嫁と呼ばれたい俺はぬい活で告白したいと思います

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《キラキラ一軍男子ってなに?》

 図書館に戻ると、答え合わせをしたのどけれど、俺は昼食の時に伊知郎に言われた言葉が気になりすぎて、思わずノートに書いてしまった。

《え、ホントに自覚なかったの?》
《自覚って、はじめてきーたよ》
《それはしらなかった》
《そもそも一軍ってなんだよ》
《カースト上位?》
《それまだ存在するんだ》
《オレはインキャオタクじゃん?》
《それもよく分からないんだけど》
《んー》

 伊知郎はシャーペンを手のひらの中でクルクルと回し始めた。何か言いにくいことがあるのだろうか。聞いちゃいけないことを聞いてしまった様で俺は伊知郎の手をじっと見つめた。

《高校デビュー失敗ってやつ?》
《どういういみ?》
《そのままだけど》
《失敗って?》
《オレね、中学ではメガネだった》
《うん》
《高校からコンタクトにしたわけよ》
《うん》
《中学では男バスのキャプテンしてたし》
《おお》
《このへんでは有名な進学校じゃん?》
《うん》
《メカだとガリベンくんになるじゃん?》
《うん》
《コンタクトにして、かみがたも変えてさ》
《うん》
《でも、やらかした》
《なにを?》
《入学式のあと、きょうしつでさ》
《うん》
《ラノベよんでたわけよ》
《うん》
《そしたらさー、女子がでかい声でいったのよ》
《なにを?》
《なにこいつ、キモイ本よんでる。オタクじゃん、って》
《は?》
《その女子と同じガッコーからきた男子がおれのことインキャおたくって言ったのよ》
《なにそれ、いじめじゃん》
《ま、他のヤツらは言ってこないけど》
《そのはなし、オレ知らない》
《タンニンくるまえのじかんよ》
《オレがこうちょーしつに、いた時?》
《そなの?》
《代表あいさつしたから、こうちょーしつで名前かいてた》
《へー、そんなことしてたんだ》
《入学きょかしょーってやつに名前かかされた》
《そーいや、入学式でこーちょーがそんなこと言ってたね》
《それ、しんにゅうせーぜんいんの名前かいてあってさ、代表って、オレの名前と、ほごしゃでオレの父親も名前かいたんだー》
《せきにんじゅーだいだなー》
《まじ、それよ》
《ゆーとーせいは、そんなにことしてたのか》
《オレがいないからこそ、クラスカーストをねらったのかな?》
《なる》
《フハツに終わった》
《そーともゆー》

 俺と伊知郎はそこで声を出さずに笑った。うん。不発である。伊知郎のことを陰キャオタクと呼んでいるのは確かに一人しかいない。そして俺はそいつの名前を知らない。

《さて、答え合わせしよーか》
《そーだな》

 解答用紙をみながら俺と伊知郎はお互いの採点をする。伊知郎の文字はどこか丸みを帯びていて、伊知郎の人がらを表している気がする。文字に性格が出るって聞いたことあるんだよな。

《ちょっとトイレ》

 採点が終わって、俺はちょっとトイレに行きたくなってしまった。多分パンケーキを食べる時にやたらと水を飲んでしまったからだろう。
 日曜日の図書館は人が多いようでかなり少ない。理由は貸出の手続きをする人が多いだけで、閲覧スペースにまで入ってきて読む人が少ないからだろう。カウンターからバーコードを読み取る機械音だけがよく聞こえてきた。

《おまたせ》
《オレのがちょっとリードな》

 そんなことを書いて、伊知郎はノートを広げて見せてきた。回答した隣のページに解説等を書き込んでいたのだ。それは確かに少しリードされていると考えていいだろう。

《負けないよ》

 俺はそうノートに書き込んで、回答を書いたノートの半分に解説を書き込見始めた。もちろん教科書と授業ノートを取り出してだ。こういう時、図書館みたいに大きなテーブルはありがたい。資料を広げまくってもまだまだ余裕なのだから。隣を見れば、伊知郎も教科書と授業ノートを出していた。伊知郎の授業ノートを見る限り、かなり丁寧に書き込まれている。しかし、このノートを半分に分けて使う方法、俺は塾で教わったんだけど、ページを半分と見開きで半分の違いがあるだけで、使い方は同じである。

《もしかして、こべつじゅく?》

 伊知郎の腕をつついて、俺はノートにそう書き込んだ。

《ん?》
《いちろーのいってたじゅく》
《ああ、スーパーのとなりのやつね》
《オレもー》
《だからかー》
《ノートの使い方いっしょ》
《それな》

 やっぱり同じ塾に通っていたらしい。俺の住んでいる南中(なんちゅう)のエリアは住宅街で、あるのは駅と駅前のコンビニぐらいなのだ。伊知郎の東中(がっちゅう)のエリアは市役所を中心とした住宅街があって、市の名前の付いた駅を中心に商業施設なんかがあるのだ。通っていた塾はスーパーの隣にある潰れたコンビニの跡地だった。駐車場もあるしスーパーも隣だから、送迎の関係もあって人気の熟だった事は確かだ。しかし、同じ塾に通っていたのに全く伊知郎のことを知らなかったのは、やはり個別ならではなんだよな。

《となりのスーパーで買い食いしたなー》
《オレも》

 またもや俺と伊知郎は声を出さずに笑った。こんなにも同じことをしていたのに、知らなかったなんてな。
 その後俺と伊知郎は黙々と一学期期末の復習を進めたのだった。隣から小気味よいシャーペンの走る音が聞こえるので、あのころの個別塾のような軽いプレッシャーを感じる。あの時と同じように同じ目的を持ったもの同士、いわゆる共闘って感覚が心地よく感じた。

