半年のうちは何か内に秘めた企みでもあるのではと疑ってかかったのだが、この懐疑心は一年もすると嘘のように霧散していった。会社に勤める仲間たちがそうさせた。
年を数えて三二になり、仕事にもいい加減慣れ始めたそのタイミングを見計らったように家を明け渡されたのだった。
本来であれば、祖母の実の娘である母が引き継いでもよかった家だ。遺産として亡き祖母から受け取るべき家だ。それを母は、どうしてか私に譲ったのだ。狭いアパートでは何かと苦労もあるだろうから、と。もし生活に不足するものがあれば、お金でも何でも渡して助力するとも言った。不思議には思いつつ、私は了承して家を引き継いだ。
家を壊して駐車場でも作る、などといった話もなく、処分に困るから見張り番として住んでくれというのが母の本音ということになっていたが、私はわずかながらもそれが本音ではないということを察知した。母は、別に何かを隠している。
だからこそ、先のあの質問なのだろう。
もしかしたらおばあちゃん、隠し事をしていたんじゃないかと思うんだよ。
実際のところ、祖母から母に相続された金額というのは生前積み上げてきたものに比べて遥かに矮小なものであった。矮小、というにはいささか表現が過ぎるかもしれないが、とにかく推定と実態との乖離が激しいのだ。資産をまだどこかに隠し持っているのではないかと親戚の人、皆が睨むのも無理はない。
そのようにして、一度だけ祖母の家は徹底的に調べられたことがある。この時私は立ち会っていないため話を聞く限りのことしかわからないのだが、一部の畳や壁紙を剥がし、解体とも取れる作業が昼夜を問わず行われたらしい。親戚の人間は口を揃えて「正当な行動だ」と言っていたそうだ。母も似たようなことを言っていた。私にしてみれば、ほとんど墓を暴こうとしているのも同然だと思った。隠し持って死んだのならそれは単なる遺産ではなく、祖母の秘め事ということに他ならない。それをわざわざ家のあちこちを掘り起こしてまで探し出そうとするなど、卑しい人間のすることだ。
その言うならば『墓暴き』の一件があり、私はいよいよ母や親戚筋の人間に対してもどこか懐疑の目を向けなくてはいけなくなった。祖母の秘密を暴こうとしている人間、そう思えば軽蔑くらいしたって問題はないだろう。
私は昔からはおばあちゃん子と言われて育ってきて、私自身もそのような心当たりがある。生前の祖母のことを、私は好きだった。祖母は早くに祖父を亡くし、半身を失ったような気がすると言って一人で住むには大きな家に私をよく招いたものだ。私の母や父はそのついでとばかりに声をかけていたような気配があった。
年を数えて三二になり、仕事にもいい加減慣れ始めたそのタイミングを見計らったように家を明け渡されたのだった。
本来であれば、祖母の実の娘である母が引き継いでもよかった家だ。遺産として亡き祖母から受け取るべき家だ。それを母は、どうしてか私に譲ったのだ。狭いアパートでは何かと苦労もあるだろうから、と。もし生活に不足するものがあれば、お金でも何でも渡して助力するとも言った。不思議には思いつつ、私は了承して家を引き継いだ。
家を壊して駐車場でも作る、などといった話もなく、処分に困るから見張り番として住んでくれというのが母の本音ということになっていたが、私はわずかながらもそれが本音ではないということを察知した。母は、別に何かを隠している。
だからこそ、先のあの質問なのだろう。
もしかしたらおばあちゃん、隠し事をしていたんじゃないかと思うんだよ。
実際のところ、祖母から母に相続された金額というのは生前積み上げてきたものに比べて遥かに矮小なものであった。矮小、というにはいささか表現が過ぎるかもしれないが、とにかく推定と実態との乖離が激しいのだ。資産をまだどこかに隠し持っているのではないかと親戚の人、皆が睨むのも無理はない。
そのようにして、一度だけ祖母の家は徹底的に調べられたことがある。この時私は立ち会っていないため話を聞く限りのことしかわからないのだが、一部の畳や壁紙を剥がし、解体とも取れる作業が昼夜を問わず行われたらしい。親戚の人間は口を揃えて「正当な行動だ」と言っていたそうだ。母も似たようなことを言っていた。私にしてみれば、ほとんど墓を暴こうとしているのも同然だと思った。隠し持って死んだのならそれは単なる遺産ではなく、祖母の秘め事ということに他ならない。それをわざわざ家のあちこちを掘り起こしてまで探し出そうとするなど、卑しい人間のすることだ。
その言うならば『墓暴き』の一件があり、私はいよいよ母や親戚筋の人間に対してもどこか懐疑の目を向けなくてはいけなくなった。祖母の秘密を暴こうとしている人間、そう思えば軽蔑くらいしたって問題はないだろう。
私は昔からはおばあちゃん子と言われて育ってきて、私自身もそのような心当たりがある。生前の祖母のことを、私は好きだった。祖母は早くに祖父を亡くし、半身を失ったような気がすると言って一人で住むには大きな家に私をよく招いたものだ。私の母や父はそのついでとばかりに声をかけていたような気配があった。
