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「ねぇねぇ優一くーん。知ってるー?」
「来年のクラスって、成績順なんだってぇ」
「優一くんはぁ、絶対五組でしょー」
「うちらマジで一組確定なんだけどぉ」
十分しかない休み時間にわざわざやってくる他のクラスの女子は一体なんなんだろう。他のクラスにも俺ぐらいの成績と顔のレベルの男子生徒はいるだろうにと思う。
「それの何が問題なのかな?」
俺はいつも通り、教科書に目線を向ける振りをしつつその向こうに見える窓ぎわの一番前の席に座る高橋を見ていた。高橋は相変わらずラノベを読んでいるらしく、お決まりの姿勢で廊下側のこちらへの興味関心はなさそうである。
「だってさー、一組と五組じゃ階が違うんだよぉ」
「一年は全クラス四階だけどぉ、二年は三階と二階に別れちゃうの!」
「そしたらこーして優一くんに会いに来るのめんどいじゃん」
誰も来てくれ。なんて頼んでなんかいないのだから、来なければいいのに。なぜ来るんだろう。
「なるほどね。それならせめて同じ階のクラスになればいいんじゃないかな」
俺はいつも通り、他のクラスからやってきた女子生徒を見ずに答えた。教室の位置は動かないので、二年一組と二組は二階になり、三組からは三階になる。つまり、成績の順でクラス分けされた時、下位の成績を取っていると自動的に一組か二組に振り分けられるということだ。
「今更無理だよぉ。優一くん冷たいこと言わないでぇ」
そんなことを言いながら、何故か体をクネクネさせている理由が分からない。寒いのなら廊下になどでなければいいだけなのに。
「俺が冷たいんじゃなくて、廊下が寒いだけなんじゃないの?自分の教室に戻ればいいと思うよ」
一応、気を使った言葉を投げかければ、女子たちは「優一くん優しい」なんて言いながら自分の教室に戻って行ったのだった。俺は深いため息を着きながら、スマホの時計を確認する。古い学校なので、休み時間は換気タイムと呼ばれて窓を少し開けなくてはならない。廊下側は大したことは無いけれど、窓際はさぞや冷気が入ってきていることだろう。だから窓際の席は不人気なのだ。それなのに、高橋は揺れるカーテンを気にもせず、ラノベを読み続けている。制服の下にセーターを着ているのが見えるので、それなりに暖かいのだろうけれど、それでも風邪を引いたりしないのか心配である。
「高橋ってやっぱり一組確定組?」
後ろの席の新山が突然話しかけてきて、俺はようやく目線を動かした。
「確定って言われてもね。成績順としか聞いてないよ。年間の成績からなのか、学年末の結果なのか」
「ああ、学年末かぁ」
そんなことを言っている新山は、ちょっと困ったような顔をしていた。
「それもどっちになるか、毎年違うらしいじゃん」
そうなのだ。純粋に成績順ではなく、平均点で決めていると言う噂もあるのだ。二年は一組と二組の成績が同じぐらいになるように調整されている。と言う噂を聞いたこともある。何にしても成績順なのは確定らしいのだが、その成績が年間なのか、学年末の結果なのかは不確かなのである。
「毎年違うのはアレだろ。その年によって生徒の出来が違うから」
「それなんだよなぁ」
「二年は三から五組までが上位で、一、二組が下位って聞いたけど」
そこに松浦が入ってきた。
「え?マジで」
それに食いつたのは新山だった。
「ほら、さっきの話じゃないけど、教室の階が違うじゃない?それが、関係してるらしいよ。一緒にぬい活してる先輩に聞いた話しだと」
「先輩情報は信ぴょう性あるなぁ」
新山が頭を抱える仕草をして、机に突っ伏した。
「なに、新山くん。二階落ち確定なの?」
松浦がからかうように言ってきた。そんな松浦のカバンに下げられているぬいぐるみは、手編みのマフラーを首に巻き付けていて、その毛糸の色は松浦がしているマフラーと同じ色だった。
「いやいや、俺は学年末の結果と信じてる」
「そっちのが厳しくない?」
「一年間の平均点のが厳しいだろ。今更巻き返せねーよ」
「今年のうちらの成績の平均が低けりゃ学年末の結果になるんじゃない?」
松浦は先輩から聞いたことをそのまま話しているらしく、あくまでも可能性の問題だと言いたげである。
「そんなのわかんねーじゃん。うわぁ、二階落ちはしたくねーよ俺」
ますます頭を抱える新山を見ながら俺は横目で高橋を見た。こちらの騒ぎには関心がないらしく、相変わらずラノベを読んでいる。
「こーら、チャイムなったんだぞー」
そんな新山の頭を出席簿で叩いてきたのはこの時間の担任だった。
「なんだか楽しそうな話題だなぁ」
そう言いつつ教壇にたつと、そのまま出世気を取り始めた。そして、先程の話題を持ち出してきた。
「今年はまだ決まってないんだわぁ。なにしろお前らの成績が微妙なんだよなぁ。入学してから成績が大きく変わった生徒がそんなにいないんだよなぁ」
それを聞いて教室がざわついた。つまり、入学してからほとんどの生徒が現状維持と言うことになる。
「俺から言えることはそーだなぁ。二階落ちしたくなけりゃ学年末頑張れよ。って事だなぁ」
