嫁と呼ばれたい俺はぬい活で告白したいと思います

10
 図書室でラノベを読んでいる高橋の隣に座るのは最早自然にできるようになっていた。なにしろ周りは受験生。一年が堂々と中央付近の席に座れるはずがない。

《となりいい?》

 そんなことを書いたノートを高橋にみせる。

《もう座ってるくせに》

 高橋が口の端を上げて笑っている。声を出さないはテンプレだから、こうやって表情をじっくりと見ることが堂々と出来てちょっと得した気分である。

《来年のクラス分け》
《それね》

 じっさい、高橋がどれぐらいの順位に位置しているか知らない俺は、こうして探ることにしたのだ。クラスが違うことになってしまったら、あの女子たちのように高橋のいるクラスに押しかけなくてはならなくなる。いや、そんなこと俺には出来ない。

《5組に入んないときちーのよ》

 高橋から意外な返事が来て、俺は思わず高橋の顔をガン見してしまった。

《なんで?》
《絶対国立って言われてんの》
《今から?》
《国立のすいせん、5組にいないとでねーらしーよ》
《マジで?》
《ここに来てるセンパイたちが話してた》
《そりゃ、マジもんだわ》

 つまり高橋は図書室に通って色々と情報を収集していたわけだ。部活の先輩とか、進路指導室の教師からではなく、リアルな受験生である先輩たちの話を聞いていたのだ。

《オレ、ギリかもー》

 高橋がそんなことをノートに書いて俺の肘をつついてきた。その言葉を読んで俺は思わず唾を飲み込んだ。

《いっしょに、ベンキョーする?》
《マジで?》
《オレも5組に入りたいし》
《タカハシ、よゆうっしょ?》
《学年末とかだとキョウフよ》
《言ってたねー》

 どうやら、高橋も来年のクラス分けには興味があったらしい。部活に入っていない立場だと、情報収集先が見当たらないので噂話に踊らされてしまう。だから高橋は確実な生の声を聞くべく図書室に通っているのかもしれない。

《学年末のハンイって》

 俺がノートに書き込むと、高橋は俺の顔をみて軽く頷くような仕草をした。

《今までのテストから出るってウワサ》
《今までの?》
《そ、一学期のチューカンから二学期のキマツまでの》
《テスト捨ててたらアウトなヤツ》
《それな》

 高橋がどこからこの噂を手に入れたのかは知らないけれど、それなりに情報収集をしているらしい。

《一応、オレ、としょいいんなの知ってる?》

 その文字を見た時、俺は驚きすぎて声が出そうだった。最早記憶の彼方に行ってしまっていた事だけれど、そう言えば、色々な係を決めていた時、図書委員が不人気でなるやつがいなくて、窓際で本を読んでいた高橋に担任が押し付けるようにして、決めていたのだった。まぁ、いくらホームルームの時間とはいえ、話し合いに参加もせず窓際とはいえ一番前の席で本を読みふけっている生徒がいたらそうなってしまうのは仕方の無いことだろう。俺だって、首席入学って理由で学級委員長と言う役割を押し付けられたのだから、まぁ似たようなものだろう。
 ただ、高橋が図書委員だと言うことを忘れていたのはヤバイ。学級委員長のくせしてそんなことを忘れていた(あくまでも知らなかったとは言わない)のはかなりまずい。

《わすれてたろー》

 高橋がフォローするようにノートに書き込んできた。これはバレてるやつである。下手に喋れなくて良かった。ここで変なことを口にしていたら、絶対軽蔑の眼差しを向けられるやつである。

《ゴメン》

 ここは素直に謝罪するに限る。

《まぁ、そんなもんだよなー》

 高橋が気にしていなかった様なので俺はちょっと安心した。なにしろ体育委員が誰なのかなんて、体育祭の時に知ったぐらいなのである。もっとも、体育委員なんて体育祭にしか仕事がなかったことに驚いた程だった。そりゃあ、楽な役員から取られていくに決まっているというものだ。ちなみに、文化祭は文化祭実行委員という名の各クラスの学級委員が担当したのであった。つまり俺は文化祭を楽しめなかったのである。クラスの当番時間は参加したけどね。ほとんど見回りと受付だった。

