20
「今日の昼メシも俺のオススメでいいか?」
もうすぐ一時になりそうな時刻になって、俺と伊知郎は図書館を出た。一気に全てのテストをやって、昨日と同様に席を【予約席】にしてきた。
「え?昨日とは違う店ってことか?」
「そう。今日は違う店」
「……うん。いいよ」
そんなふうに返事をしながらも、俺の心臓はめちゃくちゃドキドキしていた。どんな店に連れていかれるのか不安だからだ。高校生の小遣いで行ける店なんて限度がある。そもそも俺はバイトなんてしていないのだ。それは、うちの高校はバイトを二年からしか出来ないルールになっているからだ。家庭の事情があれば申告してできるらしいけどな。
「じゃあ、着いてきて」
「わかった」
伊知郎の後ろを走るのは昨日と同様で、時折伊知郎が振り返って俺のことを確認してくれるのも昨日と同じだった。昨日とほぼ報告は一緒なんだけど、川沿いの道を走り、昨日の店を通り過ぎて小さな橋を渡る。ちょっと古い一軒家を伊知郎がゆびさした。どうやらそこがもくてきの店らしい。
――古民家カフェ?
俺の頭に浮かんだのはそんな言葉だった。
「自転車ここに停めて」
「うん」
「ロードバイク多いけど、俺らママチャリだから普通に停めてな」
「それは、見ればわかるよ」
伊知郎に連れてこられたのは、ちょっと古い、要するに俺たちの親の世代が住んでいたつまり、祖父母が住んでいそうなちょっと昭和レトを感じさせる一軒家を改造したカフェのような店だった。
「いらっしゃいませ」
アルミ製の引き戸を開けると、出迎えてくれたのはバンダナを三角筋みたいに頭に付けた男の人だった。
「二人です」
「空いてる席にどうぞ」
伊知郎がやり取りをして、空いている席を適当に見つけて座る。どのテーブルも四人がけになっていてけれど、四人で座っている客は見当たらなかった。外に停められていたロードバイクの持ち主らしい服装の大人の人が、一人、もしくは二人で座っていた。
「おすすめはコレなんだけど」
伊知郎が壁に貼られたメニューを指さした。そこに書かれているメニューはお食事パンケーキと書かれていて、写真を見る限り大食いメニューとしか思えないようなボリュームのあるものだった。
――伊知郎って、俺のこと大食いだと思ってるのか?
昨日の店と言い、今日の店と言い、凄いボリュームのあるメニューばかりが目に付いた。
「めっちゃ、美味いから」
「食べたことあるの?」
「そりゃ、あるからオススメするんだろ?」
「……そうだね」
そんな会話を交わすと、俺の胸の中にまたもやモヤモヤした感情が湧き上がってきた。わかってる。きっと昨日と同じで中学の時の部活仲間と来たことがあるんだ。何しろここいらは東中の通学エリアなのだ。部活帰りに寄り道するにはもってこいだし、この雰囲気は隠れ家っぽくて、寄り道が見つかる心配も無さそうだ。
「ご注文はお決まりですか?」
俺がメニューをガン見しながら思考の海にどっぷりと浸かっていると、先程の男の人がお冷やを持ってやって来た。
「このお食事パンケーキとオムライス、デミで」
「はい。かしこまりました。お食事パンケーキのソースはチーズソースか蜂蜜が選べますが」
「だって、優一?」
「え?」
注文は全部伊知郎が、済ませてくれると信じきっていた俺は、突然の振りに慌ててしまった。
――チーズと蜂蜜の二択って。
コッテリか甘いのかって、蜂蜜は体にいいって聞いたことがあるけれど、写真みたいにたっぷりかけられたらそれはもう食事にはならないのでは?
