「はっ,はっ……。クソっ,どこ行ったんだよあいつ,こんなもん押し付けて……っ!! あーもう! 悟~~--!!!」
俺は,走っていた。
自身の通う,明日から春休みだというがらんとした高校の廊下を……大きな荷物を隠すように全身で抱えて。
俺が今,こんな目に遭っているのは,全部あの西田 悟というあほな友人のせい。
事の発端は約10分前。
この一年,密かに憧れ続けたクラスメートの小鳥遊結城さんに告白するため,廊下を1人歩いていた時のことだった。
この西田悟という男は階段を駆け上がり,俺の目の前に突然飛び出した。
今,俺の抱えているこの荷物を持って。
こいつに遭遇したことが運の尽き。
おれは……抵抗する間もないまま
『やべぇやべぇやべぇ!! おい晴! いいところに……これ,預かってくれ! 晴なら見つかってもわんちゃん許されるからっ!!』
押し付けられるまま,受け取ってしまった。
そしてその不安しかない言葉の数々に,俺は嫌な予感を覚えて悟の横を追いかけた。
『な,なにいって。つーか誰から逃げてんの』
『あぁ,誰かと言われたらな,聞いて驚け~ぇ? 泣く子も黙る鬼のゆきりんだぜ!』
『はぁ?!!』
つい一緒になって逃げていた俺は,いよいよ付き合ってられないと冷や汗をかいた。
鬼のゆきりんといえば,1人しかいない。
絶対に理不尽なことは言わないが,少しでも間違いを犯せば容赦しないというあの……新任教師のことだろう。
『俺はゆきりんの顔が好きだ! スタイルが好きだ!! あの冷たいようでふと緩む表情と吐息が好きだ。まだ嫌われたくねぇ! 情けない奴だと失望されるのは嫌なんだぁぁぁぁ!!!』
俺に古ぼけたやたらと重いリュックサックを押し付け,身軽になった悟。
どしっとした荷物を抱え,なんとか悟に食いついて走る俺。
この光景が情けなくないと思っているのかと唖然としていた俺を置いて,悟は加速した。
『あ,おい待てこら! せめてこれが何なのかだけいって……っほんっとにふざけんなって! 教室で小鳥遊さんが……っ……っ』
俺の叫びもむなしく,悟の背中は小さくなっていった。
悟には今日の告白を伝えていない。
あいつは脳みそもそうなんじゃないかと思うくらい,口が軽い事を知っていたからだった。
事後報告でいいだろうと隠したのが,まさかこんなことになるなんて。
残され,うなだれ,恐る恐る中身を覗いた俺は。
『嘘だろ……』
悟のことだ。
酒やたばこではないだろうと踏んだのが間違いだった。
ゲーム機器などであればまだよかったものを……
「あぁ~もう! 小鳥遊さんもう来てるかな。約束の時間になる!」
悟も見つからないし,わざわざ追いかけてきていたというゆきりんこと原田 由紀がどこにいるのかなんて見当もつかない。
今,見つかるわけにはいかない。
捕まろうものなら,小鳥遊さんはドタキャンされたと思って帰ってしまうだろうし,俺のプライドにかけてこんな不名誉な誤解を教師にされたくもない。
かといって本当のことを話そうものなら,仲間を売る最低な奴だと思われることだろう。
悟はまだ見つからない。
小鳥遊さんに電話をかけようと,走り回りながらスマホを取り出したその時。
ずららぁと嫌な音がして,思わずよろけたほどに抱えていた荷物が軽くなる。
目の前に広がる,モザイクをかけたくなるような地獄絵図。
「なんでこんなにもろいんだよっっ。つーか中身入れすぎだろなんなんだこれ馬鹿なのかっ」
嘆き,悪態の一つもつきたくなるものだ。
そう,中にあったのものこそ,R18な本とブルーレイの山だった。
リュックをさかさまにして,慌てて拾い集める。
誰にも見つかりたくないと焦っていると,ふと横から影が差しこんだ。
「ぁ……」
「あ。…………どういう状況?」
岩井 満。
物静かで,特にこれといった会話をしたこともない長身のクラスメート。
「っっ!! っ違う!!!」
「?」
渾身の主張はかえって怪しく。
この光景に一切動揺を見せない涼しい顔で,何が? と暗に傾げられた。
こ,こいつ……まさか,”持ってる”のか?
