嫁と呼ばれたい俺はぬい活で告白したいと思います

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「すっげーボリューム」

 俺と伊知郎の間に並べられたお盆のの上を見て、俺はただ驚くしか無かった。よく、SNSで詐欺写真なんて晒されているのを見るけれど、こればいわゆる逆サギである。写真の唐揚げよりデカイ。本当に伊知郎の言った通りに、拳ほどの大きさの唐揚げが皿に乗って出てきたのだ。しかもちゃんと二個。ついでにいえば、中華丼の山盛り具合もなんだからおかしい。絶対に一合以上盛られている。

「だろ?男子高校生の胃袋にとても優しいだろ?」

 そう言って、伊知郎は俺の手からコップを取り上げた。そして水を一口飲んだ。

「いっただきまーす」

 両手を合わせて挨拶をすると、伊知郎は箸入れから箸を出し、一つを俺に渡してきた。

「冷めないうちに食えよ」
「あ、うん」

 箸を受け取りながら、俺の頭にふとよぎる疑問。

――あのコップ、伊知郎のだったか?

 でももう伊知郎は水を飲んでるし、男同士で何意識してんだ。って話になりそうだから、俺はその件についてはお口チャックとすることにした。

「いただきます」

 俺も両手を合わせて、中華丼に添えられるようにして置かれていたレンゲを使って中華丼をすくい上げ、口に運んだ。

「ふあ、熱っう。うっまぁ」

 口の中に広がるトロミから半端ない熱が伝わって来るけれど、それを上回る旨みが口の中いっぱいに広がった。一気に加熱されているからなのか、白菜がシャキシャキしていて甘みがある。豚肉からは肉の旨みが溢れ出てきて、米を噛みしめるたびに鼻から抜けるかおりがたまらなかった。

「だろー?この店ハズレなしだから」

 そう言いながら、伊知郎は忙しなく箸を上げ下げして麺に息をふきかけていた。味噌ラーメンは相当熱々らしく、丼からも麺からも湯気が立ち上っているのが見えた。

「そっちも熱そうだな」
「そりゃアチーよ。でも、冬はこの熱さがあってこそ美味いってやつじゃん」
「そうだな」

 俺はそう答えながら、レンゲを箸に持ち替えて、拳ほどの大きさの唐揚げに挑むことにした。なかなか重たかったので、皿ごと持ち上げて見たけれど、どう考えても唐揚げの大きさと皿の大きさがあっていない。

「すっげーいい匂い」

 これ絶対美味いやつ!そう確信させるほどに、唐揚げからは暴力的に美味い匂いが漂っていた。もう、絶対に熱々なのが丸わかりである。

「火傷するなよ」

 そんな俺を見て、伊知郎がからかうように言ってきた。

「わかってるって。そんなお約束」

 そう返事をしながら、俺は拳ほどの大きさの唐揚げに歯を立てた。歯からも熱が伝わったきて、これは負けた確信した。

「あっちー、すっげー肉汁」

 意を決してかじりつくと、予想通りに熱い肉汁が口の中に飛び散った。もちろん肉はプリプリで歯ごたえ抜群である。

「だろーだろー」

 嬉しそうな顔でそんなことをいいながら、伊知郎も拳ほどの大きさの唐揚げを口にている。

「やっぱ、うんめー」

 ハフハフと上を向いて口を動かす伊知郎を見て、オレはなんだか笑ってしまった。教室では窓際の一番前に座り、ひっそりと本を読んで気配を消しているのに、女子からは陰キャオタクとまで呼ばれているのに、今目の前にいる伊知郎は全くそんな感じはしなかった。よく喋り、よく食べ、正に元気な男子高校生そのものなのだ。

「何?俺の顔になにか着いてる?」
「いや、伊知郎って結構喋るんだな。って」
「そりゃ、喋るだろ」
「教室にいる時静かだから」
「本読んでるからね」
「そうだけど」
「この歳で音読してたら変だろ」
「え?」

 伊知郎の返しの意外な言葉に俺は思わず手が止まった。音読?音読ってなんだっけ?

