天狗の神様の契約花嫁

 小高い丘の上にある清泉女学館は緑豊かな木々に囲まれた学び舎で、華族や財閥貴族の令嬢たちが集まり学ぶため豪華なつくりの学び舎に綺麗な女学生たちが集まっている。
 良家の娘たちの集まりなので、なにかあってはいけないと警備も大変強化されており許可のあるもの以外の立ち入りも車両の立ち入りも制限されている女子の園。
 送迎の車も運転手も登録されたもの以外は通ることが出来ない、セキュリティーの高さもここに子女を入れる大きな理由となっているのだという。
 天宮の次期様である佐彦様の嫁なので、現在この女学館の中では皇族以外では一番身分が高いのだという。
 ちなみに女学館の一年生に第三皇女様が居るので、その方が一番身分が高いが三年生では私が一番身分が高いのだという。
 なので編入生であっても、突っかかって来るような同級生は居ないだろうというのが千佳子の見立てだった。
 ただし、皇女殿下がきちんと天宮家を把握していれば神の一族と知っているならば私の方が一応身分が高いことを知る唯一の人物とも言える。
 佐彦様は私がここに通うことは帝にも話を通していると言っていたので、神の花嫁がこの女学館に通うことは第三皇女殿下もご存じだと思う。
 学年が違うと早々接点が無いとも聞くので、お会いすることはないかもしれないが。
「ここが三年一組の教室です。さぁ、どうぞ」
 その声と共に、教室に入るとそこには十人ほどの令嬢がすでに席に座っていた。
 そして千佳子も廊下側の一番後ろに座る。
「皆さん、ごきげんよう。本日は編入生を紹介します。さぁ、こちらへどうぞ」
 先生の声掛けに私は教壇の横に立ち、教室内を見渡して挨拶した。
「ごきげんよう。私は天宮メノウと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」
 私の挨拶に、そして髪や瞳の色に驚く令嬢たちが多いが一人、納得の表情の令嬢が居たのが気になった。
「天宮さんは千佳子さんのお隣へどうぞ」
 そんな先生の声掛けで、空いていた千佳子の隣の席に座る。
「千佳子、よろしくね」
「はい、メノウ様」
 私たちのやり取りを、見ている令嬢たちはさっそく授業が終わると話しかけて来た。
「ごきげんよう、天宮様。今後ともよろしくお願いいたします。私、織田薫子と申します」
 紡績の財閥、織田家の御令嬢が声をかけてきてくれた。
 その横にも数人のご令嬢が居る。
「ごきげんよう、天宮様。私、辻村華と申します。よろしくお願いいたします」
 華道の宗家で華族の辻村家の御令嬢、その後は武家出身の貴族伊達家の御令嬢と海運業と貿易業で栄えた新興貴族家の波多野家の御令嬢と続き、私の髪色や瞳の色に驚かなかった令嬢が最後に声をかけて来た。
「ごきげんよう、天宮様。どうぞよろしくお願いいたします。私、白鷗希望と申します」
 私に驚かなかった令嬢は、白鷗家の令嬢だったようだ。
 母方の親族、今まで一度も出会わなかったがどうやらここで出会ったようである。
 彼女が白鷗家の巫女についてどこまで知っているのかは分からないが、白鷗がすでに斜陽の家であることは把握している。
 ここに、通うのも本来ならすでに難しいことも。
 なにせ、ここの木々はとても物知りなので授業の合間に教室の令嬢の知識をこれでもかとすでに私にしっかり教えてくれているから。
 どのご令嬢も、きちんとしたお家のご令嬢で人柄に問題なし。
 すでに婚約者の居る令嬢が半数であること、結婚が早まりそうなご令嬢もいること。
 そして白鷗家の令嬢がその一人でありそうなことも、私は既に木々から話を聞いて知っているのだった。
 すでにいろいろなことを知って相手と対峙するのは、良いのか悪いのか。
 だが、反応的に白鷗家の御令嬢は白鷗家の巫女についての話をよくよく理解していそうだと対面して話したことでさらに確信を持つことになった。
 お昼休みは食堂で、学校専属のシェフが作ってくれるご飯を食べる。
 日替わりで、和洋中といろいろなものが出るらしい。
 本日はサラダとオムライスにエビフライのセットだそう。
 ワンプレートに彩りよく盛られた美味しそうなランチに、私も楽しみだ。
 食堂も学年ごとに分かれており、三年生は三年生でと決められている。
 他学年と関わることが無いというのは、こういった括りがなされているからだろう。
 一年生は一階、二年生は二階、三年生が三階と別れており、食堂は一階にすべてあるが三つの食堂に各学年で定められているので部屋が一緒になることが無いということだ。
 それでも機会としてはこの食堂への移動で他学年とすれ違うことがあるということ。
 そして、ここで私は二学年に在籍する義妹とすれ違うことになる。
「どうして行方不明になったあんたがここに居るのよ!」
 その叫ぶ声は静かな女学館の廊下に響いた。
 私は学年が違えどこの女学館に来た時から義妹が居ることは知っているので驚きはしない。
 しかしこの叫び声に私より先に反応したのは一緒に食堂へと移動していた白鷗家の令嬢、希望さんだった。
「口の利き方には大変な配慮をした方が良いのではないかしら?一ノ宮のご令嬢。この方は天宮家の若奥様で、次期天宮家の当主夫人よ」
 先輩である白鷗家の御令嬢の希望さんに言われた言葉を上手く呑み込めなかった義妹は配慮しろという言葉さえ理解しないままに、その指先を私に向けて言い放った。
「なんで一ノ宮のごくつぶしがここに居るの!ようやくいなくなったと思ったら、こんなところに居て天宮だなんてありえない!」
 しかし、義妹の言葉の危うさを彼女の周りの令嬢は察してすでに義妹から距離を取っている。
 天宮の名はここでは皇族に次ぐ高位華族の名家。
 むしろ、国作りのころからの神の家系なので、皇族より上なことを知るのはごくわずかな同じく名家と言われる家だけ。
 一ノ宮はその点は当主の父であれば天宮と言われれば理解しようものだが、この義妹は勉強も世間も知らない究極のわがままお嬢様である。
 理解しようはずもないので、この態度である。