地面から寒さが伝わる時期。時折、空から白い綿が舞う。これは、雪というのもらしい。空の色は、寂し気な色をしているが、雪が舞うと幻想的で美しい。
僕は、こんな空でも日の当たる場所はないか、いろいろ歩き回っていた。
すると、赤い屋根が特徴的な家の中に、真っ白な毛並みの猫が僕を見ている。なぜ、僕を見ているのか気になり、近づいてみる事にした。
「きみ、僕のことを見てた?」
すると、白い猫が鮮やかな手つきで金具を落とし、大きな壁を開いた。
「あなた、もう一度教えて?何を言ったのかしら?」
優雅な話口調に驚く。僕は、大きく深呼吸をして、もう一度訪ねた。
「僕に、何か用?」
僕の問いに、フフッと笑い、彼女は答える。
「いつも、この辺りをふらふらしているわね。見ていて面白いなと思って。私は、ユキっていうの。あなたの名前は?」
ユキと名乗る猫に、驚いた。だって、僕の名前は1つでは無いから。思わず戸惑ってしまう。すると、僕の動揺に気づいたのか、ユキはあらあらと話を続けた。
「もしかして、名前が無いの?名前は自分を表す象徴だと、私のご主人さまが言っていたわ。無いなんて、寂しいわね。」
彼女の言葉が、心に刺さる。何だろう、この気持ちは。どんどん、淀んでいくのを感じた。
僕は、頭の中に巡る、言葉にできない思いで苦しくなる。動けなくなっていると、家の中から聞き覚えのある明るい無邪気な声が聞こえた。
「あ!みーちゃん。」
ここは、まいちゃんの家だった。
「みーちゃん、どうしたの?遊びに来てくれたの?」
まいちゃんは、僕とユキのやり取りは分からない。だって、まいちゃんは人間だから。
もし、言葉が通じたら、どうしていただろうか。
僕は、ぶつけようのない悲しみをどうすることも出来ず、その場を後にした。
どこを歩いていたか分からない。気づくと、いつものお気に入りお昼寝スポットに立っていた。僕は、お昼寝体制に入る。
だが、さっきのユキの言葉と、地面から伝わる寒さで苦しくなっていた。
「ねこさん。」
優しく僕を呼ぶ声が聞こえる。今日は、あまり顔を上げる気になれない。それでも、「ねこさん」としつこく呼ぶ声が聞こえる。
僕は、いやいやながら呼ぶ声に反応すると、ゆうちゃんが心配そうに隣で座っていた。
「大丈夫?今日、元気ない?」
彼女のまさかの問いに、僕は驚く。
なぜ、僕の感情が分かるのだろうか?なぜ、気持ちが沈んでいることが分かったのか不思議だった。
「やっぱり。元気ないね。」
そう言って、僕の頭を優しく撫でる。その手は、この寒さとは裏腹に、熱く感じるほど恋しいと思った。思わずもっと、ねだるように頭をこすりつける。
ゆうちゃんは、分かったと両手でいっぱい撫でてくれた。
すると、次はゆうちゃんのお父さんが近づいてきた。
「みけ。こんにちは。いつも遊んでくれてありがとう。」
そう言って、顎を撫でる。僕はあまりの気持ちよさに、思わず仰向けになった。僕の行動に、次は2人が驚く。
「お父さん、ねこさんがすごく甘えてくれてるよ!」
「あぁ、安心してくれているんだ。良かったな。」
それからも、時間を許す限り僕を甘やかしてくれた。
二人のあたたかさに、ウトウトし始める。
気づいたら、僕に名を与えた人々の顔をが次々とあふれ出るよに思い出していく。
仏頂面の梅本先生や、太陽のような美里さん。皆の生活を守る、今野さんや間宮さん。トランペットが大好きな琴音ちゃん。ゆっくりとした時間をくれる老夫婦。ほかにも沢山。
僕は、二人のおかげであることに気づいた。
次の日、ユキのもとへ向かった。これは、昨日の質問に応えるためだ。
昨日と同じように、ユキは優雅に僕を見つめていた。
「あら、昨日はどうも。話の途中で帰ってしまい悲しかったのよ?」
昨日の言動に対して、悪いことをしたと気づいていないようだ。でも、仕方がない。だって、彼女はこう聞いただけだから。
「あなたの名前は?」と。
だから、僕は大きく深呼吸をして、彼女に昨日の応えを伝えた。
「ユキは、僕にこう言ったね。名前が無いなんて寂しい。でも、僕は寂しくないよ。だって、君と違って数えきれないほどの名前があるから。みけ、みーちゃん。ねこさん、あめ。ほかにもたくさん。どれも僕の名前だ。だって、僕と出会うたびに、皆名前をくれる。それは、最高のプレゼント!だから、ユキ。君にも聞いても良いかな?」
「何?」
ユキは、首を傾げる。
「僕は、どんな名をもらっても僕だ。だから、教えて。ユキは、僕にどんな名前をくれる?教えて。」
僕の質問に、ユキが目を見開く。そして、そうかと優しく微笑んだ。
「それが、あなたなのね。それなら、私はこう呼びましょう。「ぼく」と。」
