【中編】ブルー、ステイ、サイド

 「――同じマンションってだけ。ありがとな、”山園”」

 あおくんは場を静めるように言葉を放ち、私にお礼を伝えた。
 この場はそう伝えるのが正解だろうと私も思うけれど。

 「山園は全く僕の好きなタイプじゃないから。付き合うなんて考えられないよ」

 続いたあおくんの言葉に私は大きなダメージを与えられる。

 「じゃあ谷内の好みのタイプってどんな子なんだよ?」
 「尊敬できる子」
 「それじゃ真面目すぎてつまんねぇよ。見た目は? 髪の長さとか」
 「かわいらしい子、かな。髪は似合っていれば何でも。でも長すぎないほうがいい」

 鼓膜を塞がれたように、あおくんが交わしている会話がやけに遠くで響いていた。
 あおくんは私のことなんて何とも思っていない。
 それを思い知らされた。
 本当はわかっていたのに確かめる勇気がなくて曖昧にし続けて、もしかしたら希望があるかもってすがっていたかっただけ。
 そこからの数日、小学校の卒業式でさえ消化試合のように記憶が定かではなくて。
 ――あおくんは中学に入ったら、また世界が広がって、今まで以上に女の子にモテるだろう。
 あおくんは社交的なタイプではないのに、自然と人が集まってきて、目立って、きっと中学でもそんな立ち位置になる。
 いろんな女の子があおくんを好きになって、彼女が出来て、私なんて記憶の片隅にすら置いてもらえないのかもしれない。
 髪だって、あおくんがあの三つ編みの女の子のお人形をかわいいって言ってたからずっと伸ばしてきたのに長すぎない子がいいって言ってたし……。
 ――切ろうか、髪。
 この長さを綺麗に保つのに、どれだけ苦労が必要だったか……。
 もう肩くらいまでばっさり切ってしまおう。
 髪を切ることで厄払いではないけれど、過去の弱気な自分と決別できるような気がして。
 どうせ制服のセーラー服ではもう膨らんだ胸元だって隠せない。
 小学校卒業を迎え、またサイズアップしてブラジャーを買い直す必要があったほど、まだ私の胸は成長を遂げている。
 ずっと眼鏡できたけれど、中学入学を機にコンタクトに変えてみようか。
 とっくに成長して買い替えているものの、私はあおくんが選んでくれたファースト眼鏡を部屋に飾り続けていた。
 あおくんに少しでも”かわいらしい子”だって思ってほしい。
 あおくんに振り向いてもらえるくらいかわいくなりたい。
 中学入学を契機に私は自分の外見から今までと変えてみることにした。
 ――そうしたら今までと変わりすぎてしまって……。
 私の容姿は自分が思っていた以上に人目を引きやすかった。

 「あの新入生の子、めちゃくちゃ可愛い」
 「ていうか、おっぱい大きくない?」
 「歩いてるだけで揺れてるのわかるのやば」
 「あの子、山園澄玲ちゃんだって」
 「彼氏とかいるのかな」

 自分の顔立ちがたぬき顔と呼ばれる流行りのもので、丸顔も垂れ目も気にしていたのに異性受けが良いことを知った。
 セーラー服でも目立つ胸元の膨らみも相まって男子からの性的な興味が入り混じった視線を向けられる。
 それは女子からは”あざとい”に変換されるらしく、遠巻きにされるようになって、新しい友だちはできなかった。
 私は入学して間もないうちから主に3年の先輩から声をかけられたり、告白をされるようになっていて。
 私の名前は同級生のみならず、上級生に知れ渡っていた。
 でも、そんな注目を浴びる自分の立ち位置が本当は内気な自分を置いてきぼりにしているようで未だに違和感があって。
 ――私はあおくんにだけ、かわいいって思ってもらえたらそれでいいのに……。
 中学に入学して、あおくんは男子ソフトテニス部に所属していた。
 クラスだってあおくんは1組、私は7組で教室のある階数さえ違うのに、あおくんの話題は友だちのいない私にさえ届く。

 「1組の谷内蒼斗くんってかっこいいよね」
 「あー、テニス部の? 確かに! 一年の中では一番かっこいいと思う」
 「陸上部の先輩たちもテニス部にイケメンの一年生がいるって騒いでた」

 あおくんとはクラスも離れたし、私も女子ソフトテニス部に入部しようかとも考えた。
 けど、4月の仮入部の時にソフトテニス部の女の先輩たちから一年の中で私にだけ歓迎しないオーラを出されて断念するしかなく。
 私の見た目が変わっても、私が中学で男子に告白されるようになったとしても、あおくんは相変わらず私に関心がないみたいだった。
 廊下ですれ違った時には目が合ったと思った次の瞬間には逸らされてしまう。
 ――結局、何も変わらないんだ……。
 正直、男子には告白され慣れてきている自分も居た。
 好きな人がいるからと断ると、たいていの人がそこで終わるけれど、

 「これで諦めるから一回だけ記念におっぱい揉ませてくれない?」

 なんて、言われる時も何度かあった。

 「無理です」

 私の顔は素直で従順そうな印象を与えるみたいだけれど、断る時はきっぱり断っていたから、「お前なんかヤリ捨て要員だろ」なんて最後に暴言を吐かれることもあった。
 あおくんに近づけないだけじゃなくて、そういう対応にも疲れ始めていた夏休み間近の1学期が終わりに迫った頃。
 蒸し暑い日の放課後、体育倉庫の前に呼び出された。
 一学年上の折口(おりぐち)先輩。
 明るい髪色に、左耳に2つつけられたフープピアスは折口先輩の象徴のようなもので、よく先生に身なりを注意されていた。
 余り同じ中学に居ないタイプの派手な外見で顔も整っていたから、一年生の間でも有名な人だ。
 この人にも告白されるのかな……なんて思ったけど、折口先輩に言われたのは驚くべきものだった。

 「これ、なーんだ」