「蜂蜜をかけるとベーコンの塩気とあいまって、あまじょっぱくて食が進みますよ」
「へぇえ」
そんな説明を聞きながら、俺の頭の中にはあまじょっぱくてと言うフレーズに対して照り焼きチキンしか浮かんで来なかった。
「ほら、最近はチキンに蜂蜜をかけて食べたり、ピザにかけるの流行ってんじゃん」
「そうだね」
この話の流れはもしかしなくても、伊知郎は蜂蜜をかけたやつが食べたいっとことなんだろうか?昨日みたいにシェアしたくて俺に勧めてきているきがする。いや、きっとそうに違いない。
「じゃあ、蜂蜜で」
「はい。かしこまりました」
そう言って、男の人は俺たちの席から離れて行った。
「蜂蜜をたっぷりかけるなんて、家じゃできないもんな」
メニューを片付けながら伊知郎はそう言ってきた。確かに、家で蜂蜜なんて、そうそうお目にはかからない。何より、写真で見るぐらいかけたりなんかしたら親に怒られる案件だ。
「で、さ」
「うん?」
「昨日みたいにシェアしないか?」
「うん。ぜひそうしよう」
「何、その言い方」
「いやだって、俺の分パンケーキに蜂蜜だよ?」
「お食事パンケーキだから」
「伊知郎オムライスじゃん。しかもデミグラスソース」
「え?トマトが良かった?」
「そこじゃないよ」
「じゃあ、何?」
「伊知郎の米じゃん。オムライス、絶対美味いやつ」
「いやいや、ここのお食事パンケーキは絶品だから」
「じゃあ伊知郎が食べれば良かったじゃん」
「そこはぁ、優一に食べて欲しいんだよ。俺のオススメなんだからさ」
「っ、そ、れならしかたないよな」
「だろ?」
そんな話し合いをしていると、注文した料理が出来上がってきた。
「オムライスのお客さま」
「はい」
伊知郎が手を上げると、伊知郎の前にオムライスが置かれた。
「お食事パンケーキはもう少しお待ちください」
そう言われたので俺はすなおに頷くしかない。伊知郎の前に置かれたオムライスは、予想通りに大きくて、黄色い卵が見えないぐらいにたっぷりとデミグラスソースがかけられていた。ポイントは五粒乗せられたグリンピースかもしれない。
「優一、写真撮って」
そう言って伊知郎が俺にスマホを渡してきた。
「分かった」
俺がスマホを受け取ると、伊知郎はオムライスの乗った皿を持ち上げて顔のそばに持ってきた。顔と比較するとオムライスの大きさが半端ない。
「撮るよ」
俺がそう声をかけると、伊知郎はニカッって感じで歯を見せて笑顔をつくった。
「こんな感じでどうかな?」
スマホを渡すと伊知郎はすかさず写真を確認し始めた。
「結構映えそう」
「え?」
「なになに?」
「映えるって言った?今?」
「言ったけど?」
「え?なに?伊知郎ってSNSやってるの?」
「やってるけど?逆に優一はやってないの?」
「やってない、けど」
うわぁ、これはしっくた。昨日も確かに伊知郎は料理の写真を撮っていた。久しぶりに食べに来たからテンションが上がってのことだと思っていたのに、まさかのSNSだったとは。
「意外」
「え?そうかな」
「うん。意外。優一ってキラキラ一軍男子じゃん」
「キラキラ一軍男子?」
そんな言葉、聞いたことないんだけどな。俺。なんだよ、キラキラって、そんな恥ずかしい装飾語使われて喜ぶ男子がいるのか?
「あー、自覚なしかよ」
伊知郎は頭を抱え込むような仕草をした。それを正面で見ている俺は、なんだか気恥ずかしくなってきた。何、俺ってそういう目で見られていたってことなのか?一軍とか、そんなのマジで聞いたことないんだけど。
「はぁ、そういうところだよなぁ」
そんなことを言いながら、伊知郎はスプーンを持ってオムライスを食べ始めた。切り替えはかなり早いようだ。
「やっぱり温かいうちに食べないとな」
ハフハフしながらオムライスを口に運ぶ伊知郎は、なかなかの笑顔である。
「お待たせしました。お食事パンケーキ、蜂蜜がけです」
声を掛けられ、俺の前になかなかボリュームのあるパンケーキが置かれた。
「ごゆっくり」
そう言って配膳をしてくれた人は去っていった。
「優一も写真撮ろうぜ」
「え?」
そういうやいなや、伊知郎はスマホを持って俺の隣に滑り込んで来た。
「優一皿持って」
「あ、うん」
「顔近づけて」
「うん」
「スマホ見て、優一」
「え、あ、うん」
慌てて伊知郎の持つスマホの画面を見る。そこには俺と伊知郎のかおが並んでいて、俺が持つお食事パンケーキがユラユラと揺れていた。
「優一、顔もっと近づけないと」
「え?」
いやいや、画角内に収まってるって、俺はそう思っているのに、伊知郎が俺の頭に手を回し、頬っぺたがくっつくほどに顔を寄せさせられた。
「優一、笑って」
「お、おう」
そんなこと言われても、伊知郎に接近しすぎて俺の頭はパニックである。笑えと言われて素直に笑えているのだろうか。変にニヤけて気持ちの悪い笑顔を浮かべていたらせっかくの伊知郎とのツーショットが台無しである。
「さすがキラキラ一軍男子、いい笑顔」
「まぁな」
「今日の昼メシも俺のオススメでいいか?」
もうすぐ一時になりそうな時刻になって、俺と伊知郎は図書館を出た。一気に全てのテストをやって、昨日と同様に席を【予約席】にしてきた。
「え?昨日とは違う店ってことか?」
「そう。今日は違う店」
「……うん。いいよ」
そんなふうに返事をしながらも、俺の心臓はめちゃくちゃドキドキしていた。どんな店に連れていかれるのか不安だからだ。高校生の小遣いで行ける店なんて限度がある。そもそも俺はバイトなんてしていないのだ。それは、うちの高校はバイトを二年からしか出来ないルールになっているからだ。家庭の事情があれば申告してできるらしいけどな。
「じゃあ、着いてきて」
「わかった」
伊知郎の後ろを走るのは昨日と同様で、時折伊知郎が振り返って俺のことを確認してくれるのも昨日と同じだった。昨日とほぼ報告は一緒なんだけど、川沿いの道を走り、昨日の店を通り過ぎて小さな橋を渡る。ちょっと古い一軒家を伊知郎がゆびさした。どうやらそこがもくてきの店らしい。
――古民家カフェ?
