それと同じくらいの頃、私にはもう一つの悩みがあった。
それは私の胸がどんどん膨らんでいくこと……。
最初はカップがついている肌着に近いもので大丈夫だったけれど、小6に上がる頃にはティーン用ではサイズがなくなり、しっかりとバージスラインを支える大人がつけているのと同等のものを買う必要があるほど、大きく膨らんでいた。
そして、その胸が異性の目を集めやすいってことも何となく出かけた時に肌でわかってきて居心地が悪かった。
ママとブラジャーを買いに行っても、「え? これで小学生なんですか?」と女性の店員さんが遠慮なしに驚くことも、自分が他の子とは違うんだと認識させられて、すごく嫌だった。
「澄玲は誰に似たのかしらね。ママの家系はそんなに大きいほうじゃないから」
「どうにかして小さく見せる方法ないの? ママ」
「体のラインに沿わない服を着てごまかすくらいかしらね。でも、ここまで大きくて綺麗な胸は直に澄玲にとって強力な武器になるわよ。うらやましいくらいだわ」
ママは私の悩みを真剣に取り合ってくれない。
それも自分の理解者がいないようでつらかった。
強力な武器の意味もわからなくて、ただひたすらコンプレックスでしかない。
この同級生より膨らんだ胸を誰かに指摘されるんじゃないかって、いつも気にしていた。
専門店でブラをフィッテイングしてもらって、だいぶ良くはなったけれど、少し動けば胸が揺れて気になるし、激しく動くと胸の芯の部分に痛みを感じたり、常に肩から背中の上部にかけてのラインに筋肉が張っている感覚もあった。
大きな胸を小さく見せるブラもあるみたいだけど、まだ小学生で発育途上だということもあっておすすめしないと言われてしまう。
とにかくだぼっとしたゆるめの服を選んで周りにバレないようにして。
体操服も体格の良い子が着るような一番大きいサイズを購入し直してもらった。
この頃には、あおくんとの関わりはほぼ無くて。
廊下ですれ違っても、私を視界にもいれてくれなかった。
ある日の放課後、下校した時にマンションのエレベーターであおくんと乗り合わせた。
あおくんは先に乗っていて、出入口付近の階数ボタンの前に立っている。
「あっ……」
あおくんはエレベーターに乗りこむ私を一瞥しただけで目を逸らしてしまう。
気まずく思いながら、私はエレベーターの奥に立った。
エレベーターの扉が閉まって浮上していく。
――あおくん、身長伸びたな。
同級生の男の子たちと一緒にいても頭ひとつ抜けている。
細身だけど、肩幅だって昔より広くなった。
声も前より低くなって……。
――知らない男の子みたい。
私はあおくんと二人きりだということにドキドキしながらも、せっかくの機会だから、なけなしの勇気を振り絞って、あおくんの後ろ姿に話しかけてみることにした。
「あおくん。パパが新しいゲーム買ったの。もしよかったら、これから家に来て一緒にやらない?」
元気にふるまったつもりなのに、自分でも声が震えていたのがわかった。
「――同じクラスの友だちと遊ぶから無理」
あっさりと断られて、胸をギュッと絞られたような痛みが走る。
「同じクラスって女の子もいるの?」
自分でもしつこく聞いてしまったのはわかっていた。
でも、気になって仕方なかった。
「関係ないだろ」
あおくんに冷たく突き放されて反射的に涙が零れてしまう。
「じゃあね、あおくん」
私が住む4階につくやいなや、泣いているのがばれないように俯いて足早にエレベーターから脱出した。
廊下を進んで、家の鍵を開けて、そのまま私はランドセルをフローリングに投げ捨ててベッドにダイブした。
「……言わなければ良かった……」
とめどなく涙が溢れてくる。
あんなに近くにいたはずなのに、どうしようもないくらいあおくんとの距離を感じて……。
私には冷たく接しても良いと思われるくらいにどうでもいい存在なんだとあおくんに言われている気がした。
あと数日で小学校の卒業式を迎えるという日。
登校しようと思ったら、マンションのエントランスにあおくんのママが居て、あおくんが忘れた水筒を届けるように頼まれた。
