町がどこか静かに感じる季節。これは、凍えるほどの寒さが影響しているのだろうか。鼻はが冷え切り、感覚が分からなくなる。
 僕は、暖かいお昼寝スポットを探すため、散策をしていた。
 すると、どこからか香ばしい香りがしてくる。何だろう、この食欲をそそる香りは!
 僕は、匂いに釣られるまま、香りの後を追いかけた。
 すると、二人の年老いた人間が、丸くパチパチと音を立てるものを囲いながら暖を取っている。
 
 僕の気配に気づいた一人が、僕に向かって手招きをした。
「寒いだろ?おいで。もち。」
 腰を曲げた男性が、僕を「もち」と呼ぶ。その言葉で、もう一人の白い毛並みの女性が優しく微笑んだ。
「おいで、暖かいよ。」
 僕は、二人の言葉に、甘えることにした。
 
 二人の会話は、とても穏やかでゆっくりしている。
 時の流れも、のんびり進んでいるように感じた。
 パチパチと音が鳴る。僕は、赤く光る存在が気になり、思わず手をのばした。
「危ないぞ。」
 おじいさんが、言葉で制止する。穏やかに話す人が、急に強く放たれると、ビクッと心臓が跳ねる。それほど危険なものなのだと一瞬にして恐ろしさを感じた。
「おじいさん、もちがビックリしていますよ。」
「火傷をしたら、大変だろう。ばあさん。」
 二人が、僕を心配している。僕は、申し訳ない気持ちになった。
「これは、七輪というんだ。これで、魚や餅を焼くと旨いぞ~。」
 おじいさんが、僕を元気づけようとパチパチする正体を教えてくれた。
 焼くものか。確かに危ない。この寒さのせいで、こんなにも熱いものだと分からなかった。僕は、思わず固まってると、おばあさんがおもむろに立ち上がり、あるものを取りに行った。手にしていたのは、紫色のかたまりだった。何だこれは?僕が首を傾げると、おばあさんが優しく教えてくれる。
「これは、サツマイモだよ。焼いて食べると甘くて美味しいんだよ。」
 おじいさん、焼いてと手渡す。すると、任せなさいと言わんばかりに、七輪の上に並べ始めた。
 ゆっくり、パチパチと音を立てながら、じっくり焼いていく。甘く香ばしい香りに、食欲がそそられる。う、旨そう。
 
 すると、この匂いに釣られた人が、もう二人。
 「良い匂い~!」
 そこには、ゆうちゃんとまいちゃんが、覗いていた。
 おじいさんが、アハハと梅の花の様に笑い出す。
「芋に誘われて、二人と1匹釣れたようだ。ばあさん。」
 おばあさんは、あらあらと言いながらもう一度立ち上がる。
「これでは、足りないわね。まだまだあるから、持ってきますね。」
 老夫婦は、ゆうちゃんたちを招きいれて、お芋パーティーが開催された。

 まいちゃんは、一目散に食べ始める。
「は、はつーい!」
 熱いと言っているのだろう。僕と、ゆうちゃんは思わず呆れてしまう。食い意地の張り方が凄いな。
 ゆうちゃんは、半分に割り僕にへ差し出す。
「半分こしよ!」
 僕は、ありがたくゆうちゃんからもらった芋を頬張った。
 おばあさんが言う通り、甘くてホクホクする。何より、皆で食べるサツマイモは、格別に美味しい。
 1人で食べるより、皆で食べる。それは、最高の隠し味だった。