《としょいいんって何するの?》

 そんなわけで不意に疑問に思った俺は高橋に聞いてみることにした。

《そりゃ、としょしつのせいりせいとん》

 ざっくりとした答えが反ってきたので、もう少し聞いてみる。

《本だなのせいり?》
《そー、テキトーに戻すやつ多いのよ》

 高橋がそんなことを書くから、辺りを見渡して見れば、本棚に寄りかかって本を読んでいる生徒が何人かいた。何か調べ物をしているのか、パラパラとめくってすぐに本棚に戻している。正式に借りるのなら、カウンターで手続きをするわけだから、本棚に戻すのは図書委員の仕事になるわけだ。

《あとはねー、新刊のラッピング》
《ラッピング?》

 本のラッピングと聞いて、俺の頭の中に浮かんだのは本屋の本棚にならんだ本である。確か立ち読み防止の為にビニルが巻き付けられていた気がする。しかし、そんなことをしたら誰も読むことが出来ない。不思議に思っての問いかけである。

《としょしつの本ってさ、表紙にビニルのコーティングしてあんじゃん?》

 高橋がそんな事を書いたので、俺は少し首を傾げた。困ったことに、俺は随分と長い間、本を借りたことがなかったのだ。そう、小学生の頃は学校ノ図書室から本を借りて毎朝の読書習慣なんてやっていたけれど、中学校に上がったあたりでそんな習慣は無くなってしまったのだ。読むのは教科書か参考書、せいぜい読書感想文のために夏休みに一冊読むぐらいだった。
 俺が不思議そうな顔をして、変事を書かなかったからなのか、高橋は立ち上がり近くの本棚から本を一冊持ってきた。そして俺の前で本を開いて、表紙裏の部分を指さした。

《本のひょうしについてるビニル》

 ノートに高橋が書き出した。その文字を目でおい、示された本の表示を触ってみる。確かにコーティングされたようにツルツルしていた。

《ラベルをはって、コーティングのビニルをまきつけんの、が、仕事》

 高橋の文字を目でおい、そして高橋の手にあった本をさりげなく受け取る。その瞬間に高橋の手と触れ合ってしまい、俺の心臓はドキドキと煩くなった。高橋の手に触ってしまったのだ。シャーペンを握る手を見ていたからだいたい予想は着いていたけれど、高橋の手はデカイ。指も長くて、球技に向いていそうな手をしていた。ドキドキしながら、高橋の手をチラ見しつつ、俺は受け取った本を観察した。貼られているラベルはコーティングの中にあった。裏表紙には貸出カードが張り付いている。本が購入された日付も書かれていた。

《こういうジミな仕事すんのが、としょいいん》

 でも、高橋の読んでいるラノベにはラベルは貼られてはいない。表紙も帯も付いた状態だ。つまり、高橋の読んでいるラノベは、高橋の本なのだ。毎日高橋と、つまり俺の推しと一緒。羨ましい。

《見てみたい》

 思わずそんなことをノートに書いてしまった。勢いで書いてしまってから、俺は気まずくなった。なぜなら単なる興味本位だし、委員会の活動の邪魔になるかもしれないからだ。そもそも俺のやっている学級委員の仕事は、ノート集めだのプリント配りだの地味な仕事である。月イチの集まりも大した話し合いはなく、次の話し合いでは学年末テストに向けて放課後の部活動が無くなることとかの連絡ぐらいだろうと予想している。

《いいんじゃない?今日のほうかご、オレとうばん》

 お誘いきたー!!!!!
 これはもう、放課後デートのお誘いとみていいだろう。いや、違うけど。違うことはわかっているけれど、