あおくんと関われるきっかけが出来た期待と、また冷たくされるのではないかという不安で、小学校までの足取りは重くなる。
あおくんの教室は6年2組。
そっと覗いてみると、あおくんはやっぱりクラスの中心に居て、周りに人がたくさん集まっている中で談笑していた。
男の子だけじゃなくて女の子も居る。
大人数で盛り上がっているところに入っていくなんて空気の読めないことはしたくない。
それに2組って何となく男女ともに強めのメンバーが揃っている。
あおくんの水筒を両手で持ったまま、右往左往しつつ、そっと教室の中に足を踏み入れた。
もうすぐ朝の会が始まる時間になってしまう。
どうしようかと思っていた時だった。
「うわっ! びっくりした!」
一人の男の子が私の存在に気付いたみたいで大きな声を出す。
思わず肩が跳ね上がった。
「えっ……と、誰……だっけ?」
1学年に150人以上いる小学校だから、全員の名前と顔は覚えきれていないけれど、それでもそう言われてしまうと、自分の影の薄さを再認識してしまう。
「4組の山園さんだよ」
「ああ、そうなんだ? 何か2組に用事?」
私に集中した無数の視線に、追い詰められて平常心が失われていく。
「えっと、これ、あおくんのママから持って行ってくれってマンション出る時に頼まれて……」
慌てた私は落ち着きを失い水筒を持ったまま、あおくんのところに足早に近づいた。
あおくんは私を見つめたまま、少し驚いたように目を瞠っている。
「え? 谷内って山園に”あおくん”って呼ばれてんの?」
「二人どういう関係?」
「付き合ってたりする?」
「何だよ。みずくさいじゃん。早く言ってくれよ」
男の子たちが一斉に冷やかしの言葉を次々と放つ。
私、みんなの前で”あおくん”って言っちゃった……。
後悔しても、もう遅い。
女の子たちは敵意のこもった視線で私を突き刺して、男の子たちはあおくんをからかっている。
あおくんに迷惑をかけてしまった。
どうしたらいいのかわからなくなって、足元が震えだしそうなくらい、私は青くなっていた。
それは私の胸がどんどん膨らんでいくこと……。
最初はカップがついている肌着に近いもので大丈夫だったけれど、小6に上がる頃にはティーン用ではサイズがなくなり、しっかりとバージスラインを支える大人がつけているのと同等のものを買う必要があるほど、大きく膨らんでいた。
そして、その胸が異性の目を集めやすいってことも何となく出かけた時に肌でわかってきて居心地が悪かった。
ママとブラジャーを買いに行っても、「え? これで小学生なんですか?」と女性の店員さんが遠慮なしに驚くことも、自分が他の子とは違うんだと認識させられて、すごく嫌だった。
「澄玲は誰に似たのかしらね。ママの家系はそんなに大きいほうじゃないから」
「どうにかして小さく見せる方法ないの? ママ」
「体のラインに沿わない服を着てごまかすくらいかしらね。でも、ここまで大きくて綺麗な胸は直に澄玲にとって強力な武器になるわよ。うらやましいくらいだわ」
ママは私の悩みを真剣に取り合ってくれない。
それも自分の理解者がいないようでつらかった。
強力な武器の意味もわからなくて、ただひたすらコンプレックスでしかない。
この同級生より膨らんだ胸を誰かに指摘されるんじゃないかって、いつも気にしていた。
専門店でブラをフィッテイングしてもらって、だいぶ良くはなったけれど、少し動けば胸が揺れて気になるし、激しく動くと胸の芯の部分に痛みを感じたり、常に肩から背中の上部にかけてのラインに筋肉が張っている感覚もあった。
大きな胸を小さく見せるブラもあるみたいだけど、まだ小学生で発育途上だということもあっておすすめしないと言われてしまう。
とにかくだぼっとしたゆるめの服を選んで周りにバレないようにして。
体操服も体格の良い子が着るような一番大きいサイズを購入し直してもらった。
この頃には、あおくんとの関わりはほぼ無くて。
廊下ですれ違っても、私を視界にもいれてくれなかった。
ある日の放課後、下校した時にマンションのエレベーターであおくんと乗り合わせた。
