天狗の神様の契約花嫁

 私たちには理解できないけれども、彼には彼の主張があるのでしょう。
 しかし、それに賛同する者も少なからずいるのが厄介なのだ。
 希望と結婚しようとした男爵だったり、他にもいろいろ。
 そしてそういったところに目を付け仲間にしていくことに関しては、香風の君は上手く立ち回っているようだった。
 どこにでもいる次男、三男などの跡取り以外の嫡子には香風の君と同じように先に産まれただけでという言葉を思い起こすことがあるのだろう。
 だからか、香風の君に共感し香風の君が皇帝になることを望む者たちが少なからずいるのだ。
「厄介なのは家督を継ぐ嫡子は一人だから、それが出来なかった下の兄弟って立場の方が人数が多いことよね」
 お菓子の桜餅を食べながら私が言うと、それに千佳子と希望も頷いて同意する。
「私は長女だけれど、妹に弟まで居る。家督は弟が継ぐからと言われれば現状男子しか継げないからそうだよねで終わるけれど、男同士で兄と弟だと複雑なのかなというのは理解できるの。でもそれで国をひっくり返す謀反を起こそうとするのは理解できない」
 希望がこの中では一番兄妹も多く香風の君の立場も考えやすいと思ったが、やはり謀反を起こすまでの行動になるのは理解できないらしい。
「私は一人っ子ですし、なにかを継ぐような立場にないので分かりませんが、国がひっくり返るのは一国民として困る出来事なので嫌ですね。民の感想はこんなもんですよ。安定した暮らしが出来ればいい、そのための仕事そしてくれる皇帝なら誰でもいいけれど、それをひっくり返すような問題行動を起こす者が次の皇帝だと言われると、納得はしないと思います。だって、自分の我を通すためなら力ずくでやってやるって行動で示している人に安心感なんてもてないでしょう?」
 千佳子の言葉を聞いて、私もすっかり納得した。
 そうよ、問題行動を起こした人物がトップに立って誰が安心できるというのか。
 謀反を起こすような問題人物に国を委ねたいと思う人はいないのではないだろうか。
 国の人口の八割は平民なのである。
 そんな方々が、謀反を起こす皇族にトップに立たれることを良しとはしないのは当たり前なのだ。
「すごいわ、千佳子。私がもやもやしていた部分をはっきり言語化してくれたわ。そうよね、謀反を起こすような人物に国のトップに立たれて安心できるわけがないのよ。だって問題行動を起こす人物だってそこに辿り着くまでに行動で示しているものね」
 私の返事に希望も頷いて同意を示す。
「確かに、千佳子の言う通りだわ。そんな問題行動で立場を得た人を信用できるわけがないのよね。もっと国に対していい政策とかで示せば国民も納得の皇帝になるかもしれないけれど。今の皇帝も国をよく考え民を想って様々な政策をしているから国民は不満が無いわ。そんな中で謀反を起こせば、ますますそんな行動をとる人物を貴族も国民も認めないと思うのよ」
 私たちの会話が聞こえたらしい、藤の木のおばあちゃんは楽しそうに微笑んで現れた。
『巫女姫たちの会話が正解だねぇ。国民は今の皇帝に不満はない。だからこそ、そんな皇帝を辞めさせるような行動をとった人物を怪しんでしか見れず、不安が重なり国は悪い方に傾いていく。それを戻していくような手腕は問題行動を起こす人物には備わっていない。正しく、皇帝の器にあらずじゃな』
 藤の木のおばあちゃんの言葉がすべてを物語っている。
 それでもすでに走り出している彼らはもう止まれないのかもしれない。
 見て見ぬふりなのか、意地なのか諦めなのか。
 もしかしたらすべてなのかもしれない。
 とにかく、私は自分が利用されるのはごめんなのでこの幽世のお屋敷から事態を見守るしかない。
 歯がゆいが、もう止まらせる地点はだいぶ昔に過ぎ去っており今更止めることは不可能なのだろうと察するしかなかった。
 私は、別に今の皇帝と面識があるわけでもないがこの謀反の動きを察知していないということはないだろうと思っている。 
 そして、それは外れていなかったことがのちに分かることになる。

 春を迎える前に、貴族の子女子息を集めたデビュタントの舞踏会がある。
 それは女学館や、高等学校を卒業した貴族の子ども達を集めて行う祝いでもある。
 そしてその場には婚約者か家族のエスコートが必須。
 その場で上手く巫女の力を引き出してやろうと考えていたらしい香風の君は舞踏会の会場に到着したところで私や希望が女学館を退学し卒業しなかったことで今日の舞踏会にそもそも不参加であることを把握したらしい。
 情報収集が疎かすぎる。
 卒業生に関しては公表するのもこの舞踏会でというのが決まりだから、情報を引き出せなかったのでしょう。
 白鷗家も家は既にもぬけの殻だし、ご家族と接触出来ようはずもない。
 天宮の幽世のお屋敷にみんな避難中なのだから。
 そして私もそこから出ていない。
 お屋敷でお仕事も完結してしまうから、出る必要もない。
 現世の使用人と幽世の神使達で物のやり取りも可能だから、買い物に出るという必要もない。
 そして全く表に出ない若奥様になっていても天宮家はなにも困らない。
 だって、神様もお仕事の付喪神や生き物の穢れ払いのお仕事はお屋敷で手伝っているから。
 遠隔地の状況だって聴感覚と藤のおばあちゃんの協力があれば各地の状況まで把握できて、どこで誰が困っているというのを佐彦様やお父様お母様に伝えられるのだから。

 そうして巫女は全くいないままに始まった舞踏会で、香風の君は第三皇女を人質にとり皇帝に退位を迫った。
 実にお粗末なそれは既に把握されており、皇女の中で一番の武闘派の第三皇女は大人しく捕まったふりをして鮮やかに急所を蹴り上げて倒れた香風の君を取り押さえて護衛騎士に差し出したのだという。
 なんともあっけない幕切れだが、その間にも近衛と護衛騎士達で香風の君の腰ぎんちゃくたちも次々捕らえて行った。
 中には小型爆弾まで持ち込んだ危ないやつもいたので、いっきに捕縛して皇族殺害容疑で逮捕と相成った。
 これは巫女姫の力を上手く仕えなかった時の作戦として既に香風の君の周囲で決められていた作戦だったために私は藤のおばあちゃんを通じて第三皇女へ通達。
 第三皇女殿下も周辺のきな臭さにはお気づきだったので、わざと捕まって捕縛の功労者になるつもりだったということで上手く運んだらしい。
 事の顛末についてしっかりと報告のお手紙をこれまた藤のおばあちゃん経由でいただいたので、詳細を把握することが出来た。
 これで、謀反は動き出す前に封じられて終わった。
 国民には安心で平和な皇帝の御代が続くこととなったのである。
「ケガもなく、被害も少なく事件は解決。今の皇族は皇帝とその子どもたちがしっかりしているから盤石よね。良いことだわ」
 お茶を飲みながら読んだ手紙の感想だ。
「第三皇女殿下は合気道に空手の有段者でどちらも黒帯ですからね。小柄だと油断すると投げ飛ばされますもの」
 体育の授業で、相手をしたときに実際に飛ばされた希望の言葉はしみじみとしていた。
 希望の方が十センチ近く背が高いのに飛ばされたのだから、皇女殿下の身のこなしは護身術というよりすでに武闘の域なのだろう。
 人は見た目で判断できないの実例なのであった。