猫からもらった初めての名前。それは、「ぼく」だった。
僕は、こんな空でも日の当たる場所はないか、いろいろ歩き回っていた。
すると、赤い屋根が特徴的な家の中に、真っ白な毛並みの猫が僕を見ている。なぜ、僕を見ているのか気になり、近づいてみる事にした。
「きみ、僕のことを見てた?」
すると、白い猫が鮮やかな手つきで金具を落とし、大きな壁を開いた。
「あなた、もう一度教えて?何を言ったのかしら?」
優雅な話口調に驚く。僕は、大きく深呼吸をして、もう一度訪ねた。
「僕に、何か用?」
僕の問いに、フフッと笑い、彼女は答える。
「いつも、この辺りをふらふらしているわね。見ていて面白いなと思って。私は、ユキっていうの。あなたの名前は?」
ユキと名乗る猫に、驚いた。だって、僕の名前は1つでは無いから。思わず戸惑ってしまう。すると、僕の動揺に気づいたのか、ユキはあらあらと話を続けた。
「もしかして、名前が無いの?名前は自分を表す象徴だと、私のご主人さまが言っていたわ。無いなんて、寂しいわね。」
彼女の言葉が、心に刺さる。何だろう、この気持ちは。どんどん、淀んでいくのを感じた。
僕は、頭の中に巡る、言葉にできない思いで苦しくなる。動けなくなっていると、家の中から聞き覚えのある明るい無邪気な声が聞こえた。
「あ!みーちゃん。」
ここは、まいちゃんの家だった。
「みーちゃん、どうしたの?遊びに来てくれたの?」
まいちゃんは、僕とユキのやり取りは分からない。だって、まいちゃんは人間だから。
もし、言葉が通じたら、どうしていただろうか。
僕は、ぶつけようのない悲しみをどうすることも出来ず、その場を後にした。
どこを歩いていたか分からない。気づくと、いつものお気に入りお昼寝スポットに立っていた。僕は、お昼寝体制に入る。
だが、さっきのユキの言葉と、地面から伝わる寒さで苦しくなっていた。
「ねこさん。」
優しく僕を呼ぶ声が聞こえる。今日は、あまり顔を上げる気になれない。それでも、「ねこさん」としつこく呼ぶ声が聞こえる。
僕は、いやいやながら呼ぶ声に反応すると、ゆうちゃんが心配そうに隣で座っていた。
「大丈夫?今日、元気ない?」
彼女のまさかの問いに、僕は驚く。
なぜ、僕の感情が分かるのだろうか?なぜ、気持ちが沈んでいることが分かったのか不思議だった。
「やっぱり。元気ないね。」
そう言って、僕の頭を優しく撫でる。その手は、この寒さとは裏腹に、熱く感じるほど恋しいと思った。思わずもっと、ねだるように頭をこすりつける。
ゆうちゃんは、分かったと両手でいっぱい撫でてくれた。
すると、次はゆうちゃんのお父さんが近づいてきた。
「みけ。こんにちは。いつも遊んでくれてありがとう。」
そう言って、顎を撫でる。僕はあまりの気持ちよさに、思わず仰向けになった。僕の行動に、次は2人が驚く。
「お父さん、ねこさんがすごく甘えてくれてるよ!」
「あぁ、安心してくれているんだ。良かったな。」
それからも、時間を許す限り僕を甘やかしてくれた。
二人のあたたかさに、ウトウトし始める。
気づいたら、僕に名を与えた人々の顔をが次々とあふれ出るよに思い出していく。
仏頂面の梅本先生や、太陽のような美里さん。皆の生活を守る、今野さんや間宮さん。トランペットが大好きな琴音ちゃん。ゆっくりとした時間をくれる老夫婦。ほかにも沢山。
僕は、二人のおかげであることに気づいた。
次の日、ユキのもとへ向かった。これは、昨日の質問に応えるためだ。
昨日と同じように、ユキは優雅に僕を見つめていた。
「あら、昨日はどうも。話の途中で帰ってしまい悲しかったのよ?」
昨日の言動に対して、悪いことをしたと気づいていないようだ。でも、仕方がない。だって、彼女はこう聞いただけだから。
「あなたの名前は?」と。
だから、僕は大きく深呼吸をして、彼女に昨日の応えを伝えた。
「ユキは、僕にこう言ったね。名前が無いなんて寂しい。でも、僕は寂しくないよ。だって、君と違って数えきれないほどの名前があるから。みけ、みーちゃん。ねこさん、あめ。ほかにもたくさん。どれも僕の名前だ。だって、僕と出会うたびに、皆名前をくれる。それは、最高のプレゼント!だから、ユキ。君にも聞いても良いかな?」
「何?」
ユキは、首を傾げる。
「僕は、どんな名をもらっても僕だ。だから、教えて。ユキは、僕にどんな名前をくれる?教えて。」
僕の質問に、ユキが目を見開く。そして、そうかと優しく微笑んだ。
「それが、あなたなのね。それなら、私はこう呼びましょう。「ぼく」と。」
猫からもらった初めての名前。それは、「ぼく」だった。
