嫁と呼ばれたい俺はぬい活で告白したいと思います

4.
 ぬい活をするのに大切なことは、なんと言っても推しの姿の再現力である。そのためには推しを近くで観察しなくてはならない。アニメキャラやアイドルだったらいくらでも資料を手に入れられるけれど、残念ながらオレの推し(意識すると恥ずかしいものである)の資料は売られてなんかいなかった。当たり前なのだけれど、高橋はSNSもやっていなかった。さらに、教室の中で俺と高橋の席は離れていた。俺の席は廊下側、高橋の席は窓際だ。もう三学期は席替えをしないということなので、俺が高橋の隣に座る日は来ないのだ。
 そうなってくると、どうやって高橋を間近で見て観察するかが問題になってくる。毎日見ているから、あの綺麗な透明感のある茶色い髪質とか、色白だけど頬骨が案外高いからツリ目気味なところとか、そういう所はちゃんと記憶できている。残念なことに、俺は高橋の正面顔を知らなかった。もしかすると正面から見たら残念な顔立ちだったらどうしよう。と思って、体育の時間に高橋を観察してみたら、バスケが意外と上手くて見惚れてしまったのだった。
 女子たちから陰キャオタクなんて呼ばれているくせに、バスケが上手いとかチートである。汗で額に張り付いた前髪をかきあげる仕草がなんだか色っぽくて、おもわず目を逸らしてしまった。心臓の音がヤケにうるさかったのは、運動をしたからなのだと自分に言い聞かせた。

「高橋陰キャのクセしてバスケうまいじゃーん」

 そんな事を言って、体操着を脱いでいた高橋の身体に触っている奴がいた。反射的にそっちを見てしまったら、高橋の上裸を見てしまっのだった。陰キャのクセに、高橋は結構引き締まった身体をしていた。

「なんだよ。高橋ぃ、いい筋肉ついてんじゃーん」

 そう言って、他の誰かが高橋の胸筋を鷲掴みにしているのが見えて、俺は思わず固まってしまった。
 
 ――掴めるのかそれ、男の胸だぞ。
 
 そんな俺の気持ちを見透かされたのか、クラスメイトの男子が俺の方を見た。

「優一も気になっちゃった?」
「えっ!」
「触ってみろよ。すげーの高橋の筋肉」

 そう言って俺の手を半ば強引に高橋の方へ持っていくので、オレは慌ててその手を振りほどいた。

「遠慮するなよぉ」
「お前のもんじゃねーだろ」

 高橋が冷静に突っ込んでくれた。

「男の胸なんかさわって楽しいとかねーだろ」

 高橋が冷たく言い放ち、すぐさまTシャツを着て制服を着てくれたから、その場は何とかおさまった。ただ、俺は引っ込めた手をしばらく見つめたまま動けないでいたのだった。