不思議な家(re-build)

 祖母はついに、遺産の話はせずに他界したのだ。結果、どう処理すれば良いか困ったものに関しては放置するか、私がそうされたように押し付けるかしてあとは何事もなかったかのように振る舞うのである。
 身勝手だと吐き捨てて誰に文句を言われようか。つまり私は、こうしてこの数時間、祖母からの立て続けに送られてくるメッセージは全て恣意的なものと思うようになっていたのだ。
 これは単なる思い込みかもしれないと自分でも言い聞かせているのだが、帰宅直前に視界に入ったあの人影のようなものや、祖母の寝室で不自然に本棚を抜け出した文庫本など、今夜この家では不思議なことがとにかく起こる。
 祖母のメッセージでなくて、一体なんなのだろうか。
 祖母はあるいは、人生のどこかで人間対して見切りをつけていたのかもしれない。祖父を亡くし、そこからめっきりと衰弱していったと言うのが私の印象だ。心の支えを失い、祖母は倒れた。人生の最後に(と言うよりは、人生が終了したあとに)、私のような親しい仲を保っていた相手にだけ伝わる形で遺産のヒントを与えようという心づもりだったのかもしれない。
 繰り返すが、決して私は「いや、まったくそうだ、そうに違いない」と己の妄想に取り憑かれているわけではないのである。あくまでそのような思惑があったかもしれないと言う、いわば可能性の検証を試みようとしているだけだ。
 私は足で踏んでいる危うい板を、そっと持ち上げた。端にはいかにも持ち上げやすいような隙間があった。そこに指を入れ込み、大した力もかけずに持ち上げた。
 木でできた板だったが、その真下には深い穴が空いていた。どこまでも不吉な穴で、電灯の類はどうやら設置されていない。垂直に空いた穴は、成人男性一人がやっと入れると言う大きさしかなく、下へ降りるための梯子がかけてある。
 行く先が見えないのは単に暗いからなのか、それとも見えないほどに深いからなのか。懐中電灯を当てて見ると答えはすぐにわかった。
 梯子はそれほど長くあるわけではないらしい。光を当てて覗いた限りでは、せいぜい下へ四メートルか五メートルほどといったところだ。梯子の終わる地面はセメントで固まっている。そしてこれは壁面も同様であった。
 灰色の暗い空間。どこかへと伸びる通路が視認できたがどこまで通路がつながっているか、上にいたのではわかりっこない。
 意を決し、私はかがんで梯子に足をかけた。ここからこの暗い空間に身を投じるのだ。
 背中や頭を擦ったり打ち付けたりしないよう注意を払いながら、それと共に懐中電灯で何度も下の方を見やりながら地下空間へと降りていく。なんのことはない、ほんの一〇数秒で地下の地面を踏んだ。