天狗の神様の契約花嫁

「ごきげんよう、一ノ宮のご令嬢。私は天宮メノウと申します。天宮佐彦殿と結婚し天宮家の次期当主夫人でもあります。人に指をさすのはよろしくないというのはご存じよね?では、あしからず」
 私はスッとその横を通り過ぎて三年生用の食堂へと千佳子と希望さんと一緒に入りドアを閉めた。
「ふふ。固まってたわね、あの子。本当に礼儀をどこかに捨ててる子だから、この先きっと本人が苦労するわね」
 私の言葉に千佳子は深く頷いて同意を示す。
「天宮様、彼女とは?」
 ごもっともな疑問に、私は希望さんに答えつつ食堂に居る皆さんに伝わるように話した。
「私、旧姓は一ノ宮ですの。あの子は母違いの妹ですね。そして、ほとんど関りはありませんでした。皆さんも一ノ宮にもう一人娘が居ることを知らなかったでしょう?」
 私の言葉に食堂の皆さんはおずおずと頷いてくれる、困惑を隠しきれない皆さんに私は気にしていないのでサクッとお話しする。
「この珍しい瞳と髪の色で父からも家族の扱いは受けておりませんでした、戸籍だけ一ノ宮に居たことになっていますけれど。表に出たことは一切ありません。この度、天宮家に嫁いでようやく学校にも通えるようになりましたの。皆さん、私至らないことも多々あるかと思いますが、よろしくお願いしますね」
 微笑んで言えば、皆さん頷いて同意を示してくれる。
 同学年のご令嬢たちは皆さんいい方ばかりのようで安心する。
 私と千佳子と希望さんでテーブルに付き、食事が配られて食べ始めると希望さんが私に聞いてきた。
「天宮様は、お母様は白鷗家の出身ですよね?その髪と目の色は白鷗家の巫女姫の証と聞いています。本来白鷗家で大事にされるはずの巫女が外で生まれていたとは。なぜ、本家は把握していなかったのでしょうか?」
 希望さんの疑問はもっともだと思う。本来は本家で大事にされて、神に嫁ぐ巫女姫なのだから。
「母はあなたのおじい様が外で作った庶子です。十五で白鷗に迎えて十六で一ノ宮に嫁に出すだけのために引き取ったと、だから白鷗家に巫女姫の色の娘が産まれたことを隠し通したと。母も私が五歳で亡くなっているのでどうして隠したのかは答えきれませんが、きっとおじい様の駒にされたくなかったのでしょうね」
 私の言葉に、希望さんは理解を示し頷いた。
「おじい様なら間違いなく神の花嫁であっても、嫁ぐ前によそにやるとかしていたかもしれないし、家の繁栄のために駒として使うことも厭わなかったでしょう。あの人もすでに二年前に亡くなったので、今更どうこうも出来ませんが。そういう人だったからだと納得できてしまいます」
 悲し気に、同意を示す希望さんはやはり白鷗家で少し苦労しているのかもしれない。
「希望さんは既に白鷗としての能力は?」
 私の問いかけに、希望さんは首を横に振ると答えてくれた。
「私の能力は大したことはないのです。明日の天気が分かる。そんな程度の能力です」
 いや、明日の天気が分かるって結構大切だし便利だと思うけれど?と思う私に際し希望さんは言った。
「白鷗家では、夢見や先見などの見る力の持ち主を巫女として待ち望んでいるので私の能力では大したことはないと言われてしまうのです。おじい様は天宮様のお母様を能力発現前に一ノ宮に嫁がせましたが、それが異例で間違っていたと後々語っています。おばあ様曰く天宮様のお母様が持ち望んでいた先見の巫女だったと言って亡くなったからです」
 白鷗家はどうやらお母様の能力は把握していたが、嫁がせた娘を返せとは言えなかったのでしょう。
 まぁお母様も帰って来いと言われて帰ったかと問われると、帰らなかったでしょうとしか思えないけれど。
 お母様はお嬢様歴の方が少なかったので、タフなのよね思考回路が。
 何なら一ノ宮のお父様も見限って離縁しても、女手一つで私を育て上げた可能性もある。
 流行病に倒れなかったら、十分あり得た未来だと思える位にお母様は市井の感覚を持っている人だった。
「白鷗のおじい様はお母様に戻ってこいとは言わなかったのかしら?表立って言わなくても母に手紙位は書きそうなんだけれど」
 しかし、それを一ノ宮家が母に素直に渡したかという点も疑問が残る。
 あの家は使用人まで選民思想に囚われていて、本妻だった母の娘の私も白鷗家の庶子の子だからと下に見ていた。
 そもそも一ノ宮の長女で第一子で間違いも無いのに、後妻の連れ子の次女を敬っていた。
 それは後妻が貴族の出身の娘だったからということだが、あんな人の部屋を漁って物を奪っていく卑しい母娘が貴族の出身とは世も末である。
「おじい様も、一応メンツがあるので嫁がせた天宮様のお母様に戻ってこいとは手紙でも言い出せなかったと思います。変に高い山のごとくのプライドをお持ちだったので」
 希望さんの言い方に、私と千佳子は顔を見合わせそして少し笑った。
「無駄に高いプライドをお持ちだったのねぇ。まぁ、だからこそ会わなくて良かったのかもしれないわ。私の能力も、きっと白鷗家からしたら欲しかった能力かもしれないもの」
 私の言葉に、希望さんはなんとなく察していたのだろうことに頷きそして言った。
「今の私の両親は既に、衰退する白鷗家をなんとかしようと思いつつも諦めてもいる感じです。私の能力も強いものではないし。そして白鷗の血縁とはいえすでに天宮家へ嫁いだメノウ様をどうこう出来ようはずもありませんのでそこはご安心ください」
 希望さんは、しっかりしているので白鷗家との関係は心配しなくて済みそうでそこは安心した。
 義妹とも、学年が違うので今後早々絡むことも無いでしょうとおもっていたのですがそこはあの子ですので私の見通しが甘かったと言えるでしょう。