嫁と呼ばれたい俺はぬい活で告白したいと思います

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「推しどころか、神までいたなんて」

 自宅のベッドの上で俺は泣きそうだった。陰キャオタクと呼ばれ一人で本を読んでいる高橋だから推しの一人や二人いることぐらい想定はしていた。

「神とか、マジで無理」

 俺は例の動画配信者の顔を睨みつける。けれど、スマホの中の配信者は笑顔で解説を続けていた。

「そりゃ、こんなに完璧なぬいぐるみ作るとか、神の所業だわ」

 配信者が手にしている完成したぬいぐるみを見て、俺は深いため息をついた。高橋の推しというスライム戦記のケモ耳キャラヤーノは進化を繰り返した結果の姿らしく、初期はコボルトとか言う魔物だったらしい。だから性別が不明とかネットに書かれていて、それを読んで俺は内心ホッとしていたのだ。

「聞いてみる、か?高橋に、聞いてみる、か?」

 俺は自問自答した。カバンの中から今日高橋と筆談をしたノートを取り出して高橋の文字を指でなぞる。ちょっと丸みを帯びている文字が陰キャオタクと呼ばれている高橋っぽくてなんだか良い。

「シャーペンはあのメーカーのだったな」

 高橋が使っていたシャーペンは、ずっと先端が尖り続けることをうたい文句にしているメーカーのものだった。色は至ってシンプルな黒で丁寧に使われてる感じがした。すぐに返事を書いてきたあたり、恐らく胸ポケットにさしているに違いない。

「待てよ。俺も持ってる」

 机の引き出しを開ければ、入学祝いに貰ったペンのセットが箱のまま入れてあった。

「確か、親父の会社からの入学祝い」

 箱を開けてみればそこには間違いなく高橋の使っているのと同じシャーペンが入っていた。

「色も同じとか、マジ神」

 親父の会社から一律で配られる入学祝いは、年齢ごとに内容が決まっているらしく、高校入学の祝いの品は図書券とこのシャーペンだった。

「図書券五千円分、使ってないじゃん俺」

 シャーペンの入った箱の下に図書券が入った封筒がそのまま置かれていた。金額は五千円分、カードに穴は空いていない。つまり未使用だ。

「どうする。全巻買うか?確か十三巻まで出てたよな。読むか?読めるか?」

 頑張れば読めなくはない。ただ俺は自転車通学だから、読むのは自宅だ。学校に持ち込むなんてこれみよがしなことなんてできるわけが無い。俺はあくまでも、あくまでも……

「アニメ、アニメ配信してんじゃん!」

 俺は思い出したようにスマホを手に取った。動画配信者が高橋に神と呼ばれるのは、つまり完成度が高いというわけなのだ。

「アニメ全話無料じゃん」

 奇跡が起きた。我が家が加入しているサブスクでアニメ無料キャンペーンが行われていた。ただし明日まで。

「観るしかない」

 俺は覚悟を決めてスライム戦記を視聴することにしたのだった。もちろん徹夜で。