それが当たり前なのか?? どうなんだ?
特にブルーレイの方をついさっき初めて目にした俺は,ぐるぐると余計なことを考える。
そして,俺はだらだらと流れる汗を自覚しながら作業を速め,さらにまくしたてた。
「西田 悟! わかるだろ。クラスで一番うるさくてあほなやつ!! あいつに押し付けられたんだ!!!! そうだ,岩井,あいつみてないか!??!」
「……」
「……」
「……みて……ない」
っだよ……
ガクッと首を落とし,俺は息を吐いた。
そうだ,そういえばこんなやつだった。
短文もしくは会話を即終了させるような一言しか返さない。
…もういいや,わざわざ誰かに話すようなやつにも見えないし。
そんな相手もいない,とまでは思わないけど。
「そっか,ありがとう。とにかく俺は本当に関係ないから! 今日見たことは忘れて!!!」
っっ! もう怒ったぞ悟!!
俺は小鳥遊さんに電話する前に,西田へと電話をつなげた。
『お。あー晴! 由紀ちゃん撒けたからいくわ。ありがと…』
「あたりまえだ!!」
『え……と,お,怒ってる?』
「……あたり,まえ,だっ!!!!! 早く来い今こいすぐに来い!!」
『お,おうまたな』
化学室前! と叫ぶと,ぴっと切って逃げられる。
2分後,悟は走ってやってきた。
「いやー悪い悪い。ゆきぽよはさっき職員室にかえっていったから」
「……大変だったんだぞ」
ずいっと差し出したさかさまのリュックと大穴をみて,さとるは
「あー」
と不憫そうな声を上げた。
「まぁ,俺のでもないんだけどな。部活の物置部屋の奥で見つけちまって。みんなで見てたらゆきたそが……。そんでうっかり逃げ出したら,こんなことに……」
リュックに詰める時間があるなら,素直に明け渡すかやり過ごせばいいものを。
不自然に逃げ出したらそりゃ追いかけられるに決まっている。
「あとお前! 原田先生を変な呼び方するのやめろよな。せめて由紀先生だろ」
「へーへー」
「じゃぁな!! 急いでるんだからこっちは!!!!!」
急げっ,急げっ
ーがらがららぁ!
「きゃっ……ぁ」
よかった。
まだい……
「っごめん! 遅くなって!!! ちょっと,アクシデントがあって!!」
可愛い声,ふわりと何かが香りそうなボブのうっすらとした茶髪。
見開かれた瞳を前に,俺は思い切り頭を下げた。
「あ,アクシデント……? そうなの? 大丈夫?」
「あ,う,うん……そっちはもう,大丈夫……」
困ったような細い眉を見て,あぁと心を決める。
これ以上は待たせられない。
今,告わないと。
「そ,それで話って言うのは……もう,気づいてるかもしれないけど」
「は,はい」
あ,敬語になってる。
かわい。
どきどきと緊張する。
小鳥遊さんの頬が少し赤い気がして,じわりと期待が広がる。
一年過ごした教室が,いつもと違って輝いて見えた。
「お,おれ……小鳥遊さんのことがす……」
ーガラらぁぁ!
勢いよく開いた扉に,2人して肩を跳ね上げる。
「ぁ……」
小鳥遊さんが首をすくめて扉を開けた主をみた。
恐る恐る振り返り,それに倣うと……
そこにいたのは,とっくに帰ったと思っていた岩井 満だった。
そう,あの……あの光景を見ていたただ一人の男。
岩井は俺を見つめ,ふと反応を見せる。
嫌な予感がした。
や,やめてくれ,それだけは。
じりじりと脳を響く警告音。
待っ……
願っても,奴は止まらない。
「あ。廊下でAVとエロ本ぶちまけてた人」
「え……」
小鳥遊さんのわずかに引いたようないつもの可愛らしい声が届く。
その声質に,俺は大ダメージを受けた。
いわっい!!
