天狗の神様の契約花嫁

 付喪神や幽世の生き物たちが大屋敷に穢れやケガを伴ってやって来るのを聞き届け、当てをしたり、穢れを払ったりしながらも女学館での日々を謳歌していたので、すっかり既に退学した義妹のことは忘れていました。
 彼女の方は結構こじらせていたのですが、すっかり会うことも無かったので私は忘れていた。
 関りが無くなってすっきりしたのも、影響としてあるでしょう。
 それに迎えはいつも柳が来てくれるし、送迎付きなので何の心配もしていなかったことが油断となっていました。
 退学したからもう来ないだろうという油断。
 むしろ学園内の方が有利であり、立地にも詳しい義妹にはもってこいの場所であるということを私は失念していた。
 そんな中で事件は起こった。
 その日はクラブ活動の日で私は読書の会に所属しており図書館へ向かっていた。
 図書館は一階にあるので三年の教室である三階から一階に向かっていた。
 千佳子は陸上クラブに所属しているのでグラウンドへ向かい、茶道クラブの希望さんは作法室へ向かった。
 珍しく一人になるので、私は佐彦様に言われた通りに小鳥のユキは肩に乗せたまま移動していたところ学内に居るはずのない男性を目撃したと思ったら、トンと首裏を叩かれて気を失ってしまった。
 油断していたと言われればそれまで。
 男性の用務員さんは居るけれど、みなお爺さん世代の方々のため学生を見る目は孫を見守るような視線であり年頃の男性はそもそも女学館内へ入ることが許されていない。
 良家の子女が集まるからこそ教師まですべて女性なのが女学館の安心と安全をアピールしていた。
 それが覆された瞬間であり、私はそのまま気を失い運ばれていくこととなった。
 しかし、私はユキと一緒に居た。
 眷属のユキは、佐彦様から私になにかあった時には超特急で知らせるように特訓されている。
 そしてユキは私が捕まってすぐに弾丸の飛行で佐彦様に向かって飛んでいった。
 まさかの女学館での誘拐事件の発生に、ユキを受け止めた佐彦様も大急ぎで女学館へ来たことで事件はハイスピードで解決はするのだが。
 女学館内で誘拐事件が発生するなど前代未聞のためその後、事件の捜査は大変速やかに行われていく。
 天宮家から圧がかかれば女学館側も捜査する警察も必死に動かざるおえないからだった。
 さらにこの度の誘拐事件の早期解決は、出入りに念入りなチェックが入る女学館だからこそ、誘拐犯たちが外に私を連れ出す前に佐彦様が私を女学館内で保護してくれたことが大きい。
 ユキが弾丸で知らせに行き、それを受けてすぐに私を探しに来てくれた佐彦様のおかげで気を失っているうちに誘拐事件は解決していたので、私には起きたら佐彦様が居たという状況だった。
 まず誘拐犯たちは私を外に連れ出すために、用務員室になっている裏門近くの小屋へと連れ出していた。
 若いものの衣服は用務員さんの物を着ていたために、遠目にすれ違った学生たちはあまり気にしなかったようだ。
 私はそうして用務員室に入れられて、そこから出るための車を待っている間にユキを連れた佐彦様に発見されることとなった。
 ちなみに連れ去り先は一ノ宮家だったそうだ。
 義妹は私が一ノ宮に戻れば斜陽にならず家が今まで通りになると父と話して解釈したらしい。
 そのため女学館から私を連れ出すために、女学館からの誘拐のための人手を手配し、一ノ宮の運転手を丸め込み車も出させていた。
 そして、私をまた離れに押し込む準備をしていたところを佐彦様からすでに連絡を受けていた警察が一ノ宮家に乗り込んだ。
 ことが筆頭公爵家の天宮家の若奥様の誘拐なので、警察も天宮家からの圧力でかなり迅速に動いてくれたとお母様がにこやかな笑顔でのちに教えてくれた。
 きっと対応したのはお母様で、かなり笑顔で素敵に対応してくれたと思うと感謝しかない。
「お母様、ありがとうございます」
 私の言葉にお母様はとても優しく微笑み抱きしめて無事を喜んでくれたのだった。
 
 さて、誘拐を企てた義妹はどうなったかと言えば父はとうとう義母と義妹を切り捨てた。
 義母と離婚し義母と義妹を一ノ宮家から追い出したのだ。
 社交界でも侯爵夫人、侯爵令嬢として足りない行動の多い義母と義妹は、父にとって最後は事件を起こした厄介者になってしまったようだ。
 しかし、そこで義母と義妹を切り離そうと父が私を娘として扱っていなかったことは既に幽世の生き物たちは知っている。
 それを神様三人が既に知っているのだ。
 国を支える三人の神様が、父の私への扱いを知っているのだ。
 神様からの恩恵も加護も受けられるわけがないと父も理解していたはずだが、それでもあきらめ切れなくて動いたのだろう。
 原因さえ切り離せば、どうにかなるかもしれないというかすかな希望を……。
 神様が把握している時点で希望なんてありはしないのに。
 神様はきちんと見て、きちんとその力を振りかけて行使する。
 贔屓もなく、それはすべてに公平。
 だから、神様は優しい人には優しく慈悲深い人には慈悲深く、冷たい人には冷たくなる。
 そういうことなのだと、天宮の大屋敷で過ごすうちに理解した。
 だから、父はやはりこのまま一ノ宮家を没落させていくのだろう。
 
 私が誘拐犯たちが捕まり、佐彦様に運ばれて保健室で目覚めたのは事件からおよそ三十分が経った頃だった。
「ん? あれ、私は……」
 目覚めた私に佐彦様はホッとした顔をして、覗き込んでくれた。
「メノウ、無事でよかった。ユキは今回お手柄だったな。きちんとメノウの異変を知らせに飛んできた」
『あるじー。ユキ、ちゃんと佐彦さまのところ飛んだ!』
 ユキは大変誇らしげに胸の羽毛をもふっと膨らませている。
 私が攫われてすぐにユキが佐彦様の元に飛んでくれたおかげですぐに救出されたらしい。
「ユキ、お手柄ね。ありがとう」
 モフモフも胸元を指先でくすぐればユキは嬉しそうに指に寄りかかってもっとと催促している。
 私はユキと戯れつつ佐彦様とお話して落ち着いたらすぐに天宮家へ帰ることとなった。
 着替えて駆け付けて来た千佳子は佐彦様に平謝りしている。
 同じクラブにしていればと、かなりの反省ぶりに佐彦様は千佳子を起こすと千佳子のせいではないのだから責めはないとしっかりとお話しくださった。
 そうして、スピード解決の裏では一ノ宮家に暗雲が立ち、没落へのスピードを上げていくのはやはりあの人たちの自業自得であると言えるのだろう。