白鷗家の面々が無事に天宮家に着いた頃。
白鷗家が天宮家に保護されたことを知った男爵は自宅で大いに酒をあおり憤慨していた。
「ちっ。天宮の若奥様と仲がいいとは聞いていたがまさか天宮家が白鷗家のために動くとはな。若奥様をないがしろにしていたという点では一ノ宮家と白鷗家は同じと言っておったのは何だったのか!ようやく白鷗の巫女を手に入れるチャンスだったのに!巫女さえ手に入れれば家が栄えると、そう聞いていたから狙っていたのに」
そんな自分本位な男爵の声は窓を通して、きちんと男爵家の庭の木々が聞いている。
彼らには声は出せずとも、その葉を揺らす音は木々には合図で言葉。
長く生きれば生きるほど力を増して土を介して遠くの木々にまで情報を届けることが出来る。
木々は種類も違えば生きてきた年数も違う、それでも地に根差し長く生きれば生きるほどに力も知識も蓄えていく。
動けなくとも樹齢三桁を超えれば人間より博識なのが木々の生業である。
『全く、欲深な男爵に白鷗家の巫女の話をしたのは誰なのか?』
男爵家の長老木である欅の木は、男爵の呟きを拾って零す。
それに答えたのは天宮家の長老木の藤の木である。
皇都一帯の中で一番のご長寿木である天宮家の藤の木は齢二千歳近いのだ。
あの天宮の大屋敷を現世と幽世に分ける際に幽世の安定のために植えられた霊木である藤の木。
佐彦のことも生まれたころからよく知っている藤の木は、ようやく迎えた花嫁のメノウのこともひいひい孫くらいの感覚で可愛いと思っている。
そんなメノウの友人であり、親戚筋である白鷗家のことも良く知っている。
長生きということは生きて来た年数だけ知識も情報も蓄えているということ。
皇都は藤の木が居ることで木々も若くても知識を持ち、情報を集めて共有する術を身につけていると言っても過言ではないのだ。
だからこそ、藤の木は男爵家の欅の木に答えた。
『そこな男爵に悪い入れ知恵をしたもののことは既に把握しておるよ。厄介な相手じゃ。男爵に接触するとは思わなんだ人物よ』
そんな天宮の藤の木からの答えに男爵家の欅の木は問いかけた。
『一体小物なはずのうちの男爵に誰が入れ知恵したのですか?』
そんな欅の木に、藤の木は言った。
『現皇帝の叔父である先代皇帝の弟よ。あやつ、弟ゆえに皇帝になれず燻り、今もって甥を追い落とせば自分が皇帝になれると思い込んでおる愚か者よ。皇帝には既に皇太子がおるからな、継承順位は既に五位まで落ちておるのにな。現実が見えておらなんだ』
そんな藤の木の返答に欅の木は深くうなだれた。
確かに、ここではない別邸の方で密会していたと別邸の木々から報告は来ていた。
しかし別邸はまだ築浅のため近くの木々も若く知識が足りず、相手が先代皇帝の弟であることまでは把握しきれていなかった。
もっと早く気づいていたらと悔やむ気持ちが大きい。
止めることは出来ぬとも、男爵が白鷗家を困らせる前に天宮の藤様に相談できたかもしれない。
己の不甲斐なさに、欅の木はしょんぼりしている。
白鷗家の藤の木は天宮の藤の木から植樹された、今話している天宮藤の木の子ども同然の存在だ。
そんな白鷗家の藤から助けを求められたら、天宮の藤の木が答えぬわけがない。
それに、天宮の藤の木はここら一帯の様々木々の困りごとに答えて来たご長老である。
欅の木にもたくさんのことを教えてくれて、欅も仕入れた情報は逐一藤の木に伝えていた。
それでも防げなかった、男爵家の失態とその後に辿るであろう末路を想うと落ち込む気持ちは隠せない。
いろいろと問題を起こしている男爵だが長寿木である欅にとっては、男爵は孫同然だったから。
『先代皇帝の叔父である、香の邸の長寿木の楠も嘆いておるよ。あの子はもう引き返せそうにないと楠はやはり欅と同じように落ち込んでおる。我々は見守ることしか出来ぬからのう、過ちを正すだけの力は持ち合わせておらぬ。人の子らの頑張りを見守るしかないが、此度は神も手を出さざるおえんだろう、心するしかあるまい』
藤の木の言葉に欅の木は嘆きながらも、最後まで間違ってしまった男爵の終わりを見守ることの覚悟を決めた。
孫に値する男爵を見守るしかできない欅には、最後まで見守ることしかできないのだと理解しているからだった。
何人もの子を見守り最期を見送ってきたからこそできた覚悟でもあった。
この国に潜む謀反の動きを既に藤の木たちは捕らえ始めている。
それをいつ伝えるべきか藤の木はすこし悩んでいたが、このままではメノウの能力に気づいた先代皇帝の弟がメノウを利用するかもしれない。