見たらわかるだろ。
絶対ダメだろ。
どうしてくれるんだ。
俺は,柴田 晴だ,知ってるだろわざとなのか?!!
なんでご丁寧に全部言う!?!
この1年,それ以外に俺のことを覚えていないのか?!?
知人以上友達未満じゃないか俺たち。
なんなら他の奴と比べたら喋った回数も1番多いんじゃないのか??
なのによりによって,なんでそれなんだっ。
ちゃんと……ちゃんとさっきも訂正もしたのに。
ちがう,そんなことより
「た,小鳥遊さん,まって,きいて」
「あ,あの……ごめんなさい。晴くん,そういうの興味あるって知らなくて……びっくりしただけ。えへへ,ごめんね,話……今度でいいかな? 今日はもう,用事に間に合わなくなるから帰るねっ」
「あ,あ……そんな……そんなぁぁ!」
ぱたぱたと軽く去っていく音がむなしく響く。
「じゃ」
とんでもないことをやらかした岩井は,その自覚もないのか,ノートを一冊もって出て行った。
あぁ,忘れ物。
忘れ物ね。
へー……
じゃ,なくて!!!
「おい岩井!!!」
何を言えばいいのかもわからないまま,それでも文句の一つでも言ってやりたくて,慌てて後を追う。
しかし時すでに遅く……
廊下には冷たい風が響くだけで,誰の姿もなかった。
「く,くそ……あーーーーっ」
岩井 満!!!!
あのノンデリあほ男め!!!!!!!
こうして俺の,約一年の憧れと,高校一年生が終了した。
俺はこの日,岩井 満と言う人間をを初めてしっかり認識したのだと思う。
知り合い以上友達未満で他人同然だったあいつと,俺は今日,ようやく出会ったのだ。
俺は拳に力を入れて,キッと誰もいない廊下を睨む。
待ってろよ岩井,休みが明けたら……ぜっったいに,一言文句言ってやる!!!!!
第一話 Fin
俺は,走っていた。
自身の通う,明日から春休みだというがらんとした高校の廊下を……大きな荷物を隠すように全身で抱えて。
俺が今,こんな目に遭っているのは,全部あの西田 悟というあほな友人のせい。
事の発端は約10分前。
この一年,密かに憧れ続けたクラスメートの小鳥遊結城さんに告白するため,廊下を1人歩いていた時のことだった。
この西田悟という男は階段を駆け上がり,俺の目の前に突然飛び出した。
今,俺の抱えているこの荷物を持って。
こいつに遭遇したことが運の尽き。
おれは……抵抗する間もないまま
『やべぇやべぇやべぇ!! おい晴! いいところに……これ,預かってくれ! 晴なら見つかってもわんちゃん許されるからっ!!』
押し付けられるまま,受け取ってしまった。
そしてその不安しかない言葉の数々に,俺は嫌な予感を覚えて悟の横を追いかけた。
『な,なにいって。つーか誰から逃げてんの』
『あぁ,誰かと言われたらな,聞いて驚け~ぇ? 泣く子も黙る鬼のゆきりんだぜ!』
『はぁ?!!』
つい一緒になって逃げていた俺は,いよいよ付き合ってられないと冷や汗をかいた。
鬼のゆきりんといえば,1人しかいない。
絶対に理不尽なことは言わないが,少しでも間違いを犯せば容赦しないというあの……新任教師のことだろう。
『俺はゆきりんの顔が好きだ! スタイルが好きだ!! あの冷たいようでふと緩む表情と吐息が好きだ。まだ嫌われたくねぇ! 情けない奴だと失望されるのは嫌なんだぁぁぁぁ!!!』
俺に古ぼけたやたらと重いリュックサックを押し付け,身軽になった悟。
どしっとした荷物を抱え,なんとか悟に食いついて走る俺。
この光景が情けなくないと思っているのかと唖然としていた俺を置いて,悟は加速した。
『あ,おい待てこら! せめてこれが何なのかだけいって……っほんっとにふざけんなって! 教室で小鳥遊さんが……っ……っ』
俺の叫びもむなしく,悟の背中は小さくなっていった。
悟には今日の告白を伝えていない。
あいつは脳みそもそうなんじゃないかと思うくらい,口が軽い事を知っていたからだった。
