23
《テストはんい広いよな》
《マジそれ》
《理科がヤバいよな。物理》
《ほん、それ》
昼休み、俺と伊知郎は図書室で筆談をしていた。テスト範囲のプリントをテーブルに置いて、改めて確認をすると、範囲の広さがえげつない。
《来年のクラス、学年末テストなんだな》
《いっぱつしょーぶ》
《赤点いないってことだよな》
《まぁ、一年でそれはなぁ》
そんなことを書きながら、俺は朝のやり取りを思い出す。土日で俺と伊知郎の距離感が一気に縮んだことは間違いない。クラスメイトからしたら、理解し難いことだったのかもしれないけど、俺だって伊知郎のことを伊知郎って呼んでいたのに。
《朝のけん、ごめん》
《朝?》
《まなかとにいや》
《ん?》
《インキャオタク》
《ああ》
《オレだって、いちろーのことなまえでよんだのに》
《あーね》
伊知郎はそうノートに書くと、手のひらの中でクルクルとシャーペンを回し始めた。
《まつうらのしてきどーり、なんだよ》
《まつうら?》
《だからー、あいつらせーせき悪いんだよ》
《なるほど》
《中学とちがってークラスカーストはせーせきじゃん?》
《そんなもん?》
《ゆーとーせーはむじかくだよなー》
《だから、そーゆーのわかんないって》
《同じ高校デビューしっぱい組として、おしえてやろー》
《うん》
《進学校のクラスカーストはせーせき、かおとかうんどーとかカンケーないんだよ》
《そうなの?》
《だからーほかのクラスの女子がゆーいちのとこくんの》
《?》
《学年トップとつながりありますアピールしたいんだよ》
《そんなもん?》
《そーだろー、だからゆーいちだって、来年5組ねらってんだろー》
《そうだね》
《むじかくだなー》
《まわり見てるよゆーなんてないんだよ》
《クラスメイトのなまえもおぼえてないもんなー》
《それは、ゴメン》
そのあと俺と伊知郎は声を出さずに笑った。図書室の窓際の席はもはや俺と伊知郎の指定席になっているようだった。
《こんしゅうまつ、またとしょかん?》
《まにあうよな?》
《テストはんいわかったし、やっぱふくしゅーはしないと》
《さんがっきのはんいなんてたかが知れてる》
《せかいしが、うちのクラスおくれぎみ》
《まじ?》
《げんだいにはいったばっかだろー》
《そうだった?》
《うん》
俺はそうノートに書いて、世界史の授業ノートを広げた。今日は五時限目が世界史である。テスト範囲を見て、慌てたのだ。
《ほんとだー》
俺の授業ノートを見て伊知郎は眉をひそめた。テストまでの授業数を数えると、今日はかなりのハイピッチで授業が進められるはずなのだ。
《ばんしょが、すげーことになりそーだな》
《カーテンしっかりしめてくれよなー》
《おー》
そんなやり取りをしながら、俺と伊知郎は自然に授業の予習みたいなことができたのだった。
「図書室帰りー?」
教室に戻ると、隣の席の松浦さんが声をかけてきた。
「うん。そう」
「図書室、三年生多くない?」
「ああ、いるね」
「あれねー、授業出ないで受験勉強してるらしいよ」
「そうなの?」
「来月から自由登校だから、単位足りてる三年生がよくやってるんだって、ほら、風邪とかうつると困るじゃない?」
「あー三年生の教室、一階で寒そうだよな」
「日当たり悪いからね。でも、三年生は受験シーズン出入り激しいから一階で、固定なんだって」
「そういやそうだね。クラスも下駄箱も固定だよな」
俺がそう答えながら次の授業である世界史の準備をしようとしていると、再び松浦さんが口を開いた。
「で?安達くんと、高橋くんは何故ゆえ急接近?」
「あー、塾が一緒(だった)、みたいな?」
