「藤のおばあちゃんも既に樹木というよりは精霊とかに近いよね?桜のお姉さんとは存在感が違うから、そうじゃないかと思ったんだけれど」
私の言葉に藤のおばあちゃんは頷いて答えてくれる。
『そうさね、二千年近くも生きていると木から派生した土地神に近い精霊になるんだ。私もそれだけ生きたからね、同じくらい長生きなのは皇帝の住まう皇宮の楠くらいかねぇ。あの子もそろそろ精霊になる頃さ』
確かに皇国は千年の歴史を誇る。
皇宮も国が確立したころにできて、大きくなったものの場所は移動していない。
そこに育っている楠ならば、たしかに齢千年を超えて精霊になるのも頷ける。
『初代の皇帝が自分の息子が産まれたときに、息子と一緒に大きくなって国を支えていくようにと植えた楠さ。皇族をずっと見守ってきたあの子にとっては香風の君も同じく子どもたちだ。しんどいだろうね』
ぽつりと藤のおばあちゃんが呟いた。
見守ってきた子たちが争う姿は見たくないだろう、だがこれから皇宮は荒れる。
少しでも回避する術はないのだろうか?そう考えてしまうのは私が人間側にまだ立っているからだろうか。
「お父様とお母様と佐彦様にこの件をお話しても?」
私の声掛けに藤のおばあちゃんは頷き言った。
『把握してほしいので伝えておくれ。かといって神様たちには手出しは許されていない。この件に関われるとしたらこの天宮家では巫女姫のメノウだけ。でも、危険を冒してほしいとは思っておらぬから無茶だけはしないように。少し休む』
話を終えた藤のおばあちゃんはスッと藤の木へ溶け込んだ。
立派な藤棚の藤のおばあちゃんに触れて私は既に寝たかもしれないが囁いた。
「悲しい結末を迎えないように、どうにかあがいてみるよ。私や希望さんの幸せもこの件の解決に関わると思うから。神の花嫁に手を出すほど愚かではないと思いたいけれど、人の欲は際限なく深いという話だものね。気を付けるわ」
そうして、私は食堂に向かい夕飯に揃っていたお父様とお母様と佐彦様に藤のおばあちゃんから聞いた皇族に起こりそうな謀反の話を伝えた。
現皇帝の叔父が皇帝になりたがっていること。
しかし皇帝には皇太子にその下にも王子が二人、さらに皇帝自身の弟が居るので叔父にあたる香風の君の皇位継承権順位は五番手であること。
もし、本気で皇帝位を狙いに行くならば皇帝と皇太子とその弟たちが危ないこと。
皇帝の弟は既に隣の国へ婿入りを果たして継承権を維持していても継ぐ気が無い。
自分の子が産まれたら継承権がややこしくなるので継承放棄すると宣言して婿入りしている。
今年の春には子が生まれるので、この隣国の皇帝の弟が継承権放棄した時が謀反のタイミングになると思うことを伝えた。
この辺りの情報は木々がしっかりと教えてくれた。
休みに入った藤のおばあちゃんに変わって桜のお姉さんがしっかりと伝達係を務めてくれたから、情報収集には困らなかった。
そうして得た情報から整理して現状と今後の予測を伝える。
この間の皇族の命に係わる災害だったら伝えることも簡単だったかもしれない。
今回は人が人をどうにかしようとする謀反に関わる問題のためお父様もお母様も佐彦様も困った顔をしている。
藤のおばあちゃんのいう通り神様は人の世に手出しはしない。
見守っていることを知らせる意味で、最低限現世に関わっているお父様とお母様、その次の世代としている佐彦様と私。
私も神様の花嫁という立場で神に近い神人であることを踏まえると、本来この謀反に関して知っても関わるべきではないというのが結論になるのだろう。
でも、この香風の君は白鷗家の巫女の力を知っている。
皇族に産まれ、先代皇帝の弟だった香風の君は先代に今の陛下が産まれるまでは継承権二位だったのだから。
「先代皇帝の弟だった香風の君はそれゆえに白鷗家の巫女について知っています。もちろん、その白鷗家で一番強い巫女である私が天宮家に嫁いだことも。今回の件で私のことも知ったのならば利用しようとしてくる可能性があると思います」
私の言葉に、佐彦様が反応した。
「私の花嫁に手出しなどさせない。メノウには指一本でも触れさせぬ」
そんな佐彦様の腕をポンポンと落ち着くように触りながら私は言った。