俺の頭に浮かんだのはそんな言葉だった。
「自転車ここに停めて」
「うん」
「ロードバイク多いけど、俺らママチャリだから普通に停めてな」
「それは、見ればわかるよ」
伊知郎に連れてこられたのは、ちょっと古い、要するに俺たちの親の世代が住んでいたつまり、祖父母が住んでいそうなちょっと昭和レトを感じさせる一軒家を改造したカフェのような店だった。
「いらっしゃいませ」
アルミ製の引き戸を開けると、出迎えてくれたのはバンダナを三角筋みたいに頭に付けた男の人だった。
「二人です」
「空いてる席にどうぞ」
伊知郎がやり取りをして、空いている席を適当に見つけて座る。どのテーブルも四人がけになっていてけれど、四人で座っている客は見当たらなかった。外に停められていたロードバイクの持ち主らしい服装の大人の人が、一人、もしくは二人で座っていた。
「おすすめはコレなんだけど」
伊知郎が壁に貼られたメニューを指さした。そこに書かれているメニューはお食事パンケーキと書かれていて、写真を見る限り大食いメニューとしか思えないようなボリュームのあるものだった。
――伊知郎って、俺のこと大食いだと思ってるのか?
昨日の店と言い、今日の店と言い、凄いボリュームのあるメニューばかりが目に付いた。
「めっちゃ、美味いから」
「食べたことあるの?」
「そりゃ、あるからオススメするんだろ?」
「……そうだね」
そんな会話を交わすと、俺の胸の中にまたもやモヤモヤした感情が湧き上がってきた。わかってる。きっと昨日と同じで中学の時の部活仲間と来たことがあるんだ。何しろここいらは東中の通学エリアなのだ。部活帰りに寄り道するにはもってこいだし、この雰囲気は隠れ家っぽくて、寄り道が見つかる心配も無さそうだ。
「ご注文はお決まりですか?」
俺がメニューをガン見しながら思考の海にどっぷりと浸かっていると、先程の男の人がお冷やを持ってやって来た。
「このお食事パンケーキとオムライス、デミで」
「はい。かしこまりました。お食事パンケーキのソースはチーズソースか蜂蜜が選べますが」
「だって、優一?」
「え?」
注文は全部伊知郎が、済ませてくれると信じきっていた俺は、突然の振りに慌ててしまった。
――チーズと蜂蜜の二択って。
コッテリか甘いのかって、蜂蜜は体にいいって聞いたことがあるけれど、写真みたいにたっぷりかけられたらそれはもう食事にはならないのでは?
