独占欲の強い王子様(?)幼なじみ君

「みゆ。」

そう呟いても応答はない。去年までならみゆ真っ先に駆けつけてくれたのに。

「みゆ、」

風邪明けで気を使って少しは話してくれるかな?そう希望を持って声をかける。

「……。」

だが、みゆはこちらを1度も見ずに、みゆの嫌いなはずの顔しか見ない中学から絡み始めたグループの元に向かう。

「あれ?東堂君いいの?」
「ああ、大丈夫。」

仮面を貼り付けたような笑みを見せるみゆを、服の裾を握り遠くから見ていた。


「陽太、おはよう。」

康太の返事しか返ってこなくなって、3年。もうすぐ、中学を卒業する。冬も来て、今日も外に出ると凍えるぐらい寒い。みゆとはいまだに話せてない。中学1年生の頃は頑張って話しかけていた。でもあの氷のように冷たい瞳で見られるだけで答えはない。その結果。最近は話していない。

「そうだ!おめでとう。俺ら!」

そう!昨日なんとか、二人とも同じ高校に受かった。昨日は二人で家に集まり大騒ぎしながら結果発表を見ていた。

「よく頑張ったよ!」
「はは!あ、そういえば、

みゆも同じ高校らしいよ。」

心臓がジェットコースターで落ちた時のようだ。久しぶりに名前を聞いた。なんで同じなんだろう。ようやく離れられると思ったのに。

「大丈夫だよ。高校になったら人も増えるし離れられるよ。な!」

これ以上、康太に心配をかけられない。そう思いなんとか笑顔を作り返事をする。


「陽太は帰る?」

それから卒業式まではあっという間だった。楽しかったけど、正直、小学生に戻りたかった。みゆと仲良かったころに。卒業式のせいか視界が滲んだ。それをバレないように拭き、康太のもとへ向かった。康太はみんなに囲まれていたが、ほとんど断って僕のもとへ来た。

「うん。康太もお兄ちゃんいるんでしょ?」
「ああ!!早く帰んないと!!」

僕に気を使って早く帰ろうとしたわけではなくお兄ちゃんのためというのが康太らしい。

「僕は、最後に声をかけてくるね。」

康太は頑張れ。と一言だけ呟いて帰っていった。

「みゆ。」

皆と挨拶をして一人で帰ろうとしていたみゆを待ち伏せしていたら、予想通り来た。

「今日までありがとう。って言っても、中学の間、あんまり話せなかったけど。
高校も一緒だけど安心して。もう僕話しかけないから。
じゃあ、さようなら。」

真顔で何も言わずにいるけど、なぜか、話を聞いてくれるところは優しいな。そう思いながら、言いたいことだけ言って帰る。

「わ。」

まさか引っ張られるとは思わず、振り返ると、顔を歪めて、僕の腕を握った手に離さないと言わんばかりに力を込めている。

「な、なに?」

何も言わずに僕をじっと見てくる。そして数分後に手が離れた。

「僕、行くね……。
さようなら、」

大好きだよ。今も。
それ以上、みゆは何も言わなかった。


「ただいま!」
「おう!陽太!」

家に帰るとあまり家にいないお兄ちゃんがいた。久しぶりに会えたからか、僕の頭を髪がぐちゃぐちゃになるまで撫でまわす。

「そういえば、母さんが『陽太が、みゆー。って唸ってる』って言ってたが喧嘩でもしたか?」

僕は心臓の鼓動が少し早くなる。そして服の裾を握る。

「ううん。ただ、少し距離を置かれてて。」
「は!?マジかよ!
……みゆなら幸せにしてくれると思ったのに!……許せん!!」

途中は聞こえなかったが、許せんだけ聞こえた。やばい。言う相手間違えた。お兄ちゃんは僕が大好きでそして、行動的。僕が何かあるとすぐに対応してくれる。今まで、そのせいで人を傷つけたことはないけど、今回は怖い。

「だ、大丈夫だよ!僕、忘れるし!」
「……そうか。まあ、ほどほどにな。」

お兄ちゃんは僕が好きだけどみゆもずっと見てきたから辛いのだろう。お兄ちゃんはそのあと、誰かに連絡していた。


「おはよう。」
「お!陽太、高校もよろしくな!おは「おはよう。」」

高校に上がって入学式はあまり話せなかったから、登校日初日に康太と挨拶をすると、聞き覚えのある声に遮られる。

「み、みゆ!?」

振り返ると、僕より先に康太が信じられない物を見たような目で見る。僕も驚きすぎて口を開けていた。

「お、おはよう。みゆ、珍しいな。陽太がいるのに。」

そこでハッとした。そうだよね。康太には普通に話していたから康太だよね。たまたま僕がいただけだよね。でも忘れるといったくせに少しだけ嬉しかった。

「おはよう。陽太。」

まさかの僕?!しかも中学の頃とは打って変わってあの氷のような目で無視ではなく、少し甘い感情が入ってそうな見たことのない笑み。

「……お、おはよう。」

まるで僕しか見えてないかのような視線に戸惑い、とりあえず挨拶をしてその場を去った。


「では終わります。」
「ありがとうございました。」

今日は初日だからすぐに終わった。康太のもとへ向かい、下駄箱へ歩く。

「いや、それにしても、みゆどうしたんだろうな?」
「本当に。」

いまだに何を考えているか分からない。でもとりあえず嫌われてはない?のかな?康太と僕は頭にはてなマークが浮かんでいる。でも答えは出ない。

「陽太。」

靴を取って歩こうとすると、みゆに止められる。

「は、はい?」

久しぶりすぎて距離感が分からない。僕は目を合わせるのに迷う。

「一緒に帰らない?」

まさかの一言にみゆの顔を見ると、中学の頃には無かったかのように少し穏やかで透き通った瞳で耳を少しだけ赤くして見ていた。


気まずさと嬉しさで中々話題が続かない。そんな僕が嫌がってると見えたのか焦り気味に話題を出してくるみゆ。

「なあ、最近何楽しかった?」
「新作アイスを食べれたことかな。」
いつもはもっと深堀して説明するのにそれっきり口を閉ざした僕に、みゆは、
「……ごめんな。」

顔を見ると、それは、最近見せるような怖い顔でも、みんなに見せる表面上だけの笑みでもなく、顔をぐしゃぐしゃにしていた。

「な、何の話?」
「陽太には深い傷を負わせたのは分かってる。それでも、……そばに居させて!償うから! 」

みゆは体を震わせて願っていた。本当は許せない。僕は胸が張り裂けそうな3年間だった。なんで急に近づいてきたのか。
そこで思考が止まる。
それよりも、中学の頃、願っていたみゆと一緒に入れるのが嬉しい。それなら。

「じゃあ、朝おはようって言ってくれる?」
「うん。」
「一緒に登校してくれる?」
「うん。」
「康太と3人でワイワイしてくれる?」
「うん。」
「じゃあ、これから一緒にいてくれる?」
「うん。」

僕は聞きながら、呼吸を荒くする。やっと。やっと。みゆが振り向いてくれた……!

「ごめんな。泣けないほど我慢させて。
これからは陽太と一緒にいるから。ずっと。」

久しぶりに抱きしめられたみゆの体は小学生の頃から大きさも感触も変わっていた。でもとても安心して涙が出てきた。