「えぇ、神様の花嫁たる私に手を出すほど愚かではないと思いたいです。でも、もし今の巫女である希望さんも手が出せなくなったら?次はどうするでしょうか?」
私の問いかけに、お父様もお母様もハッとして私を見つめる。
だから私は笑って答えた。
「女学館は卒業前ですが退学しましょう。私が表に出れば狙われます。希望さんも出来れば現世の大屋敷ではなく春先の動きが収まるまでは幽世のお屋敷の方で働いてほしいと考えていますが、どうでしょうか?」
私の問いかけにお父様もお母様も頷き同意を示してくれました。
そして佐彦様も頷きながらも悔しそうなお顔をされました。
「せっかく入った女学館を卒業させてやれなくて済まない。楽しみにしていただろうに」
佐彦様に私は言った。
「確かに楽しみにしていましたが致し方ありません。だって、私の身柄を彼方に取られるわけにはいきませんから。秋からの三か月ちょっとでしたが学校生活は楽しめましたから。十分ですよ」
私の言葉に偽りがないことは声音で理解してくれた佐彦様だが、それでもやはり卒業できなかったことを申し訳なく思うらしい。
「あんなに楽しそうに通っていたのに最後まで通えないなんて、本当にすまない」
そう謝ってぎゅっと抱きしめてくれる佐彦様に私も体を捻って抱きしめ返す。
「大丈夫です、今この邸には千佳子も希望さんもいるんですから。女学館に行けなくても生活自体はあまり変わりません。二人に会えるなら学校でなくとも良いのですから」
微笑んで答える私の頭を撫でつつ、佐彦様は言った。
「物分かりが良すぎるのも問題だな。メノウはもっと我儘になって良いい。俺たちには隠す必要はない。感情は素直に発散しろ。いいな?」
佐彦様の声掛けに私は抱き着きつつ頷いて答えた。
「はい、分かりました。やっぱり私は佐彦様が旦那様で幸せ者ですね。ありがとうございます」
こうして、皇族の謀反対策のため私と千佳子と希望さんは同時期に学校を退学した。
既三学年の卒業テストは受けていたが、結果を頂く前に退学の意志を伝えた。
致し方ない判断だったと言っておこう。
しかし、朝から甘いものが明日も続くことだけは副宰相閣下も予測不可能であった「。
私の言葉に藤のおばあちゃんは頷いて答えてくれる。
『そうさね、二千年近くも生きていると木から派生した土地神に近い精霊になるんだ。私もそれだけ生きたからね、同じくらい長生きなのは皇帝の住まう皇宮の楠くらいかねぇ。あの子もそろそろ精霊になる頃さ』
確かに皇国は千年の歴史を誇る。
皇宮も国が確立したころにできて、大きくなったものの場所は移動していない。
そこに育っている楠ならば、たしかに齢千年を超えて精霊になるのも頷ける。
『初代の皇帝が自分の息子が産まれたときに、息子と一緒に大きくなって国を支えていくようにと植えた楠さ。皇族をずっと見守ってきたあの子にとっては香風の君も同じく子どもたちだ。しんどいだろうね』
ぽつりと藤のおばあちゃんが呟いた。
見守ってきた子たちが争う姿は見たくないだろう、だがこれから皇宮は荒れる。
少しでも回避する術はないのだろうか?そう考えてしまうのは私が人間側にまだ立っているからだろうか。
「お父様とお母様と佐彦様にこの件をお話しても?」
私の声掛けに藤のおばあちゃんは頷き言った。
『把握してほしいので伝えておくれ。かといって神様たちには手出しは許されていない。この件に関われるとしたらこの天宮家では巫女姫のメノウだけ。でも、危険を冒してほしいとは思っておらぬから無茶だけはしないように。少し休む』
話を終えた藤のおばあちゃんはスッと藤の木へ溶け込んだ。
立派な藤棚の藤のおばあちゃんに触れて私は既に寝たかもしれないが囁いた。
「悲しい結末を迎えないように、どうにかあがいてみるよ。私や希望さんの幸せもこの件の解決に関わると思うから。神の花嫁に手を出すほど愚かではないと思いたいけれど、人の欲は際限なく深いという話だものね。気を付けるわ」
そうして、私は食堂に向かい夕飯に揃っていたお父様とお母様と佐彦様に藤のおばあちゃんから聞いた皇族に起こりそうな謀反の話を伝えた。
現皇帝の叔父が皇帝になりたがっていること。