「蜂蜜をかけるとベーコンの塩気とあいまって、あまじょっぱくて食が進みますよ」
「へぇえ」
そんな説明を聞きながら、俺の頭の中にはあまじょっぱくてと言うフレーズに対して照り焼きチキンしか浮かんで来なかった。
「ほら、最近はチキンに蜂蜜をかけて食べたり、ピザにかけるの流行ってんじゃん」
「そうだね」
この話の流れはもしかしなくても、伊知郎は蜂蜜をかけたやつが食べたいっとことなんだろうか?昨日みたいにシェアしたくて俺に勧めてきているきがする。いや、きっとそうに違いない。
「じゃあ、蜂蜜で」
「はい。かしこまりました」
そう言って、男の人は俺たちの席から離れて行った。
「蜂蜜をたっぷりかけるなんて、家じゃできないもんな」
メニューを片付けながら伊知郎はそう言ってきた。確かに、家で蜂蜜なんて、そうそうお目にはかからない。何より、写真で見るぐらいかけたりなんかしたら親に怒られる案件だ。
「で、さ」
「うん?」
「昨日みたいにシェアしないか?」
「うん。ぜひそうしよう」
「何、その言い方」
「いやだって、俺の分パンケーキに蜂蜜だよ?」
「お食事パンケーキだから」
「伊知郎オムライスじゃん。しかもデミグラスソース」
「え?トマトが良かった?」
「そこじゃないよ」
「じゃあ、何?」
「伊知郎の米じゃん。オムライス、絶対美味いやつ」
「いやいや、ここのお食事パンケーキは絶品だから」
「じゃあ伊知郎が食べれば良かったじゃん」
「そこはぁ、優一に食べて欲しいんだよ。俺のオススメなんだからさ」
「っ、そ、れならしかたないよな」
「だろ?」
そんな話し合いをしていると、注文した料理が出来上がってきた。
「オムライスのお客さま」
「はい」
伊知郎が手を上げると、伊知郎の前にオムライスが置かれた。
「お食事パンケーキはもう少しお待ちください」
そう言われたので俺はすなおに頷くしかない。伊知郎の前に置かれたオムライスは、予想通りに大きくて、黄色い卵が見えないぐらいにたっぷりとデミグラスソースがかけられていた。ポイントは五粒乗せられたグリンピースかもしれない。
「優一、写真撮って」
そう言って伊知郎が俺にスマホを渡してきた。
「分かった」
俺がスマホを受け取ると、伊知郎はオムライスの乗った皿を持ち上げて顔のそばに持ってきた。顔と比較するとオムライスの大きさが半端ない。
「撮るよ」
俺がそう声をかけると、伊知郎はニカッって感じで歯を見せて笑顔をつくった。
「こんな感じでどうかな?」
スマホを渡すと伊知郎はすかさず写真を確認し始めた。
「結構映えそう」
「え?」
「なになに?」
「映えるって言った?今?」
「言ったけど?」
「え?なに?伊知郎ってSNSやってるの?」
「やってるけど?逆に優一はやってないの?」
「やってない、けど」
うわぁ、これはしっくた。昨日も確かに伊知郎は料理の写真を撮っていた。久しぶりに食べに来たからテンションが上がってのことだと思っていたのに、まさかのSNSだったとは。
「意外」
「え?そうかな」
「うん。意外。優一ってキラキラ一軍男子じゃん」
「キラキラ一軍男子?」
そんな言葉、聞いたことないんだけどな。俺。なんだよ、キラキラって、そんな恥ずかしい装飾語使われて喜ぶ男子がいるのか?
「あー、自覚なしかよ」
伊知郎は頭を抱え込むような仕草をした。それを正面で見ている俺は、なんだか気恥ずかしくなってきた。何、俺ってそういう目で見られていたってことなのか?一軍とか、そんなのマジで聞いたことないんだけど。
「はぁ、そういうところだよなぁ」
そんなことを言いながら、伊知郎はスプーンを持ってオムライスを食べ始めた。切り替えはかなり早いようだ。
「やっぱり温かいうちに食べないとな」
ハフハフしながらオムライスを口に運ぶ伊知郎は、なかなかの笑顔である。
「お待たせしました。お食事パンケーキ、蜂蜜がけです」
声を掛けられ、俺の前になかなかボリュームのあるパンケーキが置かれた。
「ごゆっくり」
そう言って配膳をしてくれた人は去っていった。
「優一も写真撮ろうぜ」
「え?」
そういうやいなや、伊知郎はスマホを持って俺の隣に滑り込んで来た。
「優一皿持って」
「あ、うん」
「顔近づけて」
「うん」
「スマホ見て、優一」
「え、あ、うん」
慌てて伊知郎の持つスマホの画面を見る。そこには俺と伊知郎のかおが並んでいて、俺が持つお食事パンケーキがユラユラと揺れていた。
「優一、顔もっと近づけないと」
「え?」
いやいや、画角内に収まってるって、俺はそう思っているのに、伊知郎が俺の頭に手を回し、頬っぺたがくっつくほどに顔を寄せさせられた。
「優一、笑って」
「お、おう」
そんなこと言われても、伊知郎に接近しすぎて俺の頭はパニックである。笑えと言われて素直に笑えているのだろうか。変にニヤけて気持ちの悪い笑顔を浮かべていたらせっかくの伊知郎とのツーショットが台無しである。
「さすがキラキラ一軍男子、いい笑顔」
「まぁな」
