「こんにちは。突然お邪魔してしまい申し訳ありません。私希望さんと親しくさせていただいています、天宮メノウと申します。希望さんは御在宅でしょうか?」
そう、門のところに居た白鷗家のお手伝いさんに声を掛ければ彼女は天宮の名をしっかり把握していたため大慌てで大屋敷の使用人頭と共に白鷗家の現当主である母の兄、私の伯父を呼び出すため急ぎ足で立ち去り侍女頭が私を応接間へと案内してくれた。
そしてお茶とお菓子を置いて、しばし使用人と共に待つと少し急ぎ足な音がして応接間のドアがノックされる。
そして開いた先には、母と同じ黒髪に濃紺の瞳の四十代の男性が姿を現した。
顔立ちが少し母に似ているのは父親同士の血がつながっているからだろう。
「お待たせして申し訳ありません。天宮の若奥様。いつも希望が大変お世話になっております。今日はどういったご用向きでしょう?」
まずは当主である伯父様が話を聞いてくれるようだ。
でも、私はなによりも希望さんの意志を確認したい。
話はそれからだと思っている。
なので、ニコリと微笑むと伯父様にはっきりと物申すことにした。
「希望さんの結婚について話が進んでいると聞き及び、及ばずながら私、希望さんがこの結婚を良しとしているのか確認したくて参りましたの。私の大切な友人である希望さんがもし、望まぬ婚姻を強いられるのであればと心配で」
私の言葉に伯父様は苦い顔をする。
この結婚が明らかに希望さんの意志でないことは明白であるから、そして伯父様だってこの結婚を良しとしていないことは苦い表情だけで判別できる。
「希望さんから、私の異能については聞いていないのですか?」
私の素朴な疑問の問いかけに伯父様は頷いて答えた。
「異能に関しては知りえても、白鷗の当主たる私に話すことは出来ないと。希望はメノウ様を大切な友人であると、その方にとっての能力は武器であるから話すことは出来ない。父であってもと言っておりましたし、私も和代を守れなかった手前その忘れ形見のメノウ様をどうこうするつもりもありませんでしたから、聞きませんでした」
ダメダメだった祖父からこうもしっかりした当主が出来上がるとはという想いが顔に出てしまったらしい。
伯父様は笑って言った。
「私の教育は母からの物。白鷗の傍系で巫女だった母から異能についてを習っていたからです。母は和代の能力を惜しんでいました。ここ数代の中では格別の異能先見の巫女だったのだから。祖父を罵っていましたね。娘を大切にしないものに巫女の家系を任せるのは間違いだったと、激高の末に亡くなりました」
白鷗のおばあ様は結構しっかりした方だったのだろう。
「母は先見の巫女に及ばすとも先を見る巫女、星見の巫女だったので先に起きることを星の巡りで予期していたのです。その母も亡くなり、そのご和代も亡くなり白鷗の巫女は今や希望とメノウ様だけです。あと数年すれば希望の妹である、愛実も能力に目覚めるでしょうが既に白鷗は斜陽の家です。能力を生かす場もなくなるでしょう」
そんな伯父様は既に白鷗家の行く先を知っているのか、諦めの色が濃い。
それでも、あとに残る愛実さんの能力開花まで持ちこたえるためには希望を嫁に出すしかないほどに追い詰められているということだ。
希望の成績ならばこのまま女学館に残り教師の道もあるだろうに、それを待てぬほどに追い詰められている。
その主犯が実は希望をなにがなんでも娶りたいと年甲斐もなく、若い娘を手籠めにしたい男爵の差し金だと伯父様は気づいていないのだ。
希望も黒髪に濃紺の瞳の凛とした美人だから目を付けられたのだろう。
まったく、度し難い老人である。
孫ほどの年の希望を手籠めにしたいとか、気持ち悪いしいい加減にしろと言える。
しかも、男爵は五回結婚し、最初の妻以外は変死扱いなのだ。
そんなところに行って幸せになれるわけがないので、私はこの婚姻に断固反対なのである。
「男爵の噂はご存じですよね?それでもそこに希望さんを嫁がせるのですか?」
私の言葉に本当に苦しそうに伯父様は呻く。
「分かっていますし、嫁がせたくなどありません。でも、このままでは愛実もその下の穂乃花も飢えてしまうのです。それを希望も分かっているので、嫌と言えない。そんな状況を作ってしまったことを詫びても状況は変わらぬのです」
私はその伯父様に向かってノックの後に扉を開けて来た希望さんを見つめながら伝えた。
「私と天宮家の力を使えばそんなものひっくり返りますわ。本日はそのために参りましたの。そしてそれを妨害したい外の男爵の手の物は既に天宮家の方で取り押さえさせていただきました」
