不思議な家(re-build)

 思い立って、耳をそばだてました。あるいは日中ずっと、あの子供の鳴き声が地上にも漏れ聞こえていたかもしれない、そうなったら私は終わってしまいます。この世に遺したい宝を、警察なんかに持って行かれてしまいます。
 聴覚をどれだけ研ぎ澄ましても、子供の泣き声は聞こえませんでした。もう泣き止んでしまっているから、と言うこともあり得ますがひとまず考えないことにしました。鳴き声が聞こえないのなら、それでよし。もし地上に声が漏れていたのなら、その時は諦めるほかないでしょう。
 もう一度梯子で地下室に移動すると、ドアを開けた瞬間にあの耳を突き刺すかのような鳴き声が聞こえ始めて、私は安堵しました。やはり聞こえていないだけなのだ。まさかこの子が、私のいない隙を見計らって静かになるはずもなし、あれだけ静かな夜道にも聞こえていないのなら、やはり私の計画は上手くいく。
 嬉しく思いました。嬉々として床に置いていたペグとハンマーを手に取ります。これは私がずっと昔にキャンプへ出かけた際に一度だけ使った道具です。車庫の裏にある物置にしまっていましたから、両方とも表面には錆が目立ち始めています。しかし、構わないでしょう。
 左手にペグを持ち、右手にハンマーを掴みます。ペグを持ったままの左手で結ばれた男児の足を上から押さえつけ、ペグの先端はその柔らかな素肌に向けられています。
 思い切りよく、私はハンマーを振り上げ、そしてまっすぐペグを叩きつけました。

 追伸
 
 男児は翌日には死にました。この、いわば結末の部分を記すかどうか随分と悩みましたが、やはりしたためておきます。
 最後はあっけなく、痛苦に歪んだ顔を晒して絶命してしまいました。私としては泣いて喚くのがどれだけ長い時間持つか、一旦泣けば死ぬまで泣くのかというそこに興味関心を抱いていたのですが、私自身の衝動が待つことを忘れさせてしまいました。
 男児の死体は、あちこちにペグで『穴』を開けました。近くの山まで風呂敷に包んで運び、三年ほど風葬させてからまた回収しました。これを読んでいるのが誰だか存じませんが、よく三年も見つからなかったものだと思われたでしょう? 私はこのあたりのことを熟知しているのです、亡骸が見つからなくても驚くに値しません。
 さて、風葬をした男児の死体ですが、こびりついた肉片や髪の毛などを水筒に入れた海水を使って洗い、骨壷に見立てたゴミ箱の中に入れました。これがアンチテーゼだと思ったからです。ですが収納面で困ってしまい、最終的にはハンマーで骨の全てを粉々にして手頃な瓶複数に分けて入れ、誰にも見つからない場所に隠しました。これはきっと、誰にだって探し出せないでしょう。この手記を読むあなたは、私からの信頼が厚い人間だと思われますが、そんなあなたでも見つけ出すのは難しいです。おそらく、諦めた方が良い。