事後報告でいいだろうと隠したのが,まさかこんなことになるなんて。
残され,うなだれ,恐る恐る中身を覗いた俺は。
『嘘だろ……』
悟のことだ。
酒やたばこではないだろうと踏んだのが間違いだった。
ゲーム機器などであればまだよかったものを……
「あぁ~もう! 小鳥遊さんもう来てるかな。約束の時間になる!」
悟も見つからないし,わざわざ追いかけてきていたというゆきりんこと原田 由紀がどこにいるのかなんて見当もつかない。
今,見つかるわけにはいかない。
捕まろうものなら,小鳥遊さんはドタキャンされたと思って帰ってしまうだろうし,俺のプライドにかけてこんな不名誉な誤解を教師にされたくもない。
かといって本当のことを話そうものなら,仲間を売る最低な奴だと思われることだろう。
悟はまだ見つからない。
小鳥遊さんに電話をかけようと,走り回りながらスマホを取り出したその時。
ずららぁと嫌な音がして,思わずよろけたほどに抱えていた荷物が軽くなる。
目の前に広がる,モザイクをかけたくなるような地獄絵図。
「なんでこんなにもろいんだよっっ。つーか中身入れすぎだろなんなんだこれ馬鹿なのかっ」
嘆き,悪態の一つもつきたくなるものだ。
そう,中にあったのものこそ,R18な本とブルーレイの山だった。
リュックをさかさまにして,慌てて拾い集める。
誰にも見つかりたくないと焦っていると,ふと横から影が差しこんだ。
「ぁ……」
「あ。…………どういう状況?」
岩井 満。
物静かで,特にこれといった会話をしたこともない長身のクラスメート。
「っっ!! っ違う!!!」
「?」
渾身の主張はかえって怪しく。
この光景に一切動揺を見せない涼しい顔で,何が? と暗に傾げられた。
こ,こいつ……まさか,”持ってる”のか?
それが当たり前なのか?? どうなんだ?
特にブルーレイの方をついさっき初めて目にした俺は,ぐるぐると余計なことを考える。
そして,俺はだらだらと流れる汗を自覚しながら作業を速め,さらにまくしたてた。
「西田 悟! わかるだろ。クラスで一番うるさくてあほなやつ!! あいつに押し付けられたんだ!!!! そうだ,岩井,あいつみてないか!??!」
「……」
「……」
「……みて……ない」
っだよ……
ガクッと首を落とし,俺は息を吐いた。
そうだ,そういえばこんなやつだった。
短文もしくは会話を即終了させるような一言しか返さない。
…もういいや,わざわざ誰かに話すようなやつにも見えないし。
そんな相手もいない,とまでは思わないけど。
「そっか,ありがとう。とにかく俺は本当に関係ないから! 今日見たことは忘れて!!!」
っっ! もう怒ったぞ悟!!
俺は小鳥遊さんに電話する前に,西田へと電話をつなげた。
『お。あー晴! 由紀ちゃん撒けたからいくわ。ありがと…』
「あたりまえだ!!」
『え……と,お,怒ってる?』
「……あたり,まえ,だっ!!!!! 早く来い今こいすぐに来い!!」
『お,おうまたな』
化学室前! と叫ぶと,ぴっと切って逃げられる。
2分後,悟は走ってやってきた。
「いやー悪い悪い。ゆきぽよはさっき職員室にかえっていったから」
「……大変だったんだぞ」
ずいっと差し出したさかさまのリュックと大穴をみて,さとるは
「あー」
と不憫そうな声を上げた。
「まぁ,俺のでもないんだけどな。部活の物置部屋の奥で見つけちまって。みんなで見てたらゆきたそが……。そんでうっかり逃げ出したら,こんなことに……」
リュックに詰める時間があるなら,素直に明け渡すかやり過ごせばいいものを。
不自然に逃げ出したらそりゃ追いかけられるに決まっている。
「あとお前! 原田先生を変な呼び方するのやめろよな。せめて由紀先生だろ」
「へーへー」
「じゃぁな!! 急いでるんだからこっちは!!!!!」
急げっ,急げっ
ーがらがららぁ!
