……海原君たちって、本当に色々考えてくれていたんだ。
よし、その映像はまた今度見せてもらうとして。
それより……お母さん?
「な、なにかしら美也?」
「だからね。どうして海原君とその……お話ししてきたの?」
「あぁ。それはね……」
「うん、それは?」
「た、たまたま……かしら?」
「……たまたま、なの?」
「そうよ。たまたま……です」
お母さんは絶対になにか隠している。
わたしは、直感的にそう思ったものの。
「あら美也……『あの子』も放送部なの?」
「えっ?」
少し離れたところに見えた、みんな。
いや、その視線の先の……。
……月子、のこと?
「あぁ、『あの子』はね……」
わたしがそういいかけていた、このとき。
母親がなにか言葉を、飲みこんでいたことに。
残念ながらわたしは、ちっとも気づけなくて。
ただ……。
「あらかたの事情は……理解できたました」
「えっ、お母さん?」
「確かに……卒業したって、終われないわね」
「ど、どういうこと?」
「……お父さんと、先にバス停に先に向かいますよ」
「お、おい。放送部のみなさんにごあいさつは?」
「こちらで、いたします」
そう答えた母は、父にも早くしろとうながすと。
その場でみんなに向けて、丁寧にお辞儀をしてから。
みんなもそろってお辞儀したのを確認し、もう一度会釈を返すと。
「美也。卒業、おめでとう」
笑顔でわたしに告げると。
「きれいな並木道よね? あなた?」
お父さんを引っ張って……歩いていった。
「美也ちゃん、卒業おめでとう!」
いつのまにか、近くにきていたみんなが。
思わず周囲の人たちが振り向いてしまうくらい。
一斉に大きな声で、わたしに呼びかける。
「海原くんは……『ご存知のとおり』急な会議です」
一歩前に出た月子が、あえてわたしに教えてくれると。
「こんなときなのに、アイツって相変わらずバカだよねー」
由衣がすかさず口にして。
「でもひとりで応対できるのは、海原君だけだよ」
千雪がなんだか……理解のあることをいっている。
「ま、明日からもあるから。平気、で・す・よ・ね?」
姫妃がわたしに、顔を近づけてくると。
「寂しがっている『かも』しれないのに。性格悪いよ、そのツッコミ」
玲香だってなかなかのことを……クールな表情でいい切るよね。
「あれ? もしかしてなにか鳴っていませんか?」
そういって、千雪が気づくと。
「どうかしましたか、響子先生?」
着信に出た玲香が。
「出なきゃよかった……」
ボソリといいながら、わたしにスマホを渡してくれる。
「やっと出たー」
「えっ、佳織先生?」
「さっき由衣にかけたらさぁー、切られたんだよねー」
「えっ?」
わたしと目線の合った由衣と、その隣の姫妃も。
明らかに視線を外していて。
「なんかねー。『ふたりとも』わたしだと出ないからさー」
だったら響子先生から玲香になら、必ずつながるだろうと。
要するに……みんな、避けていたんだ……。
……でも、どうして?
「す、すみません。急な会議で……」
「えっ?」
海原君の……声がする。
「ちょっと、なにしてるのふたりとも〜?」
電話の奥で、まだ事態を把握していない響子先生の声が聞こえると。
「ほら、響子にバレた。急げっ!」
佳織先生が、海原君をせかしている。
「『わたしの』スマホなのになー」
玲香の声と。
「出た玲香の負・け・ー」
姫妃の声が重なる中で。
「お、お見送りにいけなくて……」
スマホからは、海原君の声がする。
うれしい、もっと話したい。
だけど目の前に、ズラリと並ぶ『後輩たち』に見つめられていて。
これ以上は……『遠慮』します。
「あ、ありがとう。また明日」
「えっ?」
「ほら、会議中でしょ。早く戻って」
「は、はい……ではまた明日」
「はい、また明日」
海原君を、そういって『見送った』わたしは。
「……ありがとう」
玲香にそっと、スマホを返す。
「こんなときなのに……昴君だけは、打ち合わせですね」
「そ、そうだねぇ……」
ど、どうしよう。
なんだか玲香が……ちょっと怖い。
「ただ昴君のおかげで……」
「えっ?」
「ほかのみんなは全員、美也ちゃんのお見送りにこられました」
今度は、急に笑顔になった玲香が。
背中から大きなものを、サッと前に出す。
「……花束、いりますよね?」
再び真顔に戻った玲香が、わたしに聞くと。
「ちょっと! そこは、ど・う・ぞなのっ!」
姫妃が頭を割り込ませて、ものすごく近くに迫ってくる。
「しっかり両手で、受け取ってくださいね」
千雪のその笑顔には、裏がある。
「あ、ありがとう」
でも出されたものは、受け取らないと……ね。
すると、やっぱり。
泣いているわけでもないのに、先ほどから下を向いていた由衣が。
急に顔を上げると、大きな声で。
「それ〜!」
号令を合図に『四人が』一気に、わたしになだれ込んできた。
でもね、わたしだって負けないよ。
だって、みんなのその顔を見たら。
……その狙いは、すぐにわかった。
「『ボタン』は、ダメェ〜!」
「えっ、美也ちゃん?」
「ど・う・し・て?」
「卒業式ですよ?」
「ケチ〜!」
「だって、だって……」
「えっ?」
「美・也ちゃん?」
「どうかしましたか……」
「なんで?」
……よしっ。いまならいい感じ。
「取ってもいいよ! でも本当にいいの?」
……たまには、いいよね?
「まだわたし。学校くるんだよ!」
……わたしだって、見てみたいの。
「私服でくるよ? めちゃくちゃオシャレしてきてもいいの?」
……わたし以外のみんなの。
「本当にそれでも、いいのっ?」
……思いっきり『マズイ!』っていう顔を。
「……離れなさい」
目論見どおり、ほかのみんなが動きをとめたものの。
でも、やっぱり……。
『あの子』は少し、違うみたい。
「『制服以外』で登校されないように、離れなさい」
美しい黒髪を、わざわざ一度払いのけたその人の。
どこまでも澄んだ、藤色の瞳が。
わたしを真正面から……ジッと見つめてくる。
「美也ちゃん……」
「はい」
「制服以外では、『丘の上』への入構を認めません」
わたしの『ライバル』。
三藤月子の、その力強い口調は。
まるで『ドレスコード』以外にも。
なにか『譲れないものは譲れない』といっているようで。
それから彼女は、ふと表情をゆるめると。
憎らしいくらい美しく、そして優雅に。
「ご卒業、誠におめでとうございます」
わたしの門出を……祝ってくれた。
こうして、『わたしのボタン』は守られた。
そしてもっともっと、大切なことに。
あちこちのポケットに分散させていた。
本日収穫したての、『ほかのボタン』のすべてもわたしは。
みんなからの『防衛』に、成功した。
きょうは、わたしの卒業式。
大学にも合格したので、進路はある。
でもわたしは……もう少しこの『丘の上』に登校し続けるのはもちろん。
これからも、目指し続けることだって……。
まだまだ、変わらない。
……恋するだけでは、終われない。
そう。誰もがよくよく、おわかりのとおり。
わたしの『進む道』は。
この先も、当然のごとく。
……卒業したって、終われない!
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