……『三年生を送る会』の準備が、それなりに順調に進む中で。
『高校入試』の日が、やってきた。
正直、付属中学あがりの僕にとって。
高校入試の仕組みが……イマイチわからない。
「試験には違いないわよ。受かればいいのだから」
三藤先輩、発想はそうなんですけれど。
「海原君。だからき・ょ・うは『推薦入試』だよ!」
波野先輩が、さっきからその言葉を連呼していて。
「わたし『一般入試』だったなぁ。あ、それは来月あるほうね」
市野さん、混乱させないでくれないかな……。
「そうだ! 玲香ちゃんは?」
「前の高校だよね? えっと……『共通選抜第一次選考』かな?」
えっ……なんですか、それ?
「とにかくテストだよ、テスト!」
同じく付属の割に、『あの成績』だった高嶺がわかったようなことを。
僕の記憶上では……確か。
主流の進路である『本校』じゃなくて、突然亜流の『丘の上』にしたあとで。
「えっ? なんか……レベル違わない?」
そう気づいて、半泣きで勉強していた気がするけれど……。
「なにいってんの! アンタと同じヤツ受けて。ちゃんと合格してるから!」
い、いやそれはだな……。
「なんだか、二年前が懐かし・い!」
ここで、経験者の波野先輩が。
話を割って入ってきて、きょうの『推薦入試』について解説しはじめる。
「英数国の試験でしょ、あと面接」
「面接、ですか?」
「うん、グループワークと、個別面接の両方があるんだ・よ」
そ、そんなのがあるんだ……。
じゃぁ、市野さんの場合は?
「一般入試は、英数国理社か、英数国と個別面接だよ」
「で、どっちにしたの?」
「面接のほう、だって五科目だと大変だもん」
なるほど……。
と、いうことは……。
思わず、みんなの目が一斉に。
三藤先輩へと、集まってしまう。
「な、なによ?」
「グループワークとか、無理だ・よ・ね・ー」
「個別面接も、苦しいですよね」
「じゃぁ、月子ちゃんはやっぱり……」
「当然、五科目一択でしょ!」
「答えを知って……あなたたち。なにか楽しいのかしら?」
少し不機嫌そうな声で、三藤先輩が答えて。
思わずみんなが、ニンマリとする。
……と、そこまでは平和だったのに。
「じゃぁ次、昴君の高校受験の思い出は?」
「え、えっ……」
玲香ちゃんに聞かれて、僕はどう答えたらいいのかたじろいでしまう。
「なに? どうし・た・の?」
波野先輩。近い、近いです。
ま、まぁ別に終わったことだから。きっと話していいんだろう。
そう思って、僕は……。
「……受けてないのっ!」
……ちょっとさぁ。
みんな、同じリアクションだったくせに。
「由衣、うるさす・ぎ・っ!」
わたしだけ姫妃ちゃんに、わざわざいわれたんですけど!
「付属からだから、『試験』がなかったってことだよね?」
千雪の質問に、アイツは。
「いま思えば、あれが『面接試験』だったのかも……」
ちょっと待って……。
わたし、きちんと『ペーパーテスト』受けたんですけど?
アイツの話しによれば。
中学のとき、中高の校長を兼ねていた『本校』のほうの校長。
それといま思えば、こっちの寺上《てらうえ》校長らしき人と。
中学の校長室で会ったことがあるらしい。
「中高で同じ校長なのに、中学校と高校に校長室があるの?」
「建物が、道路を挟んでいるからかな? 奇数の日と偶数の日でね……」
いや……玲香ちゃんもアンタも。
気まぐれで部屋を変えていた校長のこととか。
いまさらどうでもよくない?
「そこで、『丘の上』はどうだと聞かれて。まぁ、バスに乗れるからいいかなって」
「アンタ、本当にそれだけなの?」
「ま、まぁ……なにか『予感』がしたのかも……」
なにその、取ってつけたみたいな理由は。
それにしても、わたし。
アンタがバスに乗りたいからって。
わざわざこの高校まで……付き合わされたったこと?
「由衣、それは順番が逆よ。海原くんがいくのを聞いて、進路を変えたのよね?」
「そ、そうですけど!」
……って、思わず答えたけれど。
なんで月子ちゃん、そんなことを知ってるの?
「シリーズ一作目。第三章第八話と九話に、書いてあるじゃない」
「あ。『恋するだけでは、終われない』の副題のないヤツだ・ね!」
「あぁこの、月子の回想シーンね」
「ちょ、ちょっと玲香!」
自分で話題にしておきながら。
「ここでわざわざ、スマホで読まないで!」
月子ちゃんが顔を赤くして慌てている。
それにしても、アンタだけ試験なしってズルくない?
「いや高嶺、それはお前の誤解だ」
「えっ?」
「基本は中学の成績で見てくれるから、無試験だ」
「……は?」
「お前が急に『進路変えます! 試験受けさせてください!』って、騒ぐから……」
それで……わざわざテストしたってこと?
「おかげで、僕までついでに受ける羽目になったんだよな……」
なにそれ?
ウチの先生たち、暇なの?
それより、アンタなんでそのときいわなかったの?
「こっちのほうが勉強キツイから、事前にやっておいたら」
あとでわたしも、困らないだろうからって……。
なにそれ……。
アンタって、ただのバカか。
……それとも、めちゃめちゃいいヤツなの?
「まぁおかげで、『みんな』が出会えたということね……」
月子ちゃんのそれは、なんだか別の人物だけにいい換えられそうだけれど。
とりあえずアンタと同じ学校で四年目なのは、まぁ……。
……嫌ではないから……許してあげる。
……校長として、きょうはよろしくと伝えにきたつもりが。
なんだか付属中の話しが、聞こえてしまったわね……。
「彼は……少し不思議な少年……ですな」
以前『本校』の校長と、『丘の上』に進学しそうな生徒について話していたとき。
海原君を評して、あちらの校長はまずそういった。
「あとは……彼を活かしていくのはこの子でしょう」
「あら、女生徒ですか?」
「はい。ですがいわゆる『恋仲』では、ないようですよ」
奇数の日に、中学の校長室にやってくると。
「こう、はしゃいでいて目立つのではなくて。視界に入る感じですな」
このふたりがつい、気になってしまうのだという。
「できればこのまま、こちらの高校に残ってもらいたい気もしますが」
それよりも、『丘の上』の風が似合うかもしれないと。
「『変化』をお求めなのでしょう。寺上先生は」
目を細めてわたしを見た、その人は。
「将来、『もったいない生徒たちを渡してしまった』と後悔しそうですな」
……ただ。それはそれで楽しみだと、ほほえんだ。
いま、この『丘の上』には……よい風が吹いている。
例えば、きょうの入試に関して職員会議で。
「手伝いがたった六名ですか?」
「それで……足りますかね?」
そんな意見が出たとき。
「『放送部』の、六名ですけど?」
佳織が得意げな顔で答えたのは、当然だとしても。
「なるほど。それなら、問題ありませんな」
そうほかの先生から声があがったのは、うれしかった。
「ほら、海原! 早く動くよ!」
海原君を活かしてくれる、あの子の声が響いて。
「みんな、い・こ・っ・か!」
この学校を選んでくれた子たちの声が、心地よい。
きょうのわたしの、願いはひとつ。
どうかきょうの入試で、ひとりでも多く。
……彼らに続く、生徒がやってきますように。

