天狗の神様の契約花嫁

 朝餉は梅が話したように、松とその伴侶のおかげか豪華な食事が並んでいる。
 タラの西京漬にだし巻き卵、青菜の胡麻和えにすまし汁、豆とひじきの煮物、それに十六穀米という健康にも配慮された大変すばらしい豪華な食事だった。
「おはよう、メノウ。とっても元気そうで良かったわ。さぁ、しっかり食べるのよ」
 天宇受売命様がそれは楽しそうに声をかけてくれる。
「おはよう。メノウ。昨日より顔色も良いし、天宮の気に馴染んでいるね。良いことだ、ここの長老の藤に気に入られたようだね。良き巫女姫が迎えられて佐彦も安泰だな」
 猿田彦神も落ち着いてはいるものの、嬉しそうに声をかけてくれる。
 朝からこんなに和やかに落ち着いて食事を迎えられるのは一体いつぶりのことだろうか。
 つい、そんなことを考えてしまうがとにかくとっても素敵な朝餉の時間を堪能しなくては。
 私も笑顔で天宇受売命様と猿田彦神に答える。
「しっかり頂きますね、お母様」
 そう答えれば、お母様である天宇受売命様はとても嬉しそうに微笑む。
「藤の木はとっても優しかったです、お父様」
 私の返事に猿田彦神も満足そうに笑みを浮かべてくれた。
 食堂はそこそこの広さがあるものの、食事する人の顔が見れる円卓になっておりその距離感は近く雰囲気も明るい。
 一ノ宮の母屋の食堂は無駄に長いテーブルに父と義母と異母妹が座っていたが、距離もあり話ながら和気あいあいと食べると言った雰囲気ではなかった。
 天宮のお屋敷は大きな屋敷にもかかわらず互いの距離も近く、穏やかな雰囲気のまま皆で食事を味わうそんな空間であった。
 使用人たちである、神使もみな穏やかであり天宮の大屋敷の雰囲気は昨日から変わることなく温かい。
 円卓に座り、皆で朝餉を頂く。
 すまし汁はしっかりと出汁の風味が効いていてとっても美味しい。
 ホッとする味に、思わず息をつくとお母様もお父様も佐彦様も安心した様に私を見ていた。
「うちの食事が口にあったみたいで良かったよ。松たちに今後もしっかり頼まねばならないね」
 そんな佐彦様の言葉に控えていた梅は頷くと答えた。
「もちろん、今後も精進させていただきますね。母もメノウ様がお気に召したと分かれば、ますます料理に磨きをかけることでしょう」
 そんな梅の回答に佐彦様は満足そうに頷く。
「メノウは、今まであまり量を食べられていなかったようだから、少しづつ増やしていかねばなるまいよ。そういったことも松なら安心だからね。梅も頼んだよ」
 そんな言葉に梅は嬉しそうに頭を下げて答えている。
「はい。梅と鈴でしっかりメロウ様にお仕えいたします」
 そんな会話のされる中で、美味しい朝餉をしっかり頂く。
 確かに、今まで質素倹約といえば聞こえはいいが、財閥令嬢にあるまじき食卓と食事量だったことは間違いがなく十七歳という年齢の割に私はやや発育不良気味なのは間違いない。
 身長は156まで伸びでくれたが、女性らしさには欠けるというか。
 和装だとあまり気にならないが、くびれはあれど丸みがないのでストーンと真っすぐなのだ。
 同じような生活でも千佳子は出るとこ出ていたので、体質とか遺伝もあるのかもしれないけれど。
 天宇受売命様は女神様であり、舞姫でもあるのでつまりプロポーションは完璧なのである。
 そんなお母様と比べたら、私はおこちゃま体型なのである。
 眩しいと思うほどに容姿端麗な佐彦様と並んでもかなりの差になってしまうと思うとそこがいたたまれないと感じてしまう。
 母は黒髪に群青の瞳の美しい人だったそうで、そこだけは一ノ宮の父も気に入っていたとか使用人たちがささやいていたのを聞いたことがあるが、そんな母には似なかった白銀に紫の瞳では近寄らなかったのも無理はないのかもしれない。
 父の色も母の色も持たなかった私。
 それがそもそもの巫女の証と言われてしまえばそれまでなのだけれど。
 母も実家では庶子として冷遇されてたからこそ、巫女の証のある私を絶対に実家に渡さないようにとは思っていたとか。
「それにしても、一ノ宮も白鷗も目が悪い者たちの集まりだったのね。あなたの母である和代さんも神様の嫁にはなれないけれど立派に巫女としての能力を発揮できた娘だったわ。先見の力も稀有な物で、本来白鷗の家で重宝されるべき娘だったわ」」
 食事がすみ、お茶の時間になったところでお母様が私の母について、そして白鷗家と一ノ宮家について話し始めた。
「今代の白鷗の当主は能力なしの金の権化だからな。その息子と娘もしかりで、能力はほぼ皆無。メノウの母くらいしか能力持ちの子が出来なかったのに外に放逐して見限った。そこから白鷗はすでに斜陽を辿っておる。そして一ノ宮も神の花嫁たる娘をぞんざいに扱った。これから一気に傾くであろうな。あの家はメロウが居たから栄えていたにすぎぬ」
 そんなお父様の発言にお母様も頷いている。
「神の花嫁である巫女が居る場所は気が清浄化されて自然と栄える物なのよ。そんな福音の娘をぞんざいに扱っていたことはそこに生きる者たちが目撃者。自然とそこからその娘が居無くなれば衰退するのは当たり前。楽しみねぇ、これこそ因果応報というのよ」
 そんなお父様とお母様の言葉は神様らしい、救いもあれば神罰もなるのが世の中。
 理に外れればそれ相応の報いを受けるのも当然なのだ。
 だからこそ、義母も異母妹もこれから苦労するのでしょう。
 私はきっとこれからだと思う。
 私らしく居られる場所と人々にようやく巡り合えたのだから。