あおくんは先に乗っていて、出入口付近の階数ボタンの前に立っている。
「あっ……」
あおくんはエレベーターに乗りこむ私を一瞥しただけで目を逸らしてしまう。
気まずく思いながら、私はエレベーターの奥に立った。
エレベーターの扉が閉まって浮上していく。
――あおくん、身長伸びたな。
同級生の男の子たちと一緒にいても頭ひとつ抜けている。
細身だけど、肩幅だって昔より広くなった。
声も前より低くなって……。
――知らない男の子みたい。
私はあおくんと二人きりだということにドキドキしながらも、せっかくの機会だから、なけなしの勇気を振り絞って、あおくんの後ろ姿に話しかけてみることにした。
「あおくん。パパが新しいゲーム買ったの。もしよかったら、これから家に来て一緒にやらない?」
元気にふるまったつもりなのに、自分でも声が震えていたのがわかった。
「――同じクラスの友だちと遊ぶから無理」
あっさりと断られて、胸をギュッと絞られたような痛みが走る。
「同じクラスって女の子もいるの?」
自分でもしつこく聞いてしまったのはわかっていた。
でも、気になって仕方なかった。
「関係ないだろ」
あおくんに冷たく突き放されて反射的に涙が零れてしまう。
「じゃあね、あおくん」
私が住む4階につくやいなや、泣いているのがばれないように俯いて足早にエレベーターから脱出した。
廊下を進んで、家の鍵を開けて、そのまま私はランドセルをフローリングに投げ捨ててベッドにダイブした。
「……言わなければ良かった……」
とめどなく涙が溢れてくる。
あんなに近くにいたはずなのに、どうしようもないくらいあおくんとの距離を感じて……。
私には冷たく接しても良いと思われるくらいにどうでもいい存在なんだとあおくんに言われている気がした。
あと数日で小学校の卒業式を迎えるという日。
登校しようと思ったら、マンションのエントランスにあおくんのママが居て、あおくんが忘れた水筒を届けるように頼まれた。
あおくんと関われるきっかけが出来た期待と、また冷たくされるのではないかという不安で、小学校までの足取りは重くなる。
あおくんの教室は6年2組。
そっと覗いてみると、あおくんはやっぱりクラスの中心に居て、周りに人がたくさん集まっている中で談笑していた。
男の子だけじゃなくて女の子も居る。
大人数で盛り上がっているところに入っていくなんて空気の読めないことはしたくない。
それに2組って何となく男女ともに強めのメンバーが揃っている。
あおくんの水筒を両手で持ったまま、右往左往しつつ、そっと教室の中に足を踏み入れた。
もうすぐ朝の会が始まる時間になってしまう。
どうしようかと思っていた時だった。
「うわっ! びっくりした!」
一人の男の子が私の存在に気付いたみたいで大きな声を出す。
思わず肩が跳ね上がった。
「えっ……と、誰……だっけ?」
1学年に150人以上いる小学校だから、全員の名前と顔は覚えきれていないけれど、それでもそう言われてしまうと、自分の影の薄さを再認識してしまう。
「4組の山園さんだよ」
「ああ、そうなんだ? 何か2組に用事?」
私に集中した無数の視線に、追い詰められて平常心が失われていく。
「えっと、これ、あおくんのママから持って行ってくれってマンション出る時に頼まれて……」
慌てた私は落ち着きを失い水筒を持ったまま、あおくんのところに足早に近づいた。
あおくんは私を見つめたまま、少し驚いたように目を瞠っている。
「え? 谷内って山園に”あおくん”って呼ばれてんの?」
「二人どういう関係?」
「付き合ってたりする?」
「何だよ。みずくさいじゃん。早く言ってくれよ」
男の子たちが一斉に冷やかしの言葉を次々と放つ。
私、みんなの前で”あおくん”って言っちゃった……。
後悔しても、もう遅い。
女の子たちは敵意のこもった視線で私を突き刺して、男の子たちはあおくんをからかっている。
あおくんに迷惑をかけてしまった。
どうしたらいいのかわからなくなって、足元が震えだしそうなくらい、私は青くなっていた。