そう言って、そのまま授業が開始されたものだから、後ろの席の新山からのボヤキが一際うるさかったのだった。
「ねぇねぇ優一くーん。知ってるー?」
「来年のクラスって、成績順なんだってぇ」
「優一くんはぁ、絶対五組でしょー」
「うちらマジで一組確定なんだけどぉ」
十分しかない休み時間にわざわざやってくる他のクラスの女子は一体なんなんだろう。他のクラスにも俺ぐらいの成績と顔のレベルの男子生徒はいるだろうにと思う。
「それの何が問題なのかな?」
俺はいつも通り、教科書に目線を向ける振りをしつつその向こうに見える窓ぎわの一番前の席に座る高橋を見ていた。高橋は相変わらずラノベを読んでいるらしく、お決まりの姿勢で廊下側のこちらへの興味関心はなさそうである。
「だってさー、一組と五組じゃ階が違うんだよぉ」
「一年は全クラス四階だけどぉ、二年は三階と二階に別れちゃうの!」
「そしたらこーして優一くんに会いに来るのめんどいじゃん」
誰も来てくれ。なんて頼んでなんかいないのだから、来なければいいのに。なぜ来るんだろう。
「なるほどね。それならせめて同じ階のクラスになればいいんじゃないかな」
俺はいつも通り、他のクラスからやってきた女子生徒を見ずに答えた。教室の位置は動かないので、二年一組と二組は二階になり、三組からは三階になる。つまり、成績の順でクラス分けされた時、下位の成績を取っていると自動的に一組か二組に振り分けられるということだ。
「今更無理だよぉ。優一くん冷たいこと言わないでぇ」
そんなことを言いながら、何故か体をクネクネさせている理由が分からない。寒いのなら廊下になどでなければいいだけなのに。
「俺が冷たいんじゃなくて、廊下が寒いだけなんじゃないの?自分の教室に戻ればいいと思うよ」
一応、気を使った言葉を投げかければ、女子たちは「優一くん優しい」なんて言いながら自分の教室に戻って行ったのだった。俺は深いため息を着きながら、スマホの時計を確認する。古い学校なので、休み時間は換気タイムと呼ばれて窓を少し開けなくてはならない。廊下側は大したことは無いけれど、窓際はさぞや冷気が入ってきていることだろう。だから窓際の席は不人気なのだ。それなのに、高橋は揺れるカーテンを気にもせず、ラノベを読み続けている。制服の下にセーターを着ているのが見えるので、それなりに暖かいのだろうけれど、それでも風邪を引いたりしないのか心配である。
「高橋ってやっぱり一組確定組?」
後ろの席の新山が突然話しかけてきて、俺はようやく目線を動かした。
「確定って言われてもね。成績順としか聞いてないよ。年間の成績からなのか、学年末の結果なのか」
「ああ、学年末かぁ」
そんなことを言っている新山は、ちょっと困ったような顔をしていた。
「それもどっちになるか、毎年違うらしいじゃん」
そうなのだ。純粋に成績順ではなく、平均点で決めていると言う噂もあるのだ。二年は一組と二組の成績が同じぐらいになるように調整されている。と言う噂を聞いたこともある。何にしても成績順なのは確定らしいのだが、その成績が年間なのか、学年末の結果なのかは不確かなのである。
「毎年違うのはアレだろ。その年によって生徒の出来が違うから」
「それなんだよなぁ」
「二年は三から五組までが上位で、一、二組が下位って聞いたけど」
そこに松浦が入ってきた。
「え?マジで」
それに食いつたのは新山だった。
「ほら、さっきの話じゃないけど、教室の階が違うじゃない?それが、関係してるらしいよ。一緒にぬい活してる先輩に聞いた話しだと」
「先輩情報は信ぴょう性あるなぁ」
新山が頭を抱える仕草をして、机に突っ伏した。
「なに、新山くん。二階落ち確定なの?」
松浦がからかうように言ってきた。そんな松浦のカバンに下げられているぬいぐるみは、手編みのマフラーを首に巻き付けていて、その毛糸の色は松浦がしているマフラーと同じ色だった。
「いやいや、俺は学年末の結果と信じてる」
「そっちのが厳しくない?」
「一年間の平均点のが厳しいだろ。今更巻き返せねーよ」
「今年のうちらの成績の平均が低けりゃ学年末の結果になるんじゃない?」
松浦は先輩から聞いたことをそのまま話しているらしく、あくまでも可能性の問題だと言いたげである。
「そんなのわかんねーじゃん。うわぁ、二階落ちはしたくねーよ俺」
ますます頭を抱える新山を見ながら俺は横目で高橋を見た。こちらの騒ぎには関心がないらしく、相変わらずラノベを読んでいる。
「こーら、チャイムなったんだぞー」
そんな新山の頭を出席簿で叩いてきたのはこの時間の担任だった。
「なんだか楽しそうな話題だなぁ」
そう言いつつ教壇にたつと、そのまま出世気を取り始めた。そして、先程の話題を持ち出してきた。
「今年はまだ決まってないんだわぁ。なにしろお前らの成績が微妙なんだよなぁ。入学してから成績が大きく変わった生徒がそんなにいないんだよなぁ」
それを聞いて教室がざわついた。つまり、入学してからほとんどの生徒が現状維持と言うことになる。
「俺から言えることはそーだなぁ。二階落ちしたくなけりゃ学年末頑張れよ。って事だなぁ」
そう言って、そのまま授業が開始されたものだから、後ろの席の新山からのボヤキが一際うるさかったのだった。