「なるほど。進級を目前にタッグを組みましたか」
いやいや、松浦さんの言葉のチョイス。東中出身ってみんなこんななのか?心臓に悪いんですけど。
「そりゃあ、五組狙ってますから」
「言うねー、そうだよねー。安達くんはトップ入学だもんねー。プレッシャーだよねー」
「それがプレッシャーだから」
「ごめん、ごめん。そんな安達くんに」
そう言って松浦さんが俺にだけ見えるようにプリントをノートの下から見せてきた。それはどう見てもテスト用紙だった。松浦さんは俺が驚いた顔をしていると、無言で親指を立てたのだった。
「松浦さんの部活の先輩マジで神だわ」
「安達くんもそーゆーことば使うんだねぇ」
「使うでしょ」
「高橋くんの分もちゃんとコピースるから」
「あざっす」
「東中のヒーローが五組落ちとかこっちがこまるわ」
「そーゆーこと言うなよ」
「何、ヒーローって?」
松浦さんと伊知郎は同じ東中出身で、俺には知らないお約束があるらしい。
「余計なこと言うなよ」
「いやいや、ここはお礼も兼ねて話すわ。安達くんには知ってて貰いたいのよ。安達くん、塾にいってたなら知ってるよね?うちらの学年は東中が一番頭悪かったの」
「ああ、うん」
「そんな中、高橋くんは男バスのキャプテンでありながら、この高校に受かったってわけよ」
「へー」
「スポーツができて勉強も出来たらヒーローでしょ?」
「まぁ、そうなるね」
「間中さんと新谷くんは隣の市の中学のバスケ部にいたのね。だから高橋くんのこと知ってたわけ」
「顔知ってるやつが高校で同じクラスにいたから、マウント取りたかったんだろうな」
「試合でいつも負けてたからねー」
「だって、あの中学のバスケ部は不良の集まりみたいなもんだったからな」
「そうなの?」
「県北で一番荒れてる中学だって言われてたの知らない?」
「あー、怖い体育教師が集結してる。って聞いたような」
「そういうことなんだよ」
「それは、また」
「あいつら俺のこと自分と同じくらいバカだと思ってんのよ。で、ラノベ読んでたからオタクって」
「なるほど」
「そんなわけで、我ら東中としては負けられない戦いなわけなのよ」
「松浦さんも?なんで?」
「手芸部入ってぬい活してたらオタクって言われたからね。あ、私もバスケ部だったんだよ?」
「それは失礼しました」
「優一はテニス部なんだぜ。しかも学校カラー知らないんだと」
「それは愛校心のない」
松浦さんは口許に手を当てて、大袈裟に驚いた振りをした。伊知郎はそれを見てニヤニヤと笑っている。
「テニス部は、試合の時は上は白のポロシャツでしたは学校のハーパンだったの」
「経費削減か」
「単に試合用のユニフォームがないとも言うけどな」
「中学なんてそんなもんだろ」
松浦さんと伊知郎は好き勝手をいい、それでも松浦さんはちゃんと去年の学年末テストの問題用紙回答付きをコピーして俺と伊知郎に分け与えてくれたのだった。
「一発勝負になったから、誰にでも五組チャンスが回って来たってことよ。全員がライバルだからね。安達くん」
「わかってます。松浦さんありがとう。部活の先輩にもお礼をよろしくね」
「もちろん。クッキー一箱で手を打とう」
「そうきたかー」
そんなことをいいながらも、俺と伊知郎で割り勘の上松浦さんの先輩たちにクッキーを献上したのだった。
「では帰りますか」
「貰うもん貰ったし、出すもの出したし?」
「過去問は重要アイテムだよ」
「安いもんか。俺たち部活入ってないもんな」
「人脈は大切だね」
「松浦様様」
学校の方を向いて拝む仕草をして、俺と伊知郎はイロチのネックウォーマーを付け帰宅したのだった。