「なんだよ。ラノベ読み上げてたらそれこそ変じゃねーか」
「あ、いや、そう言う……」
「じゃあなんだよ」
「その、たくさん喋る伊知郎ってなんか不思議」
「それを言うなら、優一だって今日はよく喋ってるよな」
「え?そう?」
「そう。いつもは静かじゃん」
「いつも?」
「いつも」
「そう、かな」
「そうだよ」

 そんな会話を交わしながらも、俺と伊知郎の口は忙しなく食事を続けていた。

「あ、なぁなぁ」
「なに?」

 会話が途切れたと思ったら、伊知郎が話しかけてきた。

「ちょっと取替えっこしない?」
「なにを?」
「ラーメンと中華丼」
「……いいけど」
「見てたら食べたくなった」
「なるよねぇ」

 そう言って、俺と伊知郎はラーメンと中華丼を取り替えた。箸はお互い使っているけれど、伊知郎の食べている味噌ラーメンにレンゲはついてはいなかった。と、言うことは、ういうことになるのだろうか?いや、いやいや、そこは、気にしちゃダメなところだ。

「いっただきまーすっ」

 伊知郎は元気よく挨拶をすると、俺が使っていたレンゲで豪快に俺の食べていた中華丼を食べ始めた。
 俺の口に入っていたレンゲで、俺の食べかけの中華丼を伊知郎が食べている。オレの食べていた箇所を伊知郎も食べている。口に入れて、美味しそうに笑っている。

――俺の使っていたレンゲが伊知郎の口の中に。

 気にしなくていいことを、俺はものすごく気にしていた。男同士じゃん。そんなの回し飲みと同じ間隔でいいじゃないか。中学の時部活でよくやっていたじゃないか。先生には怒られていたけれど、でも、みんなでしていたことだから、気になんてしていなかった。のに……

「あれ?優一は味噌ラーメン苦手だった?」
「いや、凄い匂いだなぁ、って」
「ああ、ニンニクすごいよな」
「うん。ちょっと驚いた」

 俺は慌てて箸を持ち直し、味噌ラーメンを啜り始めた。ニンニクがきいて、油が浮いているからまだまだ熱い。玉ねぎとニラが味噌とよくあって、麺に絡んでくる。すする度に花から抜けるニンニクの匂いがまたすごい。

「唐揚げ、スープにひたしてみ」
「うんっ」

 俺は言われるままに唐揚げを味噌ラーメンのスープに浸して食べてみた。カリカリ熱々の唐揚げが味噌ラーメンのニンニクたっぷりスープをまとってさらに旨味を増していた。

「うっまぁ」

 俺は夢中で唐揚げを口に運び、その度に味噌ラーメンのスープを丼から飲んだ。麺をすすればまた鼻を抜ける味噌の風味とニンニクの香りがたまらない。

「美味しかったぁ。って、ああっ」

 味噌ラーメンのスープを飲み干して、丼を置いた時、俺はとんでもないことに気がついた。

「全部飲んじゃった」

 そう、味噌ラーメンは伊知郎のである。俺のは中華丼だ。

「それだけ美味しかった。ってことですなぁ」

 目の前で伊知郎が笑っていた。

「ご、ゴメン。それ、のこり全部食べてくれ」
「ではありがたく。唐揚げも貰うからな」
「うわぁ、唐揚げもだよ」
「夢中で食べてたもんな」
「お恥ずかしい限りです」

 そうなのだ。俺と伊知郎はお盆ごと取り替えていたのだ。何しろ、味噌ラーメンのスープをこぼすわけにはいかないし、中華丼は片手で持つには重たかったのだ。だから、オレの前には伊知郎が食べていた味噌ラーメンと唐揚げがあったわけで……それなのに、俺は伊知郎の分を全部食べてしまったのだった。