「昼飯の時の写真、優一もいるよな?」

 図書館を出て、自転車の荷台に座りながら伊知郎が聞いてきた。昼飯の時の写真と言ったら、あれだ。

「うん」
「スマホ出して」
「うん」
「ドロップでいーよな」
「うん」

 このやり取りはこの間松浦としたのと同じである。同じ機種のスマホだから機能も同じであるからこそ、同じことを言ってくるのだ。

「じゃあ送るな」
「うん」

 許可をして受け取れば、俺と伊知郎が二人並んで笑顔の写真がやって来た。

「え?」
「なに?」
「なんでコレも?」
「いや、記念だし」
「伊知郎しか写ってないじゃん」
「いやいや、オムライスも写ってるって」
「俺がいないじゃん」
「今日の記念じゃんよ」
「何だよそれ」
「えー、俺との記念なのに?」
「っ、あーはいはい」

 俺はそんな返事をしながらも、すぐさまその写真をお気に入り登録したのだった。

「ところでさ、なんで俺たち連絡先交換交換してないんだ?」

 伊知郎がそんなことを言ってきたので、俺は思わずスマホを握りしめた。

「え?」
「いや、図書館で一緒に勉強する約束しておいて、互いの連絡先知らないってなくないか?」
「うん、まぁ」
「LINE交換しよーぜ」

 そう言いながら、伊知郎はスマホの画面に大きなQRコードを出してきた。

「え?」
「いやいや、友だち登録しよーぜ」
「あ、あのさ……」

 俺はまだ、スマホを握りしめたままだ。

「カメラ開けば読み取れるから」

 伊知郎はそう言って俺のスマホを俺の手ごと掴んできた。

「え、あ、あの」
「カメラ開いて」
「う、うん」
「って、え?マジか」
「うん」
「なんで、LINEノアプリ入ってないの?」
「やってない」
「なんで?」
「なんで、って言われても、やってないものはやってない」
「え?意味わかんねーんだけど」
「だからぁ」
「あーもー、アプリとろーアプリ」
「え、いやその」
「ほらほら、顔認証」

 そう言って伊知郎は強引に俺のスマホにLINEのアプリを入れてしまった。顔認証の時に俺の頭に伊知郎の手が回ってきて、またもや伊知郎の顔が俺の顔にくっついていた。

「で、こーして設定して、年齢制限入るだろ?だから友だち登録はQRコードになるってわけ」
「分かった」
「これで二個目、優一の初めて頂きました」

 そう言って伊知郎は俺に対して拝むような仕草をした。

「あう」

 なんだよその、初めて頂きました。ってフレーズは。恥ずかしすぎて死ぬ。

「なんで、LINEやってなかったわけ?親に止められてた?」
「そうじゃなくて、その……俺も高校デビュー失敗?的な?」
「は?」
「俺さ、スマホ買ってもらったの春休みなんだよ」
「高校合格祝いだろ?」
「そう」
「俺もだけど」
「入学説明会の時とか、スマホなかったんだよ」
「ああ、あん時に、やたらと友だち登録にまわってたヤツらいたよな。おもに女子だけど」
「出遅れたと思って」
「LINEの友達の数競ってるやつはやべーって」
「クラスでLINE交換しなかったじゃん?」
「ああ、なんかそんな食う気はなかったねー」
「文化祭とか、体育さの時もクラスライン作らなかったし」
「ああ、買い出しグループが個別に作ってたな」
「俺、実行委員だったから入り損ねて」
「なるほどなるほど。そして今に至るっと」
「そう。だから俺も高校デビュー失敗ってやつなんだよ」
「なるほどねー。キラキラ一軍男子の優等生が実は高校デビュー失敗だったとは思わなかったわ」
「だからー、キラキラ一軍男子じゃなないんだって俺は」
「でも周りはそう思ってるからこそ、女子もLINE交換は言い出さなかったんだよな」
「そういうもん?」
「そりゃそうだよ。カースト上位に下位から声掛けなんて無理っしょ」
「でも、あいつらはしょっちゅうくるよ」
「他クラスの女子?あいつら、クラスで浮いてるからだよ」
「そうなの?」
「見ればわかるじゃん。あいつら制服改造してんだぜ」
「いや、俺見てないから」
「……ああ、いつも背中向けたままだもんな」
「しつこいんだよね。あいつら」
「確かにね。毎日よく来るよな」
「って、知ってんだ」
「そりゃ、嫌でも声は聞こえるし、そっちを見れば優一はこっちみてるし」
「えっ!いや、べ、別に伊知郎を見てるわけじゃなくて」
「わーってるって、あいつらに背中を向けるとこっち向いちゃうだけだろ」
「う、うん」
「あいつらも、優一とLINE交換でも出来りゃ毎日来なくなるんだろうけどな」
「それは無理」
「だろーな。今の今までLINEのアプリさえ入ってないスマホ持ってんだから」
「すみません」

 俺はとうとう下を向いてしまった。だって、恥ずかしいすぎるだろ。全部バレてしまったのだ。

「まぁ、いーや。優一の初めては俺が貰ったからな」
「言い方、その言い方おかしいって」
「まぁまぁ」

 そう言いながら、伊知郎は俺のスマホの画面を覗き込み、何やらニヤニヤしている。

「ともかく、これで連絡取りやすくなったよな」
「う、うん」
「じゃ、今日のところは帰りますか」
「うん」
「じゃ、また明日」
「うん。また明日」