私の言葉に、伯父様も希望さんもポカンとしてしまった。
だから私は笑って希望さんに笑って言う。
「水臭いわね、そもそも私の能力を知っているのだから希望さんは私に隠し事が出来ないことは把握していたでしょうに。助けてって言って良かったのよ?待ってたけど、希望さんは最後まで私に言わないのだもの。仕方ないから我慢の限界で来ちゃったわよ」
私が笑いながらも告げたことに希望さんはハッとして、そして私を見つめて涙をこぼした。
「メノウ様、ごめんなさい。友人としてのあなたなら、もちろん頼りたかった。それでも、あなたを大切にできなかった白鷗家の娘の私が頼ってはいけないと……」
私は席を立ち、希望さんの前に行くとぎゅっとその身を抱きしめた。
私の方が小さいから見た目は抱き着くかもしれないけれど。
「私と希望さんは血の繋がった従姉妹。でも、それ以上に私にとっては初めてできた友人なの。それも異能に理解のある、頼りになる友人よ。そんなあなたが困っていて私には差し出す手があるのに、助けないわけがないでしょう。みんなの声が聴こえていたし、あそこの藤が一番あなたを心配していたわよ」
私の言葉に伯父様と希望さんは応接間前にある庭の立派な藤棚を見つめる。
そして私は伯父様に私の能力を伝えた。
「私の能力は聴感覚、生きる者の声はすべて届く、嘆きも助けても、喜びも、悲しみも、心配も。そして私に近しい者の情報はきっちり最短で私の元に届く。土は繋がっているから木々はたくさんの情報を私に届けてくれる仲間。その藤も心配で私に伝えて来たわ。希望を助けてあげてほしいって」
伯父様と希望は私を見て、そして藤棚と見て納得した様子だ。
「しかもね、この邸男爵の手の物が常に監視しているのよ。私の来訪も伝わったわ。男爵も一応希望さんの交友関係は把握していて一番動いてほしくない私が動いたから反応したのよ。ここに訪問する気だったようだけど、生き物たちが足止めしてくれているのでここにはたどり着けないでしょうね」
ニコッと微笑んで告げると、二人はここにいる私が一番強いから大丈夫だと納得した様子だった。
いや、私自身は非力な小娘なのだけれどね。
私を慕ってくれる生き物たちが賢く強いだけよということにしておく。
そう、門のところに居た白鷗家のお手伝いさんに声を掛ければ彼女は天宮の名をしっかり把握していたため大慌てで大屋敷の使用人頭と共に白鷗家の現当主である母の兄、私の伯父を呼び出すため急ぎ足で立ち去り侍女頭が私を応接間へと案内してくれた。
そしてお茶とお菓子を置いて、しばし使用人と共に待つと少し急ぎ足な音がして応接間のドアがノックされる。
そして開いた先には、母と同じ黒髪に濃紺の瞳の四十代の男性が姿を現した。
顔立ちが少し母に似ているのは父親同士の血がつながっているからだろう。
「お待たせして申し訳ありません。天宮の若奥様。いつも希望が大変お世話になっております。今日はどういったご用向きでしょう?」
まずは当主である伯父様が話を聞いてくれるようだ。
でも、私はなによりも希望さんの意志を確認したい。
話はそれからだと思っている。
なので、ニコリと微笑むと伯父様にはっきりと物申すことにした。
「希望さんの結婚について話が進んでいると聞き及び、及ばずながら私、希望さんがこの結婚を良しとしているのか確認したくて参りましたの。私の大切な友人である希望さんがもし、望まぬ婚姻を強いられるのであればと心配で」
私の言葉に伯父様は苦い顔をする。
この結婚が明らかに希望さんの意志でないことは明白であるから、そして伯父様だってこの結婚を良しとしていないことは苦い表情だけで判別できる。
「希望さんから、私の異能については聞いていないのですか?」
私の素朴な疑問の問いかけに伯父様は頷いて答えた。
「異能に関しては知りえても、白鷗の当主たる私に話すことは出来ないと。希望はメノウ様を大切な友人であると、その方にとっての能力は武器であるから話すことは出来ない。父であってもと言っておりましたし、私も和代を守れなかった手前その忘れ形見のメノウ様をどうこうするつもりもありませんでしたから、聞きませんでした」
ダメダメだった祖父からこうもしっかりした当主が出来上がるとはという想いが顔に出てしまったらしい。
伯父様は笑って言った。