なにせ生き物は味方みたいなところのある異能、聴感覚の持ち主で木でも花でも草でも、虫でも、鳥でも猫でも犬でも話が出来るというのは大変貴重な異能である。
人間は生き物が自分の話を聞いているとは思っていないから、自身のペットや生き物の居る場所で内密の話をすることは多々ある。
耳目はどこにでもあることを人間だけが知らない。
しかし、それを聞き届けることのできる神人であるメノウは半分が神の存在なので人に利用されないとも限らないのだ。
だからこそ、藤の木は決断した。
天宮家へメノウを通して謀反の兆しを伝えることを。
皇族に対する反乱の目論見アリということを。
まさか、男爵の行動に皇族の一人が絡んでいるなど白鷗家を保護したメノウに予測出来ようはずもない。
しかし、今代にはメノウが居るからこそ反乱が大きくなる前に収束するであろう。
あの子は、争いを望まないから。
戦う子なら、生家であの扱いであれば講義もするし私人の立場を確立するために動くことも厭わないだろう。
しかし、立場があることを理解していても争わず生きることだけを考えていた。
母が幸せになれると話した迎えに来てくれる神様を、幼き日からあったらいいなと待っていたメノウ。
実際佐彦が迎えに行かなかったとしても、そんなこともあるよと言いながらそのうちあの箱庭を出て自らの足で生きて行っただろうメノウは芯の強さを持つ真っすぐな娘でもある。
曲がらず、折れず、燻らずにあの環境で育ったのはある種の軌跡だ。
一ノ宮の桜もメノウのことを真っすぐに育ったいい子なのだと自慢していたっけ。
メノウは異能に目覚める前から木々などの生き物に愛された子であった。
だからこそ、目覚めた異能は彼女に馴染むのが早かったのだろう。
普通異能が顕現しても使いこなすまでにはそれなりに時間がかかるものだ。
それを目覚めた直後から使いこなし、新たな使い方まですぐに使いこなしている様子はここまで長生きな藤の木でも初めてのこと。
神の契約の花嫁は、やはりすごい力の持ち主だったのだなと感心せざるおえない。
でも、それ以上に真面目で可愛く思いやりのあるメノウ自身に心惹かれるのだろう。
藤の木は可愛くて仕方ない娘をいかに守るかを考えながら伝え方を考えるのだった。
白鷗家が天宮家に保護されたことを知った男爵は自宅で大いに酒をあおり憤慨していた。
「ちっ。天宮の若奥様と仲がいいとは聞いていたがまさか天宮家が白鷗家のために動くとはな。若奥様をないがしろにしていたという点では一ノ宮家と白鷗家は同じと言っておったのは何だったのか!ようやく白鷗の巫女を手に入れるチャンスだったのに!巫女さえ手に入れれば家が栄えると、そう聞いていたから狙っていたのに」
そんな自分本位な男爵の声は窓を通して、きちんと男爵家の庭の木々が聞いている。
彼らには声は出せずとも、その葉を揺らす音は木々には合図で言葉。
長く生きれば生きるほど力を増して土を介して遠くの木々にまで情報を届けることが出来る。
木々は種類も違えば生きてきた年数も違う、それでも地に根差し長く生きれば生きるほどに力も知識も蓄えていく。
動けなくとも樹齢三桁を超えれば人間より博識なのが木々の生業である。
『全く、欲深な男爵に白鷗家の巫女の話をしたのは誰なのか?』
男爵家の長老木である欅の木は、男爵の呟きを拾って零す。
それに答えたのは天宮家の長老木の藤の木である。
皇都一帯の中で一番のご長寿木である天宮家の藤の木は齢二千歳近いのだ。
あの天宮の大屋敷を現世と幽世に分ける際に幽世の安定のために植えられた霊木である藤の木。
佐彦のことも生まれたころからよく知っている藤の木は、ようやく迎えた花嫁のメノウのこともひいひい孫くらいの感覚で可愛いと思っている。
そんなメノウの友人であり、親戚筋である白鷗家のことも良く知っている。
長生きということは生きて来た年数だけ知識も情報も蓄えているということ。
皇都は藤の木が居ることで木々も若くても知識を持ち、情報を集めて共有する術を身につけていると言っても過言ではないのだ。
だからこそ、藤の木は男爵家の欅の木に答えた。
『そこな男爵に悪い入れ知恵をしたもののことは既に把握しておるよ。厄介な相手じゃ。男爵に接触するとは思わなんだ人物よ』
そんな天宮の藤の木からの答えに男爵家の欅の木は問いかけた。
『一体小物なはずのうちの男爵に誰が入れ知恵したのですか?』
そんな欅の木に、藤の木は言った。
