まいちゃんと出会ったのは、桃色の花が散った後。黄色い綿のような花が、ところどころに顔を出す季節だった。
 朝から昼までと、暖かい時間が延びたことで、僕の快適お昼寝タイムは、延長戦に突入する毎日。
 僕は、のんびり日向ぼっこを楽しんでいると、遠くから元気な声が聞こえてきた。

「猫だー!」
 声の勢いに思わず振り向くと、時すでに遅し。
 1人の小さな人が、満面の笑みで飛びついてきた。
 あまりの衝撃に、身動きが取れなくなる。
 いつもであれば、防衛反応で爪を出したり、噛みついたりできる。
 しかし、その時は何もできなかった。

「まい!何やっているの⁉」
 大きな人が、慌てて近づいてくる。思わず、助けてほしいと目線を送る。通じたのか、その人がものすごい勢いで叫んだ。
「離しなさい‼」
 まいちゃんは、不貞腐れながら僕を解放する。
 今を逃すまいと、僕は急いで距離を取った。目線をそらさないように臨戦態勢に入る。
 だが、僕の威嚇は虚しく、まいちゃんには効果が無かった。
「お母さん、猫だよ!可愛い!」
 容赦なく僕の頭を強く撫でる。痛いなあ。思わず睨みつける。
 
「こら!優しく撫でなさい。この子、怒ってるよ。」
「え?でも、ガブガブしてこないよ!」
 ガブガブ。それは、噛みつかないということだろうか?
 小さな女の子「まいちゃん」の勢いに圧倒されたのだ。
 あまりにもしつこいため、だんだん疲れてきてこう思ってしまった。もう、どうにでもなれと。
 
 お母さんと呼ばれた大きな人も、僕の反応を見て不思議がった。
「本当……。優しいね。」
 そして、ゆっくり僕の頭を撫でた。まいちゃんと違って、少しぎこちなかった。
「もしかして、お母さん怖いの?」
「え⁉こ、怖くないよ!」
「あ~、怖いんだ~!」

 まいちゃんは、お母さんの弱点を知って、大はしゃぎしている。お母さんは、恥かしいのか先ほどよりも大きな声で、叱っていた。
 二人のやり取りを見ていたら、なんだか面白いと感じるようになっていた。楽しいな。

「ねぇ、仲良くなるために名前を付けてあげようか。」
「名前?つける!」
 そう言って、まいちゃんは僕を顔をわしづかみにして、じっと見つめた。やっぱり痛い。
「まい‼」
 優しさが欠ける行動に、お母さんの叫び声がまた聞こえる。そんなことはお構いなしに、まいちゃんは夢中で名を考えていた。僕は呆れてしまい、思わず「ミ~」と声が漏れる。
 だが、この声がきっかけで、ひらめき顔が飛び込んでくる。そして、勢いよく手が離れ解放された。た、助かった……。

「みーって鳴くから、みーちゃん!」
「みーちゃん。可愛いね。お母さんも良いと思う。」
「じゃあ、よろしくね。みーちゃん。」

 こうして、僕の名が1つ増えた。それからだ。毎日、空がオレンジに染まる頃。
 まいちゃんと一緒に、ゆうちゃんがやってくるようになった。