「私の教育は母からの物。白鷗の傍系で巫女だった母から異能についてを習っていたからです。母は和代の能力を惜しんでいました。ここ数代の中では格別の異能先見の巫女だったのだから。祖父を罵っていましたね。娘を大切にしないものに巫女の家系を任せるのは間違いだったと、激高の末に亡くなりました」
白鷗のおばあ様は結構しっかりした方だったのだろう。
「母は先見の巫女に及ばすとも先を見る巫女、星見の巫女だったので先に起きることを星の巡りで予期していたのです。その母も亡くなり、そのご和代も亡くなり白鷗の巫女は今や希望とメノウ様だけです。あと数年すれば希望の妹である、愛実も能力に目覚めるでしょうが既に白鷗は斜陽の家です。能力を生かす場もなくなるでしょう」
そんな伯父様は既に白鷗家の行く先を知っているのか、諦めの色が濃い。
それでも、あとに残る愛実さんの能力開花まで持ちこたえるためには希望を嫁に出すしかないほどに追い詰められているということだ。
希望の成績ならばこのまま女学館に残り教師の道もあるだろうに、それを待てぬほどに追い詰められている。
その主犯が実は希望をなにがなんでも娶りたいと年甲斐もなく、若い娘を手籠めにしたい男爵の差し金だと伯父様は気づいていないのだ。
希望も黒髪に濃紺の瞳の凛とした美人だから目を付けられたのだろう。
まったく、度し難い老人である。
孫ほどの年の希望を手籠めにしたいとか、気持ち悪いしいい加減にしろと言える。
しかも、男爵は五回結婚し、最初の妻以外は変死扱いなのだ。
そんなところに行って幸せになれるわけがないので、私はこの婚姻に断固反対なのである。
「男爵の噂はご存じですよね?それでもそこに希望さんを嫁がせるのですか?」
私の言葉に本当に苦しそうに伯父様は呻く。
「分かっていますし、嫁がせたくなどありません。でも、このままでは愛実もその下の穂乃花も飢えてしまうのです。それを希望も分かっているので、嫌と言えない。そんな状況を作ってしまったことを詫びても状況は変わらぬのです」
私はその伯父様に向かってノックの後に扉を開けて来た希望さんを見つめながら伝えた。
「私と天宮家の力を使えばそんなものひっくり返りますわ。本日はそのために参りましたの。そしてそれを妨害したい外の男爵の手の物は既に天宮家の方で取り押さえさせていただきました」
私の言葉に、伯父様も希望さんもポカンとしてしまった。
だから私は笑って希望さんに笑って言う。
「水臭いわね、そもそも私の能力を知っているのだから希望さんは私に隠し事が出来ないことは把握していたでしょうに。助けてって言って良かったのよ?待ってたけど、希望さんは最後まで私に言わないのだもの。仕方ないから我慢の限界で来ちゃったわよ」
私が笑いながらも告げたことに希望さんはハッとして、そして私を見つめて涙をこぼした。
「メノウ様、ごめんなさい。友人としてのあなたなら、もちろん頼りたかった。それでも、あなたを大切にできなかった白鷗家の娘の私が頼ってはいけないと……」
私は席を立ち、希望さんの前に行くとぎゅっとその身を抱きしめた。
私の方が小さいから見た目は抱き着くかもしれないけれど。
「私と希望さんは血の繋がった従姉妹。でも、それ以上に私にとっては初めてできた友人なの。それも異能に理解のある、頼りになる友人よ。そんなあなたが困っていて私には差し出す手があるのに、助けないわけがないでしょう。みんなの声が聴こえていたし、あそこの藤が一番あなたを心配していたわよ」
私の言葉に伯父様と希望さんは応接間前にある庭の立派な藤棚を見つめる。
そして私は伯父様に私の能力を伝えた。
「私の能力は聴感覚、生きる者の声はすべて届く、嘆きも助けても、喜びも、悲しみも、心配も。そして私に近しい者の情報はきっちり最短で私の元に届く。土は繋がっているから木々はたくさんの情報を私に届けてくれる仲間。その藤も心配で私に伝えて来たわ。希望を助けてあげてほしいって」
伯父様と希望は私を見て、そして藤棚と見て納得した様子だ。
「しかもね、この邸男爵の手の物が常に監視しているのよ。私の来訪も伝わったわ。男爵も一応希望さんの交友関係は把握していて一番動いてほしくない私が動いたから反応したのよ。ここに訪問する気だったようだけど、生き物たちが足止めしてくれているのでここにはたどり着けないでしょうね」
ニコッと微笑んで告げると、二人はここにいる私が一番強いから大丈夫だと納得した様子だった。
いや、私自身は非力な小娘なのだけれどね。
私を慕ってくれる生き物たちが賢く強いだけよということにしておく。