『現皇帝の叔父である先代皇帝の弟よ。あやつ、弟ゆえに皇帝になれず燻り、今もって甥を追い落とせば自分が皇帝になれると思い込んでおる愚か者よ。皇帝には既に皇太子がおるからな、継承順位は既に五位まで落ちておるのにな。現実が見えておらなんだ』
そんな藤の木の返答に欅の木は深くうなだれた。
確かに、ここではない別邸の方で密会していたと別邸の木々から報告は来ていた。
しかし別邸はまだ築浅のため近くの木々も若く知識が足りず、相手が先代皇帝の弟であることまでは把握しきれていなかった。
もっと早く気づいていたらと悔やむ気持ちが大きい。
止めることは出来ぬとも、男爵が白鷗家を困らせる前に天宮の藤様に相談できたかもしれない。
己の不甲斐なさに、欅の木はしょんぼりしている。
白鷗家の藤の木は天宮の藤の木から植樹された、今話している天宮藤の木の子ども同然の存在だ。
そんな白鷗家の藤から助けを求められたら、天宮の藤の木が答えぬわけがない。
それに、天宮の藤の木はここら一帯の様々木々の困りごとに答えて来たご長老である。
欅の木にもたくさんのことを教えてくれて、欅も仕入れた情報は逐一藤の木に伝えていた。
それでも防げなかった、男爵家の失態とその後に辿るであろう末路を想うと落ち込む気持ちは隠せない。
いろいろと問題を起こしている男爵だが長寿木である欅にとっては、男爵は孫同然だったから。
『先代皇帝の叔父である、香の邸の長寿木の楠も嘆いておるよ。あの子はもう引き返せそうにないと楠はやはり欅と同じように落ち込んでおる。我々は見守ることしか出来ぬからのう、過ちを正すだけの力は持ち合わせておらぬ。人の子らの頑張りを見守るしかないが、此度は神も手を出さざるおえんだろう、心するしかあるまい』
藤の木の言葉に欅の木は嘆きながらも、最後まで間違ってしまった男爵の終わりを見守ることの覚悟を決めた。
孫に値する男爵を見守るしかできない欅には、最後まで見守ることしかできないのだと理解しているからだった。
何人もの子を見守り最期を見送ってきたからこそできた覚悟でもあった。
この国に潜む謀反の動きを既に藤の木たちは捕らえ始めている。
それをいつ伝えるべきか藤の木はすこし悩んでいたが、このままではメノウの能力に気づいた先代皇帝の弟がメノウを利用するかもしれない。
なにせ生き物は味方みたいなところのある異能、聴感覚の持ち主で木でも花でも草でも、虫でも、鳥でも猫でも犬でも話が出来るというのは大変貴重な異能である。
人間は生き物が自分の話を聞いているとは思っていないから、自身のペットや生き物の居る場所で内密の話をすることは多々ある。
耳目はどこにでもあることを人間だけが知らない。
しかし、それを聞き届けることのできる神人であるメノウは半分が神の存在なので人に利用されないとも限らないのだ。
だからこそ、藤の木は決断した。
天宮家へメノウを通して謀反の兆しを伝えることを。
皇族に対する反乱の目論見アリということを。
まさか、男爵の行動に皇族の一人が絡んでいるなど白鷗家を保護したメノウに予測出来ようはずもない。
しかし、今代にはメノウが居るからこそ反乱が大きくなる前に収束するであろう。
あの子は、争いを望まないから。
戦う子なら、生家であの扱いであれば講義もするし私人の立場を確立するために動くことも厭わないだろう。
しかし、立場があることを理解していても争わず生きることだけを考えていた。
母が幸せになれると話した迎えに来てくれる神様を、幼き日からあったらいいなと待っていたメノウ。
実際佐彦が迎えに行かなかったとしても、そんなこともあるよと言いながらそのうちあの箱庭を出て自らの足で生きて行っただろうメノウは芯の強さを持つ真っすぐな娘でもある。
曲がらず、折れず、燻らずにあの環境で育ったのはある種の軌跡だ。
一ノ宮の桜もメノウのことを真っすぐに育ったいい子なのだと自慢していたっけ。
メノウは異能に目覚める前から木々などの生き物に愛された子であった。
だからこそ、目覚めた異能は彼女に馴染むのが早かったのだろう。
普通異能が顕現しても使いこなすまでにはそれなりに時間がかかるものだ。
それを目覚めた直後から使いこなし、新たな使い方まですぐに使いこなしている様子はここまで長生きな藤の木でも初めてのこと。
神の契約の花嫁は、やはりすごい力の持ち主だったのだなと感心せざるおえない。
でも、それ以上に真面目で可愛く思いやりのあるメノウ自身に心惹かれるのだろう。
藤の木は可愛くて仕方ない娘をいかに守るかを考えながら伝え方を考えるのだった。



