつけていけないけど。
すぅへの家庭教師。
二人きりで勉強するのか?
すぅがそばにいて、落ち着いて勉強を教えることなんてできるのだろうか?
――僕は違う。
すぅをいやらしい目で見てエロいだの何だのと、ところ構わず騒ぎ立てる男たちとは違う。
己の欲望を優先して、すぅを手に入れようとする男たちとは違う。
――そんな自負……。
それに、中学に入ってから一年以上も疎遠だったから、すぅと関われるきっかけが出来たことに気持ちが浮ついている自分を否定できなかった。
週明けの月曜、すぅに勉強を教える1回目の放課後がやってきた。
部活がない日でも、いつもホームセンター横の広場で壁打ちをやっていたから今日も同じ場所へ足を向けて同じ行動をとっていた。
すぅに勉強を教えるために1時間に限定して。
けれど、何か集中力に欠ける……。
――ちょっと待てよ。
すぅに家庭教師するってことは、すぅとの距離が近いってことだ。
こんなに蒸し暑い屋外で汗をかいて、においがしたりしないだろうか。
制汗スプレーや汗拭きシートなど、僕も清潔感には気を遣っているけれど……。
僕は1時間やろうと思っていた自主練を30分に短縮して、自宅に帰ってシャワーを浴びることにした。
すぅの自宅411号室に向かったのは本当に久しぶりだった。
幼い時から親同士にくっついて遊ぶとしても、僕の自宅に来ることが圧倒的に多かっただけに……。
すぅの自宅扉の横のインターフォンを鳴らす。
バカみたいに緊張してないか、僕……。
中から扉が開かれ、すぅが顔を出した。
「……本当に引き受けてくれるんだ」
すぅは髪をルーズに一つでくくっていて、身体に沿ったふわふわした素材のワンピースを身に着けていた。
いかにもリラックスしていましたという無防備な姿が的確に僕の心拍数を上げてくる。
「インターフォンで相手を確認してから扉を開けなよ。僕じゃなかったらどうするつもりだよ」
「あお……谷内くんは昔から時間を分単位できっちり守る人だったでしょ」
あれほどすぅとは距離が出来ていたのに、言外に僕との付き合いの長さや深さを語られて、息がつまる。
「……す……山園一人?」
「……うん。お母さんは最近、出社勤務ばかりだよ。出張も多いかな」
「へえ」
「遠慮しないで入って。谷内くん」
すぅと二人きり……しかも、すぅはこんなに身体のラインが浮き出たルームワンピースを身につけている。
服がマシュマロのような柔らかい素材のせいか、すぅの肉体の弾力を想起させてしまって……。
僕と二人きりの空間で勉強するというのに、この何も警戒していないすぅの格好はどういうことなんだろう。
僕は男として見られていないのか、それくらい心を開いてくれているのか……。
「リビングでする? それとも私の部屋がいい?」
靴を脱いでスリッパに足を通すと、すぅ独特のゆったりとした甘い声で質問される。
すぅは勉強する場所を聞いているのに、頭の中には違う行為が浮かんでしまった。
「リビングにしよう。彼女でもない女の子の部屋に僕が入るのは良くないだろ」
「……相変わらず生真面目だよね。谷内くんは」
「馬鹿にしてるだろ」
「ううん。そういうところ昔から尊敬してる」
ほんわかとした笑顔を向けてくるすぅ。
どれだけ、すぅが”女”になっても、この愛らしい笑い方は少しも変わっていない。
それでも少し目線を下げれば、否が応でもバストの膨らみが目についてしまう。
――僕はみんなとは違うはずだ。
「とりあえず、山園の中間テストの答案用紙見せて。どこが特に苦手か確認する。期末まで時間ないから、そこを重点的にやろう。僕と勉強していない時はそれ以外をやって」
「はい。谷内先生」
僕とすぅはリビングルームのソファーの前、ラグの上に座り、ローテーブルで並んで勉強を始めた。
中間の結果を見る限り、国語と英語は問題なさそうだった。
家庭教師外の時間に社会は範囲内の暗記に徹してもらう。
理科はテキストを繰り返し解くことで6割点数を獲得することを目指してもらい、僕が教える時間にわからない問題を聞いてもらうことにした。
問題は数学だった。
数学は基本的に積み重ねの科目だ。
一朝一夕で知識が深まるわけではない。
「僕が使ってるテキストと同じの買っておいてくれる? 今回の期末は応用を捨てて基本と標準問題を繰り返し解けば平均点は確実にとれる。期末テストが終わったら一度、中1のテキストで学び直したほうがこれから学ぶ単元も頭に入ってきやすくなると思う」
僕が自分のテキストから目を離して、隣のすぅを見遣ると、すぅは僕の顔をジッと見つめていた。
潤んでいるような、大きな垂れ目で黙ったまま……。
僕の”男”の何かが刺激されるような目。
「谷内くんって本当に優しいよね。大変そうだけど頑張ってみる」