しかし皇帝には皇太子にその下にも王子が二人、さらに皇帝自身の弟が居るので叔父にあたる香風の君の皇位継承権順位は五番手であること。
もし、本気で皇帝位を狙いに行くならば皇帝と皇太子とその弟たちが危ないこと。
皇帝の弟は既に隣の国へ婿入りを果たして継承権を維持していても継ぐ気が無い。
自分の子が産まれたら継承権がややこしくなるので継承放棄すると宣言して婿入りしている。
今年の春には子が生まれるので、この隣国の皇帝の弟が継承権放棄した時が謀反のタイミングになると思うことを伝えた。
この辺りの情報は木々がしっかりと教えてくれた。
休みに入った藤のおばあちゃんに変わって桜のお姉さんがしっかりと伝達係を務めてくれたから、情報収集には困らなかった。
そうして得た情報から整理して現状と今後の予測を伝える。
この間の皇族の命に係わる災害だったら伝えることも簡単だったかもしれない。
今回は人が人をどうにかしようとする謀反に関わる問題のためお父様もお母様も佐彦様も困った顔をしている。
藤のおばあちゃんのいう通り神様は人の世に手出しはしない。
見守っていることを知らせる意味で、最低限現世に関わっているお父様とお母様、その次の世代としている佐彦様と私。
私も神様の花嫁という立場で神に近い神人であることを踏まえると、本来この謀反に関して知っても関わるべきではないというのが結論になるのだろう。
でも、この香風の君は白鷗家の巫女の力を知っている。
皇族に産まれ、先代皇帝の弟だった香風の君は先代に今の陛下が産まれるまでは継承権二位だったのだから。
「先代皇帝の弟だった香風の君はそれゆえに白鷗家の巫女について知っています。もちろん、その白鷗家で一番強い巫女である私が天宮家に嫁いだことも。今回の件で私のことも知ったのならば利用しようとしてくる可能性があると思います」
私の言葉に、佐彦様が反応した。
「私の花嫁に手出しなどさせない。メノウには指一本でも触れさせぬ」
そんな佐彦様の腕をポンポンと落ち着くように触りながら私は言った。
「えぇ、神様の花嫁たる私に手を出すほど愚かではないと思いたいです。でも、もし今の巫女である希望さんも手が出せなくなったら?次はどうするでしょうか?」
私の問いかけに、お父様もお母様もハッとして私を見つめる。
だから私は笑って答えた。
「女学館は卒業前ですが退学しましょう。私が表に出れば狙われます。希望さんも出来れば現世の大屋敷ではなく春先の動きが収まるまでは幽世のお屋敷の方で働いてほしいと考えていますが、どうでしょうか?」
私の問いかけにお父様もお母様も頷き同意を示してくれました。
そして佐彦様も頷きながらも悔しそうなお顔をされました。
「せっかく入った女学館を卒業させてやれなくて済まない。楽しみにしていただろうに」
佐彦様に私は言った。
「確かに楽しみにしていましたが致し方ありません。だって、私の身柄を彼方に取られるわけにはいきませんから。秋からの三か月ちょっとでしたが学校生活は楽しめましたから。十分ですよ」
私の言葉に偽りがないことは声音で理解してくれた佐彦様だが、それでもやはり卒業できなかったことを申し訳なく思うらしい。
「あんなに楽しそうに通っていたのに最後まで通えないなんて、本当にすまない」
そう謝ってぎゅっと抱きしめてくれる佐彦様に私も体を捻って抱きしめ返す。
「大丈夫です、今この邸には千佳子も希望さんもいるんですから。女学館に行けなくても生活自体はあまり変わりません。二人に会えるなら学校でなくとも良いのですから」
微笑んで答える私の頭を撫でつつ、佐彦様は言った。
「物分かりが良すぎるのも問題だな。メノウはもっと我儘になって良いい。俺たちには隠す必要はない。感情は素直に発散しろ。いいな?」
佐彦様の声掛けに私は抱き着きつつ頷いて答えた。
「はい、分かりました。やっぱり私は佐彦様が旦那様で幸せ者ですね。ありがとうございます」
こうして、皇族の謀反対策のため私と千佳子と希望さんは同時期に学校を退学した。
既三学年の卒業テストは受けていたが、結果を頂く前に退学の意志を伝えた。
致し方ない判断だったと言っておこう。
しかし、朝から甘いものが明日も続くことだけは副宰相閣下も予測不可能であった「。