「きゃっ……ぁ」
よかった。
まだい……
「っごめん! 遅くなって!!! ちょっと,アクシデントがあって!!」
可愛い声,ふわりと何かが香りそうなボブのうっすらとした茶髪。
見開かれた瞳を前に,俺は思い切り頭を下げた。
「あ,アクシデント……? そうなの? 大丈夫?」
「あ,う,うん……そっちはもう,大丈夫……」
困ったような細い眉を見て,あぁと心を決める。
これ以上は待たせられない。
今,告わないと。
「そ,それで話って言うのは……もう,気づいてるかもしれないけど」
「は,はい」
あ,敬語になってる。
かわい。
どきどきと緊張する。
小鳥遊さんの頬が少し赤い気がして,じわりと期待が広がる。
一年過ごした教室が,いつもと違って輝いて見えた。
「お,おれ……小鳥遊さんのことがす……」
ーガラらぁぁ!
勢いよく開いた扉に,2人して肩を跳ね上げる。
「ぁ……」
小鳥遊さんが首をすくめて扉を開けた主をみた。
恐る恐る振り返り,それに倣うと……
そこにいたのは,とっくに帰ったと思っていた岩井 満だった。
そう,あの……あの光景を見ていたただ一人の男。
岩井は俺を見つめ,ふと反応を見せる。
嫌な予感がした。
や,やめてくれ,それだけは。
じりじりと脳を響く警告音。
待っ……
願っても,奴は止まらない。
「あ。廊下でAVとエロ本ぶちまけてた人」
「え……」
小鳥遊さんのわずかに引いたようないつもの可愛らしい声が届く。
その声質に,俺は大ダメージを受けた。
いわっい!!
見たらわかるだろ。
絶対ダメだろ。
どうしてくれるんだ。
俺は,柴田 晴だ,知ってるだろわざとなのか?!!
なんでご丁寧に全部言う!?!
この1年,それ以外に俺のことを覚えていないのか?!?
知人以上友達未満じゃないか俺たち。
なんなら他の奴と比べたら喋った回数も1番多いんじゃないのか??
なのによりによって,なんでそれなんだっ。
ちゃんと……ちゃんとさっきも訂正もしたのに。
ちがう,そんなことより
「た,小鳥遊さん,まって,きいて」
「あ,あの……ごめんなさい。晴くん,そういうの興味あるって知らなくて……びっくりしただけ。えへへ,ごめんね,話……今度でいいかな? 今日はもう,用事に間に合わなくなるから帰るねっ」
「あ,あ……そんな……そんなぁぁ!」
ぱたぱたと軽く去っていく音がむなしく響く。
「じゃ」
とんでもないことをやらかした岩井は,その自覚もないのか,ノートを一冊もって出て行った。
あぁ,忘れ物。
忘れ物ね。
へー……
じゃ,なくて!!!
「おい岩井!!!」
何を言えばいいのかもわからないまま,それでも文句の一つでも言ってやりたくて,慌てて後を追う。
しかし時すでに遅く……
廊下には冷たい風が響くだけで,誰の姿もなかった。
「く,くそ……あーーーーっ」
岩井 満!!!!
あのノンデリあほ男め!!!!!!!
こうして俺の,約一年の憧れと,高校一年生が終了した。
俺はこの日,岩井 満と言う人間をを初めてしっかり認識したのだと思う。
知り合い以上友達未満で他人同然だったあいつと,俺は今日,ようやく出会ったのだ。
俺は拳に力を入れて,キッと誰もいない廊下を睨む。
待ってろよ岩井,休みが明けたら……ぜっったいに,一言文句言ってやる!!!!!
第一話 Fin


