祖母は厳粛で、失礼な態度を取る相手には徹底的に強気に出る人間であった。あるいは私の両親にもそのようなところがあり、強く出ていたのかもしれない。母は祖母のことを、単に人間を好かないのだよと言っていたが、どうしても私はそのように簡単な話だと思えなかった。
仕事の最中にも、よく祖母のことを思い出すようになった。これは間違いなく引っ越しをして、あの人の家に住むようになったのが原因であるに違いない。
祖母を思い出すたび、どこか背中を押されるような気がしていた。娘と、義理の息子とはついに仲違いをしたままの格好であの世へ行ってしまった祖母だが、私がうまく働きかけたなら仲良くやっていけたのだろうか。
仕事を終え、車に乗って帰路についた。途中にコンビニへ寄って必要な食料を買い、それから改めて家を目指した。
車を降りて鍵を取り出し、ドアを開ける。この手順がなんとはなしに薄気味悪く感じた。これからここに一人で住むのだと思えば、心細いような、頼もしいような形容し難い思いに晒される。
玄関へ入る前に、何歩か後退して建物全体を見上げた。どこにでもあるような古い木造家屋であり、一部はリフォームもされている家。これまでに何度も足を向け、これからも同じようにここへ通うのだ。
見上げた姿勢を元に戻そうとした刹那、私は視界の端に何かを認めたような気がした。下げた視線を慌ててもう一度、上げる。二階の窓に、何かいた。
一瞬のことで自信はないのだが、それは人の形をしていたような気がする。日も暮れてあたりは真っ暗だ、きっと見間違いであると思ってみたのだが、白くてはっきり形を帯びたものを何と間違えたか、すぐには特定できそうにない。
通りかかった車や自転車のライトが窓を照らしたわけではない。暗い中にぼんやりと、体を押し付けるようにして窓際に何かが立っていた。いや、『誰か』かもしれない。その誰かは私の見上げるのに反応して瞬時に体を引っ込めた。私に姿を見られるのを忌避しているように。
泥棒にでも入られたかもしれないと、私は思った。この辺りは確かに人通りが少ない。戸締りをしっかり怠らずにしていたとしても、狙われる可能性はある。
泥棒がどのような手段を用いて鍵を開け、中に入ったか知らないがこちらとしては良い迷惑だ。怒りさえ湧いてくるような心持ちになり、私は玄関に入った。
玄関は朝に出ていった時と変わらない様子だ。明かりは消され、いくつかある私の靴も綺麗に並んで配置されていた。
床に足跡はない。泥棒は土足で上がり込んだわけではなさそうだった(もし泥棒に本当に入られていたら、という話だが)。あるいは靴底を綺麗に磨いて忍び込む泥棒なのかもしれないが、果たして靴の足跡一つで何が変わるだろう。靴を綺麗にする暇があれば、金品の一つでも盗んで逃げた方が賢いはずだ。意図が読めない泥棒だ、と思う。
仕事の最中にも、よく祖母のことを思い出すようになった。これは間違いなく引っ越しをして、あの人の家に住むようになったのが原因であるに違いない。
祖母を思い出すたび、どこか背中を押されるような気がしていた。娘と、義理の息子とはついに仲違いをしたままの格好であの世へ行ってしまった祖母だが、私がうまく働きかけたなら仲良くやっていけたのだろうか。
仕事を終え、車に乗って帰路についた。途中にコンビニへ寄って必要な食料を買い、それから改めて家を目指した。
車を降りて鍵を取り出し、ドアを開ける。この手順がなんとはなしに薄気味悪く感じた。これからここに一人で住むのだと思えば、心細いような、頼もしいような形容し難い思いに晒される。
玄関へ入る前に、何歩か後退して建物全体を見上げた。どこにでもあるような古い木造家屋であり、一部はリフォームもされている家。これまでに何度も足を向け、これからも同じようにここへ通うのだ。
見上げた姿勢を元に戻そうとした刹那、私は視界の端に何かを認めたような気がした。下げた視線を慌ててもう一度、上げる。二階の窓に、何かいた。
一瞬のことで自信はないのだが、それは人の形をしていたような気がする。日も暮れてあたりは真っ暗だ、きっと見間違いであると思ってみたのだが、白くてはっきり形を帯びたものを何と間違えたか、すぐには特定できそうにない。
通りかかった車や自転車のライトが窓を照らしたわけではない。暗い中にぼんやりと、体を押し付けるようにして窓際に何かが立っていた。いや、『誰か』かもしれない。その誰かは私の見上げるのに反応して瞬時に体を引っ込めた。私に姿を見られるのを忌避しているように。
泥棒にでも入られたかもしれないと、私は思った。この辺りは確かに人通りが少ない。戸締りをしっかり怠らずにしていたとしても、狙われる可能性はある。
泥棒がどのような手段を用いて鍵を開け、中に入ったか知らないがこちらとしては良い迷惑だ。怒りさえ湧いてくるような心持ちになり、私は玄関に入った。
玄関は朝に出ていった時と変わらない様子だ。明かりは消され、いくつかある私の靴も綺麗に並んで配置されていた。
床に足跡はない。泥棒は土足で上がり込んだわけではなさそうだった(もし泥棒に本当に入られていたら、という話だが)。あるいは靴底を綺麗に磨いて忍び込む泥棒なのかもしれないが、果たして靴の足跡一つで何が変わるだろう。靴を綺麗にする暇があれば、金品の一つでも盗んで逃げた方が賢いはずだ。意図が読めない泥棒だ、と思う。