《テストはんい広いよな》
《マジそれ》
《理科がヤバいよな。物理》
《ほん、それ》
昼休み、俺と伊知郎は図書室で筆談をしていた。テスト範囲のプリントをテーブルに置いて、改めて確認をすると、範囲の広さがえげつない。
《来年のクラス、学年末テストなんだな》
《いっぱつしょーぶ》
《赤点いないってことだよな》
《まぁ、一年でそれはなぁ》
そんなことを書きながら、俺は朝のやり取りを思い出す。土日で俺と伊知郎の距離感が一気に縮んだことは間違いない。クラスメイトからしたら、理解し難いことだったのかもしれないけど、俺だって伊知郎のことを伊知郎って呼んでいたのに。
《朝のけん、ごめん》
《朝?》
《まなかとにいや》
《ん?》
《インキャオタク》
《ああ》
《オレだって、いちろーのことなまえでよんだのに》
《あーね》
伊知郎はそうノートに書くと、手のひらの中でクルクルとシャーペンを回し始めた。
《まつうらのしてきどーり、なんだよ》
《まつうら?》
《だからー、あいつらせーせき悪いんだよ》
《なるほど》
《中学とちがってークラスカーストはせーせきじゃん?》
《そんなもん?》
《ゆーとーせーはむじかくだよなー》
《だから、そーゆーのわかんないって》
《同じ高校デビューしっぱい組として、おしえてやろー》
《うん》
《進学校のクラスカーストはせーせき、かおとかうんどーとかカンケーないんだよ》
《そうなの?》
《だからーほかのクラスの女子がゆーいちのとこくんの》
《?》
《学年トップとつながりありますアピールしたいんだよ》
《そんなもん?》
《そーだろー、だからゆーいちだって、来年5組ねらってんだろー》
《そうだね》
《むじかくだなー》
《まわり見てるよゆーなんてないんだよ》
《クラスメイトのなまえもおぼえてないもんなー》
《それは、ゴメン》
そのあと俺と伊知郎は声を出さずに笑った。図書室の窓際の席はもはや俺と伊知郎の指定席になっているようだった。
《こんしゅうまつ、またとしょかん?》
《まにあうよな?》
《テストはんいわかったし、やっぱふくしゅーはしないと》
《さんがっきのはんいなんてたかが知れてる》
《せかいしが、うちのクラスおくれぎみ》
《まじ?》
《げんだいにはいったばっかだろー》
《そうだった?》
《うん》
俺はそうノートに書いて、世界史の授業ノートを広げた。今日は五時限目が世界史である。テスト範囲を見て、慌てたのだ。
《ほんとだー》
俺の授業ノートを見て伊知郎は眉をひそめた。テストまでの授業数を数えると、今日はかなりのハイピッチで授業が進められるはずなのだ。
《ばんしょが、すげーことになりそーだな》
《カーテンしっかりしめてくれよなー》
《おー》
そんなやり取りをしながら、俺と伊知郎は自然に授業の予習みたいなことができたのだった。
「図書室帰りー?」
教室に戻ると、隣の席の松浦さんが声をかけてきた。
「うん。そう」
「図書室、三年生多くない?」
「ああ、いるね」
「あれねー、授業出ないで受験勉強してるらしいよ」
「そうなの?」
「来月から自由登校だから、単位足りてる三年生がよくやってるんだって、ほら、風邪とかうつると困るじゃない?」
「あー三年生の教室、一階で寒そうだよな」
「日当たり悪いからね。でも、三年生は受験シーズン出入り激しいから一階で、固定なんだって」
「そういやそうだね。クラスも下駄箱も固定だよな」
俺がそう答えながら次の授業である世界史の準備をしようとしていると、再び松浦さんが口を開いた。
「で?安達くんと、高橋くんは何故ゆえ急接近?」
「あー、塾が一緒(だった)、みたいな?」
「なるほど。進級を目前にタッグを組みましたか」
いやいや、松浦さんの言葉のチョイス。東中出身ってみんなこんななのか?心臓に悪いんですけど。
「そりゃあ、五組狙ってますから」
「言うねー、そうだよねー。安達くんはトップ入学だもんねー。プレッシャーだよねー」
「それがプレッシャーだから」
「ごめん、ごめん。そんな安達くんに」
そう言って松浦さんが俺にだけ見えるようにプリントをノートの下から見せてきた。それはどう見てもテスト用紙だった。松浦さんは俺が驚いた顔をしていると、無言で親指を立てたのだった。
「松浦さんの部活の先輩マジで神だわ」
「安達くんもそーゆーことば使うんだねぇ」
「使うでしょ」
「高橋くんの分もちゃんとコピースるから」
「あざっす」
「東中のヒーローが五組落ちとかこっちがこまるわ」
「そーゆーこと言うなよ」
「何、ヒーローって?」
松浦さんと伊知郎は同じ東中出身で、俺には知らないお約束があるらしい。
「余計なこと言うなよ」
「いやいや、ここはお礼も兼ねて話すわ。安達くんには知ってて貰いたいのよ。安達くん、塾にいってたなら知ってるよね?うちらの学年は東中が一番頭悪かったの」
「ああ、うん」
「そんな中、高橋くんは男バスのキャプテンでありながら、この高校に受かったってわけよ」
「へー」
「スポーツができて勉強も出来たらヒーローでしょ?」
「まぁ、そうなるね」
「間中さんと新谷くんは隣の市の中学のバスケ部にいたのね。だから高橋くんのこと知ってたわけ」
「顔知ってるやつが高校で同じクラスにいたから、マウント取りたかったんだろうな」
「試合でいつも負けてたからねー」
「だって、あの中学のバスケ部は不良の集まりみたいなもんだったからな」
「そうなの?」
「県北で一番荒れてる中学だって言われてたの知らない?」
「あー、怖い体育教師が集結してる。って聞いたような」
「そういうことなんだよ」
「それは、また」
「あいつら俺のこと自分と同じくらいバカだと思ってんのよ。で、ラノベ読んでたからオタクって」
「なるほど」
「そんなわけで、我ら東中としては負けられない戦いなわけなのよ」
「松浦さんも?なんで?」
「手芸部入ってぬい活してたらオタクって言われたからね。あ、私もバスケ部だったんだよ?」
「それは失礼しました」
「優一はテニス部なんだぜ。しかも学校カラー知らないんだと」
「それは愛校心のない」
松浦さんは口許に手を当てて、大袈裟に驚いた振りをした。伊知郎はそれを見てニヤニヤと笑っている。
「テニス部は、試合の時は上は白のポロシャツでしたは学校のハーパンだったの」
「経費削減か」
「単に試合用のユニフォームがないとも言うけどな」
「中学なんてそんなもんだろ」
松浦さんと伊知郎は好き勝手をいい、それでも松浦さんはちゃんと去年の学年末テストの問題用紙回答付きをコピーして俺と伊知郎に分け与えてくれたのだった。
「一発勝負になったから、誰にでも五組チャンスが回って来たってことよ。全員がライバルだからね。安達くん」
「わかってます。松浦さんありがとう。部活の先輩にもお礼をよろしくね」
「もちろん。クッキー一箱で手を打とう」
「そうきたかー」
そんなことをいいながらも、俺と伊知郎で割り勘の上松浦さんの先輩たちにクッキーを献上したのだった。
「では帰りますか」
「貰うもん貰ったし、出すもの出したし?」
「過去問は重要アイテムだよ」
「安いもんか。俺たち部活入ってないもんな」
「人脈は大切だね」
「松浦様様」
学校の方を向いて拝む仕草をして、俺と伊知郎はイロチのネックウォーマーを付け帰宅したのだった。
